魔法科高校の詠使い   作:オールフリー

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久しぶりの投稿。あぁ。暑くて叶わん。オレの財布も火の車。深雪の冷却魔法でどうにかならないのかな?(主に財布の方で)

それはそうと、お気に入りも900人を越えて嬉しい限り。これからもよろしくお願いします!

あ、後書きにて聞きたいことがあるので、感想欄にて答えをお待ちしています。


放送室占拠事件

 そのまま、何事もなく一週間が過ぎた。

 ………あくまでも、表面的には。

 水面下では、ブランシュの応援を受けた同盟のメンバーが、一高の改革を為すための準備が着々と進められていた。

 

「いよいよですね」

「えぇ。……手順通りに頼みましたよ?」

「任せなさい。ちゃんと役は演じてあげるから」

 

 そして今日、黒崎冬夜を新たに仲間に加えた同盟がついに動きだす。

 それは間違いなく、一高のこの先の未来を決める重要なターニングポイントであった。

 

 ◆◆◆◆◆

 

「ねぇ。今日の放課後、一緒にケーキ屋行こうよ!」

「いいけど……昨日も一緒に行かなかった?」

「お前って、本当に色気より食い気だよなぁ」

「女の子に甘い物は必須なのよ」

 

 授業が終わってすぐーー放課後の冒頭とも言える時間。各々の生徒がそれぞれの放課後の支度を始めている中で達也の席の周りにレオ、エリカ、美月の四人は集まっていた(というか美月とレオと達也は席が隣同士だ)。学校も始まってしばらく経つため、見慣れた『いつもの面子』と言っても過言ではない顔だが、今日に限ってはそこに見知ったある男子生徒の顔がなかった。

 

「………そういえば冬夜はどうしたんだ?まだ帰ってきていないのか?」

 

 達也は教室の中を見渡して三人にそう言った。八雲の調査後、次の日から警戒している人物だけあって、その動向は常に欠かさずチェックしていた。……しかし今は、授業の課題が早々に終わったのか授業の終わりを告げるチャイムが鳴る前に席を立って教室を出て行ってしまったため、どこにいるのか分からない。

 見た感じ教室にはまだ戻ってきてないようだ。

 

「トイレじゃないのか?」

「それにしては遅すぎる。アイツが席を立ってもう十分以上経つぞ?」

「よくわかんな、そんなこと」

「目立ったからな」

 

 達也が簡潔にそう返すと「冬夜を探す前に帰りの支度をしておくか」と思い直し、自分も帰る支度を始めようと、机の横に掛けた鞄に手を伸ばし始めた。丁度そのとき

 

『全校生徒の皆さん!!』

 

 非常に聞きなれた冬夜(アホ)の声がスピーカーから大音量で流れてきたと同時、異変は起こった。

 

 ◆◆◆◆◆

 

 校内中に流した同盟の決起集会を呼び掛ける放送。

 それは、一科生と二科生のクラスで大きく反応が異なった。

 まず二科生のクラスでは『そんなことが本当に出来るの?』という疑問を抱くような声が上がり、

 反対に一科生のクラスでは『ふざけるな!』と猛反発する声が聞こえた。

 

 それは、深雪や雫が所属している1-Aのクラスでも同じことだった。クラスメイトの半数近くが『ふざけんなっ雑草(ウィード)!』とスピーカーに向かって叫んでいる。

 そんな中、雫とほのかは

 

「冬夜くん……なんで?」

 

 ほのかが呆然と小さな声で呟く。雫は今起きたことが信じられないのか、真っ青な顔をしている。

 スピーカーから聞こえてきた幼馴染の声。聞き間違いではない。信じられないが、冬夜は今同盟のメンバーと放送室にいる。

 それはつまり、彼がーー

 

「こんなことになってしまうとは……」

 

 深雪が苦虫を噛み潰したような顔をしてスピーカーを見ている。

 雫とほのかはもちろん、深雪も冬夜が同盟側に潜り込んだスパイだということは知らない。

 知らない彼女たちは『冬夜が同盟の仲間になった』という事実だけを受け止めていた。

 

