それはともかく雪がすごいですね。寒いなぁ
暇潰しにでも読んでください。では、本編をどうぞ!
「あ、申し遅れました。私は第一高校の生徒会長を務めています
生徒会長、七草真由美は人懐っこい笑み浮かべて彼らに挨拶した。
(……よりにもよって【
美少女なルックス、小柄ながら均整のとれた魅力的なプロポーション。入学したての男子高校生ならば、勘違いしてもおかしくない魅力的な彼女を前にして、達也が最初に思ったことはこれだった。
実は魔法師の資質は遺伝に由来するところが大きい。すなわち家系が大きな意味を持つのだ。
そして日本国内で魔法に優れた血を持つ家は慣例的に数字を含む名字を持つ。【
目の前の女子生徒はおそらく【七草】の直系の血を持ち、その上で一高の生徒会長を務める才女。
エリート中のエリート。自分とは正反対の人物を見て達也は顔を顰めそうになった。
「申し遅れました生徒会長、私は黒崎冬夜と言います。隣の男子生徒は新入生総代の兄、司波達也です。以後お見知りおきを」
そんな達也とうって変わって冬夜は笑顔で名乗り返した。……さりげなく達也の紹介までされているのは彼なりの優しさなのだろうか。
しかし自己紹介を他人にさせておくのはコミュニケーション上失礼に当たる。よって達也も愛想笑いを浮かべて自己紹介をすることにした。
「司波達也です。よろしくお願いします」
「君たちがあの司波達也くんに黒崎冬夜くんかぁ。二人とも前からお友達なのかな?」
「いえ、ついさっきここで知り合ったばかりですが……なぜそんなことを?」
ずいぶん突っ込んだことを聞くんだな。と冬夜は思ったが、別にやましい理由があるわけでもないので正直に答えた。その答えを聞いて生徒会長は「別に深い理由はないんだけど」と続ける。
「先生方の間で、あなた達の入学試験の成績のことが噂になっていてね。それで気になったのよ」
「二科生である私たちの成績が、ですか」
「ええ。そうよ。司波達也くんは入学試験に出された七教科中、平均は百点満点中九十六点。特に魔法工学と魔法理論は受験者の平均が七十点未満なのに対し小論文含めて堂々の満点」
「え!? お前すごいな達也!」
「……ペーパーテストでの結果だ。あまり評価されないだろう?」
あまりの点数に冬夜も驚く。しかし達也は、肩をすくめて控えめに答えた。
「そういうあなたもすごいのよ黒崎冬夜くん。入学試験理論は七教科中九十三点。魔法工学と魔法史学は達也くんと同じく満点」
「お前もすごいじゃないか」
「お前には劣るよ」
「そして問題は入学試験実技。魔法の発動速度、規模、対象を書き換える強度で測る試験だったんだけど、このうち発動速度は受験者の中で堂々の一位。他の受験生が皆0.2秒以上のタイムだったのに対し、あなたは0.193秒という驚異的なタイムを出して、学校始まって以来最速のタイムを出した天才。あとの二つの試験を受けなかったから棄権と見なされて二科生になったけど……あのまま試験をまともに受けていたらあなたが今年の総代だったかもね」
生徒会長のその言葉に今度は達也が驚く。今年の新入生総代は
もしかしたら、彼も【数字付き】の血筋なのかもしれない。と達也は思った。
「いやぁ。それは言い過ぎですよ生徒会長。今年の総代がどれほどの魔法の使い手か知りませんけど、私は領域系魔法が一切使えないんです。頑張っても良くて次席、ってところですよ」
冬夜は苦笑しながらそう言う。彼のこの発言は、控え目に言ったわけでも嘘を言っているわけでもなく、紛れもない事実だ。彼もまた、自身が抱えるハンディキャップにより二科生になるべくしてなったのだ。
