魔法科高校の詠使い   作:オールフリー

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IMA・CIL 来校 Ⅴ

  【才色兼備】【威風堂々】【秀外恵中】。

 IMAとCILのメンバー、特に幹部以上の面々を表す言葉として、日ごろお世話になっている顧客は皆上記のような四字熟語を並べてくる。いつしか無頭龍の幹部たちが言っていたように、IMAとCILの女性幹部たちは皆機転が回るだけでなく、目を見張るような美女たちが多く名を連ねている。男性陣にしても変装もせず街中を歩いていれば、どこの国にいても無粋なスカウトマンが寄ってきて芸能プロダクションに誘われるほどのイケメンたちだらけだ。IMAの職員の中で一番凛々しい顔をしている(イケメンな)アルマデルなど、その魔顔で依頼主の女性(マドモワゼル)を一目で虜にし、任務中に求婚されたことも何度もある(全部断ったが)。

 別にこれは冬夜が幹部を決めるときに見てくれを判断基準に加えたわけではなく、実力で選んでいった結果こうなっただけだ。もちろん冬夜自身も、あの司波深雪と司波達也の血縁だけあって端正な顔立ちをしているが、幹部たちを同じような言葉を顧客全員が言ってくるかというとそうではない。今まで『スカウトと企業拡大のため』と称して大企業のご令嬢やら深窓のお嬢様の恋心を悉く奪い去ってきたため、いつの間にか新ソ連に訪れた頃から【ラスプーチンの生まれ変わり】と陰で叩かれるようになっており、『女好き』の悪評が広がりつつある。

 

 閑話休題。

 

 ともかく、男性が十人いれば十人とも『綺麗だ』『美しい』『可愛い』と言わずにはいられない女性メンバーが多く集まるIMA。当然のことながら、冬夜はその創業者。社長として彼女たちと長く時間を共にしてきたという過去がある。イシュタルやナタラーシャのように胸が大きくウェストが引き締まっている『ボン、キュ、ボン』なナイスバディなお姉さんや、キリシェのように喜怒哀楽の感情の変化がはっきりと分かり一緒にいて楽しいと思えるような人。華宮やサリナルヴァのように達也クラスに頭の良い美女も、騎士のような凛々しさとほのかのような可愛らしさを両立させているモニカ。皆容姿は違えど、魅力的な女性で溢れていた。

 

 さて、そんな彼女たちを--自分では貧相な体、無口で感情の変化に乏しく、頭だって普通に良いと言える程度でしかなく、さらにはエリカのような凛とした立ち振る舞もないと考えている--冬夜に恋い焦がれる相手として、初めて冬夜の仕事仲間を間近で見た雫はどう考えたというと。

 

(………あんなのに敵うわけない)

 

 戦意と自信を完全喪失していた。今朝方、冬夜がキリシェと腕を組んで仲睦まじく登校している姿を見かけたときには大いに嫉妬したものだが、学校についてから改めてIMA・CILの面々を見ると、自分ではどうあがいても女性の魅力に欠け、勝てないと思ってしまった。

 しかもその上、今日学校に来たのはIMA・CILのメンバーでも一握りの存在。残りは日本国外問わず依頼を受けて仕事をしている最中らしい。冬夜の創った会社の全員が彼女たちクラスの美女ではないと雫も思うが、それでもまだ自分より魅力的な、綺麗で可愛い女の子がまだたくさんいるのだろうと想像すると雫は心が折れそうになる。今は自分のことだけを見ていてくれているが、いつしか飽きられて捨てられてしまうのではないか……。九校戦で告白してくれると分かっていても、そんな不安が心を過ぎる。魔法師の家系は美系が多い。もしかしたら九校戦で知り合ったほかの女の子に心変わりしてしまうかもしれない。もしくは、その反対で冬夜に恋をする女の子が出てきてしまうかもしれない。

 日本国内だけでなく外国にまで知り合いのいる冬夜となると、いったい自分に何人の恋敵(ライバル)がいるのだろうか。考えれば考えるだけ、不安になってきた。

 

(何人ライバルがいようと関係ない。冬夜は私のモノ。誰にも渡さない)

 

