魔法科高校の詠使い   作:オールフリー

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さぁお待ちかねの第三話。相変わらずのゆっくり更新
。気長によんでね!
それでは本編どうぞ!


出会い

「それで、私を呼んだ用件とはいったいなんでしょう」

「まぁそう急くな。用件を話す前に君に言っておきたいことがある」

「なんでしょう?」

 

 少し時間はさかのぼり、入学式が始まる二時間ほど前。

 夜色名詠士の少年は一校の校長室にて呼び出した本人に用件を聞いてみたが、当の校長はそれを宥めた。仮にもこれから通う学校の長に対してあまりにも失礼な態度だが、ここに来るまでに彼がとった睡眠時間が二時間ほどしかないことを考慮してほしい。ここ最近日本に帰化した関係で、いろいろ各国、各方面へ走り回る毎日が続いており、彼としては一分でいいから入学式まで寝ていたいのだ。このままだと寝不足でいつぶっ倒れてもおかしくない。

 だが、少年を呼び出した老人はそんなイライラしっぱなしの彼に人懐っこい笑みを浮かべると

 

「入学おめでとう。この学校の教員を代表して君の入学を祝福する」

 

 手を差し伸べて彼の入学を祝福した。一方、まさかそんな言葉が来るとは予想だにしなかった夜色の少年は、きょとんとした表情を浮かべた後、その手を握り返した。素でそんなことを言われるのは、彼自身慣れていないのだ。

 

「ありがとうございます。これから三年間、よろしくお願いします」

「うむ。我が校の生徒としてしっかり勉学に励んでおくれ。……しかし惜しいな」

「惜しい、とは?」

「君の制服だよ。特に左胸の……」

「あぁ。これですか」

 

 少年は自分が着ている制服の左胸部分を見た。

 そこには本来、この学校の正式な生徒である証拠の象徴(シンボル)、八枚花弁のエンブレムが入っているはずなのだ。しかし、少年の左胸にはそれがない。

 なぜ、エンブレムのない制服とある制服が存在するのか。

 それは、この学校――もとい、魔法科高校に導入されたあるシステムのせいだ。

 人はそれを【二科生制度】という。

 

 魔法とは、個人の才能に由来するところが多い。政府の援助を受けて運営がされているここ、魔法大学付属の教育機関のひとつである第一高校には『毎年一定以上の成果を挙げること』が義務付けられている。

 一定以上の成果とは、第一高校に生徒のうち、ある一定数を魔法大学を始めたとした政府お抱えの専門機関に進学させること。

 国防の重要な要素である魔法を使える人材を増やそうと、政府は国を挙げて躍起になっているのだ。

 しかし、人生においてもっとも多感なこの時期。希少な才能を持ち、輝かしい未来を夢見て魔法師を目指す少年少女の中には、事故によって魔法が使えなくなる者も少なからず存在する。

【二科生制度】とは、要は欠落した人員の穴埋め要員のことだ。毎年二百人の生徒が第一高校に入学するうち、その半数が左胸にエンブレムのない二科生として入学する。

 彼らには学内の施設や教材を使うことが許されているが、最も重要な魔法実技の個別指導を受ける権利がない。

 独力で学び、結果を出す。

 そうしなければ、魔法大学へ進学するのに必要な『魔法科高校の卒業資格』は与えられず、『普通科高校の卒業資格』しか手に入らない。

 

 世界的に名高い『夜色名詠士』でも、それは変えられない。

 校長が言った『惜しい』とは、『君ならエンブレムを持つ正式な生徒、一科生として入学できただろうに』という落胆の気持ちだ。

 しかし夜色の少年はそんなことを気にも留めていないようである。

 

「てっきり私は、君は主席で……そうまでいかなくても一科生として入学するのだとばかり思っていた」

「別に大した違いはないでしょう。ただ才能があるかないかの違いぐらいでは、そんなに変わりませんし」

「……よくまぁ、そんな簡単に割り切れるものだ。君の()()()としての正当な評価を無視しているものだというのに」

「いえいえ。まともに入学試験を受けきったとしても結果は変わらなかったと思います。私は領域系魔法が使えないので」

「だが、そんなハンデが霞むほどの固有魔法を持っているではないか」

「試験には一切使えませんけどね」

 

 夜色の少年は肩をすくめて苦笑いする。校長はそんな少年の答えが気に食わなかったが言っていることは正しいので黙っている。

 挨拶もそこそこ。話題も切れたため、校長は本題に入ることにした。

 