「どちらにせよ、理論が上手くても魔法は実力の世界。実技が出来なければ意味がありません」
「だな。いくら勉強が出来ても、実際に使えなければ無用の長物だしな」
今度は達也も冬夜も、自分の左胸を見て困った顔をする。魔法の世界は実力の世界。それをいやと言うほど体感している彼らは、その意味を誰よりもわかっている。
しかし、目の前の少女はそうは思わなかったようだ。
「ううん。私、これでも理論は結構上の方なんだけど、多分同じ入試問題を出されてもあなた達のようにはいかないだろうなぁ。私は本当にすごいと思うわ!」
害意のない、純粋な称賛。
誉められることは苦痛ではないが、それでもこのエンブレムの差が変わらないのも事実。
目の前の少女の言葉に、冬夜は苦笑するしかなく、達也は苦手な人だと感じることになった。
二人共、敵意や悪意こそ身近で親しいものであるがために、こういった善意には苦手意識があった。
「……時間に遅れますので、ここで失礼します」
まだ話を続けたそうな彼女に達也は、早口でそう言った。
それは、このまま彼女と話を続けることにどこか恐れを感じていたからかもしれない。
なぜ自分がそんなことを自覚しているのか、理由はわからないまま。
「では、私もここで」
この場から逃げるように去った達也の後を追いかけるように、冬夜もその場から去った。
◆◆◆◆◆
「おおー。もう半分くらい席埋まってるし。出遅れたかな?」
「別に大丈夫なんじゃないか? 席の指定はないわけなんだから、どこに座っても関係ないだろう」
彼らが生徒会長と別れた後、入学式の会場である講堂に来てみれば、たくさんの新入生で溢れていた。
総勢二百人。大抵の新入生は決まって中学校からの友人と一緒に座るため、皆まとまって空いている席を探している。
「しかし、面白い光景だな」
「ん? 何が面白いんだ達也?」
「席に座っている生徒を講堂の上半分と下半分の席とで見比べてみろ」
「ヘ? あぁ。そういうこと」
冬夜が実際に見てみると講堂に備え付けられた席のうち、下半分の席は一科生が、上半分は二科生が占めていた。綺麗なほどに中央を境に別れたこの違いは、自然に出来たものなのか。それとも故意に出来たものなのか。
だがどちらにしろ、と冬夜は思う。
「差別意識をもっとも感じ取っているのは、実際に差別されている者達である、と言うことか」
「そういうことなんだろうな」
二人共そう言い、後ろ半分の三分の一あたりの中央に近い席で腰を下ろした。 二人共この差別には辟易しているところがあったのだが、わざわざそれに逆らう気はない。触らぬ神に祟りなし。ということわざがあるように、時には知らないふりをして無関係でいる方が身のためになることもある。
さて、この時点で入学式まであと二十分。講堂のなかは通信制限がかかっているためにインターネットに接続できない。それ以前にこんなところで端末を使うのはマナー違反だ。
「一人だとやることなくて暇になっちゃうな」
「あぁ。さて、冬夜一つ聞いても良いか?」
「なんだ?」
「さっき会長に自己紹介した時だが……」
タイミング的にちょうど良いために、達也は先ほどの会話で出てきた違和感をぶつけてみることにした。
「なぜオレのことを『新入生総代の兄』と紹介したんだ? オレは一言も、妹が今年の新入生総代だとは言ってないんだが」
この疑問は、達也にとって黒崎冬夜という人物の、本当の姿を知るために必要なテストだった。もし冬夜の答え方が言い淀んでいたり、嘘をついているようなら、今後この少年には警戒しなければならない。
冬夜のどんな些細な行動も見逃さないように、警戒心を隠したまま観察し始めた。
