ガンダム00世界で留美やネーナやコーラサワーとイチャイチャしながら生きる 作:トン川キン児
「…………」
明かりのついていない暗い格納庫。ガラス張りで仕切られた向こうにあるモビルスーツ……GN-001、ガンダムエクシアを見つめる一人の少年がいた。
コードネーム、刹那・F・セイエイ。ソレスタルビーイングのガンダムマイスターに選ばれし人間であり、今まさに見つめているガンダムエクシアを乗機とする予定の最年少マイスター。
かの少年は寡黙で、悩みや考えを言葉や表情に出すことは珍しい。しかし、彼がエクシアの前に来るのは決まって何かの思いを抱えているときである。
(ユリウス・レイヴォネン……)
あの男は、強い。
教練を重ねるたびにそれが否応なくはっきりとわかる。
それこそ、自分など必要としないほどにガンダムに相応しい。
ならばなぜ、あの時自分は生かされたのか。
自分が生きている意味そのものが、彼の存在によって揺らいでいる。
「ガンダム……」
呟いたとしても、エクシアは応えはしない。
刹那自身、ガンダムが機械であり、兵器であることは理解している。
だがそれでも、あの日の夕焼けに自分を救ったガンダムに、刹那はまさしく『神』を見た。
争いを許さぬ者であり、世に平和をもたらす救済者――それこそがガンダム。
自分もそうなれる。そうなるために選ばれた。しかし、今は……。
……思いにふける刹那の思考に、格納庫のドアの開閉音が割って入る。
「ん? いるのか?」
呼びかけの主は、まさにそのユリウス・レイヴォネンだった。
「……刹那か。何をやってるこんなとこで」
「…………」
「まあ別にいい。忘れ物を取りに来ただけだ、邪魔したな」
そう言って、置いてきた上着を拾ってユリウスは格納庫を後にしようとする……が、すんでのところで思い留まった。
ソレスタルビーイングにやってきてから、刹那・F・セイエイとは対面して言葉を交わしたことはない。ユリウスは彼と、1対1の話で確かめたいことがあった。
「……いや。前から一つ聞いてみたいことがあった」
「……?」
「お前にとって『ガンダム』とは何だ?」
「!」
ユリウスがそれを問うた瞬間、刹那はようやくユリウスの方に視線を向けた。
「お前がガンダムに向けるような眼をした奴を何人も見てきた。地球のどこにでもいた」
「…………」
「ガンダムはお前の神様か」
「違う。この世界に神はいない」
その言葉に、初めて語気を強くして言い返す刹那。
「俺はそうは思わないな」
「なに……?」
だが直後に帰ってきた、予想外の返答に刹那は初めて戸惑いを覚える。
「神はいる。けどな、それは人間ひとりひとりのものだ。姿かたちも、司る物もそれぞれ違う。ひとえに『神』と言ってみたって、実際には人の心の中でそれぞれの姿があるもんだ。こうあってくれ、こうしてくれって願いを詰めてできる。だからひとりひとり違う神がいる」
「…………」
「そういう意味じゃ、ガンダムはお前の神だろう」
「…………ああ」
ユリウスは確信した。この世界においても、やはり
困惑しながらも、沈黙の後に納得を見せた刹那の様子を見てさらに話を広げていく。
「刹那。ガンダムになりたいか」
「……そうだ。俺が、ガンダムだ」
「だろうな。じゃあ、ガンダムってのは神であり、人でもある。そんな存在ってことだ」
「……神であり、人でもある……」
「だからその姿は神のように、俺たちソレスタルビーイングの行いを通して世界中の人間ひとりひとりが決めていく。それは、お前ひとりが作っていくものじゃないんだ」
「…………」
「ガンダムは人でもある、そして人はひとりじゃない。いつかわかる」
想像もしなかったことを聞いた、というような表情の刹那。
しかし、この男の、ユリウス・レイヴォネンの言葉は確かだとも感じた。
マイスターも、ソレスタルビーイングも。そこに天の意思などはなく、人の意思があるだけ。ならば、ガンダムもまた人の一部だと言うのも道理である。
そして人は、ガンダムはひとりではない。頭では理解できる。だが刹那の、守秘義務に秘められた過去がどうしてもそれを拒ませる。
「……まあ長々と哲学をしたが、要は自分の他のモノにも目を向けろってことだ。お前が戦術フォーメーションがうまくいかせられない理由はそこにある。教官の小言だよ」
「……善処する」
「それだけは時間をかけていくしかないもんだ」
はっきりと答えかねて曖昧な返事をした刹那、それに背を向けて去っていくユリウス。
「あとな、俺がマイスターに相応しくない理由はある」
「……何だ?」
「俺はガンダムを疑い続けてる」
ユリウスがそう言うと格納庫の扉は閉まり、刹那だけが一人残された。
ガンダムを疑う。それはつまり、戦争根絶そのものを疑うということなのか、他人を疑っているのか、それとも、自分自身を……?