「君は、今日(こんにち)における名詠士の扱いがどのようになっているか知っているか?」

「……それは、ここ数年で名詠士が軍人として教育されるようになってきていることですか?」

「あぁその通りだ。今、世界中のあらゆる国が『名詠士が喚び出す名詠生物は、戦術的価値がある』と認めつつある。事実、現代魔法を使うのに必要不可欠な『情報体(エイドス)の改変』が出来ない名詠生物は魔法師にとって天敵と言っても良いからな」

 

 名詠生物を倒す術は一般的に知られている方法で二通りある。

 

 一つはダメージを与えて倒すこと。二つ目は【反唱】と呼ばれる技術を使って名詠生物を送り返すこと。だが仮に一般的な魔法師が名詠生物と戦う場面を想定した場合、専門的な名詠式の知識が必要になる【反唱】は使えない。ダメージを与えて倒すにしても通常兵器では傷を付けることすら難しい。魔法を使うにしても、名詠生物に対して現代魔法を使うのには専用のCADが必要になる。そのCADを手に入れることは諸々の事情により、まず不可能といって良い。

 このように、名詠生物は現代の軍事力の主戦力となっている魔法師に大きなアドバンテージを持っているのだ。

 

「名詠生物、もとい名詠式を使うメリットは他にもある。折り紙だろうが絵の具だろうが『色』さえあえば名詠式は使える。そのため費用の大幅なコストダウンができる」

「しかし、あくまでも喚び出す名詠士本人はただの人間です。いくら訓練で強くなっても魔法に対抗できる名詠士は少ない」

「そうだ。だがそれなら名詠士は魔法師に守られていれば問題ない。それに中には名詠士でありながら高い魔法力を持つ人間だっている。君のようにな」

「…………………………」

 

 校長の意味ありげなその視線に冬夜は無言で返す。校長はフッ、と笑って続けた。

 

「が、『対魔法師戦を前提にした名詠式の使用』はなにも戦争を前提にした軍の中だけの話ではない。もっと身近な場所でも同じことが言える」

「具体的に言うと?」

「昨今、ここ一高では名詠式による怪我人が増えている」

 

 校長は一変して苦々しい表情になる。

 

「……それにより、学校の治安状態の悪化が懸念されている。いや、実際悪化している」

「つまり校長は、私にその取り締まりをしてほしい、と言いたいのですが?」

「うむ。専門家の君に任せると言えば誰も文句は言わんだろう?本来なら君には風紀委員となってもらい、この学校の治安を任せたいところだが……」

「私に権力を持たせるのは好まないでしょうねぇ。政府(うえ)が」

 

 夜色名詠士であるこの少年、実は稀有な固有魔法や高い能力に比例してとても取り扱いに厄介な存在でもある。

 

 こんな話がある。

 

 夜色の少年が日本に住み一高に通うと決まった後、ある十師族の当主が彼を引き入れようと自分の娘との縁談話を持ちかけた。少年はこれを丁重に断ったのだが、その当主は諦めが悪く何度も少年の元を訪れた。その度に何度も丁重に断ったのだが、少年が下手に出るのを良いことに終いには従わなければ十師族当主としての権限を使い一高の受験を拒否させる、などと言ってきた。海外を渡り歩く少年をスパイなのではないか、と言うことも出来るとその当主は言ったか。なにはともあれその当主はその少年の怒りを買い――

 

 一週間後に家業を崩壊させる一歩手前まで追い込まれた。

 

 十師族と言えども表向きは実業家であるため、様々な形で商売をしている。そこで海外も含めて知り合いの多い彼が『あそこと取引しないようにお願いします』と働きかけ徹底的にバッシングしたのである。

 

 十師族としての誇りどころかこのままでは一家離散の大ピンチにまで発展した当主は大いに焦り、少年に菓子織りと土下座込みで謝罪をして許しを請いにいった。

 

 結果的に許しを得たその当主の家業は一月後には以前と同じように戻っており、十師族の立場も含めてなにも失うことはなかったのだが、日本の魔法師コミュニティーの頂点に立つ十師族の一角がたった一人の少年によって追い込まれ、当主が頭を床に擦り付けるまでさせられた所業は悪夢のように他の十師族や師補十八家にも伝えられており、当時の総理はその話を聞いて胃に穴が開いたそうだ。