「あぁあれ? 驚かせたみたいだから謝るけど、達也が新入生総代の兄だ、って知ってたのは単純にそう推理したからだよ」
達也の心中を知らないまま、冬夜は種明かしをする。
「妹さんに付き添ってきた、って言ってただろ? 実はあの時点で、達也の妹さんが今年の新入生総代だって言うのはなんとなくわかってたんだよ。
入学式の日に朝早くから来なければならない新入生なんて、入学式のプログラムに関係のある、新入生総代しか考えられないからね。
最初は直感みたいなものだったけど、その後で達也と話している間にそれが確信に変わったのさ」
言い淀みの一切ない回答。少なくとも達也には、嘘をついているようには見えなかった。
が、だとすれば別の意味で警戒をしなければならなくなった。
(……観察されていたのか、あの時)
達也は互いに知り合って間もない時のことを思い出す。あのベンチでの会話時、目の前にいる少年はそこまで達也のことを視ていたとはわからなかった。
気をつけていなければ、余計なことまで話してしまいそうだ。
「そうだったのか……そこまで見抜かれているとは思わなかった。やっぱりお前すごいな」
「いやいや、それほどでもないよ」
眉尻を下げて申し訳なさそうにして答えた冬夜に、達也は表面上笑って答えた。
同時に、目の前の少年に対して警戒を怠らないようにすることを心に刻み込んだ。この少年は、彼らが秘密にしておかなければならない秘密に気付いてしまうかもしれない。
……そうやって警戒してばかりだから、余計な敵を作っていることに彼は気付いていない。
「あの……」
その時、達也に声が掛かった。達也が振り向くと、そこにいたのはメガネを掛けた女子生徒。
「お隣、空いてますか?」
外見をそのまま表したような気弱な口調。控え目に彼女がそう言ったので、達也は自分のまだ誰も座ってない右隣の席を見る。どうやら彼女はこの席に座りたいらしい。達也としても断る理由などないので「どうぞ」と愛想よく返した。
「ありがとうございます。あの、私は
「司波達也です。こちらこそよろしく」
「オレは黒崎――」
「アタシ
メガネを掛けた女子生徒が座り、そのまま自己紹介へと繋がったため、達也は怖がらせないようになるべくもの柔らかい口調で自己紹介をする。
冬夜もそれに続いて自己紹介する気だったが、それは美月の左隣に座った女子生徒に妨害された。
こちらは、物怖じも人見知りもしない性格らしい。ショートな髪型と明るい色の髪の毛、ハッキリとした目鼻立ちが、その印象を与える。
「…………」
「……そんなところでフリーズしてないで、もう一度自己紹介したらどうだ? 冬夜」
「……黒崎冬夜です。よろしくお願いします……」
一方、自己紹介を割り込まれた冬夜は、見て分かるぐらいテンションを下げていた。口調もなんか暗くなっているし。
意外とこういうところはメンタルが弱いんだな。と達也は他人事のように考えた。
「アハハ……ゴメンね冬夜くん。気を落とさないで」
「……大丈夫。問題ない」
口ではそう言うが、態度が全く噛み合ってないため、その場の三人は苦笑するしかなかった。差し伸べられた手に握手して、とりあえず冬夜も自己紹介を終えた。
◆◆◆◆◆
そして、その後は何も起こらず入学式が始まった。
開式の言葉、先ほど冬夜が話していた校長から新入生に送る祝辞と激励。同じく、入学式に招待された各方面での著名な人たちからの挨拶。普通科高校が執り行うようなテンプレな形の入学式は、つつがなく進んでいった。
ただしそれはーー今年の新入生を代表する、入学試験最優秀成績者、すなわち新入生総代『司波深雪』が壇上に現れるまでだった。
