魔法科高校の詠使い   作:オールフリー

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お待たせしました皆様。続きがかけたので投稿です。

内定欲しいのに面接が通らないのはなぜなんだ……。


九校戦に向けて(上)

 魔法科高校生にとって九校戦とは秋の論文コンペ(全国高校生魔法学論文コンペティション)に並んで一大イベントと呼んで差支えない大会だ。全国に九つある魔法科高校の精鋭たちが一堂に会するこの晴れやかな舞台に活躍したいと願う生徒は多い。しかし、参加出来るのは最高五十二人(選手陣で男女総数四十名、技術スタッフが八名、作戦スタッフ四名)までで、選ばれるにはそれなりの実績を持たなければならない。

 すなわち、例年通りであれば二科生よりも一科生、学年も一年生<二年生<三年生の順で選ばれる確率は高くなってくる。当然だ。魔法力に左右されないCADの調整技術に限って言っても、学年が上がっていくほうが知識や技術力が上昇しているだろうし、現代魔法は感覚的に分からなければ理論的にも理解が難しい概念が多数存在する。教員の指導を直接受けられる一科生のほうが二科生よりも優先的に名前が挙がるのはもはや必然といえるだろう。

 

 しかし、今年に限って言えばそれは異なる。

 なぜなら今年の一年生は――四葉冬夜をはじめとした多数の劣等生(イレギュラー)が入学した年なのだから。

 そして、劣等生たち(彼ら)の持つ特異性は、結果としてはっきりと表れていた。

 

「おめでとうございます兄様!見事、九校戦の技術スタッフに選ばれましたね!」

「ありがとうまやか。っても、前々からオファーはかかってたし、分かってたことなんだけどね」

 

 そんな劣等生(イレギュラー)の一人、零野朋也は自宅にて妹のまやかと一緒にこじんまりとしたパーティーを開いていた。クラッカーもケーキも用意していないが、二人の目の前で異様な存在感を放つ特上寿司のセットが、彼らを祝っていた。

 

「謙遜なさる兄様も素敵です。ですが、誇っても良いことだと思いますよ?技術スタッフに選ばれる八人のうち、一年生で選ばれたのは達也さんと兄様だけなんですから」

「まぁ、実際会議は紛糾したけどね。帰るときなんか忌々しそうな目で睨まれてたし」

「負け犬の遠吠えなんて聞く意味がありません。悔しかったら実力で返してみろっていうものです」

「ははは……吠えちゃいないけどな」

 

 深雪と同じく過度のブラコンを患っているまやか。そんな妹の行き過ぎた賞賛に朋也は引いてしまう。だが、本心から嬉しそうにしている妹の顔を見ると、悪い気はしなかった。

 きっと今頃、零野家本宅に住んでいる自分たちの両親は大騒ぎをしているだろう。朋也はあまり両親や本家の人間と折り合いが良くない。表向きは単なる実業家、魔法師の中でも異端の名家だということだけ知られているが、裏では反十師族を掲げている連中だ。時代の流れに逆らっている。大半は魔法の研究を続けているだけだが、中にはテロ活動などという過激な行動に出る輩もいるため、朋也として非常に厄介な存在だった。もしかしたら呼び出しが掛ってくるかもしれないが、その時は無視してやろうと密かに彼は考える。

 

「そういうまやかも、油断するなよ?オレは九校戦メンバーに選ばれたからないけど、お前には夏休みの宿題があるんだから。なにがあっても手伝わないからな、オレは」

「あははは。兄様ったら冗談がうまいですね。私たちは血を分けた兄妹なんですから、宿題という重荷も一緒に背負うべき」

「いただきまーす」

「最後まで聞いてくださいよぉ!」

 

 妹の戯言を聞き流して出前のお寿司を食べ始める朋也。本当は寿司屋(回らない方)に行きたかったのだが、残念ながら達也と違って家に金がない。両親と反目しているためあまり多くのお金を貰えないし請求できない。彼らは普段、質素に暮らさなければならなかった。

 