 

 その事から彼は第一級危険物のような扱いを政府から受けている。

 

「そういうことだ。なので君にはこの学校における名詠式関連の窓口、もとい最高責任者になってもらいたい」

「…………風紀委員より大きな権力を与えてませんか?」

「問題ない。あくまで『名詠式に関する』こと限定で君に権力を与えてるのだ。名詠式関連で君の右に出るものはそうおるまい?」

「………私はまだ名詠士の免許(ライセンス)すら持ってないんですが………そもそも今日からここの生徒なんですけど?」

「それも問題ない。既に必要な関係各所には話をつけた。職員会議も通したし、生徒会長、風紀委員長、部活連会同にも説明は終えている。後は君の意思だけだよ」

 

 外堀は既に埋められているのか。と、少年は心の中で呟く。事後承諾と言うのが気にくわないが、だからといって断る理由もない。面倒事の匂いはプンプンするが、名詠式による事故が多発しているとなると名詠士として放っておくわけにはいかないと思った。

 ただひとつ、腑に落ちない点はある。

 

「答えを出す前に一つ、お聞きしても良いですか?」

「なにかな?」

「学校側で名詠士を雇うことは出来ないのですか?」

 

 名詠式を無効果する『反唱』という技術は確かに少年の得意分野であるが、なにもそれだけなら少年だけに限らずほぼ全ての名詠士が会得している。少年に頼る必要はない。

 しかし校長は、首を横に振って答えを言った。

 

「名詠士は雇えん。………ここは魔法科高校だからな。現代魔法を教える学校なのに名詠士を雇うわけにはいかんのだ。魔法師と名詠士の資格を両方持っているのなら、教師として採用すれば別に何も問題ないが……」

「なかなかいないでしょうね。そんな人」

「うむ。さらに高望みすれば、一人で五色全ての反唱を行えるとなお良いのだが、基本名詠士は自分の専攻色の反唱しか使えないと聞く。政府から予算が出されているとはいえ五人もの名詠士を雇う余裕は当校にはない」

「なるほど」

 

 小さく頷いて少年は納得する。夜色の少年に校内限定とはいえ、大きな権力を持たさせることへのメリットとデメリットを秤にかけた結果なのだ。ずいぶん思い切ったことをしたものだと少年は思ったが、それを行えるだけの実行力と行動力が校長にあることは分かった。

 ともあれ、これ以上の疑問は少年にはない。

 

「わかりました。ではその役目を謹んでお受けしたいと思います」

「うむ。これからもよろしく頼む。夜色名詠士殿」

 

 夜色名詠士の少年と一高の校長は固い握手を交わした。

 

 ◆◆◆◆◆

 

「あーしまった。暇つぶしに何か持ってもってくればよかった……」

 

 さて、用事が済んでしまった夜色名詠士は暇を持て余していた。やることがなくて暇で暇でしょうがない。今から入学式が始まるまで後一時間半以上もある。しかし家に帰るのはものすごく面倒だ。というか家に帰ったらベッドに倒れこんで絶対寝る。寝てしまう。

 ふと、ポケットにしまったIDカードを手に取る。このカードは校内施設を利用するために必要なカードなのだが、今日はまだ入学式の日で校内にあるほとんどの施設は使えない上、混雑を避けるためか学校の敷地内にあるカフェテラスは閉まっている。この時間帯に少年が使える施設はまるでなかった。

 しかし少年は、もう一方の手に持つ携帯端末を見る。

 

『もしよかったらこれを使いたまえ。君専用の教職員用のパスだ。これなら今閉じている図書館に入ることができる。おっと、ただしあまり読みふけるなよ。それで入学式に遅刻したりしたら、ただじゃすまないからな』

 

 なんて部屋を出る前に校長先生に言われ、本来入学式後に渡されるはずのIDカードともう一方の手に持つ携帯端末にパスを渡されたのだが……

 

「ダメだ。絶対読み更けっちまう。絶対ダメだ」

 

 一度本を読むことに集中すると、周囲が見えなくなるという自分の悪癖を十分に自覚している少年は、せっかくのプレゼントを使えなかった。さぁどうしようか、少年は途方に暮れる。せめてこんな時、気の合う友達でもいればよかったのに。

 

「……ま、そんなこと考えてもいないもんはいないんだからしょうがないよな」

 