ピンと背筋を伸ばし、堂々として気品ある立ち振る舞いをする彼女。その可憐な容姿でその会場にいた人間を――それこそ男女問わず――すぐに魅了した。
「はぁ~『オレの妹は、十人いればその全員が可愛いって言うよな、絶世の美少女だ』とは聞いたが、これはすごいな」
「綺麗ですね……」
「あんな可愛い子、本当にいるんだ……」
「オレが言うのもなんだが、深雪以上の美少女はいないと確信している」
壇上より離れてその姿を見た冬夜達は、三者三様の答えを返した。特に美月はどこかうっとりした目で見ているような気がするが、あえて触れないでおこう。
「一科生の男子連中は胸が踊るだろうねぇ。あんな美少女と同じクラスになれるかもしれないんだから」
「おや? ひょっとして冬夜くんは一緒のクラスになれなくて残念なのかな?」
冬夜が自分より前の席に座っている一科生の「うっとり」した雰囲気を感じ取って呆れていたら、そこにエリカの思わぬ攻撃がやって来た。ニヤニヤと笑う彼女はからかっているつもりなのだろう。
しかし冬夜はチラッとエリカを見た後、もう一度深雪を見るものの、二秒もしない間に心底つまらなそうに答えた。
「完璧すぎてちょっとなぁ。あの容姿や実力は本人の努力の賜物なんだろうけど、オレは友人以上の関係にはなりたくないなぁ」
どちらかと言えばやや否定的な感想を述べた冬夜は、壇上で礼儀正しくお辞儀をする彼女を見る。
どこからどう見ても疑うことなき絶世の美少女。普通の男子なら友人に――願うことなら恋人に――したいと思うだろう。
だが冬夜からしてみれば、非の打ち所が無さすぎてつまらないと思った。実際に話してみればその印象はがらりと変わるのだろうが、現時点での彼の感想は否定的なものだった。
「ほぉ? 初めて深雪を見た男子で、そんな評価を出した奴はお前が初めてだな」
「そうなのか?」
「あぁ。大概決まって、深雪の美貌を称賛するからな」
「まぁそりゃ誉めるよね。男だったら、あんな可愛い女の子と仲良くなりたいだろうから」
「否定はしない」
冬夜もエリカの言葉を否定しなかった。こうして冬夜が冷静に深雪を『観察』していられるのも、夜色名詠士として世界中を渡り歩き、色んなタイプの美女・美少女に出会っているからだ。実際に冬夜は、USNAで深雪クラスの美少女に出会っているために『あー、確かに可愛いなぁ』ぐらいにしか思わなかった。
『このようなハレの日に歓迎の言葉を頂きまして感謝いたします。私は新入生を代表し第一高校としての誇りを持ち、皆等しく勉学に励み、魔法以外でも共に学びこの学び舎で成長することを、ここに誓います』
「うわぁ……『魔法以外にも』とか、『皆等しく』とか、危ない
「…………深雪のやつ、選民思想の強い連中がそんなこと聞いたらどうなるかわかってるだろうに……」
壇上でマイク越しに聞こえた
『司波深雪さんかぁ……。綺麗だなぁ……』
『可憐だわ……』
『まさしく大和撫子だな……』
――ないと思っていたが、一科生の生徒は未だに彼女の容姿に釘付けになっており、彼女の言葉など耳に入ってないようである。
「杞憂だったか……」
「美少女ってお得なんだな」
◆◆◆◆◆
「司波深雪さん、かぁ……」
一方その頃、一科生側の席に座っていた光井ほのかは思わず呟いた。
流れるような黒髪、整った顔立ち、細すぎず太すぎず絶妙なバランスで成り立っているその肢体。
すべてが完璧に整っている彼女を見て、ほのかは知らず知らず憧れを抱いていた。
「ほのか、ほのか。ほのかが言っていたすごい人ってあの人?」
「うん……そうだよ」