確かなのは、迷う自分にあの男が自分なりの答えを聞かせてくれたということだけだった。
・
・
・
ところ変わって、男性用トイレの鏡の前で深くため息をつく青年がひとり。
「……はぁ」
アレルヤ・ハプティズム。GN-003、唯一飛行形態へと変形でき最大の機動力を持つガンダムキュリオスのマイスターに選ばれた人間である。
彼は……彼だけではない他のマイスターたちと同時に、大きな壁にぶつかりつつあった。
(強すぎないかな、あのふたり……)
『ガンダム四機編隊で、ユリウスとパスレルを含めたヘリオン十機編隊を10分以内に殲滅』。
もちろんシミュレーター上でのことだが、それがユリウス・レイヴォネンから提示されたガンダムマイスター四人のコンビネーションに及第点を出す最低条件。
この世のあらゆる機動兵器を凌駕する性能を持つガンダム四機に、ただのヘリオンが十機。全くお話にならないはずのその条件は、しかし三ヵ月を跨いでなお達成できずにいる。
これまでの挑戦は計五回。負かすたびに個々の問題点をあぶり出し、理解させ、練習によってうまく行くまで修正していくユリウスのやり方は実に基本に忠実でわかりやすいので、教え方が悪いという言い訳は通らないと受講者の側ながらに思う。
平均的なパイロットの挙動を模倣したヘリオンに対しては、フォーメーションを理解し用いることで確かに今までより殲滅までの時間が早くなり、ミッションタイムにも余裕ができるようになったと実感できる。
問題は対策を教えてくれているはずのユリウスとパスレルが、『常人より強化された存在』である自分から見ても、時折常識の範疇を超えるとんでもない動きをするからに他ならない。
当人らとそこから話を聞いたロックオン曰く『勘と経験則』の一種らしいが、未来でも見えていなければあんな挙動は取れないだろう、と言わざるを得ない。そしてそれが二人もいて、コンビネーションも相性抜群と来ているのだからどうしようもない。
(これをこうすれば絶対できると言う割に、自分はそれに当てはまらないんだもんな……)
またひとつ小さくため息をついて、個室に入ろうとするアレルヤ。とりあえず場所が場所なのだから、
鍵は開いているようだが、一応ノックをしてから入るのがアレルヤの習慣である。
「どうぞー」
「あ、失礼しま…………ッッッ!?!?」
……ドアを開けきる前に異変に気付いた。トイレの中にいる人間に招き入れられるなどという普通ならありえない事が起きたせいで一瞬思考が混乱した。
個室の内側から聞こえてきたのは男の声じゃない上に、この声には聞き覚えがある。
慌ててアレルヤは扉を閉める。向こうにいるのはパスレル・メイラントで、しかも一瞬見えた姿では何も着ていないように見えた。
「あっどうぞじゃなかったわ。悪ィ悪ィ」
「な、なんで男性用の方に……!?」
「間に合わなかったもんで。悪かったって~代わりに女子トイレ行っていいぜ」
「行ける訳ないでしょう!! しかもなんで何も着てなくてっ」
「もよおす時は全部脱ぐ派なんだよ。わかる? みんなわかんねーって言うけど」
アレルヤはパスレルという女性をどうも苦手に感じている。というより、一番長い付き合いのユリウスでさえ持て余し気味の様子なのだから、彼女にうまく合わせていける人間がいたとしたら見てみたいほどである。
教官であるユリウスの厳しい態度は関わり辛さを出しているものの、それは立場上のものであってロックオンなどが問題なく関係を構築できている以上はそれほどアクの強い人ではないだろうと感じていた。しかし、パスレルはあまりにもつかみどころが無さすぎる。
それでいてノリ任せで誰彼構わず絡んでいくものだから、話しかけられようものなら交通事故にでも遭った気分になる。
