魔法科高校の詠使い   作:オールフリー

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はい。皆さんこんばんわ。今週は話の構成上二話連続投稿です。

下は一時間後に投稿します。

それでは、どうぞ!


エルファンド校の主人公 上

 主人公、という言葉がある。今更説明するまでもないだろうが、その意味はフィクション作品のストーリーの中心となり物語を牽引していく人物・キャラクターの事である。その主人公はなにも人間に限らず、作品によっては人間の他にも動物・宇宙人・獣人・悪魔・幽霊・妖怪といった「非現実的なキャラクター」も便宜的に「主人公」と呼ばれる場合もある。

 

 さて、こうした主人公たちにはある一定の共通した性質を持っていると考えられている。例えば、その物語の語り部であるとか、その作品の主題を実行する者だ、とかというものだ。この作品で言うならば『特異な魔法の才覚者』でも当てはまるだろう。原作の主人公(達也)であれ、二次創作(冬夜)であれ、他人には真似する事の出来ない能力を有している。

 しかしながら、そういったいわゆる『最強系』と呼ばれる人物ばかりが、主人公になれるのではない。非凡で平凡な、どこにでもいそうな普通の少年だって『主人公』になり得る可能性を秘めているのだ。そういった主人公の行動は、しばしば上記に上げたような人物たちの活躍と比べると見劣りする事が多い。

 

 だが、時々作者はこう思う事がある。

 そんな主人公は非凡で平凡だからこそ、人間が生きていく上で最も基本的な、およそ『当たり前』と言われる大切な事を再確認してくれる存在なのではないだろうか、と。

 

ーーこれは、エルファンド校に通うとある平凡な少年の一日を描いた、ごくごくつまらない物語である。

 

◆◆◆◆◆

 

「なんだコレは」

 

 埼玉県所沢市にある、駅から程なく近い場所にある一軒家。取り立てて上げるべき特徴もない普通の一軒家の中で一人の少年が呟いた。中肉中背、十五歳の少年の平均的な体つきに、ヤクザでもビビるんじゃないかというツリ目が特徴的な強面(こわもて)という、個性があるんだかないんだか分からないその少年は、一枚のメモ用紙を握りしめた状態で立ち尽くしていた。

 冷蔵庫に貼り付けられたそのメモ用紙に書かれていたは、たった一行の文章が書かれている。

 

 

『焼き魚定食が食べたい   母より』

 

 

 朝っぱらから眩暈を覚えそうな実母の行動に、その少年はただただ呆れるほか行動のしようがなかった。そして一枚の紙切れに書かれた文章(朝食のリクエスト)を少年はビリビリと引きちぎってゴミ箱に叩きつける。まだ眠っているであろう妹を起こさないためにも小さな声で、しかし感情を込めた声で天井に向かって叫んだ。

 

「オレは食堂のおばちゃんかっ!!」

 

 断じてそのようには見えません。と、彼にとって腐れ縁に等しい幼馴染みが聞いていたらそう返す事が想像出来るツッコミを入れて彼は朝食の準備に取りかかった。他の家では見られないようなかなり特殊な事情があったため、幼稚園年長の頃から包丁を握り小二の段階で台所の全てを、更に言うなら小学五年の頃にはそれに加えて掃除、洗濯といった家事全般をこなす事が出来るようになったその少年にとって、今日のような事態は毎日の事のように繰り返されていることだ。気にする事じゃない。と考えながらも、冷蔵庫の中身を見てその要望(リクエスト)に沿えるようなメニューを考えていく。

 そんなの考える事もなく全てホーム・オートメーション・ロボット(HAR)に任せてしまえばいいじゃないか。とこの2094年現在に生きる人々なら、そう答えるだろう。しかし少年はそれをあえてしない。HARにという便利な代物が普及して久しい世の中だが、その家では『HARの作ったご飯は美味しくない』という少年の理由の元、少なくとも食事に関してだけは、一年三百六十五日毎日、その家では少年の手作りご飯を食べる事になっていた。

 

「母さんももうちょっとマシなご飯が作れりゃあなぁ……はぁ」

 