「い、今聞こえてきたのはなにかの間違いだよね?深雪」

「ほのか……」

 

 深雪は気の毒そうにほのかを見る。そりゃあそうだ。ついさっきまで一緒に仲良くしていた人がいきなりこんな行動をすれば誰だって動揺する。それが助けられた相手なら尚の事。

 深雪だってにわかに信じ難いことだった。高校に入学してからの付き合いだが、おそらく兄を除いた男子生徒のなかでは一番親しい相手がこんなことをしたのだから。しかも、今までずっと生徒会室で一緒に仕事をした仲なのだから当然だった。

 だが、どれだけ現実が信じられなくても事態は進展していく。深雪の机に備え付けられた端末に、生徒会からメールが来た。

 

「………生徒会からメールが来たわ。放送室前に集合するように書いてある。だから行くわね」

「わ、私も一緒に……」

「ダメよほのか。事が事だし、ここは私に任せて。それに……」

 

 深雪は座ったままぼうっとしてスピーカー眺めている雫の顔を見た。

 

「あの様子の雫を放っておけないわ。ほのかが付いてあげて」

「う、うん……」

 

 幼馴染としてついて来ようとしたほのかはしぶしぶ頷いて雫の顔を見た。

 その視線はどこか虚ろでとても危険な雰囲気を出している。このまま一人ぼっちにするのはマズいとほのかも納得した。

 実際ほのかよりも雫のほうが精神的なショックは大きいだろう。想い人がこんなことをすればショックを受けずにはいられない。

 

「黒崎さんのことは私に任せて。後で連絡するから」

「うん……。お願い」

 

 少し不安そうな声でほのかが深雪にお願いする。

 とりあえず彼女たちの代わりに後で問い詰めてやろう、この時深雪は心の中でそう決めた。

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

「遅いぞ」

「すみません」

 

 ポーズだけの叱責にポーズだけの謝罪を摩利に返す達也。今、彼の右腕には『風紀委員』と書かれた腕章が付けてあり、その隣には生徒会役員としてやってきた深雪の姿もある。

 いったい何が起こったのか、かいつまんで説明すると放送室が二科生の生徒たちによって不法占拠されたのだ。ここに来る前に冬夜がスピーカー越しに言った言葉から、これはどうやら紗耶香に誘われていた『二科生への不当差別撤廃』を目指した同盟の行動だろうと達也は推測する。放送室前で鈴音や摩利に現状を確認すると、彼ら同盟は何らかの方法で放送室のマスターキーを盗みーー恐らくは冬夜の空間移動(テレポート)だろうーー放送室に立てこもったらしい。

 普通なら要求が通るまで対話をする気がない、しても一方的な要求を告げるだけ、というのがこういう連中がとる行動のセオリーだが、どうやら彼らはこちらと対話をする気があるようだ。放送室の扉の前に設置されたマイクと集音機、それからスピーカーを見て達也はそう判断した。摩利に話を聞くと彼らは『生徒会との話し合いの場を設けると約束するなら投降する』と言っているらしい。今まで交渉に出てきた相手は冬夜だけで、他のメンバーは出てきていないらしい。冬夜曰く、「同盟の中で一番交渉術に長けているのが自分ですから」という理由らしい。

 

「強行することはできないのですか?」

「『もし強行するなら空間移動で中にいる他のメンバーを逃がします。オレのような末端一人、処理しても無意味ですよ?』と脅しをかけてきました」

 

 もしも仮にそうすれば冬夜以外のメンバーは分からず、逆に空間移動を見越して風紀委員や教師を構内に展開すれば、ここが手薄になり冬夜を抑えれられない。しかも冬夜は【存在探知】で常に扉の向こう側にいる達也たちの動きを知ることができる。

 味方に付けるととても頼もしいが、敵に回した瞬間とてつもなく厄介だなアイツ。と達也は心の中で盛大に舌打ちした。

 

「生徒会、風紀委員会、部活連としてはどのように対処なさるつもりなのですか?」

 

 続けて深雪が鈴音と摩利、そして部活連のトップである三年生の十文字(じゅうもんじ)克人(かつと)に方針を訪ねた。

 