 そう心で強く思い込むが、掛ける自己暗示が強ければ強いほど、比例して湧き出てくる不安も強くなる。

 冬夜が大変な状態にあることはわかっていたが、雫は不安を抑えられずにはいられなかったーー。

 

 ◆◆◆◆◆

 

 不安しかない部下たちの来校。一時間目に一人授業見学が行われるという苦行があったが、それ以外は大したことも起きず、そのままお昼休みになった。人格、というか性格に難ありと思っていた連中だったために、絶対何かしらやらかしてくるだろうと身構えていたが、どうやら杞憂に終わりそうだ。考えてみれば、社長職をモニカに渡しIMA・CILから離れて半年。自分がいなくとも何も問題を起こさず会社・研究所を経営し、さらには永久機関まで作り上げたのだから、彼らにも企業人としての自覚が出来てくれたのだろう。そう考えると涙が止まらない。特にイシュタルあたりは休み時間になったら天井裏から飛び出してきて抱き付いてくると覚悟していてそれがなかったので『アイツも成長したんだなぁ』と年甲斐もなく染み染み感じてしまった。

 

 さて、あとは華宮が主役の講演会を残すのみ。珍しく紙とペンを持ってきていた達也は、遠足を待ちきれない子供用に普段より多く時計をチラチラ見つめていた。表情こそ普段と変わらない冷静沈着なものだったが、そうした仕種の変化を見つけると、なんだか達也でも『そういうところがあるんだな』とほっこりする。達也でそうなら、今頃生徒会室ではCADマニアの子リスみたいな先輩が会長を圧倒するような気合を入れているんだろう。気合を入れすぎて貧血で倒れてしまわないか、入学当初からお世話になっている先輩のことを想像して冬夜は心配になった。

 

 しかし、そんなことは今はどうでもいい。一高自慢の、食堂にて和風ハンバーク定食を口に運びながら冬夜は脇をこっそり見る。

 

「…………………」

(機嫌、悪いよなぁ……)

 

 黙々とヘルシー定食を食べ続ける雫を見て冬夜はそう感じ取る。ほのかを含め、ほかのみんなは全員少し離れたテーブルから自分たちを見守っていた。なにがあったのか分からないが、お昼休みになるなりいきなり腕に抱き付いて冬夜を引っ張った雫を見て、女性陣は何かを感じ取ったらしい。雫の行動の理解が追い付いていない冬夜たち男性陣を押して、雫と冬夜の二人きりにしてくれた。

 はたしていったい何があったのだろうか。ここ最近の出来事を思い返すが、冬夜には雫を怒らせる原因に心当たりはない。ならばモニカたちがなにか言ったのだろうか。可能性としては大いに考えられる。しかしなにを言ったのだろうか。こればかりは見当がつかない。雫本人から聞ければ話は早いのだが、安易に聞くのはどうも良くない気がする。どうすればいいのだろうか。

 

「冬夜」

「ん?」

 

 ご飯を口に運びながら『どういう話題から話を繋げるか』と筋道を立てていると、雫の方から話しかけてきた。まさかこの雰囲気の中で雫から話しかけてくれると思わなかった冬夜は、驚いた反応を雫に気づかれないよう箸を持ったまま顔だけ横に向ける。すると、ご飯を四分の一ほど残して箸をおいた雫が身を乗り出して迫ってきた。肩に手をかけ鼻先がぶつかってしまいそうなほど接近してきた彼女に冬夜は動揺が隠せない。いきなりどうしたというのか。

 

「な、なんだよ雫。どうした?」

「冬夜……」

「う、うん?」

「キスして」

「はい?」

「キスして。ここで、今すぐ」

 

 なにがどうなってなんでそうなる!?

