魔法科高校の詠使い   作:オールフリー

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やっと出来たよ最新話!感想お待ちしてます。

それでは本編をどうぞ!


入学二日目

「春ってさぁ、どうしてこう、人を堕落させるんだろうね? 達也」

「お前の生活がなってないからだろうな。冬夜」

 

 魔法科高校入学二日目。

 朝のホームルームが終わった時点で話しかけてきた冬夜の言葉に達也は冷たく答えた。

 正確に言えば、言葉だけでなく態度もなぜか冷たい。よそよそしいというか、避けられているというか。達也の今の心境としては『コイツとの友情を今すぐにでも切りたい』と思うほどだった。

 入学二日目にして、いったい何があったのだろう?

 

「達也……なんか冷たくない? 入学して最初にできた友人に対して接する態度じゃないと思うんだ」

「入学二日目で堂々と遅刻してきたやつは友達じゃない」

「酷ッ! 本人目の前にして一息に言い切ったよこの人!?」

 

 と、晴れて遅刻魔としての輝かしいデビューを飾った冬夜は、友人の言葉に大きなショックを受ける。今まで友人と呼べる友人が少なく、久しぶりにできた同年代の友達であったが故に、そのショックは大きい。

 そのショックを受けたリアクションを見た達也は、深いため息をついてさらに言葉を重ねる。

 

「……しかもあんな目立つ登校して話しかけてくるなよ。オレまで目立つじゃないか」

「目立つことは良いことだと思うぞ、達也!」

「お前はそれを本気で言っているのか?」

 

 冬夜の無邪気な答えにイラッとしたがなんとかそれだけに止めた。

 

 魔法科高校の授業開始時刻は午前八時ちょうどだ。

 この学校に通う生徒のほぼ全員が、というよりかは恐らく九十九パーセントの新入生が公立または私立の中学校からの受験を経てこの学校に通う人間だ。中学校の授業と高校の授業。内容のレベルや授業時間の変化はあれど、タイムスケジュールはそう変わらない。

 なので入学二日目にして遅刻する、なんてことは用事があったり不慮の事故に遭ったりはしない限りはほぼないだろうと言ってもいい。あるいは、前日にはしゃぎすぎて寝坊したとか。冬夜の場合、夜遅くまで仕事をしていたために寝るのが遅くなり、結果として寝坊してしまったのである。

 

『あれ?もしかして目覚まし時計………鳴ってない?』

 

 朝起きた時点で授業開始30分前。どんなに急いでも電車に乗ったりしていたら確実に間に合わない。こんなことならホテルに泊まるんじゃなかった。つーかなぜモーニングコールを頼まなかった!と盛大に後悔しながら制服に着替えてチェックアウトした冬夜は、手早く朝食(コンビニで買ったBLTサンド)を済ませると、急いで学校に向かった。

 

 再度言うが、どうしたって今からでは授業開始まで間に合わない。走って電車に飛び乗ったって遅刻は確定だ。ならどうすべきか。普通の人間なら「しょうがない、ゆっくり行くか」とか「サボるかな」なんて思うだろうーーしかし冬夜は、世界の理を変えることのできる魔法師(の卵)だ。彼の持つ、彼だけの魔法はこういった状況にうってつけの魔法であり、遅刻したくないと思っていた冬夜は躊躇なく"ソレ"を使った。

 すなわち、自分の精神に宿った彼だけの固有魔法、『空間移動(テレポート)』を使って登校したのだ。

 

 さすがに魔法を見慣れている魔法科高校の生徒でも、ホームルーム開始三分後に空中でいきなりクラスメイトが現れたときはどよめいた。

 

 反対に、空中で現れて机に着地した冬夜の第一声は

『間に合ったか?!』

 だったが、偶然教室に来ていた小野(おの)(はるか)というカウンセラーは

『いや、アウトだからね?』

 と冷静にツッコミを入れていた。

 

 で、現在に至る。

 

「いやぁ、春眠暁を覚えずって言葉があるけど、まさしくその言葉の通りだね。朝起きれなかったよ」

「だからといって、テレポートで登校してくるのはどうかと思うが」

「いやつい。急いでいると使っちゃうんだよねコレ。間に合わなかったけどさ」

「もう二度とするな。恥ずかしいから」

「はぁーい」

 