 もう何を言っても仕方のない事だと分かっていても、思わずこぼれてしまうため息。冷蔵庫から食材を取り出し、手際よく朝食を作っているその少年の名は【城崎(きのさき)(しゅう)】。

 エルファンド名詠学校高等部に通う生徒であり、理事長からの指名を受けて生徒会入りをしてしまった哀れな男子生徒の一人である。

 

「総料理時間十三分・・・・・・まずまずかな」

 

 残念ながら魚がなかったので、納豆、刻み葱、白菜の浅漬けといった典型的な日本の朝ご飯を、テーブルの上に用意してエプロンを取る。壁に掛けてある時計を見ると時刻はおおよそ七時になる頃か。それを確認した彼は母親の部屋へと足を向ける。時間的にそろそろ母親が自我崩壊する頃合なので様子を見に行くのだ。

 

「おーい。生きているかー?」

 

 ノックをして母親の扉を開ける。そこには本棚と机とベッドだけが置いてあるあまりにも簡素な部屋があった。

 ・・・・・・いや、付け加えるなら机の上でキーボードに倒れこんで爆睡している女性の姿がある。と言うべきか。女性と言うよりもどちらかと言えば小学生に近い身長を持つ彼女は、両手を前に突き出したまま、毒が回って力尽きた死者のようになっている。今度こそ本当に死んだか?と不吉な考えが頭をよぎった彼は、生存確認も含めてその女性の体を揺さぶってみる。

 

「ったく。寝るならちゃんとベッドで寝てくれよ……。おーい、生きてるかー?おーい、起きろー?」

「う・・・」

 

 彼は母親ーー名前を【城崎(きのさき)カンナ】というーーの全身をグワングワンと揺らしてどうにか起こそうと試みる。何回かゆさゆさと揺さぶってみると、彼女は目を覚ましたのかほんの少し瞼を開けて

 

「書くんだ・・・・・・まだ書くんだ・・・・・・私ぃぃぃぃ!!」

 

 ーーそういって力尽きた。屍になったという意味ではなく、HP(ヒットポイント)がなくなった的な意味で。

 

「・・・・・・はぁ、職業柄仕方ないけどさ。もう少しまともな送ってくれねーのかな」

 

 今度は揺さ振っても起きそうにないので、小学生ぐらいの体型しかない母親を抱っこしてベッドに寝かせてやる。ベッドの柔らかさを肌で感じ取ったのか、芋虫のように丸まって寝る自分の母親を確認した彼は、そのまま静かに部屋を出た。こうなっては彼女は絶対に起きないのだ。

 先の発言で分かったかもしれないが、修の母親、城崎カンナは小説家だ。それも恋愛小説というブラックコーヒーに砂糖と蜂蜜を大量にぶち込むような作品を書く作者なのだ。しかも修にとっては最悪な事に、城崎カンナはただ単に作品を出しているだけの人気小説家などではなく、過去出版した作品が何度か映画化されたこともあるレベルの売れっ子小説家なのだ。町の本屋に行けば、必ずといって良いほど母の書いた本がどこかに置いてあるし、どこで聞いたのか、その事実を知った人や学校の友人から、サインを頼まれたことだって少なくない。

 

 しかし修は、彼女の職業に文句があるわけではない。小説家にしろ漫画家にしろ、その手のクリエイターが大成する確立は低く、修だって母の成功は、他ならぬ母自身のの努力があったからこそ成しえたものだと思っている。恋愛小説家の息子、と言われれば恥ずかしくて穴に入りたくなる気分に駆られる彼だが、別に母親の事を嫌っているわけではない。

 

 が、【息子】という立場から母親の事を見てみると、どうにも修は目の前で眠っている少女のような外見の母親の事を『良い母親』だと言い切る事が出来ない。むしろ、真似してはいけないタイプの大人だと思っている。なぜなら、売れっ子恋愛小説家、城崎カンナは実は残念すぎることに極度の対人恐怖症で究極の引きこもりだからだ。彼女の執筆スタイルは十二時間寝てその後二十四時間執筆し続けるというもので、どうしても外に出なければならない用がない限り彼女は絶対に外に出ない。今時コンビニ買い物行くのにも苦労する人間が真っ当な社会人だと果たして言えるのだろうか?いや言えない。更に言うなら今時宅急便の受け取りにすら苦戦する彼女を、真っ当な社会人と評することは、誰よりも彼女の事を母親として見てきた修が否定する。

