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チャラ男「うぇ~い指揮官くん見てる~?」

「よし、キレイになったな」

 

 手慣れた様子で、指揮官はメンテナンスを終えた銃を組み立てる。

 そして無駄に重々しい椅子に座り込み、タバコに火をつけた。

 

「もう、指揮官。またタバコ?」

 

「ん?ああすまん」

 

 執務室に入ってきた副官の姿を見て、彼はタバコを口から離す。

 

「ああ、いいの。タバコ吸ってる姿は好きよ」

 

 そういいながらも、副官の彼女は何かを要求するように手を差し伸べてくる。その顔は少し怒りの混じった笑顔だった。

 

「はあ、お見通しってわけか」

 

 指揮官はしぶしぶとタバコの箱をとりだす。それは、先程こっそりと買ってきたものだった。

 

「私だって指揮官の趣味をつぶしたくはないんだけど……」

 

 彼女はそっと顔をそむける。

 

「早死はしてほしくないから」

 

「まったく、そんなこと言われちゃ控えるしかないな」

 

 彼はそういいながら、コート裏の隠しポケットからもタバコの箱を取り出した。

 

「stand up」

 

「えっ?」

 

「両手を壁について立ちなさい、指揮官?」

 

 このあとむちゃくちゃ身体検査されて、タバコを没収された。

 

 二人の左手薬指には、同じデザインの指輪が煌めいていた。

 

 

 

 

=*=*=*=*=

 

 

 

 

「なあなあ、ちょいと身分証忘れただけじゃねえか。開けてくれねえの~?」

 

 保護区域へと続く検問所で、男はサングラスを上に上げてそう言った。

 

「身分証明~?てきとうに基地内の人形に……ああん人間じゃないとダメ?」

 

「仕方ねえな……ああ、確か○地区で指揮官やってるあいつがいたかな。顔でわかるはずだからさ~」

 

 男が取り出した写真には、その男の隣に誰かが映っていた。警備員は、その男の隣に立つ人物の顔を、つい先程まで見ていた。振り返って事務所を見れば、ちょうどニュースでその人物が映る。

 

「おっ、なになに?あいつ英雄だなんて言われてるのか?」

 

 テレビの音声を聞いてか、男は呆れたように鼻で笑う。

 

「それで、通っていいのか?」

 

 警備員は迷った揚げ句、上に判断を委ねた。

 

 

 

 

=*=*=*=*=

 

 

 

 

『もうやめてくれ!』

 

『馬鹿が!』

 

『なっ……!』

 

『おまえのものは俺のもの。そうだろ』

 

 

 

 

 

 

 

 

「指揮官!もう、居眠りして」

 

「ああ、すまない」

 

 指揮官は顔を振って意識をはっきりさせる。昼過ぎの執務で眠くなってしまったようだった。副官の淹れてくれた紅茶で目を覚ます。

 

「そんなんでこの後の会議、大丈夫なの?」

 

「問題ないさ。どうせいつもどおりだ」

 

「はぁ、まったく」

 

 副官の彼女は、書類の束を彼の机に置いた。

 

「これは?」

 

「さあ?IOPからよ」

 

「ああ、そういえば何件か頼み事をしてたかな」

 

 指揮官はペラペラと書類をめくる。

 

「よし、それじゃあ会議の準備にとりかかろうか」

 

「もう終わってるわ。誰かさんが居眠り中にね」

 

「有能な副官を持てて僕は幸せだよ」

 

「じゃあ私は不幸ね。指揮官がこんな人間で」

 

「ひどくないかい?」

 

 移動中も、会話が途切れることはなかった。

 

 

 会議室へと着けば、今回の部隊メンバーが彼らを迎え入れる。

 

「さて、今回の作戦だが――」

 

 普段どおりに、指揮官は会議を進める。何の不備もない、完璧と言ってもよいほどの作戦だった。

 

「――以上だ。何か意見があるものは?」

 

 誰も声をあげない。彼女らも、彼とその作戦を信頼していた。

 しかし、副官だけはそうではなかった。一時解散後に、指揮官に話しかける。

 

「もう1部隊、動かせないかしら」

 

「……捻出はできると思うが」

 

「ならいいわ。無理しなくても」

 

「戦力が足りないのかい?」

 

「いいえ、これだけあれば十分よ。いくら新人たちとはいえ、戦術人形だもの」

 

 彼女も装備を整えながら、そう言った。他の人形たちも出撃準備を終え、ヘリポートへと集合する。

 

「それじゃあ行ってくるわ」

 

「ああ、いってらっしゃい」

 

 副官の出撃を見送りながら、男はタバコに火を着けた。

 

 

 

 

=*=*=*=*=

 

 

 

 

「状況は!」

 

 司令室に、彼の怒号が響く。

 

『わからない!増援!?新しい勢力!?』

 

