それでは本編をどうぞ
名詠クラブの部長、
黒崎冬夜は困惑していた。
「…………どうしてこうなるんだ」
実技実習が行われている教室で冬夜は呟く。現時点をもって、彼は今ーー
「黒崎ーー!見てくれ!タイムが九○○ms(ミリ秒)切った!」
「見てみて黒崎くん!黒崎くんにアドバイスしてもらったら五○ms以上タイムが縮まったよ!」
「黒崎ぃ!オレにもアドバイス頼むよー!」
大人気だった。
クラスメイトに囲まれ困惑し、呆然とする冬夜。そんな彼を見て苦笑している達也たち。冬夜の指導のおかげで既に彼らも今日のノルマを終えている。どうしてこうなったのかを、順を追って話そう。
今日、この時間に冬夜たち1-Eに課せられた実技課題は『単一系魔法の魔法式を一○○○ms以内にコンパイルして発動する』というものだ。
現代魔法とは、CADから起動式を読み込み、それを元に魔法演算領域内で魔法式を構築し発動する、という一連の流れを経て行使される。このうち、『起動式を読み込み~魔法式の構築』までの行程を情報工学の用語を流用して【コンパイル】と呼ぶ。
このコンパイルという行程を確立したことで、現代魔法は正確性・安定性・多様性の三つの利点を同時に確立させたが、その代償として念じるだけで発動するという超能力の速度を失った。
魔法式の構築という余分な行程を経ている以上、これはもうどうしようもないことだ。しかし、訓練しだいで、この構築速度を限りなく零に近づけることは出来る。現代魔法が魔法構築速度を重視するのは、このような背景があるのだ。
周囲のクラスメイトが
早々に課題を終わらせた冬夜はその後自主練に励んでいたのだが、なかなかクリア出来なかったクラスメイトの一人が試しに冬夜にアドバイスを頼んでみたところ、課せられた一○○○msというタイムを切るどころか、九○○msを切るという驚きの結果を生み出し、冬夜が高い指導力を持つことが発覚した。これを聞いた他のクラスメイトもアドバイスを頼み、既にクリアしていたクラスメイトも更に良い成績を出そうとアドバイスを頼み………結果、大人気となっていた。
てっきり冬夜は自分のタイムを知ったら『気味が悪い』とクラスメイトから避けられると思っていたが、冬夜が『夜色名詠士』という実力者であることは一高校内では既に周知の事実だったため、そこまで反感を持たれることはなかった。(あくまでも冬夜が有名なのは『名詠士』としてはなのだが、どうやらそれは些末な問題だったらしい)ただでさえ教師不足のために教師の指導が受けられず、自力で結果を出さなければならない二科生からすれば、冬夜のような実力者から指導を受けられることは願ってもみなかった幸運だ。
実技が苦手な達也、レオ、エリカの三人ももれなく冬夜のお世話になり、全員自分の出したタイムを見て満足そうな顔をしていた。
その日、1-Eのクラスは全員が平均九○○ms前後という、入学したての二科生にしてはかなりの好タイムで実技の授業を終えた。
◆◆◆◆◆
「つ、疲れた……まさかクラスメイト全員からアドバイスを頼まれるとは……」
「お疲れだね冬夜くん?」
「あぁ疲れたよほのか。一秒でも早くエネルギーを補給しなければ……」
お昼休み。午前中の授業を終えた深雪、雫、ほのかとクラスメイトから引っ張りだこになっていた冬夜を含めたいつものメンバーは、お昼ご飯を食べるために屋上に向かっていた。
実は一高の屋上は、園芸部が花などを植え育てているためちょっとした庭園になっており、お昼休みにはそこでお弁当を食べることも出来るのだ。晴れの日に外で食べるご飯も良いだろう?と達也が用意してくれた粋な計らいである。八人も一緒に座れるのか?と、冬夜は疑問に思ったが、達也曰く予約制の大型テーブルを取ってあるため問題ないという。まだこの時間なら食堂の席は空いているだろうが、せっかくなので、冬夜たちは購買でサンドウィッチや飲み物を購入し、階段を上っていた。