「生徒会としては彼らの要求を受け入れる気はあります。なので、今は余計に彼らを刺激しないよう傍観をするべきだと考えています」

「だが、放送室を無断で占拠しているのも事実。多少強引でも迅速に事態を収束させる必要があると風紀委員会としては考えている。……冬夜君の脅しで手を出し損ねているのは認めるがな」

「オレは彼らの要求を受け入れてもいいと思っている。今後の憂いを断つためにも必要なことだ。渡辺の言うように迅速な決着はつけるべきだとは思うが、学校の備品を破壊してまでやるべきではないだろう。このまま様子を見るのがベストだろうな」

 

 克人の意見はどちらかと言えば鈴音寄りのもの。摩利も手が出せないと認めている以上、今のところ『静観』というのがここでの方針だと達也は理解した。

 

「黒崎さん……」

 

 深雪は固く閉ざされた扉を見る。その扉の向こう側には放送機材で囲まれた部屋の中にいる夜色名詠士の姿があるはずだ。どうして雫とほのかを裏切るような真似をしたのかーー。可能なら魔法でも使って今すぐにでも問い詰めてやりたかった。そんな妹の隣で達也は一人、冬夜が敵に寝返った理由を考えていた。

 

「あのバカ、もしかしてなにかされたのか……?」

『いいや、これはオレの自由意志だ。考えるだけ無駄だぜ達也』 

 

 達也がボソリと呟いたその言葉をスピーカ越しに聞こえてきた冬夜の言葉が否定した。

 

「冬夜、お前……!」

『どうした達也?まるでオレが同盟(こちら)側にいるのが不思議で仕方ないって声だぜ。別に不思議でもないだろう?オレがお前と巡回していた時の言葉を考えれば、こちら側につく可能性は十分考えられたはずだ』

「あぁ。壬生先輩にお前にも声をかけていると聞かされたときはそう思った。だが本当に手を貸すとは思わなかったよ」

『オレもお前に声をかけられていることを聞かされた時、お前が入るわけないと思ったよ。残念だな達也。お前とこんな形で対立するなんて思わなかった』

「………おとなしくそこから出て来い冬夜。お前がやっていることは立派な犯罪行為だ」

『生徒会との話し合いの場が設けられるっていう要求が通ったら出てやるよ』

 

 チッ、と達也はもう一度舌打ちをする。この様子だと何を言おうとも出てくる気はないらしい。

 続けて冬夜は言う。

 

『ところで市原先輩、まだ話し合いは終わらないんですか?まぁ校長室も盗聴しているんで終わってないことは知っているんですけど』

「でしたら、もう少し待ってください。今会長が生活主任の先生も交えて話をしています」

『遅くなれば遅くなるほど、事態はまずくなると伝えてください。そうーー』

 

 そこで冬夜は一度言葉を切った。まさか、まだなにか策があるというのか?と達也は身構えて聞き漏らさないように耳を傾ける。同様に深雪や摩利たちも、顔を強張らせて身構える。

 そしてスピーカーから冬夜は、真由美たちに更なる脅しをかけてきた。

 

『ーーこの、生徒会副会長の暴言を校内放送で盛大に流されたくなければ、ね?」

 

 鈴音と深雪が同時に顔を曇らせた。その表情から達也は「きっとオレが風紀委員会に入るときに似た発言でも録られたんだな」と推測する。達也も他人から人が悪いとか言われたことがあるが、ここまで人を追い込んだりしたことはしたことがない。そして、もしもああいった暴言が流されれば同盟側は二科生の更なる応援を受けて活気ずくだろう。もしかしたら一科生何人かは、同盟の味方になってしまうかもしれない。結論から言えば、流されたら最後、彼らのシナリオ通りにことが進むことは明白なことだった。

 他に選ぶ選択の余地がないように相手を攻め、真綿で首を絞めるように追い詰めるところは四葉真夜(彼らの叔母)にそっくりだ。

 

『まぁゆっくり時間をかけてもらってもかまいませんよ。もうオレたちの目的の半分はもう達成したようなものですしね』

「なに、どういうことだ?」

 