 笑って誤魔化す冬夜を見て達也はまたため息をついてしまった。結局、昨日自分が感じた警戒心はなんだったんだ。ただの取り越し苦労じゃないか。と、冬夜のアホな姿を見て達也は警戒するだけ無駄なんじゃないかと思い始めた。まぁそれでも、ずば抜けた観察力は変わらないので余計なことを悟られないようにはするのだが。

 

「なかなか強烈な個性を持った友達がいるんだな。達也」

「よしてくれレオ。……はぁ、あんまり運がない方ではあるが、今年は厄年のようだな」

「そこまで言うか!?」

 

 達也の酷い言いように冬夜は多少涙目になってきた。レオ、と達也に呼ばれた達也の前の席に座る男子生徒は、一笑いすると今度は冬夜の方を見た。

 

「お前面白い奴だな。オレは西城レオンハルトって言うんだ。気軽にレオ、って呼んでくれ」

「よろしくレオ。オレは黒崎冬夜、オレのことも冬夜って呼んでくれ」

 

 冬夜とレオは握手を交わして固い友情を結ぶ。ゲルマン彫の顔立ちや西洋風の名前。海外から引っ越してきたのかと冬夜は思ったが、レオの話を聞くと彼の名前が洋風なのは父親がハーフ、母親がクォーターの影響だからだという。

一昔前では、魔法師の能力向上のために国際結婚が奨励されていた時期があったため、魔法科高校の生徒の中にはハーフやクォーターの生徒も多く、レオのような存在はそう珍しいことではないのだ。

 

「かなり派手な登校だったね冬夜くん?」

「いきなり現れた時は驚きました……」

「いやぁお恥ずかしい。今後一年間は同じことが何度かあるかもしれないから、早めに慣れてね?」

「やっぱりお前反省してないだろ」

 

 レオとの自己紹介が一段落した頃に、エリカと美月の二人が寄ってきた。どうやら二人とも他のクラスメイトへの挨拶を済ませてきたらしい。冬夜の言葉に達也の冷静なツッコミが入り、冬夜を含めた全員が笑った。

 

「でどうするよこれから。みんな選択授業の履修登録は終わったんだよね?」

「はい。闘技場か工房か……どちらにしますか?」

 

 一通り笑った後で冬夜が今日はどうするのか聞いた。魔法科高校では入学二日目と三日目の二日間は、先輩の授業風景の見学や構内の施設を自由に見学することが許されている。

 捕捉で説明すると、二科生である冬夜たちは自分たちで見てまわるだけなのだが、教師の指導が受けられる一科生には、見学の際に教師から詳しい説明を受けることもできる。

 

「ならよ、工房に行かねぇか?」

 

 ここで美月の問いに答えたのはレオだった。そして全員が面食らったような顔をしてしまう。

 

 こう言ってはなんだが、西城レオンハルトという少年はどちらかというとやんちゃな感じがするのだ。全員、外見から「闘技場行かねぇか?」と言う言葉が来ると思っていたがために、意外感を隠しきれなかった。

 

「闘技場じゃなくて良いのか?」

「やっぱそう見えるか? まぁそっちも嫌いじゃないけどな。オレは硬化魔法が得意でさ、硬化魔法ってほら、武器との相性が良いだろ? だから武器の調整スキルも身に付けたいんだよ」

 

 レオのその答えを聞いて達也と冬夜は「なるほど」と感心した。

 確かにレオの言う通り、硬化魔法と武器の相性は良い。だが普通武器などの調整は直接魔法を扱う魔法師ではなく、CADなどのデバイスを専門に扱う魔工師が行うことが多い。

 よって、最低限の調整スキルを除けば、餅は餅屋ということわざどおりに、CADの調整を魔工師に丸投げする魔法師も多い(もちろん、最低限の調整スキルは魔法師本人で行う方が多数だ)。が、仕事によっては武器や道具を多用、もしくは常駐で使うこともある。レオが将来の志望している山岳警備隊は、仕事の内容から武器や道具の使用頻度が多い職業だ。目の前の少年はかなり堅実的に自分の将来を考えているんだなと、二人は感心したのだ。

 

「そうだな。じゃあそうするか?」

 

 達也の確認の問いかけに全員が首を縦に振り、彼ら五人は移動し始めた。

 