「まったくもうまったくもう。兄様ったら意地悪なんですから。もっと達也さんみたいに優しくなるべきです」

「じゃあお前は司波みたいに自分で宿題やれよ。普段まじめにやってるんなら手伝う気にもなるけどさ」

「や、やっているじゃないですか!普段から真面目に!」

「ほお?ではこの間、化学の問題が解けなくてオレに泣きついてきたのはいったいどこの誰だったかなぁ?」

「なにをいってるんですか兄様。西条くんのことですよね?」

「お前だよバーカ」

 

 「バカって言ったほうがバカなんですぅ!」と、小学生のケンカのようなことを始める高校生二人。聞いているとあまりの低レベルな会話に呆れてくるものがあるが、幸いにしてこの家には彼ら以外だれも住んでいない。

 一軒家に二人きり。あまり贅沢もできない生活ではあったが兄妹はそれでも幸せな毎日を過ごしていた。

 

「むぅ。兄様のアンポンタン。()()()()()達也さんとあんなに親密なくせに……」

 

まやかの口から、この一言が飛び出てくるまでは。

 

「オイ待てまやか。今言った言葉はどういう意味だ」

「え?どうもこうも美z……いえ、何でもありません」

「なんでもなくないよな?今オレたちの兄妹愛を粉砕させるようなこと口走ったよなぁ!?」

「あっはっは。兄様ったら変なこと言いますね。私たちの兄妹愛が壊れるなんてことあるわけないじゃないですか。天地が逆さになってもあり得ませんよそんなこと。あ、中トロ貰ってもいいですか?」

「別にいいけど今呑気にお寿司食べている場合じゃないよね!?おま、まさかソッチの方向に目覚めたわけじゃないよな……?」

「ソッチってどっちですか」

ボーイズラブ(BL)

「……兄様?バカなんですか?ゼロるんですか?」

 

 汚物を見るような目で睨まれて朋也はすこし気圧される。妹のそんな視線にめげることなく、彼はまやかの目を見た。この間燃えるゴミの日にたまたま見てしまった、妹が書いたと思われる(見覚えがなかったので十中八九まやかのだと断言できる)漫画の原稿が脳裏によみがえるが見ないふりをする。全裸の男二人が互いの友情を『深く』確かめ合っている絵が見えていたが、きっと研究で疲れていたんだろうと言い訳をする。妹がただの美少女から『発酵した美少女』にクラスチェンジしてないことを彼は割と本気で祈る。

 そんな兄の心情を知ってか知らずか、まやかは箸を置いてため息をついた。

 

「まったくもう。私がそういう子になっているわけないじゃないですか。いくら美術部に入部したからと言って、そんなこと言われると悲しくなります。偏見ですよそれは」

「……あ。ああそうだよな!?いやごめん。あまりに意味深に言うからてっきり()()()()()()かと思っちゃったわ。うん、ごめんまやか」

「そうですよ。なにを変なこと言うんだか。私はただ、男の子同士の〝深い”友情に興味があるだけなんですから!」

「………………………」

 

 どうしてだろう。めでたい席だというのに涙が出てきた。ついでに、頭も痛くなってきた。

 

「さ、兄様。もっといっぱい食べてください。今日の主役は兄様なんですから、せっかくの贅沢を味わないともったいないですよ?」

「アー、ウン。ソウダネー……」

 

 昔からなにひとつ変わらないであろう最愛の妹の笑顔。純真な心も体型もなにひとつ昔から変わっていないと思っていた妹が、いつの間にか変わっていたことに朋也はショックを受ける。今後、このひとつ屋根の下どうやって妹と暮らしていけばいいのだろうか――。答えのない問題に突き当たった彼は、一人悶々としながら、味のしなくなった寿司を口に運ぶのだった。

 

◆◆◆◆◆

 

さて、ここで突然だが読者の皆様に一つ問題を出そう。『週刊少年ジャンプの三大法則』と言えばなんであろうか?