 冬夜のその発言に摩利は反応した。達也のそばにいる風紀委員会の面々や部活連のメンバーを始め、スピーカーの向こう側にいる同盟側もこの発言は予想外だったのだろうか、ざわざわとした音が聞こえる。かくいう達也も冬夜の言っていることが理解できずにいた。

 

『オレたちが掲げるスローガンは一科生と二科生の差別撤廃……具体的には今さっきから言っている生徒会との話し合いとか解散総選挙とかですけど、本来そんなのはおまけに過ぎません』

「黒崎!お前は何が言いたい!」

「ま、つまりですね。オレが変えたいのは一科生と二科生の()()そのものなんですよ。一科生が自らを花弁(ブルーム)と呼んで選ばれた人間を気取っているのと同じように、二科生も自らを雑草(ウィード)と呼んで諦めている意識がある。

 意識改革ってたいへんですよねぇ。よくある勧善懲悪ものの物語のように『悪は滅びた、みんなは幸せに暮らせるようになりました、バンザイバンザイ』っていう風にはなれないんですから。だって、そもそも倒すべき悪党ってやつが存在しませんからね。

 放送室を無断占拠しているオレたちは間違いなく『悪』でしょう。ですが風紀委員長、今のこの状況を知っていてなお一高の状態を直そうとしないのはもっと『悪』なんじゃないでしょうか?』

 

 冬夜の指摘に摩利は顔を伏せた。

 やっていることはともかく冬夜の言っていることは間違いなく正しい。事実、いつかはこの意識を変えていかなければならないのだから。

 

『七草生徒会長、校内中に流してますからあなたにも聞こえていますよね、この放送。今頃は校長室で話し合いの真っ最中だと思いますが……』

 

 冬夜はそのまま、放送室に元々備え付けられていたマイクを通して真由美に語りかけた。

 

『あなたは以前こうおっしゃっていた。『一高の今の現状に満足していない』と。あなたもこの一科生・二科生の意識改革を望んでいたはずだ。

 もしもあなたが、本当に本気で変えようとする意思があるのなら、出てきてください。出て俺たちと正面から闘ってください。

 市原先輩の言う通り、一科生と二科生の比率がほぼ等しいこの状況で意識改革をしようものなら、確実に非難されるでしょう。ですが、だからなんだと言うのですか?自分が正しいと思った道を歩けないようでは改革と言う言葉も単なる夢物語でしかありません。

今のあなたは、口先だけの偽善者だ』

 

 周囲の一科生からブーイングが起きた。しかしそれはすぐ近くにいる冬夜には届いていない。鈴音を始めとした生徒会の面々や、克人といった面子は、ただ黙ってスピーカーの方に目を向け耳を傾けている。

 知らず知らずのうちに、達也も冬夜の言葉を聞いているだけになっていた。

 

『人の上に立つに人間に、最も必要な資質とはいったいなんでしょうか。人を引き付ける魅力を持っていることでしょうか?それとも有能であるかどうかでしょうか?

 

その二つも確かに大事ではありますが、オレは『真摯であること』だと思います。

 

人の上に立ったなら下に向かって命令するとこは簡単です。ですが、それでは絶対に人は付いていきません。なにかしらの権力を持たない人ーー我々でいうなら一般生徒ーーの意見を反映しない組織ほど、最低な組織はないからです。

そこで一つ皆さんに問います。今の一高は、二科生(我々)の意見も反映しているでしょうか?

ーーその答えは言うまでもないでしょう。オレが、オレたちがこうしているのがその答えです。

 

オレは今の一高の現状に我慢することは出来ません。

『魔法実技の成績』という一点のみで他者を見下し、差別し、あげく魔法や名詠式で乱闘までおこる始末。今はまだ病院に運び込まれるような事態には陥っていませんが、そうなるのも時間の問題でしょう。もしもそうなった場合、責任はとれるんですか?オレはそんな事態を現実に起こしたくはない。そのためにはいくらだって体を張れます。会長、あなたと我々が目指す場所は一緒のはずだ。もしもあなたが、本心から意識改革を望むと言うのなら、

 

