僕のヒーローアカデミア 手マン抹殺RTA デク憑依ルート 作:槍持
イレイザーヘッド視点
『指揮車から付近のヒーローへ、指揮車から付近のヒーローへ。静岡県○○市○○町。レストラン「パルテノンズキッチン」にてヴィラン犯罪発生。複数のヴィランが人質を取り立てこもった模様。ヒーローコールに応じる者は――』
「チッ、すぐ近くだ……見過ごすのは合理的じゃない」
ようやく慣れつつあった雄英高校での教師生活、その帰り道。車で自宅に帰るという非合理的な時間に、警察からの緊急無線が静寂を破った。
現場のレストランは確かちょっとした高級レストランだったはずだ。このご時世で財を成すような輩には後ろ暗いところが多分にあるものだ。ヒーローとして、特にアンダーグラウンドで活動していれば嫌でも知ってしまうことだ。
とはいえそれがヴィランを見逃す理由にはならない。俺はヒーロー。イレイザーヘッドなのだから。
「こちら抹消ヒーロー・イレイザーヘッド。コール受諾。3分で現着する、アウト」
「なんだぁ、イレ先じゃん。アングラヒーローがこんな派手な現場来るとか大丈夫か、え?」
「どうでもいい。状況は聞いたな? 作戦を打ち合わせる」
「ハッ! どうせ向こうもヒーローが雁首揃えて来てんのは気付いてるだろ。突っ込んだほうが早ェよ!」
こいつはラビットヒーロー・ミルコ。雄英を卒業したばかりのニュービーだ。個性は兎。性格を見るに愛玩兎じゃなくヴォーパルバニーのほうなんだろう。その脚力を活かした近接格闘能力は侮れない。
他にも集まっているヒーロー達はいるが、潜入ができそうなのは残念ながらいない。外で陽動させているうちに俺とミルコ他数名で切り込むというのはマシなほうだろう。少なくとも、ここで手をこまねいているよりはずっと。
「あん? 情報より少ねェな」
「ヒ、ヒーロー!?」「良かった助かったんだ!」「馬鹿野郎! ウチの子供はまだ助かってないんだぞ!」「お、俺の彼女もだ! 個室に連れて行かれた、早く助けてやってくれ!」
突入自体は拍子抜けするほど上手くいった。確かに入り口は岩や柵で塞がれていたが窓には何の防備もなかったからだ。ホールで数人のヴィランを捕縛し、椅子に縛られていた人質たちを解放したが口々に喋り出して煩い。しかし聞き捨てならないことを言っているものもいる。
詳しく訊いてみれば、ホールから奥にある個室などの別室に若い女性を中心に連れ去られてしまったらしい。胸糞の悪い結果になりそうだ。
それを聞いたミルコは制止する間もなく駆けだしていってしまった。突入した他のヒーローやサイドキックを連れて追いついた頃には、道中のドアのほとんどがヴィランごと蹴り抜かれて酷い有様だった。
駆け抜け様に部屋を覗けばそこには伸びたヴィランと目を白黒させている無傷のヴィラン、そして衣服を剥ぎ取られて乱暴された女や嬲り殺しにされた少年などが見えた。
ミルコはそれらを一顧だにせず最後の個室のドアをヴィランごと蹴り砕き、自分はいかにも重厚そうなドアに身体ごと突っ込んで行った。
他の部屋は既にヴィランが臨戦態勢を整えてしまっているだろう。だが最後の蹴破った個室はどうだろう。まだ状況を把握できずにいるのではないだろうか。ならばそいつを瞬殺して頭数を減らすのが合理的判断というものだろう。
他の部屋の対応は任せ、俺は最後の個室に身を滑り込ませ、見た。
部屋の奥にいる服とはもう呼べない布を身に着けた少女と、それを守るように立ちはだかる傷だらけの少年を。
そしてその二人がこちらを見て、少年が抑えていたのだろう岩を拳に纏わせたヴィランが、少年の腹に拳を減り込ませたのを。
一瞬の意識の空白。俺はプロだ。体に染みついた行動が正義を執行する。勝ち誇ったヴィランを即座に無力化し、泣き叫ぶ少女にテーブルクロスを放りながら少年の脈拍と呼吸を確認。まだ生きている。
「赤1、緑1! サイドキック! 救護急げ!!」
☆☆☆
「――以上が僕の言える全てです」
「そうか。無茶をする。死んでいないのは奇跡だ」
「死んででもやり遂げないとならないことって、あるでしょ?」
少年、緑谷出久が搬送されたのは雄英高校にほど近い病院だった。無謀な馬鹿が一命をとりとめたという知らせを聞いた俺は、リカバリーガールに頭を下げ医療ボランティアの予定を早めてもらった。
どうしてそんな不合理なことをしたのか。最近どうにも昔を思い出す。緑谷の話を聞いた今はなおさら。直向きな正義の心。危うさを感じさせる信念。俺が、俺達が失ってしまったもの。
俺はいつも間に合わなかった。白雲……。だが今回は間に合った、そのはずだ。なのに消えない不安はなんだ?
