僕のヒーローアカデミア 手マン抹殺RTA デク憑依ルート 作:槍持
相澤視点
「おぉ、この子、緑谷くんか、すごいな」
「ええ。スピードは並のプロより上かも」
「パワーもやばいぜ。3ポイント標的が紙屑だぜ」
今俺は入学試験の採点のために記録映像を見ている。ドライアイの身としては薄暗い部屋で明るい映像を見続けるというのは辛いのだが、こればかりは仕方ないことだろう。
そんな中で特に目を惹くのは、緑谷出久。6年前のあの事件で助けたあいつだ。リカバリーガールの言ったとおりになった。しかし解せない。こいつは確かに無個性だったはず。それがどうして、増強型としか思えない個性を使っている?
確かに個性の発現が遅れるケースも存在しないわけではない。だがそれも大抵は10歳になるまでには発現している。それか発現していたが気付ける形ではなかったため登録が結果的に遅れた、そんなものがほとんどだ。
だがこいつが使っている個性はそんなものじゃない。これほどの身体能力増幅率ならば気付かないわけがない。
『ILLINOIS SMASH!!!!!』
「まるでオールマイトだな! スマッシュだなんて、個性も似てるし、何より女の子を助けるために戦うってのがいい! 俺ァ気に入ったね!」
山田のやつは相変わらずだ。脳天気に大声出して騒いでやがる。それでいて目は冷徹に見極めているのだから咎められない。正鵠を得ている。そう、こいつの個性はどう見てもオールマイトの縮小版だ。
ちらりと、今年から雄英高校の教師として活動することになったオールマイトを横目で見ると、嬉しそうに頷いている。いや、表情はいつも笑顔だから見分けはつかないのだが。それでも隠しきれない喜色が滲み出ている。本当に隠す気があるのか?
緑谷出久は首席入学となった。何やら女性に執着するような動きが見えたのは不安でもあるが、力も学力も申し分ない。そこに異論はない。
だが思い出すのはあの病院での一コマだ。あいつは自分の命を簡単に俎上に上げてしまう。それは命がいくつあっても足りない。合理的じゃない。
……仕方ないな。俺が見ておこう。卒業までに、奴の悪癖が治ればいいのだが。
☆☆☆
やはり奴は問題児だった。俺は再び記録映像を見ている。とはいえ今見ているのは個性把握テストと第一回戦闘訓練のものだ。
爆豪が因縁をつけ絡もうとするのは緑谷が悪いわけではないのかもしれないが、手間がかかることに違いはない。しかし授業で手を抜こうとするのは問題だな。
思えば入試のときも廃ビルの屋上によく登っていたが、それは周囲の状況把握ではなくサボるためだったのではないか?
個性把握テストでも八百万が睨むまでは適当に済ませようという雰囲気がみえみえだった。だから除籍を持ち出して発破をかけたのだが。それでも手を抜くならば本気で除籍にするつもりだったのだ。惜しいことをした。
奴の身体能力・個性性能、そして戦闘センスはずば抜けている。中学三年生時の運動能力測定記録を取り寄せてみたが、桁が一つどころではなく違う。
爆豪が言っていたほどに身体能力が劣っているわけではなかったが、それでも無個性でヴィランを相手にできるほどではなかった。
それがどうだ。身一つで無理をこじ開けてしまいそうな勢いではないか。八百万に負けたのは仕方がない。生身のはずなのに電磁加速に耐えるほうがおかしい。峰田など反復横跳びで自分のお株を奪われて泣いて良いのかどうか複雑な顔をしていた。
そして戦闘。爆豪の瞬殺は明らかに狙ってやっていた。格闘戦を得意とするプロでも厳しいだろう完璧な動き。なるほど幼い頃から研鑽したというのも納得のキレ。だが、それだけではない気がするのだ。杞憂ならばいいのだが……。
その後は真面目にやるふりをして手を抜いていた。全力ならば麗日の出番はなかったに違いない。
まったく、やはり問題児だ。
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お茶子視点
遅刻! 遅刻してまう! 普通の学校の感覚で目覚ましかけとったのが駄目だった!
