ガンダム00世界で留美やネーナやコーラサワーとイチャイチャしながら生きる 作:トン川キン児
転生と炭酸と俺
ガンダムヒロインってのは、往々にしてロクな目に遭わない奴が大半だ。
1作目からして主人公と通じ合えた途端に、他ならぬ主人公の手にかかって戦死。続編が作られたと思えば強化人間という出生からして悲惨なものだし、それが二人もいてやっぱり死んでいく。
もはやガンダムシリーズでは、特殊能力のついたヒロインという立ち位置だけで死亡フラグがついているも同義である。というかそれでなくても、女キャラというだけで壮絶な死に様になる。
機体はそのままにパイロットである自分のみを焼かれて死んだり、普通にヒットマンを派遣されて銃殺されたり、戦略兵器を動かすための生体ユニットとなって事実上死亡となったり……その悲惨さたるや枚挙に暇がない。
とはいえ、悲惨なだけならまだいい方だ。本筋に関わるキャラクターに影響を与えて物語にメリハリがつき、その悲劇性に観るものはより一層引き込まれるだろう。
だからこそ、それは意味のある死に様だと納得もできる。しかし、その最期に大きな意味を与えられていなかったガンダムヒロインたちを自分は知っている。
中でも一番自分が受け入れられなかったのが『ガンダム00』の、王留美である。
味方ながら謎めいた雰囲気を纏っていた1stシーズンの気勢はどこへやら、2ndシーズンでは勢力を行ったり来たりふらふらと行動に一貫性がなく、いったい何がしたいのか理解に苦しむ行動ばかり。
最期は飼い犬とも言えるネーナ・トリニティに手を噛まれる形でまったく無警戒のままに裏切られて死亡し、それはストーリーの本筋になんら影響を与えなかった。容姿の変更は彼女の成長故のことだからいいのだとしても、当時の自分には納得し難い扱いだったのだ。
そのネーナ・トリニティにしても、あれだけ1stシーズンをかき回したトリニティの一員ならばもう少し華々しく散ってみせて欲しかったものである。
ネーナに両親を殺されたルイス・ハレヴィに討たれる最期というのはなかなかいいシチュエーションではあるが、5年前の型落ち機体で挑んで案の定瞬殺では盛り上がりに欠けるというものである。それも兄弟であるヨハン、ミハエルの仇であるアリー・アル・サーシェスとの再戦も敵わぬままなんともあっけなく散っていったのだ。
極めつけに両者とも同じエピソードである2ndシーズン21話での退場。扱いに困った製作陣が半ば在庫処理的に殺したものだと感じられて仕方がなかった。
機動戦士ガンダム00というガンダムシリーズそのものはとても完成度の高い一作ではあるし、アナザーガンダム系列で誰かに薦めるならと言われれば真っ先にこれを挙げるだろう。
ただその中で、2ndシーズンはどうにも粗が目立つところがあったというか……。
なんというか……。
……その。
……いやもう理屈をつけるのがめんどい!!
留美とネーナというキャラクターは、とにかく自分の中では1stシーズンで……いやガンダムシリーズでも一、二を争うお気に入りキャラだったのだ!!
主にビジュアル面で!!
キャラデザがドストライクだったから、イメチェンした2ndシーズンの二人も時間の経過によるキャラ性の成長だと思って受け入れられてたんだ、留美は未だに劣化とか言われるけど!!
それがああいう適当みたいなやり方で退場ってのがほんとに納得できんのだ!!
ネーナのキャラ性は限りなくクズだし、留美は何がしたいかわからんとかよく言われるし、そういうのが世界を引っ掻き回した結果、死に向かってくのは当然だろうと言われてもそれは正しい。
ただ前者はほとんど幼稚園児みたいなもんでそもそも捨て駒だし、道徳なんか二の次に育っただろうなって察せる!! 後者も『何がしたいのかわかってないキャラ』ってことで受容した!!
特に留美は小説版の方でいろいろと補足みたいなもんあったし!!
なんというかもっとこう……手心というか……!!
……なんかあったろ……!