無論、ジャンプを愛読している人なら簡単に答えられる問題だろう。そうでなくとも、聞いたことぐらいはあるのではないだろうか。そう、答えは『友情・努力・勝利』である。決して『ヤンデレ・痴情のもつれ・nice boat』ではない。間違えないように。

 

閑話休題。

 

とにかく、ジャンプといえば『友情・努力・勝利』という言葉がある。更に言うなら、この三大法則は王道のテーマとも言えよう。そしてそれは、ジャンプだけに限らずライトノベルや小説などにも当てはまる。雫との『友情』、もとい愛情を確かめた冬夜が、九校戦で『勝利』するために次に行わなければならないことは何か。

お分かりだろう。『努力』、すなわち『修行』である。

そんなわけで、現在冬夜は九校戦に向けてIMAの部下たちを相手に修行をしていた。

 

「おはようございます冬夜様。いい朝ですね」

「…………あぁ、おはよう水波。不思議だね。一睡もしてないのにもう日が昇ってきたよ。なんでだろうね」

「なんででしょうね」

 

四葉本宅を囲む山の中で、一晩中追い掛け回されるという特訓をしていた。もとい、させられていた。

 

「綺麗な朝日です。今日は良いことがありそうですね」

「………そうだね。良いことあるといいね」

 

淡々と日の出の感想を述べる水波の隣で、冬夜は睡魔と戦いながら頷く。

四葉本宅を囲む山。その中にひっそりと隠れるように設置された見晴台。旧第四研時代の名残で、非合法な魔法実験の被験体が脱走しないかどうかを見張るために設置されたここは、四葉の村が一望出来るほど景色が良い。ところどころ目につく壁の赤黒いシミに目を瞑れば、気分を変えるのに一番最適な場所だ。憂鬱な気分を一蹴する事が出来る。

 

「天気予報によりますと、本日の天候は快晴。雲一つない空で、お洗濯日和だそうです」

「………そうだね。洗濯日和だね」

「ピクニックも良いかもしれませんね。レジャーシートの上で食べるサンドウィッチは、きっと格別ですよ」

「……………そうだねー。サンドウィッチ美味しいよねー」

「冬夜様?」

 

矢継ぎ早に続いた言葉に疑問符が出てくる。視線を少し上にあげて水波は、冬夜の目を見た。

 

「どうかなされましたか冬夜様。なんだか覇気がないように思いますが」

「どうしたもこうしたも――」

 

いつもなら気持ちがリフレッシュするはずの場所で、陰鬱な気持ちのまま変わらない冬夜は、気怠げな表情をして隣を見る。

 

「本当になんで、オレはこんなところにいるんでしょう?」

 

寝間着でも私服でなく、運動に適したトレーニングウェアを着た姿で、冬夜は茫然と呟く。不思議にもなる。夢遊病にでもなったわけでもないのに気が付いたらここで朝を迎えていたのだから。眠い以上にひどく疲れているのもオカシイ。家にいてなんでこんなに疲れ切ってないといけないのだろうか。

 

「なぜかと言われましたら、昨夜、IMAの皆様と始めた鬼ごっこのせいだと思いますが」

「あぁ。そう、そういえばそうだったなぁうん。

 …………いやおかしいだろ!なんで九校戦のトレーニングで一晩中逃げ回んないといけないんだよ!?鬼ごっこなんて競技ねぇぞ!?」

「仕方ないと思います。冬夜様が『捕まえた人の言うことをなんでも聞く』などというご褒美を設定してしまいましたから」

「冗談で言ったつもりだったのにな……。アイツラ本気でかかって来やがって」

 

一晩中飢えた野獣(比喩)から逃げ回ってどうにかここに逃げ込んだ冬夜。なんだか無駄に疲れてしまいため息が出てくる。部下たちのあまりの真剣さに恐れをなした彼は、早朝訓練が終わった水波と連絡を取り偵察も兼ねて迎えに来てもらったのだ。情けないと言うなかれ、身の危険を感じたのだから仕方がない。

 

「ですが、ご安心を冬夜様。一通りこの周囲を見て回りましたが、人の気配はしませんでした」

「あ、そう?なら良かった」

「はい。そうなんです。というわけで、えい」

「………どうしたの水波」

 

