ヴィラン名 『チェンソーマン』 作:ナメクジとカタツムリは絶対認めない
遅れてごめん!!!結構卒論やったからペースは上がるはず!!ごめん嘘かも!!
「走れ!」
その声と同時にアキとデンジは森の中へ消えていく。手を押さえながらそれを睨むマグネの元に、マンダレイとの戦闘を中断したスピナーが駆け寄った。
「マグネ!撃たれたのか!?」
「……掠っただけよ。ていうかあの子誰!?デンジくん逃しちゃったわサイアク!!」
「…アキ!!お願い戻ってっ!!」
その動揺はヒーロー側にも伝染する。未成年の個性による傷害未遂。そして、それを引き起こしたのは自身の身内。その変わらない事実が、マンダレイ達の動きを止まらせた。
──その一瞬の隙は、この森を熟知しているアキにとって十分過ぎる。デンジの冷たい手を握り、二人は息を切らして走り抜けた。
「くっ…あのわんぱくボーイめ…!マンダレイ、個性でアキに連絡を!」
「もうやってる…けど!アキは素直に私達の指示を聞くなんて今まで…!」
顔を青ざめさせるマンダレイを見ながら、マグネはサングラスの奥の目を細める。
(あの子…。ヒーロー側の身内っぽいけど…あの反応からするにさっきのは独断で動いたって認識でいいのよね…?コントロールも出来てないみたいだし…)
その外見とは裏腹に、マグネは冷静に状況を分析する。作戦のメインターゲットは、デンジの確保。今すぐにでも彼を腕の中に捕まえたいが、謎の少年と共に逃げられてしまった。
しかし彼らが逃げた森の中には、開闢行動隊が配置されている。レクリエーションの肝試しが開始したと同時に作戦を開始したため、森の中にいるのは雄英の生徒だけ。
(……不安な奴はいるケド、まあ作戦には肯定的だったし…大丈夫デショ。それに生徒達に邪魔されるとなっても、将来有望な金の卵とはいえ、実践経験の無さはカバーできるものじゃない。──だとすると、今アタシがやるべき事は)
「スピナー、まだ動けるわね!」
「え?あ、あぁ…」
戸惑うスピナーに構わず、マグネは指をひとつ鳴らす。
「気張りなさいよ、アタシらで止めるわよこいつら…!」
「──ああ、ヒーロー殺しの意思のもとに」
そして再び、剛腕と剛腕──刃と鉄爪が交わり合った。
「はぁ…!はぁ…」
デンジの手を引き死に物狂いで逃走したアキらは、三又の木の下──アキの個性練習場で荒れた息を整えていた。
『お兄ちゃん!』
家族を唐突に奪われたあの日。復讐の為に全てを捧げると決めたあの日から、他人の事情など度外視して生きてきた。だというのに──。
「疲れた〜…。なあ、なんか飲みもんねえの?」
なぜ今自分はコイツのために汗だくになってんだ。腹が立つ顔をしてこちらに催促をする男を横目に見ながら、アキは来た道を静かに見据える。
(この森は入り組んでる。奴らが俺たちを容易に捉える事は考えられないし、逃げ方も工夫した。ここに止まるって訳にはいかねえが、しばらくは安全だろう…)
ふぅ、と一息吐き、アキはデンジを助けるために放り投げていたバスケットから残り少ないミネラルウォーターを取り出し、一気に呷った。
「あ!ズルい!」
「ズルくねえよ。お前は大人しく座ってろバカ」
抗議の意を身体いっぱいに伝えるデンジを見下し、アキは思考を回転させていく。
(デンジは貧血で戦えない。となると今は俺がコイツを守るしかねえ…が、流石に一人じゃ厳しいな…プロは今手が空いてないし、雄英生頼るか…?)
子供とはいえ仮にも雄英高校の生徒。自分だけでデンジを守れるとは思えない。そう結論付けたアキは、デンジに近づき、その手に持っていたものを差し出した。
「ん…?──おお!なんだよ水あんじゃねーか、しかも新品!」
「雄英のやつらと合流したい。飲みながら移動するぞ」
「…デンジくん、大丈夫かな…」
「マンダレイさんの身内が連れてったんだろ?早く見つけねェと不味いな」
「……ィ」
「先程から『個性』で耳を増やして聞いているが、発見できない…。エンジン音でも鳴らしてくれれば気づくんだが」
「地獄から鳴り響く刄音は、穢れた者が居なければ静寂を保つ…──グゥウッ!」
「……オイ…!」
「まだ敵と遭遇してないって事か。それならまだ安心だな──常闇、これで大丈夫か?」
「ああ…!浄化の炎…!助かる…!」
「テメェら俺囲んで喋ってんじゃねぇぇぇえぇ!!!」
その雄叫びと共に、彼の感情を表すかの如く、両手から爆豪は『個性』を噴火させた。
「かっちゃん!ダメだよ大きな音出しちゃ!敵にバレるし、障子君の索敵も上手くいかない!」
「うっせぇぞデクゥ!!むしろ今の状況がクソなんだよ!何で俺がテメェらに守られなきゃいけねえんだゴラァ!!」
マンダレイに伝言を伝えた緑谷は、森の中にて障子・常闇を発見した。さらにその足で、爆豪に同行していた轟と合流して今に至る。
雄英の中でも選りすぐりの実力者が揃い合ったこの爆豪護衛部隊。緑谷曰く、『オールマイトも怖くない』この面々に守られるという事が、好戦的な気質の爆豪にとって一番の苦痛だった。
「──とにかく、早く先生たちプロがいる合宿場に戻ろう。そこが一番安全だろうから…!」
その緑谷の言葉に三人は頷き、一人は叫びながら──
がさ、がさ、と草木を掻き分ける音が夜の森に響く。獣道を歩き、周囲を警戒しながらゆっくりと歩くアキ。背後には、後頭部に両手を当てその様子を見つめるデンジがいた。
(…こいつの事助けてくれってマンダレイさんに頼まれてんのに、こいつに守られてんのやばくね?)
