組分け
「新入生の歓迎会が始まりますが、その前に、皆さんが入る寮を決めます。
寮は四つ。グリフィンドール、ハッフルパフ、レイブンクロー、そしてスリザリン。ホグワーツにいる間は、寮が皆さんの家です。良い行いをすれば寮に加点がされ、逆に悪い行いをすれば減点されます。学年末には最高得点の寮に名誉ある寮杯が与えられます。どの寮に入っても、皆さん一人一人が寮にとって誇りとなる存在になるよう望みます。まもなく全校列席の前で組分けの儀式が始まります。待っている間、できるだけ身なりを整えておきなさい」
そんな挨拶のしばらくあと、
マグゴナガル先生を先頭に、ハーマイオニー、ティアラ、ロン、ハリー、と新一年生が順々に大広間へと足を踏み入れる。
最後尾にいたドラコが入ったところで大広間の大きなドアは静かに閉まった。
在校生達は、どの子がかの有名なハリー・ポッターなのかと、首を伸ばして一行を見渡している。
ティアラは歩きながら、来賓席に座っている教員達の顔を見渡した。
────あぁ………!
ティアラはとっさに口元を抑えた。
若草色の瞳から一筋の涙が零れる。
──皆がいる。
ダンブルドア先生。
マクゴナガル先生。
フリットウィック先生 。
トレローニー先生。
そして──スネイプ先生。
ダンブルドア先生。
空色の目を細め、わずかに微笑みながら私たちを目で追っている。
スネイプ先生の漆黒の瞳は不機嫌そうにグリフィンドールの席を映していたが、すぐにハリーに視線を向けたことがわかる。
すると眉間にはみるみるうちにしわが寄り不機嫌さを丸出しにする。
表情がころころと変わるその姿を見てティアラは幸せそうに微笑んだ。
生きてるんだ……。
みんな、みんな生きてる…
今のティアラは《生きている》事がどれだけ大切なのかを知っている。
嬉しかった。
「よかった…。」
ティアラは一人、そうぽつりとこぼした後、気が付かれないようとっさに俯き涙を拭いた。
「レパロ……。ウィンガーディアムレビオーサー。アクシオ…。」
ハーマイオニーの隣に並び耳を済ますとハーマイオニーは、一人の世界に浸かり、なにやらぶつぶつと魔法の呪文を呟いていた。
多分組分けは能力別だと思っているのだろう。
そんないつか見た光景を微笑ましく思いながらティアラはハーマイオニーの耳元で囁いた。
「ハーマイオニー、……ハーマイオニー」
「な、なに?」
「見て、多分組分けはあの帽子がしてくれる。魔法のテストはないわ」
こじんまりとした木の椅子に乗っているのは懐かしい真っ黒な組分け帽子。それをハーマイオニーの肩越しに指差す。
「あれを被ると帽子が魔法で分けてくれるのよ」
するとハーマイオニーはすぐに「そうなの…?」とぶつぶつと呟くのをやめた。
「新一年生の皆さん、在校生もお静かに!組分けを始めます!」
マクゴナガル先生が長い羊皮紙の巻き紙を手にして前に進み出た。
「ABC順に名前を呼ばれたら帽子をかぶって椅子に座り、組み分けを受けてください」
「ハンナ・アボット」
ピンクの頬をした、金髪のおさげの少女が、転がるように前に出た。スツールに腰掛け、マクゴナガル先生が帽子を被せる。一瞬沈黙し……
「ハッフルパフ!」
と帽子が叫んだ。右側のテーブルから歓声と拍手が上がり、ハンナはハッフルパフのテーブルについた、
「ボーンズ・スーザン!」
帽子がまた「ハッフルパフ!」と叫び、スーザンは小走りでハンナの隣に座った。ハンナは笑顔でスーザンを迎えた。
その儀式は記憶の通り、そっくりそのまま厳かに進んだ。
「ティアラ・ヴァレンタイン」
ティアラの前にいた人混みは横に移動し人のいない道ができた。 そこをゆっくり歩き少し視線を上げる。
するとダンブルドア先生も含めほとんど全員の先生が私のことを見ていた。
その時、やっと帰ってきた自覚が持てた。
──生きているんですね。先生。
本当に。
今度こそは。
口をきゅっと結び椅子に座った。
『ほぅ…これは……』 低い声がティアラの頭のなかで聞こえた。
『君はどこから来たのかね?』 ──え?