「でも冬夜の指導、ちょっと受けてみたいかも」
「おいおい、勘弁してくれよ雫。オレは教師なんて柄じゃないぞ?」
「お試しで一回だけ。ダメ?」
「…………一回だけだぞ」
ちゃっかり雫が冬夜の指導の約束を取り付けたところで、全員屋上に着いた。屋上庭園はかなり手入れがされているのか色とりどりの花が咲いており、とても綺麗だった。
「おぉ~。すげぇ良い場所じゃねぇか!」
「意外でした。学校の屋上にこんな場所があったなんて……」
「綺麗……」
「オレも偶々昨日この庭園のことを知って、気になったから放課後立ち寄らせてもらってみたら、結構眺めが良かったんでな。上手く予約が取れて良かったよ」
レオと深雪と美月が感嘆の声をあげ、達也がそう言う。このまま庭園にある芝生の上でお弁当を食べるのも良さそうだが、残念ながら規則でそれは禁止されているため、冬夜たちは達也が予約してくれた大型テーブルまで移動した。
「そういえば『冬夜くんの分はもう雫が用意してあるから』ってほのかに言われたけど、どれがオレのなんだ?」
レオとエリカが袋からサンドウィッチやジュースを取り出している隣で、冬夜は購買で幼馴染に言われたことを思い出した。ちなみに達也と深雪はお弁当を持参したようで、購買ではジュース以外はなにも買っていない。
「うん。冬夜のはこれ」
「お、こっちか」
雫が差し出した袋を開けて、冬夜は中身を取り出す。中に入ってのは三点。
・ところてん
・こんにゃくゼリー
・ダイエットコーラ
「………どれでも好きなのからどうぞ」
「冗談だよね!?」
幼馴染の優しい心遣いに本来とは違う意味で涙が溢れてくる冬夜だった。ちなみにテーブルを挟んだ先でレオとエリカがその様子を見て爆笑している。ほのかも堪えきれなかったようで口元を押さえて笑っていた。思わずコーラをよく振ってから三人に目潰しを食らわせてやりたくなったが、貴重なカロリー源を無駄に減らしてはいけないと思い、なんとか踏み止まった。
「まぁまぁ冬夜くん。これは冗談だから。本気にしないで?」
「うん。冗談冗談」
ひとしきり笑った後、ほのかは目元を拭ってそう言うと雫もこくんと頷いた。「良かった。単なる冗談か」と冬夜がホッと胸を撫で下ろしていると、今度は冬夜の手元にあったところてんとこんにゃくゼリーを、雫は自分の手元に寄せた。
「………本当は、それだけだから」
「オレは修行僧か!!」
育ち盛りの十五歳の少年にダイエットコーラのカロリーだけで午後の授業に臨め、というのはもはや苦行でしかない。雫のボケに思わず冬夜は反射的にツッコミを入れてしまった。今度はエリカとレオだけでなく、深雪や達也まで吹き出して笑っていた。おのれ、他人事だと思いやがって!と冬夜は全員を忌々しい目で睨んだが、睨み付けられた本人たちは知らん顔をしている。
「あー面白い!冬夜くんサイコー」
「エリカ……そう思っているならその手元にあるカツサンドを一つくれ」
「いやよ。ダイエットコーラで我慢しなさい」
「くっ」
けらけら笑うエリカは、これでもか!というぐらい美味しそうにカツサンドを見せつけながら食べる。他のメンバーも悪ノリして見せつけるものだから、冬夜は「
結果、どうしようもなくなった冬夜は
「………………良いもん。別にお昼抜いたぐらいで死ぬ訳じゃないし。カロリーゼロって、実は少しだけカロリーあるから別に良いもん」
栓を開けたダイエットコーラを片手に背を向けて、拗ねてしまった。
「ありゃりゃ。拗ねちゃったよ冬夜くん」
「雫、もったいぶるのはそれぐらいが良いよ?」
「…………うん。分かった」