ホームとアウェーの差が出たのか、ほっと一安心する冬夜。と、そこでどういうわけか水波がしがみついてきた。

 

「冬夜様。捕まえました」

「…………お願いは?」

「後で言います。お疲れでしょうから、とりあえず本宅の方に向かいましょう」

 

そう言って、腕に抱きついたまま冬夜を引っ張る水波。成長期に入った冬夜との身長差のせいで、見上げるような形で冬夜を見つめるが、その表情と仕草が一々可愛い。気遣いが出来る点でも、IMAの年増たちとは大違いだ。

 

(オレは悪くない。水波が可愛いのが悪い)

 

自分は悪くないのだから、ついそんな可愛い水波をナデナデしてしまっても仕方がない。不可抗力というやつだ。

 

「ありがとうな水波。今日は雫と特訓する予定だから付き合えないけど、埋め合わせは必ずするよ」

「特訓?北山様とですか?」

「あぁ。今日CILの研究所行って魔法を教える約束してるんだ。九校戦に向けて特訓したいんだってさ」

 

 以前軽いノリで『お試しで一回だけ指導する』と約束してしまったことを思い出す。ずいぶんと気合が入っていたのでこちらも相応のやる気を見せないといけないだろう。でないと、雫が怒る。

 

(私も受けたいなぁ)

 

想い人と恋敵との約束に水波は羨ましいと思う。冬夜(と二人きりで)の指導、という内容もそうなのだが、純粋に魔法師の一人として、冬夜に魔法を教わりたいと思った。

冬夜は現代魔法と名詠式の両方を使いこなす人物として知られているが、じつは北欧のルーン魔術のような古式魔法も使える。冬夜の戦歴や戦闘時の話を聞いて古式魔法も学んでみたいと、最近水波は考えているのだ。

一方の冬夜は、想い人の名前を口に出して自覚したのか、今の自分の顔を雫に見せる訳にはいかないと思い、少しでも仮眠を取らなければいけないと、危機感に見舞われた。

 

「……うん、こうしちゃいられない!帰って寝るぞ!」

「ではどうしましょうか?一緒に山から降りますか?」

「いや、面倒だから空間移動で帰る。アイツらは放っておけば良いや。腹減ったら下山してくるでしょ」

「その心は?」

「一睡もさせてくれなかったことに対する腹いせ」

「なるほど」

 

予定調和のやり取りを交わして、冬夜は水波の肩に手を回す。先ほどの約束を聞いたためか、水波はさり気なく冬夜に体を密着させる。そんな恋する少女の僅かな態度の違いにも気付くことなく、冬夜は自室に向かって移動した。

 

◆◆◆◆◆

 

 久々の触れ合いということで一晩中冬夜を追い掛け回したIMAやCILのメンバーといえば、顔が整っていること以外に強烈な性格をしている者が多いことで有名だ。個人個人の能力は高いのだがそれに比例する形で常識という概念をスッとばす彼らに管理職の冬夜やモニカは日々胃を痛めている。特に女性陣に関しては頭のネジの外れっぷりが酷く『少しはマトモになってくれないものだろうか』とセクハラを受ける冬夜は願っている。以前一高に来た時も女性陣がメインに暴れていたため影が薄かったが、割合的に言うならば男性陣は大人しく、また常識的だ。

 しかし、そうはいっても冬夜の部下たちだ。表に出さないだけで深く付き合ってみると、彼らの非常識っぷりが身をもって感じられる。

例えば――

 

「待ちくたびれたぞボス。剣の腕は鈍ってないだろうな?さぁ、約束通りこれからオレとの鍛錬に付き合ってもらおうか」

 

早朝、それも空が白み始めた超早朝に、水波と別れ仮眠をとろうとしていた冬夜を捕まえ、あろうことかトレーニングに誘ってきた生粋の鍛錬狂(バカ)の存在とか、である。 

 

