「ティア!」
「大丈夫だった?」
ティアラがコンパートメントに半ば無理矢理詰め込まれたのと同時に、ティアラの言いつけ通りにじっとしていた3人がわあっ、と同時に話し始めた。
「大丈夫よ、一緒に乗ってた先生方が対処してくださったみたい」
「そう?よかった…」
ガタンッと音を立ててゆっくりと列車が発車しホグワーツへ向けて動き出した。いまだ列車の外は景色が見えないほどの豪雨で時々雷鳴が轟いていた。
ホグスミート駅で停車しぞろぞろと下車するが、ホームは凍るような冷たさで氷のような雨が降っていた。ハグリットの前に並んでいる新一年生は顔を真っ青にして不安げな表情をしている。ざわざわと何があったのかを目撃してきた生徒たちが話を広め、ディメンターに襲われハリーが意識を失ったことがティアラ達の耳にも入った。
しかし、冷たく叩きつける大雨に三年のだれもがだんだんと口数を減らし、のそのそ足を進め凸凹のぬかるんだ馬車道に出た。
「今年は馬車なのね」
そこにはざっと百台もの馬車が生徒たちを待ち受けていた。
ティアラは手頃な馬車に乗り込むとそっと窓から外を覗き、どこかにいるはずの2人の教員の姿を探すが大粒の雨が降り注ぎ、結局彼らを見つけることは叶わなかった。
「見て!城が見えてきたわ」
「シャル、乗り出すと危ないわよ」
城に続く長い上り坂で馬車は速度を上げ、ついに一揺れしてから馬車が止まった。
ドラコ、ティアラ、ニカ、シャルルと順番に馬車を降りる。ティアラが降りるのと同時に前の前の馬車に乗っていたハリーが馬車から降りてきた。
「ハリー!」
「ティア?」
「ティアラは大丈夫だった?」
「私たちのところはなに事もなかったわ」
ハリーの顔はやはり土気色で、端から見ていると今にも倒れそうだ。
「ハリー大丈夫?顔色が悪いわ」
「うん。僕は平気」
その時、バンッ!と 大きな大きな城の扉が開き、慌てた様子の魔法使い2人が出てきた。逆光で顔は見えないが恐らく、いや、間違いなくダンブルドア先生とマクゴナガル先生であろう。
「ああ!ポッター!」
生徒たちの先頭に立っていたハリーを見つけたマクゴナガルは素早くハリーに駆け寄った。
「ポッター!話は聞きましたよ。組み分けの時間に医務室に行きなさい」
「僕は大丈夫です」
それに昨年も組み分けを見逃したし…と呟いたのを隣にいたディアラは聞き逃さなかった。
「いいえ。そんな顔色の3年生はどこを見渡しても居ませんよ!口応えはいいから早く行きなさい。校長、医務室まで付き添いを。」
半ば追い出されるように医務室へ行くことを強制されたハリーは、ダンブルドアと共にとぼとぼとつい先程マクゴナガルが出てきた扉をくぐりぬけた。
「あら、ヴァレンタイン。」
それを見届けたマクゴナガルは隣に立っていた少女に声をかける。長年ホグワーツに勤めているマクゴナガルでもティアラほど他寮と仲良くするスリザリン生を見たことがなかった。ここ2年で自寮の3人とティアラが集まれば何かしらの事件が起きるとマクゴナガルは思いかけていた。
「お久しぶりです先生」
「ええ。元気でしたか。あら、貴女も少し顔色が悪いのでは?」
「い、いえ!大丈夫です!少し馬車によってしまっただけなので」
「そう?具合が悪くなったら直ぐにマダムポンフリーかセブルスに言うのですよ。」
「はい」
そんな会話の隣で並んだ3年生たちは悪天候から逃れようと、開放された扉へ我こそが先にと詰めかける。
ティアラもその最後尾でマクゴナガルと並び暖かな空気の満ちる場内へ歩みを進めた。
*
組み分けが終わったころ、ハリーはようやく大広間でロンとハーマイオニーに合流することができた。なんで僕はみんなと一緒に安全安心な登校することすらできないんだと悪態を吐きたくなる。
はあ、と思わず盛れた溜息に反応し、頬いっぱいにターキーを詰め込んだロンが背中をバンバンと叩いた。
「元気だせって」
「僕入学してから1回も他の学年の組み分け見てないよ」
「今年はともかく去年はあなた自身のせいじゃない?」
「あれはドビーのせいだろ」
「あら、そうだったわね」
そんなハーマイオニーと冗談を交わしながらハリーは銀色の何も置いていない皿を手に取って、自分の分を取り分けた。
ハリーが顔を顰めたくなるほど酸っぱいオレンジジュースを飲み終えた頃、マクゴナガルといくつか言葉を交わしたダンブルドアが立ち上がり、生徒たちを見回し、いつものように金のカップを杖で何度か叩く。
大広間の隅まで響いたその音に、魔法のように生徒たちの静けさが収まった。この瞬間を、ハリーは夏休み中ずっとずっと待ち望んでいた。
やっと帰ってきたんだ、と思わず口角が上がってしまう。
「また新年度が始まる。まずは1年生の諸君、入学おめでとう。」