 

「悪い母親じゃあないんだけどなぁ。けど真っ当な母親でもないんだよなぁ」

 

 強いて言うなら残念な母親というべきなのだろう。いや本当に、残念すぎる親だ。

 

「ま、そういう意味じゃ親父も変わらねーか」

 

 今度は妹を起こすために二階に上がる。二階には彼の私室のほかに、妹と父親の部屋があるのだが、父親の部屋は完全にスルーする。なぜなら、部屋を開けたってそこには誰もいないからだ。

 

修の父親【城崎(きのさき)拓也(たくや)】の職業は、いわゆる冒険家というやつだ。そこに山があるから山に行き、時には海を渡っていろんな国を訪れる幅の広い冒険家。行く先々でいろんな人と関わり、今は高山植物の研究をしている人たちを案内するためにヒマラヤ山脈を旅している。

その方面の人物としてはかなりの有名人らしいのだが、息子からすればどこで何をしているのか分からない放浪親父だ。決して嫌っているわけではないが、かといって父親としてマトモなのかと問われれば悩んでしまう。

 

(オレはそんな二人の息子な訳だが、未だ馴れ初めってやつを聞いたことがないんだよなぁ)

 

年中家に引きこもっている母親と、年中外を出回っている父親。北極と南極ぐらい両極端の二人がいかにして出会ったのかは、息子である彼も知らない事実だ。

 

(………ま、時々は連絡を入れてくれるんだし、良しとするか)

 

 年中山や海の上にいるせいで日常生活のない父親だが、社会人としての真っ当度なら母親より数段上回っているので修は問題ないとしている。十五歳にもなって父親がいなくて寂しいなどというほど、彼は精神的に未熟ではない。それに、その父親からは幼少の頃に十分過ぎるほど大切なことを教わっている。

 

(…………思い出してきたら頭が痛くなってきたぞ)

 

『魔法なんて不可思議なものが開発された世の中だが、そんなものが使えるのはほんの世界全体の人口から見ればほんのわずかなしかいない。つまり社会全体がいくら変わったからといっても人間の大多数は百年前からほとんど変わっていない。だから、人間が生きていく上で大切なことも、百年前からそんなに変わっていない』。そう口癖でよく言う父は、幼い頃の修にいろんなことを体験させ、物事を教えてきた。

 例えば、五歳のころに『命の大切さを知ろう』という名目で、泣いて嫌がる彼に鶏の絞め方を実践させたり、『一人でも生き抜ける力を身に付けよう』という名目で十歳の頃に最低限の装備を渡して山に一週間籠もらせてくれたりしてくれた。他にもまだまだ『これ教育?』と言いたくなるようなクレイジーな体験を彼にさせてくれたのだが、これ以上は修の心が持たないので割愛する。そうした体験を通じて彼は、大切なことを幼い頃に理解した。

 

【自分のことは、自分でしなければならない】

 

そのため彼は、十五の段階で大抵のことは出来るようになっていた。

 

 

「おーい。ミア起きてるかー?」

「はーい」

 

 偉大な両親の涙溢れる(比喩ではなく実際そうだった)教育によって料理家事洗濯から勉強運動までなんでもこなせるようになった強面系男子、城崎修が目的の部屋の前の前でノックすると、すぐに返事が返ってきた。もうとっくに起きていたのだろうか、返事が来てからあまり時間を置かずに扉が開いた。

 

「おはよお兄ちゃん」

「おはようミア」

 

 扉から顔を出した妹、【城崎(きのさき)(みやび)】に挨拶を交わした修は「よくあの両親に似ずに育ってくれたなぁ」としみじみと思う。彼は心の底から、妹が真っ当な小学生として成長してくれたことに感謝している。……大袈裟な言い方かもしれないが、それぐらい彼は両親に悩まされているのだ。