『どの未来から来たのじゃ?』
帽子の言葉に驚きつつティアラは静かに首をふった。
─………。ごめんなさい。それは言えない。でも私にはやるべきことがあるの。
『ふむ…では、君自身はどちらを望む?』
《 どちら 》 つまりグリフィンドールかスリザリン。
──私は………わかんない。わからないんです。
私には……。
ずっと考えてた。ずっとずっと。でも、わからないんです。
『ふむ、これはわからなくても無理はない。 実際儂にもわからん。』
──………私は…どうするべきなんですか?
帽子の外からはざわざわし出した生徒たちの声が聞こえる。 時間のかかりすぎている組分けに興味を持っているのだ。
『儂が決めていいのかね?後悔はしないのかね?』
──するかもしれない。でも……。
『わかった。では……これを提案しよう。
君の本質はグリフィンドールだ。そこへゆけばあなたが傷つくことはない。だが、救えるのも最小限。
本質を犠牲にしてスリザリンを選ぶのならば君が傷つき命の危険にもさらされる。それを脱するのは君の力次第だ。そして命を救うチャンスにも恵まれる。そのチャンスを生かすのも君次第だがな。
さあ、どうする?』
──今のを聞いて決心がついた。ありがとう。
帽子さん。
『そっちを選ぶと思っていたよ。命を大切にするんだよ』
──ええ。本当にありがとう。
「スリザリンッ!」
長い長い組分けの時間が終わりティアラはまだ誰も一年生が座っていないスリザリンの席へ向かった。 そこは美人の純血がやって来た!と大喜びだったがそれに気がつくティアラではない。 そういう事に関しては超が付くほど鈍感なのだ。
教員団はロウェナ・レイブンクローの子孫であるヴァレンタイン一族の娘がスリザリンに入ったことに衝撃を受けざわついていた。
「ようこそスリザリンへ、歓迎するよ」
監督生のPバッチを付けた高学年の先輩がティアラを途中まで迎えに来てくれた。
「君はヴァレンタイン家だね」
「歓迎しよう。君たち!スリザリンに入ったティアラ・ヴァレンタインだ」
「「「ヴァレンタイン、よろしく!」」」
「「よろしくティアラ!」」
「「歓迎しよう!」」
それからすべての新一年生の組分けが終わり、 アルバス・ダンブルドアが立ち上がった。
腕を大きく広げ、皆に会えるのがこの上もない喜びだと言うようににっこり笑った。
「おめでとう!ホグワーツの新入生よ、おめでとう! 歓迎会を始める前に、二言、三言言わせていただきたい。それでは行きますぞ!
そーーれ!
わっしょい!
どっこらしょい!以上!」
ティアラの右隣には1個上の先輩、左隣にはドラコそして前には同学年のシャルルが座った。
「私はティアラ・ヴァレンタインよ、よろしくね」
「ドラコ・マルフォイだ。ティアラとは幼馴染みなんだ」
「私は シャルル・ジェラルド。シャルって呼んで」
シャルの隣、ドラコの前には黒髪の少女が座っていた。
「 ニカ・グラニャよ、よろしく。シャルとは旧友なの 」
今しがた気が付いたことなのだがスリザリンの生徒はほとんどがみんな美しい金色の髪を持っていた。 もちろん多少の例外はいる。 これも純血志向の影響なのだろうか。
うん。みんないい子そう。
ハリーの時に抱いていたスリザリンへの考え方は偏見だったと今更ながら反省した。
「「「わぁ!」」」
生徒全員から歓声が沸き起こった。
クラス編成が終わり目の前にある大皿が食べ物で一杯になっていたのだ。
ローストビーフ、ローストチキン、ポークチョップ、スラムチョップス、ソーセージ、ベーコン、ステーキ、ゆで卵、ケチャップ グリルポテトフレンチフライ、豆、人参、サラダ。
そしてなぜかハッカキャンディー。
これは…ダンブルドアの仕業かな?