 五年間も海外ににいて、日本には用事がある時ぐらいしか帰ってなかったのだ。海外ならともかく日本(この国)に友達なんているはずがない。

 なら、この学校に通うという幼なじみでも探そうか。いや、いくらなんでもこんな早い時間に学校には来てないだろう。ううむ……。という風に携帯端末片手にブラブラと当てもなく校内をうろつく。どこもかしこも施設は使えず、時折すれ違う在校生からはクスクスとエンブレムがないことで笑われている。

 ……なんか鬱陶しいな、この優越感の視線。

 慣れてないとはいえ、在校生が零す無邪気な悪意に嫌気がさしてきた少年は、どこかに腰を落ち着けたくなった。どこか良い場所はないかと辺りを見回すと、近くにあったベンチに目がいった。

 

「……あれ?」

 

 真正面に見えるベンチ。入学式の準備で忙しいであろう在校生がその道を行き交う中、一人だけ「我関せず」と言わんばかりにベンチに座って、情報端末を眺めている男子生徒。

 しかし、夜色の少年が注目したのはそこじゃない。ベンチに座っている男子生徒の制服の左胸部分に目がいったのだ。

 その生徒の左胸には、夜色の少年と同じく八枚花弁のエンブレムがなかった。

 自分のように何か用があって来たとは考えにくい。入学式の準備をしているのは一科生の先輩だし(そもそもそのために来ているのなら、こんなところでのんきに座ってないだろう)、同じ一年生だとしたらなおのこと、こんな早い時間に学校来ているのかわからない。

 あまりに場違いな少年を前にして、夜色の少年は思わず言ってしまった。

 

「あれ? なんでオレと同じ二科生がここにいるんだ?」

 

 ◆◆◆◆◆

 

 司波(しば)達也(たつや)は正直耳を疑った。

 今年度の新入生総代に選ばれた妹の護衛に付いて来て学校に来たは良いものの、入学式のリハーサルが始まったために妹とは別行動となり、結局二時間以上もの間、入学式が始まるまで暇を潰さなければならなかった。暇を潰すために最初に目についたベンチに腰掛け先輩方の余計な小言を受け流しつつ、お気に入りの書籍サイトで読書をしていたところ、こんな声が聞こえてきた。

 

「あれ? なんでオレと同じ二科生がここにいるんだ?」

 

 普通、今日この時間この場所では絶対聞こえて来るはずのない台詞(ことば)

 おそらくその言葉を発したのは自分と同じ新入生。そうでなければ、わざわざこんな早い時間に学校には来ないだろう。

 達也は端末の画面から目を離し、自分の正面を見た。

 

「あ、あれ? ひょっとして気を悪くしちゃった……?」

 

 先ほどの自分の発言が失言だと思っているのであろう少年は、狼狽えながら達也を見ていた。

 達也から見てその少年は普通の日本人のように見えた。まず、きちんとセットされた黒髪。少々童顔のように見えるが、凛々しい顔。そして年頃の少年の体つき。中肉中背の普通の体型。

 

 容姿だけをとれば、間違いなくイケメンがそこにいた。

 その少年が怯え半分、不思議な顔半分な表情でこちらを見ている。

 

「……機嫌は損ねてないから安心してくれ。」

「あ……そうなの? いやぁごめんね。まさかオレ以外の二科生がここにいるなんて考えもしなかったから」

 

 

 隣座っていい?と言う少年を、達也はベンチのスペースを開けて招いた。少年は空いたスペースに腰掛け達也の方を向く。

 

「はじめまして。オレは黒崎冬夜。今日からここの一年生なんだ。よろしく」

「司波達也だ。オレも同じ一年生だ。よろしく」

 

 少年は手を差し出してきた。どうやら握手を求めているらしい。達也はそれに応じしっかりと固い握手を交わした。

 

「ありがとう達也。驚いたよ、学校に来ていきなり同じ制服のやつに会えるとは思わなかった」

「オレもだ。冬夜はなんでこんな早い時間に学校に来たんだ?」

 

 達也は早速自分の疑問をぶつけてみた。すでに端末はスリープモードにしてポケットにいれてある。

 

「ここ五年ほど、海外に住んでいてね。日本にはいなかったんだよ。で、ついこの間日本に帰って来たんだけど、この学校のことは資料でしか見てなかったから、実際はどんなものなのか見学しに早く学校に来たんだ。入学式始まってからじゃゆっくり見れないからね」