デンジが考えているのはその事である。脳無との戦いで貧血にはなってしまったが、それを理由に守るべきアキを自分の前に置くというのはどう言ったものだろうか。
「な〜、俺が死ぬのは別に良いんだけどさあ。お前に死なれると俺マンダレイさんに怒られちまうんだけど」
「うるせえ。お前は黙って俺に付いてくりゃいい」
「………へ〜い」
冷たく返されるその言葉にデンジは鼻を鳴らした。どうにも先程からアキの様子がおかしい。軽口を叩いても無視。なんなら温度のない声で『黙れ』と返され、それで会話は終わりである。
人の心が分からないデンジにも、その普段と異なる仕草や様子からアキの余裕が無い事には気付いていた。だが、なぜその余裕が無いのか──デンジには予想も付かなかった。
いつ敵がデンジを襲って来ても良い様に、アキは事前に作っておいた拳銃を構えながら周囲を警戒していた。
「ふぁ〜あ」
気が抜けた欠伸が耳に響き、ついそちらに目を向けてしまう。腕を掻き、空を見上げながらのそのそ自分に付いてくるデンジを見て、アキは僅かに顔を顰めて口を出そうとし──。
がさり。
「──っ!…おい!」
「──お。ああ!?」
二人の動作はほぼ同時だった。その草藪から発せられた物音に、アキはデンジを庇いながら拳銃を向け、デンジはアキの前に立ちながらスターターロープに指をかける。
同時に前衛に出た彼らは当然の如く、身体をぶつけて体勢を崩してしまう。
「ぐ……!!」
しかし、アキはよろめきながらもその草藪に狙いをつけて、その拳銃のトリガーを引いた。
静かな森にけたたましい音が響き渡る。銃口から煙が上がる中、四つの目が草藪に注目する。一瞬の間の後、そこからネズミが慌てた姿を現し、すぐに森の中に消えて行った。
「…んだ、ネズミかよ〜。ちょっと焦っちま──」
「──何で前出てきた!!」
その叫び声と同時に、アキはデンジに掴み掛かる。その鬼気迫る様子にデンジは軽口を叩くのを中断してしまう。
「お前っ…!お前が前に出る必要なんてなかった!!俺が守るって言っただろ!俺が…!」
その鬼気迫る表情を見て、デンジはやはり自分の抱いていた違和感は間違っていなかったと感じた。
「…てめー、さっきからやっぱなんかおかしいぜ」
「………」
「何怖がってんだよ」
「──お前に何が分かるんだ」
「さっきまで笑ってた家族が、一緒に過ごしてた弟が居なくなった。急な爆発に全部奪われ、残ったのは喧嘩してみっともねぇ姿見せた俺だけだ」
「──仲直りしたんだって、言えなかった。キャッチボールも、出来なかった」
「お前はタイヨウじゃねぇ、家族じゃねぇ分かってんだ…!けど、けど……」
目の前で死なれるのだけは、もう御免だ。
そうか細い声を出し切り、肩で息をするアキをデンジは静かに見下ろす。自分を守っていたその背中は今、とても卑小に見えた。
(ポチタと俺がヤクザに飼われてた時、一回ポチタと離れ離れになった時があった)
腹を空かせて起きた時、いつもそばにいる温かい存在が消えていた。カラカラに乾いた喉を枯らしながら、粗末な飯を持ってくるヤクザにポチタの居場所を何度も聞き、何度も殴られた。
(意識失って起きた時、ボロボロのポチタが泣きながら俺の傷を舐めてた)
それだけで、何度も暴行を受けたはずの身体から痛みが消えた。その日はポチタを抱きしめながら眠ったのをデンジは強く覚えている。
(コイツは家族を失ってからずっと、どんな気持ちで生きて来たんだろう)
ポチタが居ない未来なんて考えるだけで怖気が走り、生きる活力を無くしてしまうだろう。そんな最悪な気分を、目の前に居る少年は現在に至るまで、一人で抱え込んでいたのだった。
「……離せよ、シャツ破れんだろ」
デンジは自分を掴む手を引き剥がし、襟を整える。しばし俯いていたアキだが、また静かに森の中を歩き始めた。
「──俺ぁ俺んやり方を変えるつもりはねえぜ」
デンジはその背中を見ながらそう呟く。一瞬アキの肩が小さく震えたが、それに構わずデンジは続けた。