 ◆◆◆◆◆

 

 さて、達也たちが工房見学をしている中、校舎の別の場所では一年一科生の生徒が教師に率いられながら集団となって授業見学をしていた。一科生だけに与えられた特権である、教師の特別解説付のツアーに参加していたのは1-Aに所属している生徒たち。

 その集団は先頭を歩く三人と、その後を追うその他大勢に別れている。

 先頭を歩く三人――その内の一人である司波深雪は、隣を歩いていた北山雫の話を聞いて驚いていた。

 

「じゃあ、黒崎さんは北山さんと光井さんの幼馴染みなわけなのね?」

「うん。かれこれ五年間、ずっと会ってなかったけど」

「世間って狭いわ……」

 

 思わず、という風に深雪は呟いてしまう。まぁ、昨日知り合った人と今日知り合った人が昔別れた幼馴染みだったなんて聞かされたら、誰だって驚くだろう。

 深雪と雫と一緒に歩くもう一人の生徒、光井ほのかはそんな深雪の様子を見てフォローするように言った。

 

「ごめんね司波さん。雫ったら、五年振りに会う初恋の人が司波さんみたいなキレイな人と関係があるんじゃないかって、疑ってるの」

「ほのか、私そんなんじゃない」

「またまた。昨日の帰り道は司波さんのこと気にしてたクセに」

 

 ほのかの発言に雫はムッとして返してしまうが、気にしていたのは事実であったためそれ以上はなにも言わなかった。

 

「黒崎さんって、北山さんの初恋の人なの?」

「うん。五年越しの恋となれば、一秒でも早く会いたくなるでしょ?」

「確かにそうね」

「……ほのか、別に私は冬夜のことなんて、なんとも思ってないから」

「またまた。冗談はほどほどにしないといけないよ雫?」

「……ムゥ」

 

 一度ならず二度も弄られた雫は唇を尖らせて不満気な顔をする。その表情から「やっぱり好きなんじゃない」とほのかが思っていることに彼女は気付かない。

 小一の頃からずっと一緒だった幼馴染みには、雫の嘘は少しも通じなかった。

 

「なら安心して良いんじゃないかしら?黒崎さんって私のことあまり好みじゃないみたいだから」

「なんでそう思うの?」

「昨日お兄様からそう聞いたのよ。『完璧すぎてちょっと気が引ける』らしいわ」

「へぇ~。良かったじゃん雫!」

「……別に、冬夜がどう思おうが私には関係ないし」

 

 とうとうプイッと顔を逸らしてしまった雫だが、深雪の言葉を聞いて安堵の表情を浮かべていたことをほのかは見逃さなかった。また深雪も、今の雫の反応で彼女のその態度が世に言う『ツンデレ』に当たる反応だと理解した。

 

 弄りがいのある人を見つけると、人は弄られずにはいられないものだ。

 

 どちらかと言えば嗜虐的な性格をしている深雪は(本人は無自覚だが)好奇心の赴くままさらに深い話を聞いてみた。

 

「光井さん、北山さんと黒崎さんってなにか恋人らしいことをしたことがあるのかしら?」

「司波さん……。私、冬夜とそういう関係じゃなかったから――」

「なに言ってるのさ雫。雫って寝ている黒崎くんを襲ったことがあるじゃん」

「……………え?」

 

 好奇心の赴くまま、試しに聞いたことだったが返ってきた回答は深雪の予想を上回ったものだった。予想外の答えにおもわず深雪は雫を見てしまう。雫はそんな深雪の視線から逃れるようにそっぽ向いた。

 

「まぁ、襲ったといっても頬にキスしただけなんだけどね」

「十分襲ってるわよねそれ?」

「煽った私が言うのもなんだけど、本当にやるとは思わなかったなぁ」

「しみじみ言ってるけど、ことの元凶って貴女なのね光井さん」

 

 ちなみに余談だが、その様子は北山家のハウスキーパーがビデオカメラで撮影しており、今も北山家の押し入れの中に永久保存されている。

 

「北山さんって大胆な人なのね」

「司波さん、その感想は絶対に違う」

「なに言ってるんだか。雫は冬夜くんのこととなると普段の様子からじゃあ想像できないくらい大胆な行動をするくせに」

「…………」

 

 再三に渡って誤解を生む発言をしたほのかを雫は睨んだ。睨まれたほのかは自然に顔を明後日の方向に逸らして知らん顔をする。その反応で、雫の中のなにかがプチッと切れた。

 ……このまま黙っているほど、私は甘くないよ?