 副官からの通信は、銃声で聞こえづらかった。

 

「ちくしょう!」

 

 マップに書き込まれた線は、まるで絶望の二文字を表しているかのようだ。

 

「まだ、なにか策が!」

 

 考えれば考えるほど、状況が最悪であることを再認識させられる。もはや、損害なしでは切り抜けることは不可能であった。

 

「こちらも増援だ、増援を送る!耐えてくれ!」

 

『持たない!……あなたたちは逃げなさい』

 

「待て!何をする気だ!」

 

『私がここに残るわ。大丈夫、バックアップはとってるから』

 

「そういう問題じゃ!」

 

『これが最善よ。なに、少し帰りが遅れるだけよ』

 

 通信は一方的に切られる。部隊の位置を示すマークが、動き始めた。一直線に、唯一の脱出可能ポイントを目指して。

 

 

 

 

=*=*=*=*=

 

 

 

 指揮官はタバコを咥えると、火も着けずに椅子へと座り込む。そしてそのまま、天井を見上げる。

 

 その日は、仕事を急かしてくる副官がいなかった。

 

 彼はタバコを灰皿へと投げると、書類をめくり始める。しばらくノロノロと仕事をして、そして立ち上がる。

 

「くそっ!」

 

 壁に手を打ち付ける。まるで生を実感させるように、打ち付けた拳がじわじわと痛む。

 

「あのとき、俺が部隊を捻出さえしていれば……!」

 

 そのとき、ピラリと一枚の書類が机から滑り落ちる。

 それを拾い、軽く目を通す。

 

 

 それは、副官のメンタルモデル再構築の失敗報告書だった。

 

 

 目を見開き、彼は詳細へと目を通す。

 

「エラー?活動中人形のメンタル再構築は不可能……?」

 

 そこには、副官がいまだに生きているという、救いのようで残酷な報告があった。活動中である限り、彼女はバックアップによる復元が不可能である。彼女の帰りは、さらに遅くなってしまう。

 

 ピコン

 

 もう今日何本目かわからないタバコを口に咥えこんだ瞬間、指揮官の端末から着信音がなる。

 

 そのビデオ通話の着信元は、見覚えのない番号からであった。普段なら拒否するはずだったが、指揮官はどうしてか、今回だけはその着信を受け取った。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

「うぇ~い指揮官くん、見てる~?」

 

 着信元は、見覚えのある男からだった。その軽薄そうな男は、指揮官の顔を見てケタケタと笑っていた。

 

「おまえ……!もしや……!」

 

「君の大切にしてた人形ちゃん、いま俺の隣で寝てるよ」

 

 彼はカメラを移動させる。そこには、彼の副官が横になっていた。服はボロボロで、体にはいくつもの傷が刻み込まれていた。

 

「そんな……馬鹿な……」

 

「その顔が見たかったぜ」

 

 男は愉快そうにケタケタと笑う。

 

「あれ……指揮官……?わ、私……」

 

「無事なのか!」

 

「指揮官……ごめんなさい私……」

 

「君が謝る必要はない。僕の責任だ……」

 

 その様子を見て、男は明らかに不機嫌そうな顔を浮かべた。

 

「おいおい、なんで俺をほったらかして二人でくっちゃべってるわけ?」

 

 男が副官の彼女を睨みつける。

 

「ひっ……」

 

「な~んでいまさら怖がってるのかな~?」

 

「やめて……もうコレ以上は」

 

「おいおい、冗談はやめろよ……!」

 

 いびつにも見える笑顔を、男は彼女へと向ける。

 

「ひっ……!」

 

「まったく……。おい指揮官くん、おまえなんて教育してるんだよ」

 

「……」

 

 指揮官は顔をうつむける。顔に影がかかり、表情が読めなくなる。

 

「まったく、手のかかるやつらだ」

 

「そこから動くな。もう……、動かなくていい」

 

 呆れて首を横に振る男に、指揮官はそう絞り出すように言葉を紡いだ。

 

「何言ってんだよ。おまえに俺の行動を縛る権利はねえよ?」

 

「部隊を送る。おまえはそこで回収する」

 

「は~?おまえさ~状況がわかってんのか?」

 

「わかってるさ」

 

「わかってないだろ?おまえここがどこだかわかってんのか?」

 

 男は手を頭にやり、はあ、とわざとらしく大きなため息をつく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは鉄血の拠点のど真ん中だぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう喋らないで!あなた腕が吹き飛んでいるのにどうして笑ってられるのよ!」

 

「へへ、俺なんかを心配してくれるなんて……いい女じゃねえか」

 

「馬鹿なこといってないではやく傷を見せなさいよ!」

 

 ファーストエイドキットをとりだそうとする手を、男は無事な方の手で止めた。

 

「やめろ。俺はどうせ終わりだ」

 