後ろでなにかヒソヒソと会話がされた後、達也は冬夜の肩をつついて後ろを振り向くように指示する。不貞腐れた感情になっている冬夜はムゥという表情で後ろを向いてみる。
「冬夜、これ食べて」
振り向いた先に見えたのは、テーブルを挟んで座っている雫が、顔を真っ赤にして二階建て式になっている水色の小さなお弁当箱を、冬夜に差し出しているという光景だった。
この状況でお弁当を差し出す。ということはつまりーー
「………………睡眠薬か毒薬でも入っているのか……?」
「なんでそういう発想になるんだ?」
冬夜の呟きにすかさず達也の鋭いツッコミが入る。目の前の現実に強い衝撃を受けた冬夜は、思わず過去五年間の経験に照らし合わせた非常識な答えを呟いてしまった。
普通に考えれば答えはたった一つしかない。
「お弁当、作ってきたから。食べてほしい」
「……………………!!」
カァァァ、と恥ずかしさのあまり顔を伏せてしまった雫が絞り出すようにそう言う。北山雫のアピール作戦その二、『お弁当大作戦』である。予想以上に効果はあったようで、冬夜は雷に撃たれたような衝撃が全身を駆け巡ったのを実感した。
まさか幼馴染(前置詞に「美少女の」がつく)の手作りお弁当を食べるという、ライトノベルやギャルゲーの中にしかないようなイベントが起きようとは。
「お、おお。ありがとうな。作ってきてくれて……」
「……別に、毎日頑張ってるみたいだから。ご褒美」
恐る恐るお弁当を受け取って礼を言う冬夜。雫と冬夜を除く全員がニヤニヤニマニマとしていた(深雪は表面上はニコニコだったが心情的には同じだ)が、そんなことが目に入らないくらい冬夜は雫のお弁当に釘付けになっていた。
「えっと中身は……おおっ!」
テーブルの上に置いてお弁当のふたを開けてみる。二階建てのうち一階部分は混ぜご飯になっており、ご飯にワカメが混ぜ混んである。二回部分はから揚げ、ポテトサラダ、きんぴらごぼうなど、色とりどりのおかずが多く並んでいた。見ているだけでも涎が溢れてきた。
「なんかすげぇ旨そうじゃん。よし、ではまずから揚げからいこうか……」
いただきます。とちゃんと手を合わせてから、冬夜は箸でから揚げを一つ挟んで口の中に入れる。雫がドキドキしながら見つめる中、もきゅもきゅとしっかり味わってから飲み込む。
……………うん。
「旨い」
「………良かった」
冬夜からその言葉を聞いてホッと一安心する雫。これで「マズイ」などと言われたら、明日一日寝込んでしまうところだーーまぁ大半の男だったら、この状況でそんなバカなことをいうわけがないだろうが。
「良かったね冬夜くん。雫から愛妻弁当を貰えて」
「羨ましいぜ、全く」
ニマニマとにやついていたエリカとレオがここぞとばかりに弄りだす。途端に、雫が「愛
普通ならここで、冬夜も顔を真っ赤にして「そんなんじゃねーよ」的な言葉を返すのがセオリーなのだろうが、
「あぁ。本当に嬉しいよ」
二人の予想の斜め上をいく返しを、冬夜はアイドル顔負けの満面の笑顔でした。照れ隠しではなく素で言っている分、その嬉しさ百パーセントの笑顔を見た二人は「ご、後光でも射しているというのかッ!?」と眩しすぎるその笑顔を直視できず、手で顔を覆ってしまう。
「……………………きゅう」
「雫ッ!?」
そして、そう言ってもらえた雫は嬉しさのあまりオーバーフローを起こし、再起動まで時間がかかった。
◆◆◆◆◆
その後、再起動した雫が女子勢から弄られたり、達也と冬夜が互いにおかずを交換して、お互いが「深雪/雫の方が旨い」と言い、深雪と雫の頬を紅く染めたり、レオが自分のお昼ご飯(購買で買ったパック詰めのサンドウィッチ)と達也のお昼ご飯(美少女の妹の手作りお弁当)と冬夜のお昼ご飯(美少女の幼馴染の手作りお弁当)とを見比べて「これが格差社会ってやつか………」と現実を思い知らされたりと、わいわいみんなでお昼ご飯を食べると、あっという間に完食してしまった。
