魔法科高校の詠使い   作:オールフリー

34 / 76
先週はすみませんでした。諸事情からどうしても投稿出来そうになかったもので、休ませていただきました。

しかし今週から復活です。さぁ、真夜お母様との戦いの結果はどうなったでしょうか。本編をどうぞ!


交流会 当日

 そして、そのまま月日は流れ六月上旬。

 連続殺人犯、U.N.Owenの犯行も鳴りを潜め、ワイドショーからその名前が聞かされなくなった頃。

 ついに、一髙とエルファンド校の交流会当日の朝がやってきた。

 

「冬夜様、起きてください。冬夜様」

「ん……みな、み……?」

「おはようございます冬夜様。朝ですよ」

 

 母親からの許しを経て(美化表現)ついに同居を始めた冬夜と水波。中学校の制服の上にエプロンを身に付けた彼女は、ベッドで寝ていた冬夜を起こしにきていた。先日の『同居(同棲)宣言』から数日。こうして形だけは以前と変わらない生活になった。ただ、母親である四葉真夜と同居するわけにはいかなかったので、あの後大変なことになったのだが、その辺りの記憶は序列上位の執事たちを含め、冬夜でさえも記憶の蓋を溶接した挙げ句時空間の彼方へと押しやったため、描写することが出来ない。ただ一つ言えることがあるとするならば、『青木さんはいい人だった』。これだけである。

 

「うー……眠い……」

「そんなことを言ってもダメですよ。朝ごはんのご用意が出来てますので、起きてください」

「分かった……。起きるよ……」

 

 夜更かしして眠気が取れきってない子供のような反応をする冬夜に、水波は母親のようなことを言って起こす。本来真夜(母親)(幼馴染)の専売特許であるこの手のイベント。それをまさかのダークホース桜井水波がかっさらっていった。その上朝ごはんも用意済みとは、まさしく至れり尽くせりである。

 

(このままメインヒロインの座を奪うのは私です)

 

 桜井水波……恐ろしい子ッ!!

 

「あー、水波?着替えるから、ちょっと部屋出てくれないかな?」

「お手伝いしましょうか?」

「いや、幼稚園児じゃないんだし、一人で着替えられるから……」

「フフ、冗談です。では、リビングにて朝ごはんを並べておきます」

「あぁ、すぐ行くよ」

 

 いたずらっ子のように微笑む水波。そうして上機嫌で部屋を出ていったのを見た冬夜は、ベッドから降りて、ハンガーに掛けたワイシャツに手をかける。

 パジャマの上着を脱ぎ、ハンガーに掛けてある白いYシャツを着てビジネススーツのズボンを履く。洗面台に移動し、ヘアセット等身支度を整えた後、水波の待つリビングへ。

 さすがは十師族の一角、四葉家に仕えているだけあって水波は料理も出来た。手間を惜しんでHARの作る味気ないメニューを食べていた時とは違う、愛情のこもった(比喩にあらず)温かいご飯がそこにはあった。

 

(単身赴任する世間の父親ってこんな気持ちなのか)

 

 一人じゃない実感を得られて、冬夜はじーんと感動する。そこへ、キッチンから冬夜が来たことを察した水波がやって来た。

 

「少しイスに座って待っててください。今味噌汁をよそりますから」

「あぁ。……いや、待ってるのもなんだし、運ぶの手伝うよ」

「大丈夫ですよ。後は味噌汁だけなので……あ、ちょっと待ってください」

「え、どうかした?」

 

 水波が急に近づいてきたので、冬夜は柄にもなく緊張してしまう。一方水波は、慣れた手付きで冬夜の喉元に手を伸ばしーー

 

「ネクタイが曲がってます」

「え?あ、ありがとう……」

 

 冬夜のネクタイを締め直した。年下の女の子にネクタイを締め直してもらうことに気恥ずかしさを覚える冬夜だったが、水波が何事もなかったかのようにキッチンへ向かってしまったので、一人照れ臭くなるだけで済んだ。まさかキッチンで水波が『ず、図々しかったかな。大丈夫だよね!?』と、激しくビートを刻む心臓を抑えているとは知らぬまま。