キャラデザ良し、ロボもかっこいい、世界観にも魅力満点なガンダム00という作品中で、自分が唯一認められなかったのがその二人の扱いだった。
惰性で最終回まで見たけど、その後劇場版が出たということを聞いても見る気が起きない。他のガンダムシリーズは一応見れるというのに。
そんな理解者の少ないであろう心の傷を抱えるハメになった自分は、たまに00関連の新情報を目にしたりTVで流れる00の劇伴を聞くたびに古傷が開くような思いで就寝するのだった。
したのである。確かに、自分のベッドで。
だが、今は……
「モタモタしてんじゃねーぞ!! ユリウス!!」
「わぁーってるよ!!」
……なんで俺、コーラサワーの戦友になっちまってんだよ?
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24世紀の幕開けは、AEUにとって動乱と共にやってきたものだった。
軌道エレベーター『ラ・トゥール』の建設開始によって遅かれ早かれ起こると思われていた中東諸国からのAEUへの反動は、新世紀の幕開けを前についに爆発した。
アイルランド各地の同時多発テロを引き金として、AEUは対テロ戦争を名目としてついに中東諸国へと侵攻、これにより中東各地は人類革新連盟、ユニオン、AEUの三大国家の思惑入り混じる混沌の戦場と化した。
中東の現状こそが俗に言う三大国家による『ゼロサム・ゲーム』の縮図だと語る者も多い。
「だっはっはっは!! 快勝快勝!! 相手になんねえぜ」
「あんまり調子に乗るもんじゃねえぞ」
目の前で勝利の祝杯である酒を煽る男、パトリック・コーラサワーはそんな中東戦線を支えるAEUのパイロットの一人だってのに混迷する国際情勢なんてもんを微塵も気にしてそうには思えない。
原作からしてそうだからしょうがないとはいえ、実際にこうして隣で見ていると頭が痛くなってくる。この能天気さでどうやってここまで生きて来れたんだか……。
というか、
何故かって、ずっとコイツと過ごしてきたからだ。
最初は何が何だかわからんし、身体は赤ン坊で自由がまったく利かないし……生まれた国も違うしで狂いそうだった。夢だと思っていたけれど寝ても覚めても状況は変わらない。
やがてベビーベッドから出れるようになるとこの世界が『ガンダム00』の西暦であることを知った。慣れとは恐ろしいもので、そのころにはもう全てが受け入れられるようになった。
なっちまったもんはしょうがない。悟りを開いていた俺はもはや全てをあるがまま受け入れられるようになっていたようだ。
AEU軍学校でコーラサワーと出会ってからは、もはや運命共同体と言ってもいいほど縁深い。言葉に棘はあるが乱暴ではなく、実際話してみると実に気のいい男ですぐに意気投合した。
原作からしてもそうじゃないかと思っていたけど……というか『ガンダム00』キャラと会話ができるって時点で感涙モノだが、マジで良いヤツなのだ。
……原作。そう、日本的に言えば中学二年ごろになってようやく気づいた。このまま原作通りに『ガンダム00』が進めば、俺の心に傷をつけた留美とネーナの死は確実に起きるということに。
そして今この世界にいる俺には、それを止められる可能性があるということにも。
迷うことなく俺は計画を練り始めた。家族からは怪訝な目で見られ始めたが一過性の中二病みたいなもんだろうと思われていたようでまあなんとかなった。
そして計画を練るうちわかってきたのは、二人の命だけでもどうにか救うためには、どうしたってソレスタルビーイングに入るしかないということだ。
その為にはスカウトの目に留まることが必要だ。操縦・戦術・技術、何か一つでも……だが俺はそこまで頭がいいわけでもない。選べるのは操縦術を磨き、ガンダムマイスター候補として選ばれることただ一つのみだった。
親にフライトシミュレーターをねだって少しでも操縦技術を磨いたり、高校卒業と同時に軍学校へ一直線に入学したり、計画のためにできる限りの努力を尽くした。
他にもいろいろとあったが……軍学校に入ってからは最大の障壁が俺に立ちはだかった。それは西暦2301年の今なお俺の計画に支障をきたしている。
「おい知ってたか? 今のがオレたちの300回目のスクランブルだぜ、凄くねえかオレら!?」
「おま……コーラ、んなこと数えてたのか!?」
「当ったり前だろ! 出撃回数ってのは戦功だぜぇ~」
お前だよお前!!!!!! パトリック・コーラサワーだよ!!!!!!11111
こいつが俺と同じ軍学校に入るとわかってからすべておかしくなってきやがった。操縦分野では同期の中でも俺がトップで4年間ぶっちぎりいけるかなと思ってたのに、最終年度になってから急に伸びだしやがって!! まくられちまったじゃねえかよ!!