ほのかは『心ここにあらず』といった風に半ば呆然と答えた。
ほのかが深雪を初めて見たのは、魔法科高校の実技試験の時だった。その時も彼女の美貌はすぐ噂になり、わざわざその姿を一目見ようと受験生がほのか達の試験会場に集まったほとだ。もちろんほのかもその時「綺麗な人だな」と思ったが、それより驚いたのは、彼女の試験結果だった。
CADから起動式を読み込み、魔法を発動させるまでに掛かった時間――わずか0.285秒。
それまで一位のタイムを出していた人と0.2秒以上離して出した圧倒的なタイム。
その凛とした振る舞いと圧倒的な実力は、すぐさま彼女の脳に強く焼き付けられることになった。
「とにかく格好良かったんだよ~!!」
「良いなぁ。私も見てみたかったよ」
はしゃぐほのかに、残念そうな顔をする雫。
彼女達は、かつて一緒に遊んでいた幼なじみがそれ以上のタイムを叩き出していることを知らない。知るわけがない。
(……結局、誰が冬夜なのか分かんなかったな……)
残念そうな顔をしている雫は、総代の美貌に圧倒されながらも内心では三人目の幼なじみのことを探していた。向こうも自分達のことを探していてすぐに出会えるのだと思っていたが、肝心の冬夜の顔を知らない雫にとっては、そんなことは砂漠の中から砂の一粒を探し出すのと同じくらい難しかった。
(……また明日もあるよね……)
自分が落胆していることを自覚しながら、雫は静かに式が進むのを見ていた。
◆◆◆◆◆
そして無事式は終了し、新入生全員に一昔前の学生証と同じIDカードが交付された。
新入生はこの段階で、自分がどのクラスになるのかがはっきりする。(ちなみに冬夜は校長から直接手渡された時に分かっている)。自分と親しい友人と同じクラスになれるかどうか。いつの時代においても、クラス分け発表の時は大体の生徒が期待して自分のクラスを知るものだ。
講堂前の開けた場所、あまり通行の邪魔にならないよう端の方に寄っていた冬夜達も、それは変わらなかった。
「アタシE組! みんなは?」
「オレもE組だ」
「私もです」
「おお? 偶然かなこれは。オレもE組だ」
エリカの浮かれ気味な問いに達也、美月、冬夜は順に答えた。こうして偶然知り合ったメンバー全員が同じクラスになるのは、どこか作為的なものを感じなくはないが、彼女達と知り合ったのは間違いなく偶然なので『校長が何かしたのか?』という冬夜の余計な勘繰りはすぐに終わった。
「ねぇ、これから教室見に行ってみない?」
そう言うエリカの無邪気な問い。機械化文明が進んだ現在でもホームルームという制度は残っている。高校で新しい友人を見つけるのならば教室に行くのが一番手っ取り早い。
だがそんなエリカの問いに頭を振ったものがいた。
「悪い。これから妹と待ち合わせなんだ」
今日は入学式以外に授業などの予定はないし、また連絡事項がないのも確認済みの達也は深雪と一緒に帰る約束を前もってしていた。
「え? 達也くん妹がいるの?」
「……もしかして、新入生総代の司波深雪さんですか?」
「あぁ」
達也の短い答えに二人は納得の声をあげる。しかし事前にその事を知っていた冬夜は、それとは別に疑問を抱いた。
「でも達也、妹さんは新入生総代だろ? 生徒会とかあるんじゃないのか?」
「あったら適当に時間を潰すさ。特に用事がなければ、の話だからな」
「あの……、もしかして達也さんと司波さんは双子なんですか?」
「いや、よく聞かれるけどそうじゃないよ。オレが四月生まれで妹が三月生まれなんだ」
「それを聞くと、双子っていうより年子っていうのが合ってるんだな」