「どんなに酷ぇ目にあっても、その次の日飯食って寝れりゃあそれでいいからな〜。そんな素晴らしき日々のためなら、いくらでも命なんかくれてやらぁ」
そうけらけら笑いながら言い放つデンジに、アキはまた頭が熱くなる感覚を覚え──、
「だからよ〜、俺が死んだらテメーがエンジン吹かしてくれよ」
その言葉に、思わずアキは振り返る。その視界に映ったのは、自分の胸に親指を立て、ギザギザとした歯を見せるデンジだった。
「俺ぁ死んでも生き返るからな〜。目の前で死なれるのが嫌なら、俺が死んだ分テメーが俺を生き返らせろ!」
「…な、何言ってやがるてめぇ…」
「そうすりゃどんだけ無茶しても、次の日にゃマキマさんに会えっからな!」
アキは口を開けたまま、下卑た笑顔を見せるデンジを見つめる。
「──そんで暇だったら、礼としてまたテメーと遊んでやるよ。テメェはもう一人じゃなくなってよぉ!俺ぁマキマさんと幸せな日常を過ごせる…!これがギブアンドテイクってやつだぜ〜!」
その宣言を口にして数秒、二人の間を静かに風が通り抜ける。
「………」
素晴らしき提案をした自信があるデンジは、アキの無反応ぶりに首を傾げた。
「…んだよ、まだなんか文句あんのか」
可笑しいのはどちらか?と百人に聞けば百人がデンジと答えるであろうその考えに、デンジは自分が百パーセント正しいと言う自信を持っていた。
アキの悩みもこれで解決!と言わんばかりの瞳でこちらを見つめてくるデンジを見て──。
「───は、はは…」
「ん?」
「──アハハハハハ!」
アキは腹を抱えて笑った。今まで慎重に森の中を行動していたとは思えないほど、目尻に涙を溜めながら大笑いした。
「…コワ〜」
「──げほっげほっ…はぁ〜あ。…怖いのはどっちだよ」
辟易とした様子のデンジに、そう言いながらアキは息を整えた。
これまでの人生の中で会って来た人物は、アキに失ったものより残ったものを大事にする教えを説いていた。しょうがない、君は悪くない、君が生きてただけで充分だと──誰もかも、過去を振り返って失ったものを取りに戻る事を許してくれなかった。
(でも、こいつは──)
「いいよ、乗った」
立ち止まらせてくれる。やり直させてくれる。その事実だけで、潰れかけていたアキの心はすっと軽くなった。
「マキマ?…だかなんだか知らねえが、俺が生き返らせてやるよ」
「…おお!そうこなくっちゃ〜な!」
急に乗り気になったアキに一瞬困惑したデンジだったが、すぐにニヤリと笑う。自分の意見が受け入れられ、上機嫌にアキの隣を歩き始める。
「マンダレイさんにも口裏合わせとけよ〜。デンジ様のおかげで助かったっつってな」
「…お前、マキマってヤツの事が好きなんじゃねえの?」
「……」
「胸か」
「黙秘権!黙秘権をコーシする!!」
「はあああ…」
「テメーにゃ俺ん気持ちがわかんねえだろうな!ずっと追い求めてたモンがよ〜、近くにあんのに貰えねえ辛さはなぁ〜!」
「そんなモン追い求めた事ねえからわかんねえ」
「…つか、そんなに良いモンじゃねえだろ。俺、学校の先輩の揉まされた事あるけどそんなだったぜ」
「俺と遊ぶ方が楽しいと思うけどな」
「……デンジ?」
横を向いたアキの目に、首がないデンジの体が映し出された。
「に、に にく」
瞬間、その声の方角にアキは三度発砲する。日々の訓練によって磨かれたその努力は裏切る事なく、声の主へ届く──筈だった。
「任務終了…ああでも、ちょっとは良いかな…?良いかな…ダメなのは心臓…心臓だから……そこ 以外は…切っても…」
頭から足まで覆った拘束具。唯一剥き出しの、そいつの口から伸びた歯が、アキの銃弾を弾き飛ばしていた。そいつは伸びた歯だけで器用に立ち上がり、足元に転がったデンジの首をずたずたに切り裂いた。
「…早速かよ、バカデンジ……」
そのぼやきをかき消す様に、邪悪がアキに向けられる。
「次の土日空けとけよ……!!」
「き みのも、みせて」
死刑囚、ムーンフィッシュがその口を大きく開けた。