「………とりあえず聞くけどさ。なんでここにいんの?先に山から降りていたのか?」

「いや。ある程度時間がたったら空間移動でここに逃げると踏んだんでな。しばらく待ち構えていればお前を捕まえられると思っていた」

「お見通しってわけかよ……」

「最初に言ったのはしたのはオレじゃなくてイシュタルだ。みんなで交代してお前を待ち構えていた。交代の時間に帰ってきていたようだが……ラッキーだったよ」

 

冬夜の部下、IMAが誇る金髪のイケメン大剣士、【アルマデル・ネストリウス・オーヴァ】が面倒臭そうな顔をする冬夜にニッ、と笑ってみせる。二メートルを超える長身に凛々しさの際立つ白皙の相貌。男くさい笑顔を浮かべモテる要素に満ち溢れた奴なのだが、当の本人は恋愛にさほど興味はなく、暇さえあれば四六時中剣を振るっている鍛錬狂(トレーニングマニア)なのだ。

 

「そっかー。アルマデルは鍛錬がお望みかぁ」

「あぁ」

「そっかそっかー。………うん、頑張れよ!」

「逃がすと思ったか?」

「ぐふぅ」

 

自然な会話の流れに乗じて逃げようとしたが、鋭い手刀によって空間移動が失敗してしまう。本気で逃げるつもりは元々なかったので別に構わないのだが、手刀の一撃が地味に痛い。

 

「……………アルマデル。もう一回聞くけど『鍛錬』ったか?しかも()()()

「そうだが?」

「そうか」

 

不思議そうな顔をして首を傾げるアルマデル。フカフカのベッドを目の前にして眠気がピークに達している冬夜は、ベッドの上にある時計の方へ顔を向ける。

 

()()四時だぞ?」

()()四時だろう。早朝の訓練を始めるには丁度いい」

 

なんの疑問を抱くことなく、飄々と言い放つアルマデル。その表情に深々とため息を吐いた冬夜は、睡眠時間の確保のために説得を始めた。

 

「いいかアルマデル。オレ、成長期。夜更かし=成長に悪い。OK?」

「なぜ片言なのかはしらんが、それを言うならもう朝だ。今更だろう。というか、今まで仕事で三日三晩不眠不休だったことあっただろうが」

「仕事ならそれで割り切れるけどさ。オレ、今日はデートの予定が入ってるんだよ」

 

アルマデルの手前『鍛錬』とは言えない。そんなことを言えば『オレとの鍛錬の方が百倍身のためになる』と言って連れ出されるのが目に見えているからだ。

しかし、当の本人は『そんなの知らん』とでも言いたげな表情で腕を組む。

 

「そんなの『君とのデートが楽しみで眠れなかった』とでも言えば誤魔化せるだろ。ファンデーションで隠せば問題ない」

「遠足前の小学生かオレは!?」

「まぁ待てボス。落ち着いて自分の現状を再確認してみろ」

 

組んでいた腕を解いて、ビシッと真正面からアルマデルに指差される。

 

「四月のブランシュ、交流会の灰色名詠。これまで学校のイベントごとで襲撃を受けてきたお前が、九校戦で襲われないという保証がどこにある?」

「む」

「さらに言えば、今年の九校戦はかなり注目が集まっている。十師族だけで見ても一条・四葉・七草・十文字と半分近くが集まっているんだ。日本国外のテロリストがやって来るには十分な理由だろう?」

「や、でも来ると決まったわけじゃないし……。つーかそこも含めてお前らが守ってくれるだろ?」

 

痛いところを刺されたが、とっさにそう返す冬夜。自分に来た依頼を彼らに託した以上、冬夜も彼らを信じて九校戦に臨むつもりだ。名詠生物だろうと魔法師だろうと彼らなら必ず撃退してくれると信じている。

 

「甘いな。試合中の選手に手を出してくる可能性もある。もちろん可能な限りオレたちで動くが、選手であるお前自身が動いたほうが早いケースもある。

いや、この言い方は適切ではないな。すでに敵が来るとわかっている以上、ボスもそれなりに用意しておいた方がいい」

「おい待て。敵が来るとわかっている、ってそれはどういう意味だ。説明しろ」

 