 

「………どうしたのお兄ちゃん?なんか感極まっているように見えるんだけど」

「いや、ちょっと己の半生を思い返していてな……」

 

 ボーイッシュな髪型に星型のヘアピンを留めてエルファンド校小等部の制服を着た彼女はすでに登校準備が完了している。身内びいきに聞こえるかもしれないが、妹は美少女としてかなり上位の部類と確信している修は、まだ妹が小学生にも関わらず将来悪い虫がくっつかないか心配しているシスコ…いや妹思いな少年だ。なんだかすごくどこかの戦略級魔法師の少年と気が合いそうな気がするが、とりあえずそれは脇に置いておこう。

 

自分と違って見た目も可愛い最愛の妹。ただ、彼は一つ残念に思うことがあった。そう、彼女もまた、一般的な社会人から大きく逸脱した生活を取っている両親と、生活を共にするこの城崎家の一員なのだ。その証拠に彼女の手にはーー

 

「そういえば、朝ご飯出来てんのか?」

「あぁ。出来てるぞ」

「わぁい。嬉しいですわ」

「そりゃどうも」

 

 彼女の手には、天使と狼の姿を模したヌイグルミが一体ずつ握られている。最初に右手の狼、次に左手の天使に言葉を返した修はその間、愛すべき妹の唇を見ていたが、微動だにしていなかった。

 いわゆる、腹話術というやつだ。

 

「えへへ。両手とも自然に喋れるようになったよ!」

「おめでとミア。でも人形動かしているときに自分の表情がなくなってるから、まだまだだな」

「ありゃーそっかー。要練習だなぁ」

 

 むぅ、と少し膨れた顔をした彼女はそられの人形を彼女の部屋の隅に置いた。偉そうなことを言って彼女の頭をポンと叩いた修だが、本当のところは三週間ほどでそのレベルに達ってしていたことに驚いていた。

 

 妹のミアの趣味は、路上パフォーマンスで使われるようなものを集めてそれを極めること。

 先ほど見せた腹話術に留まらず、トランプや手品といった物からジャグリング、バトン、フラフープなど、終いには修本人にもよく分からない物まで集めている。以前『火を噴く練習をしたい!』と言った時はさすがに止めたが、現状、彼は妹がどれほどのパフォーマンスをマスターしているのか分からない。

 

 そんな妹は、部屋から出てきて楽しそうに彼に言う。

 

「ねぇお兄ちゃん。私、腹話術出来るようになったら今度はワンマンバンドやってみようと思うんだー」

「ワンマンバンド?」

「一度にたくさんの楽器を演奏するんだよ。キーボードとハーモニカとミニドラムをやるつもりなんだ」

「あ、あぁそうか・・・・・・が、がんばれよ」

 

 屈託のない笑顔を浮かべる妹に、兄である修は引きつった笑顔を浮かべてそう返すかなかった。

 

 ーー彼の名前は城崎修。

 

 彼は、冒険家の父、売れっ子小説家の母、そして大道芸人を夢見る妹を持った、いたって普通の主夫(高校生)である。

 

◆◆◆◆◆

 

「ん………。そろそろか」

 

 ミアと二人で朝食を食べ終え、食器も洗い終わり朝のニュース番組を見ていた修は、テレビに表示されている時刻を見てそう言った。学校指定の鞄を持ち、そのまま家を出る。実を言うと、普段ならまだ家を出る時刻ではないのだが、今日は授業が始まる前に生徒会室で交流会の打ち合わせがあるため、生徒会メンバーである彼は早めに登校しなければならないのだ。コミューター一本分の時間を余裕に持って外に出る修。空を見上げればそこには雲一つないような快晴だ。鍵をかけたことを確認しそのまま学校に行こうとする彼を、妹のミアが家の中から「待って!」と言って追いかけてきた。

 修の妹である彼女もまた、修が通うエルファンド校の生徒。ただし高等部ではなく初等部の生徒だ。

 

「私も一緒にいく!」

「おいおい。ミアのいる小等部はまだ登校時間じゃないだろ?いくら何でも今から登校したんじゃ早すぎるって」

 