原作からして扱いはかませ犬だけど凄腕のパイロットだってのは重々承知してたし警戒してたけど、まさかそんな急に伸びるとか思わねえじゃん!!
なまじそれ以外の教科が全部勝ってたから、俺も慢心してたとは言えるけども……!!
しかも教育課程が終わっていきなり中東戦線に放り込まれてからはもっと始末に負えない奴になりやがる。
別世界とは言え初めて命のやりとりをする俺がビビり散らしてるのに対して、こいつは事も無げにいつものように調子よく突っ込んでいく。だもんだからいつも先頭のコーラサワーにヘイトが向くし、俺は戦いの間終始こいつのケツ持ちに回るハメになる。
回避機動に集中してるコーラの方はあんま撃墜数が伸びないのに対して、俺含めてコイツの隊全体の撃墜数が多いのはそういうカラクリってことだ。
心配すぎんだよコイツ!!!!!! 今年だけで2回撃墜されてんの忘れてんのかお前!?!?!? タフすぎんだろ!?!?!? お前頼りになりすぎて死んだらお前の隊全体の士気ガタ落ちするってわかってんだろうな!?!?!?
しかも遅刻だの朝帰りだの不祥事連発で中尉になるたび降格するよな。初年度で小隊長になって2回昇進して2回降格したのお前が初めてだってわかってんのか? おかげで私生活も俺がケツ持ちじゃねえかよ……。
出撃回数は戦功とかのたまってっけど、それ全部ドブに捨ててんのもお前だろうがよ……なんでコイツ出撃する時だけ遅刻しねえんだろうなマジで。
隊長資格まで剝奪されねーのが不思議でならねえよ。まあ小隊長には向いてるけどよぉ……。
「確かに俺ら二人は凄いかもな。だが戦功を気にすんなら周りの目も気にしろよ」
「るっせーなぁ、ユリウスだってそのうちオレのお蔭で昇進できるかもだぜぇ? いいじゃねえか」
「よかねーよ!! お前こそふだん俺のお蔭で除隊処分にならなくて済んでんのわかるよな!?」
「んだと言わせておきゃあ!! お前オレのオカンかっつの!!」
「みんなお前のせいだろうが!! この酒も俺にツケてるくせによおおおお」
胸倉掴んだってことは宣戦布告ってことでいいんだよなぁ!?
もういよいよ我慢の限界だ、ちょうどいいことに今日は12月31日……てめえの頬っぺたと俺の拳で鐘撞き108回といこうじゃねえか、ええ!? コーラさんよぉ!!
「オイオイまたやってるぜ!! 歳忘れ喧嘩だ、酒も入ってるし長丁場だぜこりゃあ」
「どっち勝つかな」
「いつもユリウス勝ってんだろ」
「酒入ってるからわかんねえぞ。夏みてえに呑まれてオチるかもな」
パイロットスーツ越しに拳がめりこむ度に、西暦2301年ってのはなんて最悪な1年だったんだろうという心の声が何度も脳裏をかすめた。
来年こそ……2302年こそは。コイツと縁切って俺はソレスタルビーイングにスカウトされるんだ。留美とネーナの運命を変えるために……。
そんな胸に秘めた思いを反芻すると同時にハッピーニューイヤーを迎えたようで、俺は深酒しすぎたせいで眠気と共にそのまま意識を手放していった。
……酒も、コイツの方が強いんだよなぁ。
※縁は切れません