今ここで!『生徒会長(生徒の長)』としての責務を全うしてください!!』

 

 冬夜の放送ーーもとい演説。それは確かに大きな意味を持っていた。その放送を聞いた後は、放送室前の辺り一帯がシーンと静まり返っていたのだ。一介の風紀委員にしか過ぎない達也だけでなく、三巨頭と呼ばれている摩利や克人までもが黙りこくって何も言えないでいる。

 この時点で、武力ではなく言葉で冬夜は生徒会だけでなく風紀委員会や部活連の面々を倒していた。全員、スピーカー越しとはいえ伝わってきた冬夜の『凄味』に気圧されたのだ。

 

(………これが、夜色名詠士か)

 

 皆が気圧されている中で、一筋縄ではいかない難敵だと達也は冬夜をそう評価した。これから三年間、色々な意味でもっとも手強くなる相手だと達也は悟った。

 そして、その冬夜の言葉は放送室前(この場)にいない真由美にも届いた。

 

「………そう。あなた達にそれだけの覚悟があるというのなら、私も生徒会長としてあなたたちと闘わなければならないのでしょうね」

 

 そしてこの時、この言葉と共に放送室前のこの部屋に通じる扉から小柄な人影が差し込んできた。

 

「生活主任の先生と校長先生と話し合いを済ませました。同盟に関する事案は生徒会に委ねるそうです。

 黒崎くん、あなたたちの要望通り討論会を開くことにしたわ。今からその打ち合わせをしたいのだけれど……そこから出てきてくれないかしら?」

「その言葉を待ってました。会長」

 

 固く閉ざされた扉の向こうから、ニヤリと笑って冬夜が出てくるのをその場にいた面々は憎々しい目で見た。

 

 ◆◆◆◆◆

 

「黒崎さん!」

「ん?」

 

 日も暮れかかっている中で、真由美と一通り打ち合わせした冬夜は外へ出た。

 冬夜の予定通り、上手く事態は進んでいる。後はこの事を受けてブランシュがどう動くか、それを真由美たちに報告し対策を練るだけだ。

 張り詰めた精神をいったん落ち着かせようと思い、新鮮な空気でも吸ってこようとして外に出たのだが、そこで冬夜は自分の名前が呼ばれたことに気付いた。振り向いた先にいたのは高校に入って最初に出来た友人とその妹。自分とその兄妹を囲むように展開されたのは、盗聴防止の遮音結界か。

他に誰かいるのか?と勘ぐって存在探知を使ってみたところ反応はない。どうやら、他の面々はいないようだ。

 

「冬夜」

「達也に司波か。てっきり、雫とほのかが来ると思ったんだが……お前らまだ帰ってなかったんだな」

「あぁ。帰る前にどうしてもお前に聞かなくはならないことがあったからな」

「オレに?なんだよ達也?」

「お前、どうしてーー」

「どうして、あなたはあんな真似をしたんですか!?」

 

 達也が冬夜に質問する前にに、険しい顔で深雪は冬夜に詰め寄った。妹の行動に達也は少し驚いたが、すぐに平静に戻る。対して冬夜は、嘘を突き通すために演技を続ける。

 

「どうしてって、言っただろ?オレがそうしたいからだよ。勧誘期間中を通じて思ったんだ。この学校の差別意識は変えないといけないってな。改革って言うのは、何をやるにも賛同者を集めることが必要不可欠だ。それには見栄えのするパフォーマンスをしなくちゃいけない。選挙にある街頭演説と同じだよ。まぁ、少々派手すぎたと思ってーー」

「そんなことは聞いていません!どうして雫とほのかを裏切るような真似をしたのか、と聞いているんでいるんです!」

「裏切る?何を話をしているんだお前は。オレは単に差別撤廃を志す同盟に手を貸しただけだ。それだけで『雫とほのかを裏切った』とは言わないだろう。お前を裏切った、なら理解できるけどさ。第一アイツらにはほとんど関係ない話だろう?差別が是正されようとされまいと、アイツらは今まで変わらない生活を送るんだから」