 小中高一貫のエルファンド名詠学校では、学生寮からではなく自宅から通う膨大な数の生徒が、いっぺんに登校してくるのを避けるためにそれぞれの登校時間を十五分ずつずらしている。高等部の修と小等部のミアでは三十分以上差がある上、今日は更に早く登校するのだから余計に時間差が大きい。修はその事を指摘したのだが、 ミアはそんなこと関係ないと言って、修と一緒に歩き始めた。

 

(こういうとこ、まだ子供だよなぁ……)

 

 そんな妹の言葉に、兄というより父親という方が合っている考えをしてしまう修。小五にもなってまだ幼稚園児と同じようにベタベタと一緒にいることを好むのは、将来的に妹がブラコンに走ったりしないか不安にもなってくる。まぁ、世の中には深雪のような例(取り返しのつかない人)だっているため、そこまで気にやむ必要はないのだが、そんな人がいることを彼は知らないのでここではスルーする。

 

「あ、おはようございます修くん。ミアちゃん」

「おはようございますユミィさん」

「おはようユミィ。珍しいな、お前が学生寮じゃなくてこっちにいるなんて。また仕事の手伝いか?」

「ええ。カインツの頼みでちょっと」

 

 駅へ向かう途中に偶然出会ったのは、修と同じ生徒会メンバーの一人。国際名詠士協会の名詠士のアシスタントも時折務めていると言う凄腕名詠士(見習い)のユミエル・スフレニクトールという名前の少女。昨年入学し、その美貌でそのままエルファンド校のミスコン第一位に選ばれたとびっきりの美少女だ。そして、修と同じくあの理事長に選ばれてしまったエルファンド校の生徒会メンバーでもある。修にとっては一癖も二癖もある()()生徒会メンバーの中で唯一の気の合う友人だ。

 

「お前も大変だな。名詠士協会のお供をさせられるなんて」

「ううん。毎回それなりに面白い体験が出来るから、大変だなんて思った事ないよ?」

 

 顔も良ければ性格も良し。ミスコン一位にも選ばれるその美貌もさることながら、頼れるお姉さんを感じさせるその優しい雰囲気が多くの男子生徒の心を鷲掴みにしており、かくゆう修も最初に話したときは緊張した経験がある。今はもう慣れたが生徒会に入った頃はあらぬ噂を立てられ、徒党を組んだ男子生徒たちに下校中襲われかけた事もあった。

 

(………あれ?むしろ大変な思いをしているのはオレの方?)

 

 無自覚系苦労人属性保有者は、大概理不尽な目に遭う運命にあるのだ。

 

(………まぁそんな事は良い。それにしても……)

 

 修はついつい、隣に立って一緒に歩き始めたユミエルの胸に目を向けてしまう。自分の幼馴染もそうなのだが、いったいどんな食生活をしたらこんな年齢不相応な立派な胸が育つのだろうか、ユミエルを見るたび修は人体の神秘について疑問に思っていたりする。しかし、無意識のうちに修がユミエルの胸を眺めていると、ユミエルと反対側に並んで歩いていたミアが、兄の脇腹を小突いた。

 

「……お兄ちゃん、いやらしい目でおっぱい見るの、め!」

「そう言うな妹よ。コレは男の(さが)なんだ……」

 

 ジト目で最愛の妹に睨まれた修は視線を明後日の方向に向けてそう言う。さすがに小学生といえども女であることには変わりないのか、なんだか無性に責められているような気分になる修。一方見られたユミエルの方は、内心恥ずかしながらも一年間の学校生活で慣れたためか少し困った顔をするだけ。これまで彼女に告白してきた軽薄な男たちと修は違うということをユミエル自身が知っているため、修がそんな目で見ても彼女は特に嫌な気分にはならなかった。

 

「……はぁ。あと五年であんな風になれるのかなぁ」

 

 ただ、お兄ちゃん大好き(ブラコン気味)な妹は、成長期前の平たい胸に手を当ててため息を吐いた。

 

 

 

 





後編は新規で作った話です。それでは皆さん、一時間後にまた会いましょう!

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