月日は流れ私は先週11才の誕生日を迎えた。
ティアラ・ヴァレンタイン。
記憶の限り、『前』はそのような名前の子はいなかった。この世界では、あのロウェナ・レイブンクローの直系の子孫とされている。
ヴァレンタインの血を引くものは美しい銀色の髪を持っていた。
母であるマリアが現在の当主。マリアは血の通り銀色の髪に青い瞳だったがティアラは違った。
銀色の髪に若草色の瞳を持っていた。
そう。ハリーのような、綺麗な緑色の瞳だ。
その日の早朝、私は何かが窓を叩く音で目を覚ました
「ん・・・?」
起き上がり目を擦ながら窓の方を見ると梟が嘴で窓を叩いている。
──あっ
一瞬で状況を理解したティアラの眠気は一気に消し去り、ベッドから飛び降りて窓を開けた。
すると眩しいくらい真っ白なふくろうが羽を整えながら部屋のなかに入ってきた。
どうやら誇り高い性格らしい。
そのかわいらしい姿に思わず微笑んだティアラは"お疲れ様"と声を掛けて真っ白な羽を華奢な指でそっと撫でた。
そしてその嘴に咥えている手紙をそっと受け取りティアラは一つため息をついた。
「ついに……始まる…」
不思議そうに首をかしげた梟にもう一度微笑むと"ありがとうね、さあ、もうおうちに帰って" と小声で声を掛ける。
するとその梟はそれが分かったかのように開け放たれた窓から勇ましく飛び立った。
梟が飛び立ったのを確認してティアラは一つ呪文を唱えた
『コロポータス(扉よ閉まれ)』
すると窓は音一つ立てずにしっかりと閉まった。
独学で魔法の練習を1年。
呪文は勿論のことハリーの時には練習不足で使えなかった《同時複数呪文》も1年の月日をじっくりと練習に当てられたことにより習得済みだ。
ホグワーツでの緊急事態のとき、自分がどれだけ人の役に立てるのかは未知数だ。
これからやるべきことはまだまだある。
ホグワーツではなにが起きるか解らない。
最も安全で、最も危険な場所。
だから入学前に万全の状態にしておきたかった。
そして私にはホグワーツ魔法学校でしなくてはいけないことがある。
それは滴り落ちる数多くの命を救うこと。
ハリーはもちろん。
シリウスも。
フレッドも。
そして…リリーを、母を最後まで愛した僕が知っている中で最も勇気を持っている人。
彼を救わなかったら過去に生まれ変わった意味がない。
──私は皆を救いたい
──ううん。どんな手を使っても絶対に救う
──そのためならこの命を差し出してもいい
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「母様、私ダイアゴン横丁へ行かなくっちゃ」
扉を開けてリビングに入ったティアラが封筒の中に入っていた一枚の紙を取り出し、マリアに手渡した。
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一年生は次の物が必要です
・制服
普段着のローブ三着(黒)
普段着の三角帽(黒)一個 昼用
安全手袋(ドラゴンの革またはそれに類するもの)一組
冬用マント一着(黒、銀ボタン)
*衣類には名前をつけておくこと
・教科書
全生徒は次の教科書を各一冊準備すること
「基本呪文集(一学年用)」 ミランダ・ゴスホーク著
「魔法史」 バチルダ・バグショット著
「魔法論」 アドルバード・ワフリング著
「変身術入門」 エメリック・スィッチ著
「薬草ときのこ千種」 フィリダ・スポア著
「魔法薬調合法」 アージニウス・ジガー著
「幻の動物とその生息地」 ニュート・スキャマンダー著
「闇の力―護身術入門」 クエンティン・トリンブル著
・その他学用品
杖(一)
大鍋(錫製、標準、2型)
ガラス製またはクリスタル製の薬瓶(一組)
望遠鏡(一)
真鍮製はかり(一組)
*ふくろう、または猫、またはヒキガエルを持ってきてもよい
*一年生は個人用箒の持参は許されないことを、保護者はご確認ください
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「あらまあ懐かしい!」マリアが手紙を手に取る。
「明日にでもみんなで行こうか」と新聞を読んでいたルークが顔をあげて言った。
ティアラは久しぶりのお出かけに心を踊らせ、うん!と答えた。
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「ダイアゴン横丁だ…!」そこへ着くとティアラは跳び跳ねるように喜び駆けていく。
もう二度と見れないと思っていたのに。と嬉しさを堪えきれず笑みをこぼす。
「ティナ、怪我しないように!」はしゃぐ娘を心配して、ルークがティアラに向かって言う。
「あなた、私は食材を買ってくるわね。ついでに教材も買っておくからあの子をオリバンダーの店に連れていってあげて?例の杖を準備してくれているはずだから」
「わかった。君も気を付けるんだよ」
そういって二人は別れ、ルークはティアラの手を引いて杖屋へと向かった。
『オリバンダーの店 紀元前382年創業』
「杖ならここが一番だからね」重たいドアを開けてティアラを中へと促す。
中に入ると前回と同じようにどこか奥の方でチリンチリンとベルが鳴った。
店内には天井近くまで整然と積み重ねられた何千もの細長い紫色の箱の山がある。