「指揮官!」

 

「……」

 

「どうしてどうして何も言ってくれないのよ…」

 

 すがりつくように指揮官に声をかけるも、カメラはすでに切断されていた。

 

「親友なんでしょ!」

 

「そうだ」

 

「だったら」

 

「俺にだって不可能はある」

 

 残酷にも、暗転した画面からは非情な声が聞こえる。

 

「へへ、わかってんじゃねえか。俺はもうたすからねえ。血を流しすぎた」

 

「どこかに血液パックが……!」

 

「わからねえのか!ようやく隠れられたんだ。ここから動くな」

 

 辺りを見回す彼女の腕を、男は力強く握る。

 

「そんな……どうして私のために……」

 

「馬鹿野郎。おまえがいなきゃあいつが悲しむだろ」

 

 まるであたりまえかのように、男はそう答えた。

 

「私には替わりがあるのに……」

 

「その指輪にも替えはあるのか?」

 

 その言葉に、彼女は目を見開く。

 

「大事に……、しろよな……」

 

「ちょっと!」

 

「少し……、眠く……」

 

 男の目の焦点が、だんだんと合わなくなっていく。しかし、彼女を止めるための力だけは、弱まらなかった。

 

 

 

 

「っ!爆風!?」

 

 しかし、突如の爆風が彼の意識を叩き起こした。

 

「なんだよ……、早いじゃねえか」

 

「敵……?」

 

「くそっ、寝てる場合じゃねえってか!」

 

 男は飛び起きると、器用に片手で銃を構える。

 

「あなたこれ以上動いたら本当に死ぬわよ!」

 

「なに、こんな美女の側で死ねるなら本望さ」

 

 へへっと笑い、敵を向かい撃つべく彼は引き金に指をかけた。

 

 

 

 

「なら残念だ。その望みは叶わないからな」

 

 副官専用の通信端末から、そう声がした。

 

 突如、銃声がさらに大きくなる。それは、着実に男たちの方へと向かってきていた。

 

「指揮官!」

 

 彼らの目の前に現れたのは、ボディアーマーを着用した指揮官の率いる精鋭部隊だった。

 

「ちっ、その装備。懐かしいじゃねえか」

 

「おっと、なに突然バランス崩してるんだ。ほら、肩貸してやるから立て」

 

 膝から力の抜けた男を、指揮官はがっしりと掴む。

 

「くそ……かっこいいなまったく。敵わねえや」

 

「なにアホなこと言ってんだ。ほら、帰るぞ」

 

「どうせ満身創痍だ。置いていってくれ」

 

「あまりガタガタ抜かしてると舌を引き抜くぞ」

 

「へへ、こわいこわい。まったく黙っていれば寡黙なヒーローだってのに」

 

「ヒーロー?笑わせる」

 

 男の言葉を、指揮官は鼻で笑った。

 

 

 

 

『もうやめてくれ!』

 

『馬鹿が!』

 

『なっ……!』

 

『おまえのものは俺のもの。そうだろ』

 

『だからってそんな……大人相手に喧嘩売ってボロボロになってまで……』

 

『おまえにとって大事なら、それは俺にとってだって大事なものだ。そうだろ?』

 

 

 

 

「いつだって俺の大事な物を守ってくれるのはおまえじゃないか。おまえこそが、ヒーローだよ」

 

 

=*=*=*=*=

 

 

 静寂の支配する中、男はとある墓石に花束を供える。

 

「ごめんな……、おまえを救えなくて」

 

 しばらく目を瞑り口を閉じたあと、彼は笑う。

 

「でも、今度は救えたぜ」

 

 彼は首元からドッグタグをとりだす。そこには、指輪が通してあった。陽の光を鈍く反射して、キラリと光った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それは良かったですね」

 

 男は目を見開く。

 

「前の私も、きっと喜んでいるでしょう」

 

 後ろから近づいてくる気配を感じながらも、男は動けずにいた。

 

「シラユキゲシ……私に供えるには良い花ですね」

 

「なぜおまえがここに……」

 

「私は人形ですわ。バックアップからある程度の復元は可能でしてよ。完全とは言えませんが」

 

「違う、俺が聞いているのは、どうして俺を知ってる個体が生きてるのかだ」

 

「ああ、知らされていなかったのですね」

 

 彼女は納得したかのようにうなずく。

 

「私の破片を、彼の部隊が拾いに来てくれたのですよ。そしてIOPに私費を投じて復元のための研究も彼が。ああ、彼と言うのは――」

 

「いや、言わなくていい。わかってる」

 

 男は彼女の言葉を遮った。

 

「まったく……敵わねえや」

 

 サングラスをかけて、男は車へと乗り込んだ。久しく使われていなかった助手席に、彼女を乗せて。

 




実はいいやつ系チャラ男はそろそろ英霊化しそう


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