 

(なんの新婚生活なんだろうなこれ……)

 

 ネクタイを締め直してもらっている間、冬夜はそんなことを考える。新婚生活より浮気だろうと思わないでもないが、冬夜はまだ(書類上は)結婚してないので新婚生活である。

 ………一応明記するが、2095年時点の日本の法律上では、男女共に十八歳以上でなければ籍は入れられない。十五の少年と十四の少女の夫婦なんて存在しないのだ(血の繋がった夫婦は除く)。さらに念を押して明記するが、この二人にあるのは主従関係であって、恋愛とか婚約関係にはない。

 それでも、この二人はどう見ても新婚夫婦としか思えない生活を送っていた。

 

(水波って良い奥さんになるよなぁ)

 

 あぁなぜだろう。イスに座って愛妻(?)料理を待っているコイツの顔面を、思いきり殴ってやりたいという衝動に駆られるのは気のせいだろうか?(反語)

 

「お待たせしました」

「ありがとう水波。じゃあ、食べようか?」

「はい」

 

 いただきます。と箸を取りご飯を食べ始める新婚夫婦(仮)。今朝のご飯は目玉焼きに焼き海苔と、白米、味噌汁という典型的な日本の朝食だった。

 

(毎朝毎朝思うけど、掃除に料理に洗濯と水波には悪いなぁ)

 

 朝食を口の中に入れながらそう思う冬夜。それが私の仕事ですから。と、前に同じようなことを言った時の記憶が蘇ってきた。そうは言うが機械相手ならいざ知らず、人にーーましてや年下の女の子(結局冬夜は水波のことをそうとしか見ていない)にここまでさせるのは、罪悪感がわく。なにかしらのお礼をしたいと彼は考えていた。

 

「なぁ水波」

「なんでしょうか冬夜様」

「今度の日曜、買い物に付き合ってくれない?」

「……!かしこまりました」

 

 さらりと交わされる買い物(デート)の約束。水波はいきなり振られた冬夜からの誘いに心臓がとび跳ねそうになったが、ポーカーフェイスを貫き通した。

 

(ついでに雫の機嫌を直すためのメロン大福も買っていこう)

 

 マズイ。本命馬の雫、対抗馬のリーナを差し置いてここでダークホースの水波が一気に追い上げをかけてきた。このまま差をつけられ番狂わせが起こってしまうのだろうか。本当に恋の駆け引きというものは気が抜けない。

 

「さて、朝ごはんも食べたし、そろそろ行こうか?」

「はい」

 

 水波の手料理を食べきり、食器を洗浄機に入れて身支度など最終チェックを済ませた二人は、頷き合って向かい合う。このまま『いってらっしゃいのキス』をーーという風には行かず、空間移動で水波を学校近くまで飛ばすために、水波の肩に手をかける。

 

「じゃあ、今日から三日間は帰らないから母さんによろしくね。ーーくれぐれも死ぬなよ」

「覚悟しております」

 

『私の息子とずいぶん親しくなったみたいね。ねぇ水波ちゃん?』という魔王の声が二人には聞こえてくる。恐らく今頃、真夜は首を長くして水波の帰りを待っていることだろう。まさしく、勇者の来訪を待っている魔王のさながら。今の四葉邸は、二人にとって『魔王の根城』といっても差し支えない場所になっていた。いや、その表現なら冬夜の従兄妹(いとこ)も同じことを言うだろうが。

 なんというか、水波の恋は最初からクライマックスだった。

 

「じゃ、いってくる」

「はい。いってらっしゃいませ。……あなた」

「ん?最後なんて言った?」

「なんでもありません」

 

 従者と主の息子という禁断の関係を夢見ながら、恋する勇者(少女)桜井水波の(恋)物語は続く。

 

 ◆◆◆◆◆

 