 

 達也の疑問によどみなく答える冬夜。本当は半分ほど嘘なのだか、冬夜が自然に答えたために達也にその嘘は見抜けなかった。

 

「そういう達也は? 朝早く起きてしまったから……じゃないよね?」

「オレは妹の付き添いだ。今の世の中は色々と物騒だからな。心配で付いて来た」

「へぇ……。心配性なんだね達也は」

「周りからはよく『過保護』だと言われるがな」

 

 お互いに笑い合うが、冬夜は内心「それ過保護じゃなくてシスコン……」と思っていた。しかし、初対面の人にそんなことを言うのは失礼なので言わなかった。……すぐにその考えが、真実なのだと知ることになるのだが。

 

 今ここに、こうして彼らが出会ったのは偶然かそれとも必然か。

 入学早々、早速気の合う友達を見つけることが出来た彼らは時間が経つのも忘れてお互いのことを話し続けた。

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 時間とは不思議なもので、自分が置かれている状況によって流れる時間が変わるように感じるものだ。

 苦しい時間はゆっくりと、楽しい時間ほど早急に。

 一般人から見て天才と喚ばれる彼ら二人であってもそれは同じ。愚者であっても天才であっても、一日の時間は変わりなく二十四時間しかないのだから。

 ゆえに、達也の携帯端末から入学式の開始時刻まで残り三十分だと知らされたとき、彼らは「もうそんな時間か」と考えたものだ。

 

「そろそろ行くか」

「そうだね。講堂まで少し歩かないとだし……」

 

 二人揃ってベンチから立ち上がろうとしたちょうどそのときだった。

 

「新入生ですね? 開場の時間ですよ」

 

 彼らの頭上から声が聞こえてきた。声の高さからおそらく女生徒。視線を上げていくにつれ目についたのは、女生徒の制服であるスカート(男子生徒はスラックス)、男女共通の上着であるブレザー、そしてその左の袖口から見える最新式のCAD 。

 

 CAD ――正式名称【術式補助演算機】。

 

 他にもデバイス、法機(ホウキ)と呼ばれる代物で、現代の魔法師に必須のツール。名詠式に始まる古式魔法で使われるような呪文、魔方陣、魔法書の代わりに『起動式』と呼ばれる現代魔法を発動するために必要なモノを提供するモノ。

 別にCADがなくても魔法が使えないわけではない。しかし、CADには起動式による安定的に魔法を発動させることが出来、そのうえ魔法の才能さえある人ならば、誰でも簡単な操作によりものの一秒以下で魔法が発動することが出来る。

 この『安定性』と『スピード性』が評価され、念じるだけで魔法を発動できる『超能力者』もCADを愛用する者が主流になっているほどだ。

 総じて、現在魔法に携わる人間のほぼ百パーセントがCADを用いる。

 それは魔法師の卵達が通う、ここ魔法科高校であっても変わらない。が、まだ精神的に未熟な彼らは、学校の敷地内にいる間はCADを学校に預けなければならない。

 その数少ない例外――CADの常時携行が認められている生徒は、彼らの記憶によれば生徒会と一部委員会のメンバーのみだ。

 

「すみません。すぐ行きます」

 

 達也が答え、二人揃って立ち上がる。 相手の左胸には八枚花弁のエンブレムが見える。しかし冬夜も達也も、自分の左胸を隠すような卑屈さは持ち合わせてはいなかった。

 ここで二人はようやく相手の顔を見た。顔の高さは、立ち上がった彼らの顔より二十センチも低い。女性としてもかなり小柄な方だ。と彼女を見た冬夜は思った。

 

「あ、申し遅れました。私は第一高校の生徒会長を務めています七草(さえぐさ)真由美(まゆみ)です。よろしくね」

 

 彼らが立ち上がってすぐに流れた一瞬の間の後、その女子生徒――七草真由美は、最後にウィンクが添えられてもおかしくないような口調で、彼らに挨拶した。




やっと出てきました原作&今小説の主人公!冬夜は達也たちとどう絡むのか、ご期待ください。

つつがなく進行する入学式。別れた幼馴染みを探す少女、総代の妹の晴れ姿を楽しみにするシスコン。様々な人がそれぞれの思いを抱えて入学式に臨む。そんな中、壇上に上がった絶世の美少女、司波深雪を見て冬夜はーー

次回をお楽しみに!


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