魔法科高校の詠使い   作:オールフリー

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はい。今回は予約が間に合わなかったのでこの時間ですか、なんとか出来ました。
誤字脱字などあるかも知れません。ありましたらお知らせください。

それでは、本編をどうぞ!


空白名詠士の目的

「へぇ。じゃあ今からいくのは木下さんのお母さんが経営している店なんですか」

「そうなんですよ。なんでも木下さんのお母様は遠○学園の第一席だったとかなんとかで、すごく料理が美味しいんです。あの味は一度食べたら忘れなくなりますよ」

「学校の近くにあって安くて旨いから、営業日は連日賑わってるんだけど、たまに駆り出されて休日がまるまる潰れるから嫌なんだよね……」

「アハハハ……。お疲れさまです」

 

 夜道、エルファンド校から少し離れた定食屋に向かう冬夜は、生徒会メンバーと一緒に楽しく談笑していた。全員同年代なのにも関わらず、周囲が制服を着ているのに一人だけスーツを着て歩いているのはなんだか違和感を覚える冬夜だったが、今更気にしても仕方がないと諦める。

 

「ちなみに、我がエルファンド校生徒会庶務の城崎くんは、その木下さんのお母さんから直々に料理を仕込まれているから、家事だけでなく料理の腕も一級品なのよ」

「止めてください菜摘先輩。オレの料理なんて木下のおばさんに比べたらそんなに美味くないんですから」

「よく言うわよ顔面以外は完璧人間」

「それも止めてください」

 

 胸を張って堂々と後輩自慢をする先輩を、当人の修は謙遜した態度で諫める。幼い頃、料理下手な母親の料理を食べたくないという悲しすぎる理由から弟子入りした修だが、今では【定食屋 きのした】の次期料理長として(勝手に)期待されているほど料理の腕は高くなっている。そのせいで椎との婚約を強制されているというのは、彼の抱える悩みの一つだ。

 

(いかん、この事について考えてきたら胃が痛くなる……)

 

 胃薬を常備するレベルでストレスに悩まされている彼は、この事についてあまり深く考えるのを止める。エルファンド校ではなく遠月○園入学だけでも避けられたのだ。このまま成長して地方にでも逃げてしまえばこの話はなかったことになるに違いない。

 

「でも大丈夫なんですか?この時間だと仕事帰りのサラリーマンとかで、混んでるんじゃ」

「大丈夫大丈夫。混んでてもなんとかなる方法がありますから」

「あ、そうなんですか?」

 

 冬夜の疑問はあっさりと解決し、学校から歩いて片道十五分の道のりを終えて彼らは店に到着した。店内から聞こえる多くの客の声、明るくライトアップされている和風な趣の店を前にして冬夜は「賑わっているなぁ」と感じる。初めて来るお店の外観に少し見とれていた冬夜だったが、生徒会メンバーが次々と店の敷居を跨いでいくのを見て慌てて後を追う。だが、店の敷居の前まで来たところで彼は見てしまった。

 

「………ん?ナニコレ?」

 

 定食屋(きのした)ののれんを潜る前に冬夜は首を傾げる。なんでこんなものがこんなところに置いてあるのだろうか。まるで意味が分からない。

 冬夜の目を奪ったもの。それは店内に入った来た途端に厨房から投げられたお椀が額に当たって悶絶している修の姿でも、修の側に駆け寄って不安そうな目で見つめるエプロン姿の小学生の女の子でもなかった。

 冬夜が首を傾げた理由。それは店奥に掲げられているやたら達筆な字で掛かれ額縁に入れて飾られているある言葉。

 

「…………【変態さんお断り】?」

 

 なぜこんな言葉がわざわざ額縁に、それも書道家に書かせたような達筆で掛けられているのだろうか。逆に変態さん歓迎の店なんてあるのか?というツッコミを入れたくなるが、そんな店普通あるわけがないので首を傾げる。あれか、この店にはあのクマ吉くんでもやってきたことがあるのだろうか。

 

「どうぞ夜色名詠士様。今日は特別サービスしておきますよ?」

「あ、はい。失礼しまーす……」

 

 ちょっと変わった店だなぁ。と、冬夜は思いながらのれんの掛けられてない店の中に入っていった。

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 人が『敗者』となるのは、どのような時なのだろう。

 