 突然迫ってきた雫の要求に冬夜は混乱してしまう。周囲の生徒たちも雫と冬夜の会話を盗み聞きしていたのかチラチラと食事をしながら二人の動向を見守り始めた。なかには、決定的瞬間を写真に収めようと端末を取り出す者まで。しかしいきなり『キスしてほしい』と言われても冬夜は恥ずかしくて応じることはできない。なによりさっきから雫の様子がおかしかったので、なおさらキスをすることを躊躇った。だが、事情を聴こうにも、雫のあまりにも真剣な表情に聞き出すことができない。結果、更なる混乱だけが、冬夜の頭に残った。

 

「……えっと、え。ここで?」

「うん」

「今すぐ?」

「うん」

「みんな見てるぞ……?」

「別にいい。熱いキスしてほしい。舌と舌を絡めてもいいから……」

 

 急にねだる雫に、事情が呑み込めず混乱する冬夜。なんでそんな、二人きりになってもしないキスを雫が今ここでねだってくるのかが冬夜にはわからなかった。手をこまねいて黙って見ているだけの冬夜に、雫は我慢できないと言わんばかりに少しずつ近づいてくる。抱き着いたり、近くにいる程度では、胸の奥からこんこんと湧き上がってくる黒い靄が掻き消えないのだ。

 

(冬夜は私が好き。冬夜は私のモノ。仕事仲間がどれだけ美人でも、これからどんな綺麗な子が現れても、冬夜は私から離れていかない)

 

 魅力に欠けていると自覚している分、不安ばかりが増すばかりでどうしようもない雫は、自分の暗示が正しいと自分自身に言い聞かせるため冬夜にねだる。外野なんて彼女の目や耳には入っていない。『冬夜から愛されている』という証明がすぐにでも欲しかった。しかし、手をこまねいて見ているだけの冬夜にしびれを切らした雫は、自分から襲うことに決めた。

 

「しないなら、私からする」

 

 そう言い切るや否や、同級生が自分たちを見ている前で雫はいきなり唇を押し付けてきた。サラダについていたドレッシングの味が、口の中に広がっていく。周囲の生徒たちの話し声や黄色い歓声、端末のカメラ機能で写真を撮る音が聞こえてくるがことにも構わず、十秒、十五秒……と黙って唇を重ね合わせた。事態が呑み込めない冬夜は黙って受け止めていたが、雫が離れた後、思い切って聞いてみることにした。

 

「いきなりどうした雫。みんな見ている前でこんな大胆なこと……なんか嫌なことでもあったか?

「………なんでもない。ただ、急にしたくなっただけ……」

「??」

 

 聞いてみたが、返ってきた答えは残念そうな表情とさらに落ち込んだ声音。近くの席から「この鈍感!アホ冬夜ッ!」とほのかが罵ってくる声が聞こえるが、なんのことだかさっぱりわからない。思い切って振り返り同級生たちのほうに顔を向けたが、顔を向けた瞬間全員黙って食事を続けた。………訓練された軍隊みたいだ、と黙って二人の行動を見守っていた達也と思い惑う冬夜は彼らの一糸乱れぬ行動に対して他人事のようにそう感じた。

 

 ◆◆◆◆◆

 

 冬夜が雫の不可解な行動に頭を悩ませているその頃。

 たっぷり午前中の時間を使って見学と調査を完了させたIMAとCILの面々は、彼らにあり当てられた控え室(会議室)でお弁当を食べながら、報告をしていた。

 

「……つまり、ボスはネット上で騒がれていた北山雫嬢と男女の仲にあることは本当。それ以外の人物――例えば同級生や上級生の女子生徒、そして女性教師には――手を出していないと見るべき、ということか?」

「全員の意見をまとめるとそうなりますね。セクハラして困らせているなんてような話も聞きませんでしたし、安心して良いんじゃないですか?」

 

 モニカが話を聞き、華宮がまとめたその報告に今日一高に来た面々はホッと一息ついた。とりあえず懸念していた第四次世界大戦の危険はなくなったと考えて良いらしい。最悪のパターンを想定していた彼らにとって、これ以上にない良い報告だった。

 

「そうか……。それならリーナが暴走してスターズとの正面衝突になることはなさそうだな。本当に良かった……!」

「良かったわねモニカ。かつての同胞を手に掛ける可能性がなくなって」

「禰鈴としては、ドロドロの愛憎模様とか想像して面白かったので、アテが外れて少し残念です」

「昼ドラの見すぎだバカ。ウチに入れるつもりならともかく、恋愛関係でうちのボスが過ちを侵したことあるか?」

「リーナちゃん以外はありませんね〜。でも、イシュタルとしてもボスが取り合われているところとか見たかった気もしていたので、禰鈴ちゃんの気持ちも分かります」

「どうせその後乱入して引っ掻き回す気なんだろう?」

「えへ。分かっちゃいます?」

「お前が考えそうなことだからな。イシュタル」

 