 さて、そんなラブコメイベントの後。若妻(十四歳)にスーツを直してもらったりした浮気者は、深呼吸をして気持ちを落ち着かせていた。

 

「いよいよか……」

 

 今回生徒としてではなく教師として参加する事になっている冬夜は、一髙のだだっ広い駐車場に泊まっている五台のバスを見てそう呟いた。そう、交流会が始まるという事は連続殺人が再開されるという事だ。狙われるのは『四の血を引く者』らしいが、それが誰だかは分からない。しかし、分からないからといって彼のやるべき事が変わるわけでもない。この交流会をなんのトラブルもなく無事終わらせるのが彼の役目なのだから。

 

「一応保険は打っておいたが、これからどうなる事やら。気は抜けないな」

「おや?そんな怖い顔をしてどうしたのかな冬夜くん」

「カインツさん」

 

 一人、バスを見つめて気を引き締めていた冬夜に、国際名詠士協会から派遣されてきた名詠士、カインツ・アーウィンケルが話しかけてきた。毎週学校で会うたび着ている枯草色のコート(もしかしたら毎日着ているのではないかと冬夜は思っている)を来ている彼は穏和な笑みを浮かべて彼の前に立つ。仕事上、会話をする機会の多くなった彼らは『共通の知り合いがいる』という事もあって、仲が良くなっていた。

 仲が良くなる家庭で聞けた、知られざる元上司の逸話を元に、冬夜はカインツに()()と吹き込んだ元上司にどんな仕返しをしてやろうか構想中だったりしている。

 

「もしかして、緊張してる?」

「ええまぁ……。護衛任務は何度もした経験はありますが、これほど大きな人数を守るのは正直初めてで……」

 

 かつてIMAの仕事の内に要人警護があったため、冬夜は護衛の心得を知っている。しかし、彼が経験したことにある護衛の人数は一人かせいぜい三人までで、三桁を越える集団を任された経験はない。

 敵が魔法を使おうが名詠式を使おうが倒せる自信のある冬夜だが、これほどの人数を完璧に守りきれるかは不安があった。

 

「うん。そうだろうね。君の顔に『みんなを守りきれるだろうか』って不安が出てたから分かるよ。でも、そんなに気を張る必要はないんじゃないかな」

「そうですか?」

「そうだとも。逆に常時気を張っていたら君の方が巻いちゃうと僕は思うよ?ただでさえここ最近は調子が悪いんだし、向こうに着くまではリラックスしていたら?」

「………そうですね。向こうに着くまでは最低限の警戒だけにしておきます」

「真面目だね」

 

 カインツのアドバイスで少し張り詰めていた気を緩める冬夜だが、カインツはそれでも完全に警戒を緩めない冬夜のプロ精神に感服した。こうしている間も近くに不審人物がいないか【存在探知】で探っているのだろう。警護やそういった仕事に縁のないカインツには分からないが、それ以外の事もしているのかもしれない。さっきも聞こえて来た『保険』という次善の手もうってあることから、あらゆるパターンに対応できるように出来ているのかもしれない。

 

「僕は一緒にはいられないけど、みんなの事は頼んだよ」

「え?カインツさん一緒にいられないんですか?」

「うん。協会の方から別の仕事を言い渡されちゃってね。まぁそっちはすぐに片付きそうだし、なるべく早く交流会の方に戻れるよう努力するよ」

「こんな事を言うのもなんですが、一人だと心細いのでお願いします」

「わかった。任せておいて」

 

 カインツがいるのといないのとでは仕事のし易さに違いが出る。冬夜はエルファンド校の教師たちの実力を信用していないわけではなかったが、戦力は多くに超した事はないのでエドガーも信頼している実力者の手助けも欲しいのだ。

 

「その代わりと言ってはなんだけど、僕からも君に頼み事をしても良いかな?」

「オレに出来る事ならいいですけど」

「ありがとう。といっても簡単な事だよ。時間を見て暇な時間があったら、エルファンド生徒会のユミエルって子と話をしてあげて欲しいんだ」

「ユミエル?あの金髪の生徒ですか?」

 

 冬夜の脳裏に淡い黄金色の髪に翡翠色の双眸を持った愛らしい顔立ちの少女が浮かんだ。なにかと我の強そうなエルファンド生徒会メンバーのなかでは影が薄いーーまたの名を常識的なーー印象を抱いた彼女。彼女がいったいどうしたのだろうか?