 勝負に負けたときだろうか。

 最下位となったときだろうか。

 死んだときだろうか。

 愛する者がいなくなったときだろうか。

 またはーー自らの大切なものが、その両手から零れ落ちたときだろうか。

 

 人によってその定義は様々だろう。『勝者』の数だけ『敗者』がいるように、勝ち負けの境界線などその時々で変わる。しかし、敗北というものは面白いもので、人はなにかに敗北して大切なものを失った時、代価としてなにかを得るのだ。

 

 ときにそれは教訓となり

 ときにそれは改善点となり

 そしてときにそれは創造を生み出す。

 

『勝者』は栄光や名誉を勝ち取ることが出来るが、そこから進歩することはない。しかし『敗者』は苦杯と共に伸びしろを()()()()進歩する。

 

 ーーかつて、愛する者を失った二人の名詠式の研究者が、その悲しみを忘れるために【拝者】たる名詠を作り上げたように、その進歩は既存の枠組みを越える事もある。

 

 そして今、その灰者の詠は。

 

 豊かな未来を願い、心血を注いで人の新しい可能性を切り開いたものの、愛する者も自分の信じる物も、ついには人としての生も失ったの一人の男に受け継がれた。

 

 サングラスに隠したその眼には、なにが見えるのだろうかーー。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 

「約四年」

 

 国際名詠士協会の協会員としてここ、ケルベルク研究所の異変を調査しに来たカインツは一言呟く。彼の真正面にいるのは彼とユミエルが長年かけて探し求めていた人物。世間では『U.N.Owen』と名乗る連続殺人犯であり、今代の夜色名詠士、黒崎冬夜の実父。また四葉と零家の古巣である第四研究所の所長も務めていた狂科学者(マッドサイエンティスト)四条透。

 最凶の真精を背にした白髪の男は、虹色名詠士を前にしても笑みを浮かべたまま微動だにしない。

 

残酷な純粋知性(アマリリス)の願いを聞いてから四年かかってやっと見つけたよ。今代の空白名詠士。ずいぶんと手間をとらせてくれた」

「ふふふ。これは失礼。私は五年前に一度、存在が完全に消えかけてね。こうしてかつての姿をとれるようになるのに時間かかった」

 

 暗い実験室の中で向き合う二人の男。勝者と敗者。対極的な立場から創造された名詠式を使う二人は、互いの顔をしっかりと直視する。カインツがため息まじりにそう言うと、四条はクククと笑っていた。

 

「しかし成果はあったかな。おかげでこの【精霊化】による魂の変化をつぶさに観察できた。こうした昔から実験にはあったのだが、なかなか踏み出せなかったのでね。大変興味深い変化だったよ」

「へぇ。君は自分自身が人でなくなることに恐怖は感じなかったのかい?」

「なかったとも。なにせ魂の構造変化、もとい()()()()()()()()()()することに関しては既に【イブマリー・イェレミーアス】という前例がいたからな。

 一人の男との再会を果たすために自らの存在そのものを変える………実に美しい関係だな。カインツ・アーウィンケル?」

 

 ニヤニヤと笑っている(ようにカインツは見えた)四条の言葉にカインツはムッと眉を立てる。まだ学生時代だったあの日、自分とイブマリーの交わした約束を笑われた気がして腹が立ったからだ。しかし、そんなカインツの表情の変化を見ても四条は笑い顔を止めない。

 

「それでもまぁ、やはりというべきか。実験前には予想できなかった変化が起こり私自身驚いた点が多い。精霊などと謳っても所詮この世ならざる者。幽霊と同じ。物に触れられなくなる代わりにサイキックが使えるようになるとは思わなかったよ。いや、幽霊の身で言うなら騒霊現象(ポルターガイスト)というべきかもしれないな」

「幽霊か。なら、例の殺人事件でお前の姿が映ってなかったのは……」

「そうだ。幽霊だから人の目に私は映らない。もちろんカメラにも。核シェルターを用意しようが壁もすり抜けられる私には無意味なもの。

 古式魔法の障壁も同じさ。ある程度の結界魔法なら私は解除出来るし、それが出来なくても精霊の力で無理やり破壊することができる。もちろん、現代魔法などという新技術は、基本構造を作り上げた私には無意味。ポルターダイストでエイドスに干渉し、事象改変を無効化させることなど赤子の手を捻るようなもの」