 冬夜の生活ぶりがはっきりしたので、それぞれ違った反応を示すが禰鈴やイシュタルのような軽口が言えるのも、実際にはそんなことは起こってないという保証が出来たから言えるのもの。二人を諌めるネックザールやアルマデルの顔からもどことなく憑き物が落ちたような気が感じられる。

 

「でもやっぱり一人には手を出していましたね。北山雫。あの子がリーナちゃんがフラレる原因になった娘ですか……」

「あーっと、確か北山グループのご令嬢だったよな華宮」

「そうですよヴァイエル。父親は北方潮。母親は北山紅音。旧姓鳴瀬紅音です。彼女は振動加速系を得意としていたことで知られるA級魔法師です」

「ふーん」

「……せっかく親切に教えたのに興味なさそうですね」

「ねぇな。魔法は使いようだし血筋が良きゃ全部良いってもんでもないだろ」

「魔法師は遺伝的繋がりで強化されていくのですが……個人的には同感です。宝の持ち腐れなんて言葉もありますし」

「血筋が良いってだけで思い上がってるバカがいることも確かだろ。変な血統主義はクズと差別を生む原因になる。外面だけでなく中身も揃ってなくちゃ意味ねぇよ」

「……最近嫌なことでもあったんですか?」

「この間受けた依頼主の息子とやらがそういう奴だった。あまりにクズ過ぎたんで思いっきり殴り飛ばしたが、後悔も反省もしてない」

「うわぁ……」

 

 空を飛ぶドラゴンを拳一つで気絶させ地面に殴り落としたことのあるヴァイエルの行動に、華宮は顔も知らない依頼主の息子に同情する。彼のことだから殺しはしていないと思うがそれでも骨の二、三本は確実に折ってきたのだろう。話をするのが面倒だったので触れてなかったが、ヴァイエルが殴り飛ばしたその男は気に入らない奴を見つければ魔法で見動きを止め、気分が晴れるまで暴力を振るい続けるのが趣味というクズな人だったので同情はない。まぁ、そもそもそんな説明をしなくとも、よほどの理由がなければヴァイエルが人を殴るようなことはしないと、ここにいる全員が分かっていることなので、一々それを咎める者はいなかった。

 

「ま、クズだろうがなんだろうか私からすれば魔法師の血縁なんぞ関係ないがな」

『それ言っちゃアカン』

 

 

 キリシェの一言に全員がツッコむ。対魔法師用に作られた生物兵器からすれば、冬夜とIMA幹部以外の魔法師の違いなど黒アリと白蟻程度の違いでしかないらしい。恐るべし竜姫キリシェ。

 

「話は戻しますが皆さんこの娘のことどう思います?ボスの相手として」

「この手の話はボスにケジメを付けさせることで一致しているが、そうだな。悪くないんじゃないか?入学当時から一科二科の差別意識もないみたいだし」

「成績も悪くない。お嬢様だが、世間知らずということでもなさそうだ」

「独占欲があるのも良い。精神的に見て、下手に普通の娘と合わせるより自分だけを見てくれないと狂っちゃうような相手と一緒になる方がボスは上手く行くだろう。ボスも中々独占欲が強いところがあるしな」

 

 華宮の問いかけにアルマデル・ネックザール・サリナルヴァは好意的な返事を返す。冬夜は極端に寂しがりなので、浮気されることに耐えられないだろうと踏んでいるサリナルヴァは、ヤンデレな女の子がボスの相手にふさわしいと考えている。リーナは元からヤンデレだったわけではないが、ヤンデレな気質持っていたようで、今では誰もが恐怖する立派なヤンデレ乙女になっている。一高の入学試験の日、『えへへ……』と笑いながらヘヴィ・メタル・バーストを手に追いかけられた恐怖は、冬夜を含む彼らにとっても真新しい恐怖体験だ。あれを超える恐怖(狂気)はそうそう味わうことはないだろうと思っている。

 