 

「そう。その子。彼女は僕の知り合いの娘さんなんだけど、訳あって今は僕と一緒にいてね。時々僕の仕事の手伝いもしてくれるんだ」

「そうなんですか!?」

「うん。実際赤色の名詠はプロの名詠士顔負けの実力者なんだけど……ってそうじゃない。そこはどうでも良いんだ。実は彼女、君のお師匠様の知り合いなんだよ」

「え?………師匠ってまさか」

 

 冬夜の頭にカインツの言わんとしている人物が思い浮かんだ。色んな人の元で武術やらなにやら師事してきた彼だが、そんな中でも彼が未だ『先生』と呼び慕っている人物はただ一人。イギリス時代、エドガーと共に冬夜の面倒を見てくれたあの双剣士しかしない。

 彼の名はーー

 

「うん。彼女は【シェルティス・マグナ・イール】の知り合いなんだ。まさか、この名前を忘れてたわけじゃあないよね?」

「そりゃあ当然ですよ。だって師匠はーー」

 

 オレの生き方を示してくれた人ですから。と冬夜は続ける。師匠(シェルティス)は希望の淵の立たされて生きる希望など見失っていた自分に救いの手を差し伸べてくれた大恩人。忘れられるわけがない。自分の生き方を示してくれただけでなく、まだマトモな扱い方を知らなかった双剣の基礎を教えてくれた人でもある。

 ただし、そうやって彼を見守ってくれたのはホンの数日間だけだった。最初に出会ってから一月ほど経ったある日以降、ぱったりと姿を消してしまったのである。それ以来消息不明となっており、冬夜でも今どこにいるのか分からない状態。一度会ってお礼を言いたいのだが、今まで言えずじまいでいる。

 僅か一月という極めて短い期間しか一緒にいられなかったからか、冬夜はシェルティスについてあまり詳しい事を知らない。せいぜい、仲の良かった幼馴染みがいたという事ぐらいだ。そんな詳細不明の師匠の知り合いがこんな形で巡り会えるとは冬夜も思ってみなかった。

 

(流石に『幼馴染』とは言えないからね。許してくれよユミエル)

 

 一方、シェルティスとユミエルの事を冬夜に話したカインツは心の中でそう呟いていた。カインツが聞いた話では、冬夜がシェルティスと出会ったのは約四年前。その時シェルティスが自分の年齢を語っていれば、時間の流れから言って彼の幼馴染みも二十歳前後でないとおかしい話になってしまう。いくらカインツとユミエルがこちらの世界にとってイレギュラーな存在故の『不老』というバグがあったとしても、冬夜に怪しまれる事は極力避けたい。まだ彼に『黄昏色の世界』や『氷結鏡界の世界』という異世界の事を知られては困るのだ。

 

「彼女は君にすごく会いたがっていてね。是非とも彼の話を聞かせてやって欲しい。きっと、君も君の知らないお師匠様のことが分かると思うよ」

「はい。向こうに着いたら、色々と話を伺おうと思います」

 

 青天の霹靂とでもいうべきなのか。思いがけない出会いが冬夜に巡ってきた。エドガーに引き続き、シェルティスの事を知っている人物がいるとは冬夜も思わなかった。幼い頃は自分のことで精一杯だったため、あまりよく知らない師匠の事を詳しく教えてもらおうーーこの時冬夜はそう決めた。

 