 

 まるで宝物を見せる子供のように楽しげに言う連続殺人犯。実際楽しくて仕方がなかったのだろう。彼は、自分が殺した人のことなど少したりとも考えていない。自分の満足がいく結果さえ得られれば後のことはどうでも良いのだ。

 

「日本が誇る警察も、まさか幽霊が犯人だとは思うまい。興味本位で何度か本部を覗かせてもらったが、全員馬車馬のように働いていたよ。犯人がすぐそばにいるのに気付かないとは、思わず七不思議を作ってしまうところだった」

「ずいぶん楽しんでいたみたいだな。この人殺し」

「あぁ楽しかったとも。おかげで灰色名詠の性能を把握することが出来たし、なによりアガサ・クリスティーの小説のように実在しない殺人鬼(U.N. Owen)に対して警察がどう対応するのかじっくり観察させてもらってたよ。情報が錯綜して一種の混乱状態に陥った会議室を見たときはなにか進展があるものかと期待してみたが、前回の事件後に開かれた捜査会議で、これまでの事件で使われたのが新種の名詠式だということを否定した時点でもう興味がなくなった」

 

 つまらなそうに息をはく四条に、カインツは黙りこくったまま何も答えない。自分勝手な理由で殺人を続けていたことに強い嫌悪感を抱きながら、ポケットの中にある触媒(カタリスト)を握りしめる。四条のこともそうだが、彼の後ろに直立している灰色の真精の倒し方を彼は必死で練っていた。

 まだ打開策は見つかっていない。もう少し時間を作らなければ。

 

「なぜそこまでしてわざわざ事件なんて起こしたんだ。灰色名詠の性能を把握するためなら、いくらでもやり方があったはず。それをなぜ……」

「特に理由はない。なんとなくそうした方が面白いと思っただけだ。始めた後で作った理由を述べるなら、精霊の力が現代魔法に対してどこまで有効的なのかを知るため、かな。

 私は生まれた時から【やりたいことしかできない病(YD)】という病を抱えてしまっているのでね。興味のあることはトコトンやりたおす癖がある。成人して研究者になってからは仕事中毒(ワーカーホリック)も併発したものだから、これらの治療に苦労した。まだ人間だった頃は、何日も飲み食いせず研究に没頭しすぎたせいで死にかけたことも何度か記憶している。

 そう考えると、食べることも寝ることもしないで済むこの体は、私にとっては最高の体なのかもしれないな」

「………っ。お前は、自分のしたことに対して何も思わないのか!」

「特に何も?これでも人体実験は飽きるほどやってきている身。たかだか十人かそこら死んだくらいじゃなにも思わんよ」

 

 耐えきれず憤りの言葉をいうカインツの言葉にも飄々として四条は答える。むしろ彼からすればなぜカインツがそこまで憤っているのかがわからなかった。ふむ、とニヤついた顔を少しやめて真面目に考えたところで、彼がどういった反応を返すのかを知るために四条はひとつ例を出してみた。

 

「それに、少し人が死んだところでどうなる?日本国内という限られた範囲だけに絞っても同日に殺害された人など何人もいる。他殺と限定せずにただ死んだ人間ならさらに多いだろう。というか普通、人は自分や自分に身近な存在が無事ならそれで良いと考える生き物だぞ?私の起こした事件を知ったからと言って、私の正体を自発的に探ろうとする人間が果たしているのだろうか。ーーいないさ。下手に関わり合いになって殺されては堪ったものじゃないからな。自分の周囲が平穏ならそれでいい。そう考える人間は多い。 

 さて、虹色の詠使い。なぜお前はそこまで怒る?私が灰色名詠で殺害した連中は、お前とは無関係だろう?」

「関係あるさ。ずっとお前を追ってきた僕はお前の関係者だ。僕たちの力が足りなかったから、お前の暴虐で命を落とす人間が出てしまった。

 だから、これ以上被害が出ないように僕はお前をここで倒す」

「なるほど。私の関係者としてーーか。そしてその怒りは自分の無力さに対する怒り、と。いやはや実に人間らしい答えだ。納得したよ」

 

 くくく……、と再び唇の両端を釣り上げる四条。コイツとは話し合うだけ無駄だとカインツは悟るが、まだ行動には移さない。この白髪の男には、聞きたいことがまだある。

 

「………お前がこれまでの殺人を犯した理由については理解できた。だがまだ分からないことがある。お前はなにが目的で空白名詠の力を欲する?