その一つ一つから別々の魔力が溢れ出ていて主が来るのを待っているようだった。
「いらっしゃいませ」
柔らかな声に顔をあげると目の前の老人と目があった。
オリバンダー翁は白髪の小柄な魔法使いだった。
「これはこれは、お久しぶりですなルーク・ポッター殿、おや、こちらは?」
「お久しぶりですオリバンダーさん。今の名前はヴァレンタインですよ。この子は私の娘です。」
ティアラは杖選びに胸を踊らせていたがオリバンダーの言葉に思考が停止する。
「パパ…?今、《ポッター》って言った?」
「ああ、ティナにはまだ言ってなかったかな?私の旧姓はポッターなんだよ。ルーク・ポッター」
ルークはなんでもないような顔をして言った。
「──ルーク…、ポッター……」
───まさか…そんな繋がりがあったなんて…
ティアラが驚いているとオリバンダーさんは嬉しそうに話し始めた。
「そうですか…そうですか。確かあなた様の杖は楓でしたかな?ヴァレンタイン…ということは…マリア殿ですか…ほうほう…。…いやはや、時が経つのは速いものですな」長い独り言をオリバンダーが呟いている間にティアラは気持ちを落ち着かせていた。驚いたけれどそれで何かが変わるわけではない。
もしかしたら探していないだけでもっと親戚が居たのかもしれない。そしたらハリーがあんな扱いを受けることは───。
「それで、ティアラ殿の杖腕はどちらですかな?」これでもかというほど顔を近づけてオリバンダーが聞いた。
「……!み、右です」
一旦考えていたことを止めて杖に集中することにする。
「おっと、オリバンダー爺?、この子に合う杖は準備してあると、前におっしゃっていましたよ」
ルークがやんわりとオリバンダーに伝えると「ああっ!」とオリバンダーはしわしわの片手で自分の頭を掻いた。
「これはこれは、ルーク殿。すっかり忘れておりました。年を取るとだめですなぁ。只今取って参ります」
そう言ってオリバンダーは動く梯子に乗って店の奥へ消えてしまった。
「私もねティアラ、オリバンダーさんにこの杖を選んでもらったんだよ」ルークが胸ポケットから深い茶色の杖を取り出して言った。
「きっとティアラには、あの杖が合うはずだよ」
「あの杖?」
「ヴァレンタイン一族が代々使ってきた杖だ。君のお祖母様も使っていた杖でね、最も美しい杖って言われてるんだ。僕も見たことがないけどね」
「どうしてここにあるの?お母様はどうして使っていないの?」
「マリアは今の姿からは想像が出来ないくらいやんちゃだったんだよ、昔はね。」
懐かしそうに目を細め、ははっ、と笑いながら続ける。
「自分の杖は自分で作る!って言って一ヶ月杖作りの師匠のところに通い詰めて、本当に自分の杖を作ってきたんだよ」
「じゃあ、あの杖は自分で?」
「そうだよ、後でじっくり見せてもらうといい。」
「ティアラ殿!お待たせいたしました!こちらでございます。」
しわくちゃな手に乗っていたのは美しい装飾が彫られた真っ白な木箱だった。
「どうぞ、お開けくだされ。この箱は、マリア殿とティアラ殿にしか開けられませぬ。」
その箱が手渡され、ティアラはゆっくりとその蓋を持ち上げた。
「わぁ……」
それは、前世でも見たことがないほど美しい杖だった。
夜空のような黒の杖に星のようにキラキラと輝く小さな宝石が埋め込められ、持ち手には豪華な装飾が施されその中心に大きな宝石がひとつ填まっていた。
「全魔法界でも5本指に入る傑作の杖でございます。お手にとって見てくだされ。セフィロトの杖。別名夜空の宝石。言い伝えによるとその杖の芯はクリスタルで出来ているそうでございます。その昔、ヴァレンタイン家に家族と命を救われた私の先祖が最後に残した杖です。頑丈で振りやすく、闇の魔術には向かない。」
ティアラがそっとそれを持ち上げるとその杖は命を吹き返したかのように輝きを増した。
杖のオーラと自分の中を流れている暖かなものが合わさり、強い流れを生む。力強く、暖かい光がティアラを包み込み、からだの中に消えた。
懐かしい感覚に思わず笑みがこぼれる。
「ブラボー!!おめでとうございます。ティアラ殿。貴女に魔法の祝福がありますよう。」
「おめでとうティアラ。これで君も魔法使いの仲間入りだね」
「オリバンダーさん!お父様!ありがとう!」
店の外に出ると、ちょうどマリアがこちらに向かって歩いてきているところだった。
「ララ、あの杖はあなたに合った?」
ティアラは得意気にその杖を見せる。
「よかったわ!おめでとう!その杖でたくさん勉強するのよ」
マリアが優しく微笑み、それにつられティアラもふんわりと笑みをこぼした。
「さぁ、最後は制服だな」
『マダム・マルキンの洋装店――普段着から式服まで』そう書いてある看板の店に、三人で入る。
「まあ、いらっしゃい。ホグワーツの新入生かしら?」
そう藤色ずくめの服を着た、ずんぐりとした女性が愛想よく話かけてくる。
「ええ、制服をこの子の分お願いします」
「はい、わかりましたよ。じゃあ、そちらの台の上に立ってね、採寸をするから」
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記憶の限りでは二回目の制服作りを終え、夕暮れ近くの太陽が空に低くかかっていた。親子三人はダイアゴン横丁を、元来た道へと歩いた。