眠そうな顔から一転、アルマデルのセリフによって社長の顔になった冬夜は険しい表情をする。アルマデルも真面目くさった顔のまま、説明を始めた。

 

「サッカーしかり、野球しかり、何かしらのイベントっていうのは試合予想を巡って賭博が行われるものだ。合法か違法かはさておいてな。

九校戦も例にもれずトトカルチョが行われる。ボス、『無頭龍』っていう香港系犯罪シンジゲートは覚えているか?」

「ソーサリー・ブースターを作っていたところか?そういえばあそこ、資金集めに闇オークションと賭博場開いていたな……」

「そうだ。あそこの組織は、毎年九校戦でトトカルチョを開いている。ここ二年は賭けにすらなってないようだったが、今年は三高に莫大な金をかけて開いている。組織の経営が傾くレベルの大金を、な」

「………正気か?身内びいきになるけど、今年も一高の優勝で確定だと思うぞ。黄金世代の先輩方に夜色名詠士(オレ)。百家でも粒揃えの人材が集まってるし、一年もリーナと同クラスの才能を持つ司波がいる。技術スタッフも達也と朋也がいるし、付け入る隙がない」

「そう。前情報を少し調べただけでも他校に勝ち目がないことがわかる。実際、参加している組織のほとんどが一校にかけている。にも拘わらず、主催者は三高に巨額の金をつぎ込んだ。なぜだと思う?」

「そんなの手っ取り早く大量の資金を得るため――あぁそういうことか」

 

アルマデルが何を言いたいのか理解できた冬夜は不愉快そうに顔をゆがめた。

 

「ヤバいぐらい金掛けたんだから勝ってもらわなきゃ困る、ってことね」

「そうだ。しかも連中にとって今年の結果には自分たちの命が掛かっている。となると、どんな手を使ってでも一高が負けるように細工をするだろうな。最悪、死人か再起不能状態になる選手が出てくるだろう」

 

 淡々と言うアルマデルの言うことに嘘はない。自分たちの命がかかってるとなれば、連中はどんな手でも使ってくるだろう。そこに善悪の区別はない。自分たちの欲さえ満たせれば良いという、自己中心的な存在に常識を言ったところで徒労に終わるだけだ。

 

「で、もしもそうなったとしてだ。ボス、今のお前で連中と戦えるのか?休職中で少しでも鈍った剣の腕を取り戻しておくことに越したことはない。

 しかもお前の想い人は入学時の学年次席なんだろう?被害が出ないとは言い切れん」

「アルマデル……。お前そこまでオレのことを考えて」

「ようやく分かったか。そうだ。オレがお前に訓練に付き合わせるのも、すべてお前のことを考えてのことだ」

「………すまなかったアルマデル。オレが間違っていた」

 

 冬夜は感動した。知らなかったとはいえ今年の九校戦にそんな陰謀が隠されていようとは考えてもいなかった。そして、その陰謀に負けないように自分の身を真剣に案じてくれていた部下たちに感謝する。

 

「今の今まで、ずっと訓練相手がほしいからって理由で付き合わせようと思っていたけど、違ったんだな!」

「そうだ。やっとわかってくれたか」

 

 満足そうに頷き、微笑を浮かべるアルマデル。

 

「まぁ、確かにそっちが本音ではあるが、それを漏らすわけが……………あ」

「やっぱりそっちが本音か!オレの感動を返しやがれコノヤロウ!!」

「く……。まぁそんなことどうでもいい。オレもイシュタルもまともに相手できる奴が他にいなくて退屈してるんだ。たまには部下を労え」

「そこで開き直るなよっ!?いやっていうかお前、さっきわざと本音漏らしたな!?」

「うるさい大声出すな。就寝中の真夜さんに迷惑だろ。ほら行くぞ」

「止めろぉ!はーーなーーせぇーーーぇっっっ……!」

 

 首根っこをギュッと掴まれて、冬夜はドナドナされていった。

 

 





下はすでに完成してますので、少し間をおいて投稿します。お楽しみに

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