 いやそもそも、名詠式以前にもお前はなぜ精霊へと進化することを望んだ?ヒトの身を超えてまで何がしたいんだ」

「なぜ、か。そうだな。空白名詠はともかく、精霊化は私自身の興味があったからなのだが……それは理由の一つに過ぎんな。

 精霊化して何をしたいか、と問われればそれは私の中で答えは一つしかない。私が空白名詠を使う理由もそれだ。どちらも同じ目的を達成するために必要だったのだ」

「目的……?」

「かつてのミクヴェクスがアマデウスを、かつてのアマデウスがミクヴェクスに『人と名詠式の在り方』を批判したように、私は今の現代魔法が取り巻く環境を批判する。分かりやすく言えば、『現代魔法をこの世界から消滅させる』……それが私の目的だ」

「………!」

 

 カインツは四条の言葉に耳を疑った。魔法をこの世界から消滅させる、それはすなわち()()()()()()()ということだ。何があってそんなことを望むようになったのかはまだカインツには分からないが、並々ならない理由があるのだろう。すっかり引き締めた四条の顔からは、そう思わせるだけの気迫があった。

 

「不思議に思うかカインツ・アーウィンケル。現代魔法をこの手で()()()()()男が、現代魔法を消すことを望んでいることに矛盾を感じるか?」

「……………」

「驚きで言葉も出ない、か。まぁ良い。私も細かい理由まで教えてやるつもりはない。私は私の目的のために目の間にいる邪魔物を排除するだけだ」

「くっ!」

 

 四条がそう言うと、カインツの周囲に展開した十の武具がそれぞれ襲いかかってくる。まだ打開策は見つかっていないが、反射的に赤獅子(レッドマンティコア)と氷狼を名詠して攻撃を凌いでいく。しかし、二体の防御をすり抜けてきた銀色の刀身を持つ斧や槍がカインツの体をギリギリ掠れていった。こうした危険な名詠生物を相手することもある反唱のエキスパート(祓戈民)とは違い、平凡な身体能力しかないカインツからしてみれば向かってくる武器を避けるだけでも命懸けだ。身体能力にはあまり自信がない彼だが、今の攻撃をよく避けられたと思った。

 

「ほお?この世界に来て少しは鍛えたのか?今の攻撃をよく避けたな。少し驚いたぞ」

「そりゃどうも」

 

 肝が冷えた攻撃にカインツは素っ気なく答える。まだ一つも破壊できていない十の武具が今度はどこからやって来るのかカインツは警戒する。

 しかしその前に、十二銀盤の王剣者に攻撃を中止させた四条が口を開いた。

 

「そう言えばカインツ・アーウィンケル。確かお前はさっきこう言っていたな。『自分は私の関係者で、私を止められなかったばかりに今回の事件が起こった』と」

「だったら、なんだって言うんだ?」

「お前がそう言うのなら私もこの世界の住人を代表して一言言おう。なぜお前は関係者だったにも関わらずミクヴェクスの暴走を止められなかったんだ?そうすれば、こんな茶番劇を繰り広げずに済んだものを」

 

 懐から攻撃用の触媒(カタリスト)を取り出そうとしていたカインツの手が止まる。氷を思わせる四条の冷たい一言で、カインツの心は警戒から驚愕へと移り変わった。

 そして考えることもなく、言葉が口からこぼれ出ていく。

 

「………どういうことだ。なぜお前がそれを」

「聞いたのさ。罪悪感に駆られたアマリリス(あのおしゃべり)からな。この世界になぜ名詠式が存在するのか。なぜ私の息子が夜色名詠士として選ばれたのか。その全てを」

 

 四条透は両手を広げ、まるでステージの上に上がる劇団のように大仰なしぐさで、語り始めた。

 

「ーー全ての始まりは夜明け色の詠使い(ネイト・イェレミーアス)が出した答え。その答えに対する、愚かな蛇の、ちょっとした疑問から生まれたものだった」

 




感想お待ちしています。

※来週は登山にいく関係で忙がしいため、お休みさせていただきます
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