ダンブルドアに視線を向けるとダンブルドアは人差し指でハッカキャンディーをつまんで口に放り投げ目が合った私にパチンッ!とウィンクををした。
「ふふっ、、」 私が思わず笑ってしまったのに素早く反応したのはドラコだ。
「どうした?」
「いえ、何でもないわ、この料理とっても美味しいわね!」
「あ、ああ…、」
ん?ドラコのいつもは白い頬がピンクに染まっている。
「ねえドラコ?熱あるの?顔が赤いわよ?」
「なっ!!!だ、大丈夫だ!ちょっと暑いだけだ!」
「あら、そう?そうでもない気がするけど…」
この会話を聞いていた前に座るニカとシャルは顔を見合わせ声のない会話をした。
『ねぇシャル?』 『なにニカ』 『この子、鈍感なのかしら?』 『そうとしか考えられないわね』 『そうよね』 『ドラコが気の毒だわ』
ティアラの腰まで届く柔らかな白銀の髪は絹のように輝き、歩くたびにサラサラと揺れる。
肌には染み一つなく、触れればまるで赤ん坊の肌のように柔らかい。 足はスラリと長く、手は指の先まで見ても無駄がない。柔らかな儚ない瞳は美しい緑で透き通っており、形の整った小鼻に桜色の唇。
ふんわりと笑うだけでその周りに花が咲いたような暖かさになるのだ。何をしても様になる。
ティアラは"美少女"だった。
ドラコが顔を赤くするのも納得がいく。
──まぁ、どれもこれも本人は気がついていないが…。
同じ女のニカとシャルルから見てもティアラは可愛い。しかもそれを鼻に掛けることがないのだから憎めない。
そこでテーブルの下から血みどろ男爵が急に出てきた。
「「「わっ!」」」
『ごっほん!さてスリザリンの新入生諸君、儂こそが血みどろ男爵。スリザリンのゴーストだ。スリザリンは6年連続で寮杯を取っている。この記録を途絶えさせないように』
まるで脅迫のような言い方に新入生はコクコク頷くことしかできない。
「男爵、そこら辺にしてください。新入生が驚いているでしょう」
Pバッチの生徒がそう声を掛けると男爵はさっさと地面のしたに消えてしまった。
「ねぇ、君たちはクィディッチ、どのチームが好き?」
ドラコが話を持ちかけると全員が食いついた。
「僕はアイルランドナショナルチーム!あのチームは最高さ!」
「あらドラコ!私の好きなチームもアイルランドナショナルチームよ?!」
「本当かい?シャル?」
3人がクィディッチの話で盛り上がっているときティアラは再び来賓席を見上げた。
マクゴナガル先生はダンブルドア先生と話していた。 ハグリットは大きなゴブレットでグビグビ飲んでいる。 クィレル先生はどぎまぎしながらもデザートを口に運んでいた。 スネイプ先生は相変わらず土気色の顔をしていた。心配になるほど。
そのまま動いているスネイプ先生を見ていると、さっと先生が視線を上げてこちらを見た。
「っ………!」
慌てて視線を逸らそうとしたけど彼の暗色の目に捕らわれて目をそらすことができなかった。
その時、ダンブルドア先生が立ち上がり、いくつかの注意と知らせが入った。
そこで金縛りは強制的に解けた。
ダンブルドアの話はまとめるとこうだ。
禁断の森に入ってはならない事。
廊下で魔法を使わない事。
クィディッチのチームに入りたい人はマダム・フーチに連絡する事。
そして死にたくなければ4階右側の廊下に入らぬ事、と。
最後に生徒全員での校歌斉唱が行われ、全員がそれぞれの寮へと案内されていった。
寮へと続く石階段を下りながら、ティアラが考えるのはこれからの授業の事だった。
今の段階でこんなことになっていたら魔法薬学の授業はまともに受けられるのだろうか。
頬を両手でぺちん!と叩いて気合いをいれた。
──ヴァレンタイン・ティアラ!しっかり!まだ始まったばかりよ!
「さあ新入生諸君。ここが我らがスリザリンの談話室だ。」
Pバッチの生徒──クリストバル = バルデラー が重そうな扉を開けた。
「「「わぁ…」」」
新入生から本日3度目の歓声が上がった。
そこはグリフィンドールの談話室とは比べ物にならないほど広い空間と高価そうな家具が並べられていた。
──水中洞窟みたい…。
その印象は、削り痕も荒々しい石壁と、大きな窓から望む湖底の景色から受けるものだった。ホグワーツ城の土台部分にあるスリザリンの談話室は、城に面した湖の底に接している。
今は、水を通り抜けてきた夕焼けの光が、ゆらゆらと談話室に模様を描いていた。
真ん中におかれた暖炉には様々な表彰状や昨年取ったのであろう寮杯トロフィーが飾られていた。
「これらの家具は皆の親や卒業生から頂いたものだ。手荒に扱って壊さないように。
右の階段は女子寮。 左の階段が男子寮に繋がる。 女子は男子寮に入れるが男子は女子寮には入れない、注意すること。 自分の部屋は寮の前に名簿があるから各自確認すること。 シャワールームは各寮の奥にある。 説明は以上だ。質問があるものは後から私のところに訪ねてくるように。 ──では今日は解散。」
一気に説明されみんな頭が混乱していたが取り敢えず寮前の名簿を確認することになった。
《ガチャッ》
ティアラが部屋に入るとそこにはすでにルームメイトであろう2人がソファーに座っていた。
「ティアラ!」
「ニカ?シャルまで!」
つい先程まで大広間で話していた二人が部屋の中にいた。
「うれしいわ!これからもよろしくね!」
「こちらこそ!」