「でも大丈夫ですかねぇ。見てくれだけならもっと可愛い子がたくさんいますよ?この娘も悪いわけではないですが、色々突っつかれそう」

「ヴァイエルの言葉に反するつもりじゃないけど、血筋が無名って言うのも痛いわね。いくら名のしれた魔法師の娘でも百家、十師族と比べると見劣りしちゃうわ」

 

 対して、イシュタルとナタラーシャが反対意見を述べる。彼女たちとしてもボスが選んだ相手なら別に誰でもいいのだが、想定され得る懸念は検討しておいたほうがいい。リーナと比べてポンコツではなくしっかりしているが、血筋重視な現在の魔法師事情からすると九島の血を引くリーナに負ける。さらにそこを根拠に敵対する相手が多くなる可能性がある。

 

「その二つに関しては本人の力ではどうしようもないことだろう。それに、生徒たちから聞いたボスたちのこれまでの経緯を考えると、むしろ女性的な魅力が低いことが彼女の独占欲の強化に繋がっている。悪いことだらけじゃないさ」

 

 その点を踏まえた上で、モニカが反対意見を言ってみた。確かに問題点にはなるが、本人に言ってもどうしようもないことなのだから言っても仕方がない。むしろヤンデレ化が進んでいるなら好都合と言うものだ。

(ちなみにこの話題で沈黙を貫き通した禰鈴とキリシェは『どちらの立場でもない』というポジションを選んだ)

 

 ※念のため言っておくが、この作品はヤンデレ育成小説ではないので、間違えないように。

 

 しかし、今のモニカの発言に感嘆すべき点でもあったのか、華宮は『うんうん』と頷きながらモニカの言葉に同調した。

 

「『女性的な魅力が低いことが悪いことではない』ですか……。すごいですね。モニカが言うとなぜか説得力があります」

「華宮、今すぐ謝るならその機械帽(メット)を分子レベルまで分解しないでおいてやるぞ。どうする?」

「嫌ですよ。私モニカより家事とか料理とか出来ますし」

「料理ってお前……。お前が出来る料理といえば、精々レトルトカレーを温めるか、配膳機(ダイニングサーバー)のボタンを押すことぐらいだろう。それのどこをどう見れば料理が出来ると言うんだ」

「それを言うなら、モニカだってお湯入れるだけのカップ麺を作るぐらいしか出来ないじゃないですか。フライパンも知らなかった人に料理云々言われなくありません」

「なにおう!?」

「うるせーぞテメーら。つーかそりゃどっちもどっちだ。料理云々言うなら、せめてオレの書いたレシピ本にある料理の一つぐらい作れるようになってから言いやがれ。

 つか、料理だけでなくお前ら二人共掃除も洗濯も出来ないだろ」

「「…………ごもっともです」」

 

 突然始まったIMAとCILのトップ同士の戦い。しかし世界的大ベストセラー『キノコ大全』の著作者にして料理長のヴァイエルによる鶴の一声であえなく終了される。今はHARがあるからそこまで料理が出来なくとも問題はないのだが、こうして一喝されると申し訳なくなってくる。ちなみに、イシュタルと禰鈴とナタラーシャは料理ができ、キリシェとサリナルヴァは「だからなんだ?」と言い返す度胸がある。

 

「と、ともかくだな。特に目立った欠点もないことだし、今後の展開を見守るという方向でいいと思うのだが、どう思う!?」

「社長代理、先程のやり取りの後だとまったく締まらないんだが」

「そっとしておいてやれネックザール。優しく見守ってやることも時には必要なことだ」

「……それもそうだな。すまん社長代――」

「ええい!憐れみの視線は止めろぉ!良いんだよそういうことはできる人に任せておけば!今後のボスの恋愛関係についてだけ良いか悪いか答えろぉ!」

 

 ついに子供のように泣き出しそうになるモニカをまぁまぁと、華宮がサリナルヴァが宥めにかかる。流石にこれ以上イジメるのは可哀想だと彼らは思ったので、『意義なし』と簡潔にモニカの案に賛成した。

 

「……出来る奴に任せるっても、せめて卵焼きだけは焦がさずに作れるようになってくれよな」

「ヴァイエル五月蝿いっ!」

 

 ……料理長(ヴァイエル)のささやかな願いが叶うのは、まだまだ先になりそうである。

 

 

 

 

 


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