「待ってな早めに……ん゛ん゛!! 済ませっから」
「い、いえ……そんなに急いでないんで、無理しないでも……」
「あっそう? 助かる~~~~」
人目もはばからずいきみ声を出す様子は、アレルヤからパスレルへの視点を女性というより子供のようなものとして見るようにさせるのに十分だった。
「ケツ強ぇなお前。びくびくしててケツ小せえから出にくいのかな」
「はあ……そう見えますかね」
「見えるぞ? あたしに隠し事はできないかんな」
口憚らず何を言うにも好き放題。迷惑が振りかからなければそれでもいいが、流石にこれにはアレルヤもムッと来る言い草だった。
他人をわかったつもりで臆病者呼ばわりをされれば、誰でも腹に据えかねるものが溜まるというもの。ならば皮肉のひとつでも言い返そうと思い……
「臆病ってのは自分に自信が持ててねえってことよ。自分は自分だろ? 何が怖いんだか」
「……!」
……その矢先に、
「ユリウスもそーなんだよな、自分のパワーにビビってたら仕事になんなくない? 割り切っていこうぜ割り切って。お姉さんからのアドバイスだ」
「……そんな簡単に」
「あっなんか初めて教官っぽいことしてるなあたし!!!! カッコよくない!?!?」
パスレル・メイラントという人間が、初めて恐ろしく思えた。
アレルヤは確信する。彼女はこの飄々とした態度の裏に、人の本質を見抜く力を備えている。
自分自身を恐怖させる、抑えきれない力……『もうひとりの誰か』と言えるほどの大きな力に自分が信じられなくなっていることを、おぼろげながらもパスレルは見抜いているのだ。
「……あ゛!! ……っふう、まあデカイ力は取り扱い注意ってのはわからんでもないけど、それ含めて自分なんじゃねーの? 受け入れてこうぜ? 心の狭いヤツはハゲるからな」
「……あなたは、どうなんですか? レイヴォネンさんと同じ力がある」
「あたしぃ? んなもん……水に流しとけーってな!!!! トイレだけに!!」
トイレの流れる水音と同時に、パスレルはそう言ってからからと笑う。
自分には真似できない生き方だと、アレルヤは思う。恐らく彼女はあらゆる物を割り切って生きていて、長い間それが当たり前だった。後悔も、罪悪感すらもないのだろう。
だが、それでもアレルヤは、『もうひとりの誰か』を自分だと認めることはできそうになかった。あれが自分だというのであれば、自分はまるで――――
「ま、焦ってもしょうがねえし? 時間かけて……あ、しまった」
「何です?」
「今の会心の出来だったのにな、流しちゃった……見せてやろうと思ったけど」
「え? あ…………み、見せようと思ってたんですか? アレを? 女の人なのに……!?」
「今度写真撮ってメールで送ってやっから。前ユリウスにやったらぶん殴られたっけな~」
「ほんとにやったら僕も殴りますからね!!!!」
――その一週間後、ブリーフィングルームにてパスレルは他のマイスター三人とユリウスの見ている前で出会い頭のアレルヤに思いっきり平手打ちを張られた。
『もうひとり』に頼らず自分の力だけで、本気で人に暴力を振るいたくなったのはそれが初めてだった、と後にアレルヤはその訳をユリウスに語り、パスレルはユリウスに脛を蹴られた。
「いやあれはね、自分で引き金を引くってのはそうやるんだっていう感じのアレなんだよ」
誰がそんなもんで自覚をつけんだ、と返され、パスレルはさらに太ももをつねられた。
ストーリー全然進んでない回だし短いなと思って幕間という扱いにしてあります
話の流れ重視だと積極的に絡んで来させられないなと思ってた二人でした
まあこの時期のマイスターはロックオン以外全員そうですけど
そろそろ前準備が終わって1stseasonに行きます
それまでにあの男がもう1回出番あるかも?