「そうだな。……それにしてもよく兄妹だってわかったね柴田さん。オレと深雪、全然似てないのに」
「いえ。そんな……」
達也の感心するような言葉に美月は控えめに応える。確かに、あの美少女とこの普通の顔が兄妹だっていうのは普通わからないよな。と、冬夜は内心とても失礼なことを考えていた。……実際のところ、達也の顔もそんな悪いわけではないのだが。
しかしそんなことはさておき、その次に美月が言った一言は、達也に大きな衝撃を走らせることになる。
「ただ……オーラが似ていますから」
「――――!!!」
美月のその答えに達也の警戒は最大まで跳ね上がる
「オーラ? 確かに人を惹き付ける魅力はあったけど……そういう意味じゃないよね?」
「……霊視放射光のことだエリカ。そこまで視られているとは思わなかった。本当に
「? 達也くん。美月はメガネかけてるよ?」
「そうじゃないよ。よくそのメガネを見てみろ。度が入ってないだろう?」
達也が思うに、柴田美月は【霊視放射光過敏症】という体質だ。
現在、魔法などを含めた超心理現象には二つの物質が確認されている――【
魔法師(を志す者も含め)は【
ちなみに、実は霊子放射光過敏症はそれほど珍しいモノではなく、レベルの高い、もとい想子に対する感受性の高い魔法師であるならば、だれでもこの症状に悩むものなのだ。
しかし、それにしても常時レンズで押さえていなければならないレベルの症状となるともはや異常である。彼女も一応警戒しておくべきだなと達也は思った。
◆◆◆◆◆
「お兄様! お待たせいたしました」
それから、司波深雪が人混みから抜け出して達也のもとに駆け寄って来るのに、そう時間はかからなかった。入学式が終わってまだそう時間は経っていないが、小さい頃からずっと一緒だった達也は「よく耐えた方だな」と思った。
昔からこういった場では人を集め、色んな称賛の言葉を受けてきたのだ。その分やっかみや妬みなどもずっと受けてきたため、賛美の言葉に疑心暗鬼になってしまう深雪は対人関係においてちょっぴり気難しいところがある。
世間一般で言うところのシスコンである達也は、すぐにでも可愛い妹の頭を撫でてあげたくなったが、さすがに人前でそんなことはしない。そのため「お疲れ様」とだけ言っておいた。
そのとき達也のそばに来たのが深雪だけだったら、次のような感情は持たなかっただろう。
「こんにちは達也くん、冬夜くん。またお会いしましたね」
(……生徒会まで来たか)
生徒会長、七草真由美が深雪の後ろから現れた時、達也は必死で嫌そうな顔をするのを堪えた。先ほど苦手意識を覚えた相手だけあって、達也としてはなるべく会いたくなかった。
ここにいるのも、今年度の総代である妹を生徒会に勧誘するためだろう、と達也は深雪と一緒に真由美が現れた理由を推測する。本当は、人混みの中で苦労していた彼女を助けたからだったからなのだが、そんなことは彼の知るところではない。
しかし当の妹は、そんな兄の反応よりも兄の傍らに寄り添う(?)友人、もとい女子生徒のほうが気になったようだ。
「お兄様。後ろの方々は、いったい誰ですか?」
「あぁ……。右から柴田美月さん、千葉エリカさん、黒崎冬夜だ。三人とも同じクラスで、さっき知り会ったんだ」
「へぇ……。そうなんですか、お兄様」
にっこりと淑女の笑みを浮かべる彼女。普通にこの笑顔を向けられた者は――それが健全な男子高校生ならなおさら――胸が高鳴ってしまうような笑顔を
しかしどういうことだろうか。それを傍観していた冬夜、美月、エリカの三人はなぜか肌寒くなるのを感じた。
彼らのいる場所だけ、季節が冬に戻ってしまったのだろうか?