「あ、そうそう。これはついでなんだけどね?追加任務のことをエドガーから聞かされたついでに君に伝言を頼まれたんだ」

「なんでしょう?」

「『(ティア)が九校戦を生観戦したいとか言い出して日本(そっち)行きたがってる。どうにか止めろこのモテ男』………だってさ」

「………わかりました」

 

 ホント、ここ最近は幸運も多いけどトラブルも多いなぁ。

 なにかと巻き込まれることが多いと自覚している冬夜は、懐かしの王女の姿を頭に浮かべて静かにため息を吐いた。

 

 ◆◆◆◆◆

 

 さて、そんな風に冬夜には【一難去ってまた一難(正確に言うとまだ一難も去ってないのだが)】という風に次々と面倒事が舞い込んでくることが確定してため息を吐いていた頃。

 そのすぐ側。冬夜からすれば背中にあるバスの影では。

 

「ティアってダレ……?また私ノシラナイオンナと一緒に居るの……?ねぇ、トウヤァ……」

 

 ヤンデレ率百パーセント。すっかり病み落ちしきった北山雫さんがいた。

 

「ほ、ほのか!?なんか雫がヤバイんだけど!どす黒いオーラが雫を包んでるよッ!?」

「あー……なんかもう放っておこう?今の雫になにか声をかけようものなら、刺されかねないよ?」

「ほのか、それ冗談で言ってるんだよね!?」

「冗談だ、って言えればよかったのにね……」

「本気だったの!?」

 

 距離を置いてその様子を見守っていた友人の明智英美ーーもといエイミィは、短期間における友人の変貌ぶりに恐怖していた。そんな軽いパニック状態のエイミィに、雫の親友であるほのかは冷静に対処する。

 いや、ほのかのあの諦めの境地に至った瞳から察するに、『どうしようもない』と匙を投げただけなのかもしれない。ハイライトを失った無機質なあの瞳からは、ただならぬ狂気が感じられて恐ろしい。

 

「私もビックリしたよ。冬夜くんへの恋心が雫をあんなヤンデレに変えるなんて。そりゃ雫はお嬢様だけど、ワガママ姫って訳じゃなかったからね。あんなに独占欲が強いだなんて思わなかったなぁ」

「確かにね。今冬夜くんへラブレターを出そうものなら闇討ち掛けられそう」

 

 闇討ちというより処刑になるよ。と呟くほのか。はぁ、と呟く彼女は、人の道を外れそうになっている親友の背を心配そうに見守る。とりあえず一般人に魔法を向けたりとか、包丁を振り回したりしてないみたいなので安心してはいる。ただボーっとしている回数が多くなっているので、危険な状態にあることは変わらない。地中深く埋まったミサイルのような危うさを雫は持っていた。

 

「でもほのかよく平気だね。親友があんなになっているのに」

「うん。私もなにも知らなかったらパニックになってたと思う。でも、この【御堂切のヤンデレ対策論~もうヤンデレなんて怖くない!~入門編】があったからなんとかなったよ」

「なにそのヤンデレガイドブック!?」

 

 価格1,080円(税込)、チョウジュ出版から出版中の本を取り出したほのかに、ツッコミ役に回ったエイミィは『この国もうダメかも知れない……』と考える。ちなみにこの本、【入門編】意外にも、【応用編】、【依存系編】、【束縛系編】などいくつかシリーズ化されていて、結構人気があったりする。

 

「なんか、この本を書いた筆者さんの妹がかなりのヤンデレだったみたいでね?実体験を元にした対応策がいくつか書いてあってすごく参考にーー」

「いやいやいや。そんな本の感想とかいらないから!え、っていうかほのかこれ全部読んだの?」

「雫を完全に闇落ちさせるわけにはいかないから……」

「お疲れ様ですッ!」

 

 健気すぎるほのかの頑張りにエイミィは思わず敬礼してしまう。ふぅ。と遠い空を眺めて『どうしてこうなった』と考えるほのか。言うまでもなく達也が原因なのだが、突き詰めて言えば冬夜が自分の気持ちを伝えないのが問題なので何とも言えない。苦労人ほのかお姉さんの頑張りで雫はまだわずかながら正気を保てていた。