 イラッと来た雫は反撃を開始した。

 

「……そういうほのかは、司波さんのお兄さんに懸想しているんだよね?」

「なっ、ちょっ、雫!?」

「え?そうなの光井さん?」

「あ、いや、ええっとね司波さん」

 

 まさかこんな形で反撃されるとは思わなかったほのかは慌てて弁解しようと試みる。しかしその前に深雪が質問をしてきた。

 

「どこでお兄様のことを知ったのかしら?」

「一校の入学式の試験会場で司波さんのお兄さんが使った魔法が、無駄のないきれいな魔法だったから覚えていたんだって。『同じクラスになれたらいいな』とか言ってたよね?」

「そんなこと言った覚えがないよ!?」

「でも、昨日二科生だったことに怒ってたじゃん」

「そ、それは事実だけど……」

 

 弁解できない事実にほのかの言葉はだんだん小さくなっていった。恐る恐る隣にいる実の妹(深雪)の顔をほのかは見てしまう。

 

「そう……お兄様の魔法を……」

 

 俯いている深雪の表情はほのかにはわからなかったが、なんとなく不機嫌そうな声が聞こえてきた。

 その声を聞いて、ほのかは 

 

(あああ、もうダメだー!これ終わったぁー!!)

 

 と、心の中で絶望してしまう。せっかく憧れの人と知り合いになれたのに、わずか数時間でそれが終わってしまった。ほのかは肩を落として見た目にもわかるぐらい落ち込んでしまう。

 

「お兄様の魔法をちゃんとみてくださる人がいたなんて、思いもよらなかったわ……!」

「へ?」

 

 が、深雪の予想外の言葉にほのかはすっとんきょうな声をあげてしまった。深雪は俯いていた顔を上げてにっこりとほのかに微笑んだ。

 

「光井さんって目がいいのね。普通の人はお兄様のことを見向きもしないのに、そんな風にみてくれるなんて。嬉しいわ」

「え、あ、ど、どうも……」

 

 まさかの好反応。予想に反してにっこり微笑んでくれた深雪の言葉にほのかは救われる。

 しかしどういうわけだろう、その笑顔がさっきまで見ていたものより1.5倍ぐらい綺麗で幸せそうに見えるのは、ほのかの見間違いだろうか。予想以上に喜んでくれたことに逆にほのかは戸惑ってしまった。

 

 しかし戸惑っている場合ではない。ここで話題を変えておかなければいけないと身、本能的に身の危険を感じたほのかは「そ、そういえば」と話題を強引に切り替えた。

 

「冬夜くんが司波さんのお兄さんと同じクラスなら、このままお昼に食堂に行けば会えるかな?」

「それは無理だと思うわ。黒崎さん、今日のお昼休みに生徒会室に来るように生徒会長に呼ばれていたから」

「え?なんで?」

「そればっかりは私にもわからないわ。だけど――」

 

 そこで二人は揃って雫の顔を見る。見られた雫はわけのわからない表情をしてふたりを見返す。

 

「絶対、()()()あるわね」

「入学二日目で生徒会長と()()()()()でご飯を食べるなんて、普通ありえないよね」

「……二人とも、なにが言いたいの?」

「「さぁ、なんだろうね(でしょうね)?」」

 

 素知らぬ顔でそう言うが、思いっきり雫の不安を煽った二人。雫は上辺では何ともないような表情をしていたが、内心はものすごく動揺していた。

 

(なにもない……よね冬夜?)

 

 出来ることなら冬夜と今すぐ再会してこの不安を取り除きたい雫だったが、その感情を抑え込んでそのまま次の教室の中に入っていった。

 

 





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次回予告

「どうすりゃいいんだろ、これ……」
「さぁ?」

冬夜、深雪、達也の三人は顔を見合わせる。二科生の友人と一科生のクラスメイトが対立したこの状況、どうやって打破すればいいんだろうか。

一科生の横暴な態度が生んだ友達の危機に、遂に夜色名詠士がその実力を示す!

「すまないな。こんなことに喚んでしまってーー」

次回をお楽しみに!


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