「早速、クラスメイトの方々とデートですか?」
この肌寒さの原因は絶対
わずか小首を傾げ「含むところなんてありませんよ?」とでも言いたげな
「そんなわけないだろ、深雪。お前を待っている間話をしていただけだって。それにそんな言い方では、三人に失礼だよ?」
達也からしてみればこんな妹の拗ねた顔も可愛いのだが、紹介を受けて名乗らないのはあまり外聞がよろしくない。達也は目に軽い非難の色を乗せてそう言うと、深雪は一瞬だけハッとした顔になり、その後一層お淑やかな笑顔を取り繕った。同時に寒さも和らぎ三人のいるところに春が戻ってきた。
「初めまして柴田さん、千葉さん、黒崎さん。司波深雪です。私も新入生ですので、お兄様同様、よろしくお願いしますね」
「柴田美月です。こちらこそよろしくお願いします」
「黒崎冬夜だ。オレの方からもよろしく頼む」
「よろしく。アタシのことはエリカで良いわ。貴方のことも深雪って呼ばせてもらっていい?」
「ええ、どうぞ。名字ではお兄様と区別が付きにくいですものね」
冬夜が自己紹介をするとき、差し伸べた冬夜の手に深雪が握手を交わすと、周囲の人混みから悪意のようなモノが噴出したーー要は男子からのちっぽけな嫉妬であるーーがとりあえず無視。
冬夜は挨拶だけすると身をひいて、少女三人だけの空間にした。まだ自己紹介したばっかりだというのに、すっかり打ち解けた感のある彼女達に、達也と冬夜は置いてけぼりにされていると思わざるを得なかったが、いつまでもこうしているわけにはいかない。深雪に付いてきた生徒会長がこの場にいるため邪魔者扱いこそされないが、だからこそずっとこうしているわけにはいかなかった。それに、こう人を集めて長時間同じ場所にいたのでは通行の邪魔だ。
「深雪、生徒会の用事は済んだのか? まだだったら適当に時間をつぶしているぞ」
「その必要はありませんよ」
達也の妹に向けた疑問と提案に答えたのは生徒会長だった。
「今日はご挨拶をさせていただいただけですから。深雪さん……と私も呼ばせてもらって良いかしら?」
「あっ、はい」
真由美に話しかけられ神妙な顔をして深雪は頷いた。しかし生徒会長の言葉に異を唱える者がそばにいた。
彼女の隣に立つ男子生徒――生徒会副会長だ。
「しかし会長、それではこちらの予定が」
「
「ですが……」
「服部副会長。こちらは用事を押しつける側なのですから深雪さんの予定が最優先よ。ではみなさん、また明日」
食い下がろうとした副会長の言葉を遮り、真由美はクルッと後ろを向いて歩き始めた。その後ろを副会長が不承不承といった表情をして追いかけようとしたが、三歩もいかないうちにもう一度振り返り冬夜のほうを見た。
「あぁそうそう」
「?」
「黒崎冬夜くん。あなたは明日の昼休み、生徒会室に来ること。生徒会長としてあなたにお話があります」
「………わかりました」
「では、ごきげんよう」
達也たちを含めて周りの生徒たちがざわめく中、真由美のお誘いーーというより命令ーーに冬夜は簡潔にそれだけ答えた。満足そうな表情を浮かべて再び校舎のほうに歩き始める真由美。その背中を黙ってついて行く副会長。しかし一度だけ振り返り、舌打ちでも聞こえてきそうな表情で達也と冬夜を睨んでいった。
◆◆◆◆◆
「あー嫌な感じの人だったな副会長。いかにも『二科生なんだから一科生、それも会長の用事を優先させるののは当然だろ』みたいな表情で睨んでたし」
「そうだな。まぁ、わりとどうでも良いことだが」
「同感。オレ達の知ったことじゃないな」
「すみませんお兄様、黒崎さん。私のせいで、二人の心証を」
「お前(司波さんの)のせいじゃない(よ)」
校門を出たところで彼らは少し止まった。早速冬夜が先ほどの副会長のことで苦言を漏らしていたが、そのことには達也も同感だった。どうも入学初日でいきなり上級生、しかも生徒会役員に睨まれたが気にすることでもないと考えた。
いちいちこんなことでクヨクヨしてしまうような柔な精神を彼らは持ち合わせてはいないのだ。
なので、そんな二人に気遣い、表情を曇らせた深雪の言葉を二人は最後まで言わせなかった。悪いのは彼女ではなくあの副会長なのだから、そんなことで気分を悪くされるのは彼らにとって好ましいことではなかった。
その証拠に達也は可愛い妹の頭にポンと手を乗せるとそのまま髪を梳くように頭を撫で始めた。そのまま彼女の表情は
(なぁエリカ、もしかして司波さんって……)
(多分冬夜くんが考えていることが正解だと思うわよ。アタシもそう思ったから)
(良い雰囲気ですね……)
なにも言えない代わりに三人は確信した。目の前で甘~い空気を漂わせている実の兄妹。兄はシスコン、妹はブラコンの最強コンビだ。しかも、見せている雰囲気はすでに「恋人同士だよねコレ?」と思わせるほど甘ったるい雰囲気だった。
この光景をさっきの一科生連中が見たらどうなるんだろうなぁ~。と冬夜は何となく思った。雰囲気を見て愕然とするか、それともより対抗意識を燃やすか……。多分、後の方になるんだろうけれど、もう雰囲気からして「不可能でしょこのカップル引き離すの」と諦める奴も多いだろうと思った。
(というか、この雰囲気どうにかしないとオレら帰れないんだが)
(そうよねぇ……。どうしようか美月?)