私、麗日お茶子は全力疾走中である。国立雄英高校は血税をたんまり吸い上げた労働者の敵な学校なんや。敷地が山一つ丸々ってなんやねん! 最寄駅の改札を出てその事実を改めて認識した瞬間、私は自分の迂闊さを悟った。入学案内にあった地図で気付くべきだったのだ。これは校門から教室まで徒歩3分、どころではないことに。
地図にあった通りの距離ならば、のんびり歩いていたら10分、不慣れなことを考慮すれば、迷いでもしようものなら30分コース間違いなし。
現在時刻は愛用の古い携帯電話によれば午前8時15分。ようやく校門が見えてきたからこのペースならなんとか間に合う――きゃっ。
「おっと、大丈夫? 足挫いてない? まったく、爆豪くんが爆破でアスファルトに穴空けちゃったから」
全力疾走のままドリフトばりに強引なカーブを決めた私は、何故か窪んでいた道路に足を取られて盛大に転んだ。いや、転びそうになった。そして立っていた男の人に全体重×速度^2タックルをかましてしまったのだ。
それにしては衝撃が少ないというか、え? なんでこの男の人は微動だにしてへんの? あっ、え!? はわ、はわわわわ! むむむ胸を、揉まれて!?
「おっとごめんね。急に突っ込んできたから咄嗟に受け止めたんだけど、ちょうどいい位置にあったから。助けた代金ってことで許してくれれば嬉しいな」
えぇ……。まあ確かに助かったは助かったんやけど。……ん? あ、あ~! この人、入試の時の! ほわあ、あかん、顔が、顔があっついわ! それに胸、胸揉まれて!? あう、でもこの人なら別に嫌じゃ……ってちがーう! そや、ハンカチ。ハンカチ返さな! って今日は持ってきてへんよばかばか私!
「あはは、大丈夫そうだね。それならちょっと急いだ方がいいかも。初日から遅刻はかっこつかないし」
その後はどうにか当たり障りのない会話をしつつ、普通に教室に向かえた……はず。ちゃんとお礼も言えたし、ハンカチ返す約束もしたしっ。
教室に入るとはきはきした生真面目眼鏡くんが挨拶してきた。挨拶は大事やね。でも次の瞬間にはツンツン頭の子ががなり立てながら出久くんに襲い掛かって、瞬殺されてた。
そのときの出久くんの表情が冷淡ですごく……こう……ね? 替えの下着は購買で買えるやろか? 懐に厳しいダメージ……。
体育着に着替えながらしょんぼりしていたら、八百万さんという爆乳美女がそっとパンツを差し入れてくれた。思わず目を瞠って顔を見ると、分かりますわ、的な同志を見る目してた。なんなん? まあ実際すごく助かるし、なんなら普段着とかももらえたら嬉しいんやけど?
突然の個性把握テストだったけど、八百万さんと出久くんがぶっちぎりだった。推薦入学者の轟くんが霞む。轟くんもすごいはすごかったんだけど、なんだろう、キレ? が違う感じやった。使うべき時に必要なだけの力を。出久くんを見てるとそんな技を感じた。八百万さん? 彼女はなんかこう、反則ちゃうんかって。うん。
そしてやってきた戦闘訓練! あのオールマイトが先生っていうのもびっくりやけど、そんなことはどうだっていい重要なことじゃない。なんと、出久くんとペアになったんや。
コスチュームがパッツパツで体のラインがモロに出てまうのは失敗したなぁ思ったけど、八百万さんや梅雨ちゃんも似たようなものだし、きっと女性ヒーローのスーツはそういうものなんだろう。
一方の出久くんのコスチュームは洗練されたって感じやった。飯田くんはフルプレートアーマーって感じやけど、出久くんは必要最低限に削ぎ落したって感じや。贔屓目なんやろうけどすっごくかっこいい。あかん、おとーちゃんとおかーちゃんを楽させたくてヒーロー目指してんのに、別の就職先を志望したくなってまう。
あ、訓練は余裕やった。たぶん出久くんは一人でもやれたんやろうけど私に華を持たせてくれたんやないかな。ちょっぴり悔しい。うかうかしてる場合じゃないかも。
お金のため、出久くんに私を好きになってもらうため、頑張るぞ!