ポカポカとした四月の陽気に包まれながら、彼らは食後の談笑をしていた。
「でもよ。やっぱり納得いかねぇんだよなぁ」
レオがジュースの入ったボトルをテーブルに置いて、そんなことを言う。
「あんなすげぇタイムを出しているのにオレたちと同じ二科生っていうのがさ」
「そうですよね。黒崎さんの実力や名声なら、一科生になっていておかしくないはずですし」
「まぁ、冬夜くんと同じクラスになったおかげで、さっきの授業も簡単に終わったけどね」
続いて美月、エリカが発言し冬夜は苦笑してしまう。入学試験で手を抜いたと思われて誤解を受けるのは嫌だったため、前に真由美に言った理由をもう一度言うことにした。
「おかしくないわけないさ。オレは
「そういえば、お前入学試験の実技をまともに受けきってないんだよな」
達也の脳裏には入学式の日に真由美と会った時のことがピックアップされていた。確かあの時真由美は
『そして問題は入学試験実技。魔法の発動速度、規模、対象を書き換える強度で測る試験だったんだけど、このうち発動速度は受験者の中で堂々の一位。他の受験生が皆0.2秒以上のタイムだったのに対し、あなたは0.193秒という驚異的なタイムを出して、学校始まって以来最速のタイムを出した天才。あとの二つの試験を受けなかったから棄権と見なされて二科生になったけど……あのまま試験をまともに受けていたらあなたが今年の総代だったかもね』
そう言っていた。実技試験は全て流れ作業のように受けさせられるはずだ。達也の記憶が正しければ途中棄権は認められていなかったはず。
達也のその言葉を聞いた冬夜は、視線を明後日の方に逸らして歯切れの悪い答えを返した。
「あー、まぁちょっと諸事情でな。途中棄権をせざるを得ない状況になったというか、なっちゃったというか……」
「なにかあったんですか?」
深雪の素朴な疑問に、視線を逸らし続けていた冬夜も「もう時効でいいかな」と思い、テーブルにすこし身を乗り出して小さめの声量で答えた。
「これはオフレコで頼みたいんだが……」
『うん』
冬夜に連れられて全員似たような体勢になる。冬夜は自身が二科生になった本当の理由を話し始めた。
「実は一高の入学試験なんだが……仕事が忙しすぎて、オレは日本で受けてないんだ。どうしようもなかったから、USNAにあった知り合いの日本企業に頼み込んで臨時の試験会場を開いてもらい、そこでオレは受験したんだ」
「初っぱなからスケールがでかいな」
「まぁな。一高側も『
「トラブル?」
雫が聞くと冬夜はまた言いづらそうな表情をしたが、全部話すと決めたのかすぐに話を続けた。
「【スターダスト】の連中がオレを
「………【スターダスト】?」
「USNA軍の魔法師部隊の一つ。汎用性を犠牲にそれぞれ特有分野でスターズと同等の実力を誇る恐ろしい奴らだよ」
冬夜はその時のことを思い出しただけで、まだ身震いする。ちなみにスターダストの目的はあくまでも【黒崎冬夜の拉致】だったため、試験会場になった企業にはこの作戦における人的被害はなかったものの、窓ガラスが割れるなどの小規模な被害はあった。
「怖かったよマジで。窓を突き破っていきなり強襲してくるんだもん。まさしく隙を突かれたね。オレには自前の
まぁ、悪戦苦闘しつつもどうにか建物から脱出はしたんだけど、あいつら追うのも得意だから逃げ切るのに苦労した」
「………まさしくリアル鬼ごっこ」
「リアル過ぎて二度とやりたくないよ。直接オレを追ってくる鬼も、本物の鬼以上に怖いやつだったしな」
「誰なんですか?その追ってきた人って」
「みんなもよーく知ってるやつだよ」
美月の疑問に冬夜は驚きの人物の名前を口にした。
「オレを追ってきたのは、USNA軍の魔法師部隊【スターズ】の総隊長、【アンジー・シリウス】その人なんだから……」