(え!? 私ですか!?)
言葉ではなく視線で会話する彼ら。見た目通りの「頼まれたら断れない性格」である美月は、初対面の二人から『任せた』という熱い視線を投げかけられる。
最初は視線を逸らして二人の視線から逃げていた美月だったが、全く外そうとしない二人の視線に結局根負けしてしまう。もう一度司波兄妹の甘い雰囲気を見てから、意を決して美月はその雰囲気を壊しにかかった。
「あの、せっかくですから、お茶でも飲んでいきませんか?」
「良いね、賛成! 近くに美味しいケーキ屋さんがあるらしいんだ」
美月の決死の(?)問いかけにエリカが追加で畳みかける。一方で甘い雰囲気を出している自覚がない兄妹は、その言葉によって現実に引き戻された。
この二人の無自覚な桃色空間は、ちょっとした結界みたいなものだな。と成り行きを見守っていた冬夜は、またしても他人事のように考えた。
「お兄様、どうしましょうか?」
「良いんじゃないか? せっかく知り合いになったことだし、それに急いで帰らなければならない用事もないしな」
「じゃあ決まりね! 早速――」
「あーすまん。オレ行けないや」
行こう!と、腕を上げて元気よく言うつもりだったエリカだが、その言葉は冬夜によって邪魔された。別にさっきの意趣返しとかではないのであしからず。
「悪い。これから用事がある。ケーキ屋さんはみんなだけで行ってきてくれ」
「えぇ……。冬夜くん、ノリ悪いよ?」
「すまん。どうしても外せない用事なんでな」
エリカの不満そうな顔に冬夜は眉尻を下げて謝る。冬夜としても、本音はこのまま出来たばかりの友人とケーキを食べたいのだが、残念なことにこの用事は外せない。
(あぁ。なんでこんなハレの日に、仕事なんてせにゃならんのだ?)
自分の不幸、そして考えもなしに予定を突っ込んでくる部下に対する感情から冬夜は泣きたい衝動に駆られたが、ここで泣いたってどうしようもない。
それよりここで時間を無駄に過ごしている方が問題だ。さっきちらっと時計を見て時刻を確認したが、もう結構ヤバイ。早く行かなくては。
「じゃあ、オレはこれで……また明日」
パチン、と冬夜が指を鳴らす。すると――
「「「「……え!?」」」」
達也達が瞬き一つした後には、冬夜の姿は忽然と消えていた。魔法を使って高速で移動したのか?それとも姿を見えなくしたのか?どちらにせよ、深雪を含む女子勢は、冬夜がいつの間に魔法を発動したのかわからなかった。
だが達也だけは、冬夜が今行ったことについて理解することは出来ていた。
(
最後の最後でさらに疑問が増えた少年のことを詳しく調べる必要があると感じた達也だった。
やー。初の一万字オーバー。読者の皆さま、読んでくださりありがとうございます!
次回予告
入学して二日目。冬夜は二科生として登校し、新しいクラスメイトと仲良くしている……はずだった。
「………あれ?ひょっとして……遅刻……?」
目覚まし時計が鳴らなかったという危機に夜色名詠士はどう立ち向かうのか!そして始業のベルには間に合うのだろうか!?
こうご期待ください!