「………ッ!わかりました。飽くまでシラを切るつもりなら私のほうから出方を変えます。どうしてあなたはーー」

「どうしてお前は、オレ達に内緒でブランシュに潜り込むなんて真似をしたんだ?」

 

 今度は深雪の質問に達也が被せた。兄のその質問に深雪は驚いた表情をして兄の顔を見る。達也はこれ以上、優しい妹の怒り狂う表情を見たくなかった。深雪の怒りも背負うように、達也は冬夜を睨んで詰問する。

 達也のその質問に、冬夜は心底困った表情をした。

 

「お兄様!?それはいったいどういう……」

「はぁ………やれやれ。どうしてそれをお前が知っているんだ?それはあの時生徒会室にいたメンバーにしか知らないことなんだけどな」

「ついさっき委員長が全部教えてくれた。お前、さっきの放送室占拠もわざとやったんだろ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「ご明察。さすが達也だな。」

 

 パチパチと冬夜は拍手して達也を褒める。その反応を見た達也はますます不機嫌な顔になって冬夜にさらに質問した。

 

「とんでもないことやらかしてくれたな。敵にも味方にも嘘をついて苦しくないのか?」

「苦しいよ。でも、いつかは誰かがぶち当たる壁だ。これ以上花弁(ブルーム)だの雑草(ウィード)だので争って、魔法や名詠式でケガなんてしてほしくないしな」

 

 偽悪的な笑みを浮かべて冬夜はそう言う。達也はため息を一つして苦笑して見せる。そんないつも通りやり取りを見て、深雪は達也の言っていた言葉の意味をようやく理解した。そしてすぐに、知らなかったとはいえ早とちりをしてしまったことに、恥ずかしさで顔が真っ赤になるのを自覚した。

 

「ご、ごめんなさい!私、なんてことを……」

「いや、良いんだ。みんなに黙ってやっていることには変わりないし。形を見ればオレは生徒会のみんなやオレを信じてくれた雫やほのかを裏切っているんだから。謝る必要はないよ」

 

 冬夜はそう言って深雪に顔を上げるように言う。しかし深雪は顔を上げらなかった。恥ずかしい。穴があったら入ってしまいたいと彼女は本気で思う。

 やっと顔を上げたと思ったら、そそくさと達也の後ろに隠れてしまった。そんな深雪を見て冬夜も達也と同じく苦笑してしまう。

 

「で、お前これからどうする気だ?」

「どうって、二日後の討論会まで『演技』は続けるよ。まぁブランシュの連中は気に食わないが、同盟の活動には本当に協力してあげたいと思ったからね」

「………あながち『裏切り者』も嘘じゃないんじゃないか?」

「改革を行うには一度古い慣習を壊す必要もあるのだよ。達也くん」

 

 ニヤリと笑って冬夜は歩き始める。そろそろ生徒会室に戻らなければ怪しまれてしまう。討論会を開くことまでは何とかなったのだ。ここで詰めを誤る気はなかった。

 

「じゃーな。お前らも早く帰れよ。折角生徒会も休みなんだから、今晩は兄妹でたっぷりといちゃいちゃしておけ」

「待て。その表現はとても引っかかるんだが?」

「普段のお前たち兄妹の行動振り返ってみろ。間違ってはないだろ」

 

 いや、兄妹でいちゃいちゃはおかしいだろ。その表現は普通恋人同士に使うものだろ。

 達也は声を大にして冬夜にそう言いたかったが、冬夜は最初から達也の反論を聞く気がないのかそのまますたすたと歩いていた。

 

「……………雫とほのかは、あなたのことを信じてますよ」

「………」

「だから、全部終わったらあなたの口からちゃんと全部説明して下さい」

「………………あぁ。分かった」

 

 途中、深雪がその言葉を掛けたときは歩みを少しの間止めていた。その時小さく呟かれた夜色の少年の短い答えを、深雪と達也の二人は確かに聞いていた。

 

 




いよいよ大詰め。あと五話程度で入学式編は終わりです。

次章の交流会編に向かう前に聞きたいのですが、名詠式について纏めた方がいいですかね?発動方法とか、用語とか。

黄昏色の詠使いを未読の読者の方、どうしてほしいですか?

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