 

「ほのか………」

「どうしたの雫?」

 

 と、ほのかお姉さんが雫の闇落ちを阻止するための策をいくつか確認していると、後ろからぬっ、と雫が声をかけてきた。音もなく忍び寄ってきた彼女の顔をみるなり、エイミィが 「ビクッ!」と反応してしまったが、幸いにも雫には気付かれていないようだ。

 

「大変なことになった」

「何があったの?」

「冬夜から、私のシラナイオンナのニオイがする……」

「え?」

 

 そう言った雫にほのかは驚きを隠せない。ついさっきまでバスの影に隠れて冬夜を見守っていた(と、言えるのだろうか?)雫が冬夜の側に近寄って匂いを嗅いだようには思えない。ここでほのかは、雫の言った『ニオイ』という単語が、比喩表現だということに気付いた。

 

「冬夜くんが雫の知らない女の子と親しい関係にあるってこと?」

「うん。多分、身の回りの世話をしてもらっていると思う。だって冬夜、この間からずっとグロッキーになってない……」

「……雫、冬夜くんの身の回りを世話しているのが女の子だ、ってそう言いきるその根拠は?」

「女の勘」

 

 なんて恐ろしい勘だ。

 

「ねぇほのか」

「なに雫?」

「ソノオンナ排除シタラ、トウヤハ戻ッテクルト思ウ?」

「落ち着こうか雫!実力行使に出るのは雫がその人より女として格下という証拠になっちゃうよ!」

 

 雫の闇(病み)が深くなりかけるのを感じたほのかは、雫を落ち着かせるべく緊急措置に入る。雫の負けず嫌いな性格を利用して、犯罪行為から目を逸らさせる作戦だ。

 

「格下……?ワタシが……?」

「そうだよ!この間も言ったけど、雫が自分の魅力で冬夜くんを振り向かせなきゃ意味ないって!

 冬夜くんにとっての一番になるんだって、この間決めたでしょ!」

「……うん。分カッタ……」

 

 ………………なんかもう、なにも言うことがない。見事に雫を説得させたほのかは、未だ危ういオーラを漂わせる彼女を目で監視しながら、介護に疲れきった四十代女性のような、色濃い疲労を露にする。

 

「何人ナノ……邪魔者は、何人イルノ……?」

「……ちなみにね。ヤンデレ対策論(この本)の巻末にある【ヤンデレ度チェッカー】によると、今の雫は【ヤンデレ進行率四十パーセント】なんだって」

「まだこれより上があるんだ……」

 

 加速度的に病んでいく友人の事を心配しながらも、もう手の打ちようがないと諦めているほのかと一緒に、エイミィは雫のことを見守った。

 

 ◆◆◆◆◆

 

 長きにわたる夜色と空白色の因縁。

 

 避けることのできない父と子の宿命。

 

 そして激しさを増すメインヒロイン争奪戦。

 

 様々な人の思惑や運命+αが密接に絡み合い、ついに物語の本編が動き出す。

 

 ーー波乱の交流会本編、スタート。

 




はいというワケで雫ちゃん病み落ち寸前です。もうこの時点でまごう事なき『ヤンデレ』化しておりますが、危険度はまだ高くないという状態にあります。ほのかもだんだん手が付けられなくなって、ちょっとヤバイですね。冬夜が男を見せてくれることを期待しましょう。

なお、今回本編中に出てきましたヤンデレ対策論に関しましては、ハーメルンで遊戯王GXを原作に【アルカナ~切り札の騎士~】(作者:西本 悠)作中にある対策論をご使用させていただきました。西本先生、申し出を快諾して下さり誠にありがとうございます。みなさんもヤンデレ対策論の詳しい中身を読みたいというか違いましたら、是非とも【アルカナ~切り札の騎士~】を一読くださいませ。

それでは皆さん、また来週
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。