その名前に冬夜以外の全員が凍りついた。それもそのはず、アンジー・シリウスという人物は、魔法師の間では誰でも知っている名前なのだから。
「十三使徒……戦略級魔法師!?」
「ほのか、声がデカイ」
「あ、ゴメン……」
ほのかが思わず声をあげてしまうのも当然のこと。達也も含め、全員が唖然としていた。
戦略級魔法師【アンジー・シリウス】。
一撃で都市、または艦隊規模の標的を壊滅させられる戦略級魔法を扱える魔法師であり、また国際的に公認された十三人の戦略級魔法師(総称:十三使徒)の一人である。
USNAにとって切り札と言っても過言ではない大物が出てきたことに、全員衝撃を隠せないでいた。
「冬夜、戦略級魔法使えるの?」
「いいや。一撃で都市や艦隊を壊滅させられるほど威力のある魔法なんて使えないよ。【
「だとしたら、なんでそんな大物が……?」
「そんな大物を投入しても良いくらい、USNAにとって黒崎冬夜という人間は重要だったんだよ」
実際、冬夜はどの国も喉から手が出るほど魅力がある。今のご時世優秀な魔法師の遺伝子はどこの国も喉から手が出るほどほしいものだ。知られていないこととはいえ、四葉真夜と血縁関係にある冬夜をみすみす国外へ行かせるような真似を、USNAの官僚たちは許さなかった。
「シリウスと対峙した時は本当にどうしようかと思ったよ。最悪、戦略級魔法を防がなくちゃならないんだからな」
「まさか、相手にしたのか?」
「隙をついて逃げたけどな。シリウス本人から『アンタを
「なにその愛の告白。もしかして感動シーンだったの?」
「戦略級魔法を発動している準備の中で言われたから、もしこれが愛の告白だったらツンデレだよマジで」
「それを言うならヤンデレじゃないんですか……?」
美月の控えめのツッコミはスルーされた。
「まぁ、それで命の危機を感じたオレはそのまま高飛び……じゃない国外逃亡したんだ。さすがのスターズやスターダストでも、国外までは追ってこれないだろうからな。で、その予想通りオレはピンピンしている」
「なぜでしょう。そこだけ聞くとまるで犯罪者みたいですね」
「気持ちは分かるけど言うのは止めようか司波さん。今のは結構グサッときたから」
犯罪者みたい、と言われても仕方のないことを何度もしてきたという自覚はあるが、実際言われるのはかなりショックだったりする。
「なるほどな。USNAから逃げた後で試験を受けなかったから、あんな結果になったのか」
「まぁね。だから合格通知が来たときには本当に驚いたよ。てっきり不合格だとばかり思ってたから」
うんうん。と冬夜は頷く。彼自身、生涯でこれ以上にないぐらい衝撃的な出来事だったために、合格通知が届いた時には「何かの間違いだろう」と思って、学校側に問い合わせてしまったぐらいだった。
だが達也は冬夜の説明には納得したものの、腑に落ちない点はあった。
「お前、金にモノを言わせて裏口入学とかしてないのか?」
「してないよ。神に誓ってな」
冬夜の言葉をいまいち信用する気にはなれなかった達也だったが、これ以上ここで追求するようなことはしなかった。
彼らは知らない。
スターズやスターダストに強襲されたせいで試験が中断させられ、このままでは冬夜を不合格にせざるを得ないことに、一高側は大いに慌てていたことを。
彼らは知らない。
その話を聞いた冬夜の母親が「それでは一緒に暮らせなくなるわね。そんなの認めると思う?」という超個人的理由から一高側に圧力をかけたことを。
彼らは知らない。
一高がそれを理由に冬夜を合格させたことを、彼らが知る由はない。
今週は早めの投稿をしました。上手く書けて良かった。
かなり急ピッチで書いたので、誤字脱字等あったら感想にてお願いします。
それでは、また。