ダンブルドアが話すそんな中でドラコの隣に座っていたティアラはナプキンで口元を拭くルーピンに目を向け、ハリーと同じように幸せそうに微笑んでいた。
──良かった。ほんとうによかった。今度こそ…。
上の空でダンブルドアの話をよく聞いていなかったティアラは割れんばかりの拍手にはっ、と我に返る。
主にグリフィンドールの机から湧いているそれは、ハグリッドの魔法生物飼育学教員就任を祝うものだった。顔をくしゃくしゃにして笑うハグリッド。そんな様子にティアラも満面の笑みを浮かべてパチパチと拍手を送った。
拍手が一頻りしたころ、ルーピンの紹介もされ、シリウスが脱獄したため、魔法省の要求でホグワーツはアズカバンのディメンターが警備することが全校に伝えられた。
「さっきの列車でも騒ぎもディメンターの仕業だったらしいわよ」
「ティアラはあいつらに会ったのか?」
「ううん、先生方がすぐに来てくれたから」
「そうか。何にせよ気をつけないとだよな……」
「そうね」
「さて、これで大切な話は皆終わった!デザートタイムと行こうかの」
最後にかぼちゃのタルトが金の皿から溶けるようになくなりダンブルドアがみんな寝る時間だと宣言した後、各寮の監督生は新一年生を連れて次々と大広間を後にする。
「僕達も戻ろう」
「あ、私少し先生に話があるの、すぐ追いかけるわね」
「わかった」
二力とシャルルとドラコ達は大広間の出口まで繋がる生徒たちの川に飲み込まれてあっという間に扉の方へ進んでしまった。
「追いかけるって言ったけれど追いつけなさそうね…」
1人ぽつりと呟いたティアラはグリフィンドールの机へ顔を向け、いつもの3人の姿を探した。今にも教職員テーブルへ駆け出しそうな3人は、目の前の扉へ向かう生徒たちの流れのせいでなかなか今場所から抜け出せていないようだった。
スリザリンの生徒たちは皆最初に出ていたため、スリザリンの生徒たちの姿はチラホラとしか見られない。
ティアラは3人の様子を見ながら、一足先にハグリッドに会いに行くことにした。
「ハグリッド!」
ぴょんぴょんと石畳の階段を駆け上がり、顔を涙でクシャクシャにしたハグリッドを見上げる。
「おおティアラ!!」
「聞いたわ!おめでとう」
「皆お前さんとハリー達のおかげだ」
「ティアラ!君も来てたんだね!」
「ハグリッド!おめでとう」
その時、後ろからハーマイオニーの黄色い歓声が聞こえ、ロンに肩を組まれる。
「ふふっ、」
わあわあとハグリッドを褒め称える3人の声を聞きながら、ティアラはハグリッドのふたつの隣にいるはずの教師に目を向けた。
ぱちんっ、と真っ黒なローブに身を包んだスネイプ先生と目が合う。
そのまま囚われたように目を逸らせないでいると彼はすっ、と目を細め小さく口を動かした。
"体調は問題ないか"
声は出ていないはずなのに何故か読み取れてしまった言葉にティアラはコクコクと顔を動かした。
「やあティアラ、それにハリーにロンに…ハーマイオニー、だったかな?」
「ルーピン先生」
ハグリッドとスネイプに挟まれるように座っていたルーピンはにこにこと楽しそうにティアラに声をかける。
「ティアラ、さっきはチョコを渡せなかったけど体調は大丈夫かい?」
ティアラがちらりとスネイプに目を向けると視線だけで気絶させられるのではないかと本気で思ってしまうくらい鋭い目線でルーピンを睨みつけていた。
──もう…このままだと関係が悪化する一方だわ…
「はい。お陰様で何ともありません。」
「良かった。気分を明るくしたい時はチョコをあげるからいつでも言うんだよ」
「あ、ありがとうございます」
にこりとスネイプ先生とは真逆の爽やかな笑みを浮かべたルーピンの上からマクゴナガルが4人を見下ろしていた。
「あなた達、いつまでおしゃべりしているおつもりですか!」
「うわっ、」
「うわっではありませんよウィーズリー。さっさと寮に戻りなさい。貴方もですよルーピン先生。教師になるのならば自覚を持ちなさい。一緒におしゃべりしてどうするのです」
「すいません…」
まるで生徒のようにうなだれるルーピン先生を見て隣のスネイプ先生がふ、っと薄ら笑みを浮かべた。
そんな様子を見ながらティアラはこれは仲良くなってもらうのは絶望的かも…と小さくため息を着くのだった。
半ば追い出されるように大広間を出た4人は地下へ向かう階段で別れ、ティアラは1人ドラコ達の待つ寮へと冷たい廊下を歩み進めた。
感想をくれた皆様本当にありがとうございます( ´ ` *)
これから投稿再開していきたいと思います。
どうぞよろしくお願いします
追記:誤字報告本当に助かっております。自分でも何度か見返しているのですがどうしても防ぎきれていないので本当にありがたいです。ありがとうございます。