「あの子はヒーローになるよ」
「リカバリーガール?」
「これまで何人も卵を見てきたんだ。あたしにゃ分かる」
「ですが、彼は無個性です」
「“死んででもやり遂げないとならない”。ふん、できるできないじゃない、やるかやらないかだよ」
確信めいたリカバリーガール。そうか、この不安は緑谷出久が命をベットするのは今回だけじゃない。ヒーロー……その呪縛に彼もまた囚われているからか。
「はぁ。馬鹿は死んでも治らない、ですか」
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百視点
彼は無事……無事(?)生きていましたの! 良かった、本当に良かったですわ。それに私のことを死んでも守るだなんて! プロポーズですわね? どうしましょう、嫌ではありませんしむしろ嬉しいのですが……今の私では出久さんには相応しくありませんもの。まだお受けできませんわね。
私が出久さんと楽しくおしゃべりをしている間に、お母様がお義母様と救っていただいたお礼のお話をしています。10億? 安すぎですわ! キャッシュのみではなく株式や物品も合わせれば50億でも出せますのに。
あら? 出久さんは別の物が良いようですわね。訓練施設ですか。確かに我が八百万家の傘下にはプロヒーロー御用達の高度訓練施設が多数ありますが、なぜそんなものを。
「強くなりたいんでしゅ!」
そう、そうですのね……。出久さんは既にプロに匹敵するほどの強さだと思いますが、それはあくまで心、精神性の話ですものね。肉体的には私と同い年の子供の範疇。個性が無い以上はその身を鍛え上げる他ないのですから。
察するに良い食事と過負荷にならない程よい運動に抑えてらっしゃるご様子。一般のご家庭では確かにそれが限界でしょうけれど、そこは我が八百万家が全力でご助力致しますれば理想の肉体を築き上げるのは容易いことです。
そうですわ。そうすれば私も共に訓練し、出久さんの隣を歩けるようになってみせますわ! あっ、いえ、私は三歩後ろでも良いのですけれど。
……それにしても、ふふっ。可愛らしいところもあるのですね。
☆☆☆
時は流れてあの日からもう3年も経つのですね。私が私のヒーローを見つけた日。共にヒーローを目指すと決めた日。無力さを知り、輝きに魅せられた日。今なら分かりますわ。あれは私が恋をした日でもあります。
今日は出久さんの12歳の誕生日。お父様やお母様たちと相談して、我が家で身内だけのささやかなパーティを開かせていただきますの。
この3年間色々ありましたが、出久さんはどんどんたくましくなって日々惚れ直す毎日ですわ。せっかく静岡に引っ越してきましたのに、中学校までは名家の令息令嬢が通うところで必要なことを学ぶということで、金曜の放課後と土日の2日と3時間しか出久さんと一緒にいれないのですけれど。業腹ですわ。
お誕生日プレゼントを喜んでいただけて良かったですわ。お父様たちの計らいで、私のお部屋に出久さんと二人きりですわ。ありがとうございます、お父様、お母様、お義母様!
こんなことがいつかあろうかとメイドたちに部屋を整えさせておいたのが役に立ちましたわね。
ベッドにほど近いローテーブルで早速お茶を振る舞わせていただきますわ。喜んでくださって嬉しい。
「ひゃんっ」
あっ、変な声が抑えられませんでした。出久さんの手がお胸の先っぽを掠って……。ああ、出久さんが私のお胸をじっと見てらっしゃいますわ。私が個性を訓練しているときなどにちらちらと見てらっしゃることには気付いていましたし、殿方にはお胸を好きな方が少なくないらしいことは知っていましたけれど。
不思議ですわ。他の方からの視線は煩わしいだけですのに、出久さんに見られるのは嫌じゃない。むしろもっと……。ハッ。なんてはしたないことを考えてしまったのでしょう!
あんっ あっ、出久さんの手が、私のお胸を! あうっ。声がっ。出久さんも夢中で……。いいですのよ。私の全ては貴方のもの。ふふっ。でも良かったですわ。殿方はお胸は大きい方が好きだと聞きますし、それならばお母様に似た私も大きくなるはずです。やんっ、赤ちゃんみたいですわ。
このまま出久さんと一緒に、幸せな日々が続きますように――――