ガンダム00世界で留美やネーナやコーラサワーとイチャイチャしながら生きる   作:トン川キン児

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座天使の抜け羽根

「……酒の席だしこの際だからはっきり言うよ」

「……何をです?」

「お嬢様の話だ」

 

 暖色の明かりが灯るバーカウンターで、ユリウスが酒の力任せに切り出した話である。どうせいつかはハッキリさせなければならないことだ、と。

 

「あの子のお遊びをそのままにしとくのはもうよせ」

「……それは当主であるあの方が決めることです」

「アンタは兄貴だろ。手綱は自分で引けよ」

「……私にはその資格がない」

「当主になれなかったからか? 知るか。天地がどうなろうと兄貴をやろうとする奴が兄貴だ」

 

 大商人の家族のしきたりというものがどれほど重いのか、というのは正直な所ユリウスには測りようがない。しかしながら、それは肉親であること、兄貴をやることを放棄する理由にはならない、とユリウスは思う。

 思いのままを、そのままぶつける。紅龍は情の介在しないような冷血ではないのだから、このように訴えかけるのが結局は一番だ、と思えた。

 

「引け目があるから、せめて命ばかりはって、お情けみたいに今ここにいるんだろうけどな。付き人なんざいくらでも替えは利く」

「貴方にそこまで口を出される謂れはあるのか」

「あるね。情けない兄貴は好きじゃないんだ」

 

 辛辣なその言いように、流石の紅龍もこうなると苛立ち、怒りの表情を隠さなくなってくる。

 

「ああなったのをやらせたい放題にしとけば、どっかで死ぬさ。アンタが殺すんだよ。そうしたくなけりゃ、死ぬ間際よか早く、付き人よりも兄貴らしいことをあいつに言ってみせろ」

「……貴方に何がわかる……」

「わからんからお前だけがなんとかできると言うんだ。やらないんなら……」

「ケンカかい?」

 

 ――――突如として、聞き覚えのある声が隣から不意を打ってくる。

 

「――――――ッ!!」

 

 飛び跳ねるようにそちらに振り返ると、確かに思った通りの()()はいた。

 リボンズ・アルマーク。

 アレハンドロ・コーナーの付き人で、いずれ主人である彼を殺害しイノベイターを名乗り、造物主である人類に反旗を翻す存在、その首魁とも言える存在。それが、すぐ傍にいる。

 

「連れの子が随分深酔いしていたね。別の部屋で寝かせてあるよ」

「……そいつは……どうも。悪かったな」

 

 パシーの奴はいったい何をしているんだと思ったが、今気に留めるにはそれほど特別でもなくいつものことなので頭から抜け落ちた。

 一瞬冷や汗をかいたが、杞憂であると思い直すユリウス。その胸の内に秘めた野望をユリウスが知っているということを、リボンズは知らない。知りようがないはずなのだから。

 

「堅くならず楽しんでください。アレハンドロ様の招いた席です」

 

 背後には1stシーズンを通して暗躍し、最終局面においての敵役も自ら勤め上げた存在であるアレハンドロ・コーナーも留美と談笑している。黒幕二人、ここには揃い踏みである。

 いっそのことこの場でまとめて、と思わなくもない。が、それではこの先がどうなっていくのかあまりにも読めない。

 チームトリニティの存在、留美の行く末。それらに対する自分のアドバンテージを手放すことも、コントロールできる範囲から逸脱することも、避けたい。

 であれば、この場でやることは。話の続きである。

 

「……話を戻す」

「……私が兄をやらないというなら、どうすると?」

「俺がアンタの代わりにやることをやる。死ぬような目に遭う前に叱るでもぶん殴るでもなんでもな」

「私の前で留美に手を上げると……」

「必要ならやるよ。ああ、何でもやるさ……大口の雇い主なもんでな」

 

 言葉を聞き届けた紅龍のやるせなさ、情けなさ、後悔に怒りに憤りといった感情がない交ぜになった表情の横顔を見て、ユリウスはこれでいいのだ、と自分を納得させるしかなかった。

 こういう刺激が紅龍により早く行動を起こさせるのだと。そして、それが叶わないのであればお鉢が回ってくるのは自分なのだ、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぼええええ!! う゛ごぇぇぇえええええ!!

 

 その頃パスレル・メイラントは、肝機能の限界に達したアルコールの余剰を盛大にゴミ袋へと吐き散らかしていた。

 

「……同じ嗜みを持つ者としては、節度ある飲み方を勧めるよ」

「い……いやあ……試したくってなあ、たけーの並んでるしあたし人造人間だっつうし」

「イノベイドとて分解の限度はあるし、高ければいいというのは発想の貧困だよ」

 

 高級ワインを浴びるように呑んでも吐かない。そんな夢のような体質であったのだと思いあがった結果がこれである。

 只人からすれば不死にも等しい存在のイノベイドの肉体を私欲に使い案の定に撃沈するそのみっともないザマに、リボンズとしては同じくワインを嗜む者としても、塩基配列パターンを持つ同族としても文句の一つや二つ言いたくなるというものだった。

 

「なんかぁ……貸しひとつになっちまったし。ツケといていいぞ」

「こんな汚い貸しなど僕はごめんだ」

「ああそう……潔癖ィ〜〜〜〜」

 

 口の端から涎が滴るグロッキーながらも、パスレルはいつも通り快活で不敵に軽口を飛ばす女であった。

 その時、廊下の方から点々と足音が続き、次に部屋のドアをノックする音。

 

「マグナスだ。いるか?」

「う~~~~っす」

 

 あまりにも適当な返事を返され察したのか、声の主であるユリウスはすぐにドアを開けて入ってきた。

 ここにもいるリボンズに対して一瞬面喰らったが、やりたくもなさそうな付き人をやって酔いどれのバカの相手をしているのだから、その辺りはユリウスにとっても同情に値することだったので平然とできた。

 

「お嬢様がお帰りなんでな。行くぞほら」

「ぅ~~~~い」

「……連れが迷惑をかけるな」

「いえ。お大事に」

 

 パスレルをおぶさりつつ部屋を後にするユリウス。背中でうなだれるバカに、ユリウスはひとつ問いかけた。

 

「あいつと何か話したか?」

「ぁえ? ああ……酒って高けりゃいいってもんじゃね~って」

「……そうかよ」

 

 これまでの人生経験上、得てして酔ってる奴の話などはアテにならないものだということはよくわかっているので、聞いたことはすべて話半分だった。

 ……ユリウスもまた、知らない。

 リボンズにとってユリウス・レイヴォネンとパスレル・メイラントは歯牙にもかけない存在という訳では全くなく、むしろその逆であるということも、既にパスレルとは接触を終えているということも、知りようがない。

 

(……ユリウス・レイヴォネン。あれが、そうか……)

 

 閉じられたドアの向こうで、リボンズがほくそ笑んだことも、知りようがない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 未だ続いていた人革連・セイロン島民族紛争。タリビア独立を端に発したユニオンの謀り。モラリアにおけるAEUとの合同軍事演習。

 低軌道ステーションの事故におけるキュリオスの独自の介入や、ガンダムエクシアのマイスターである刹那がモラリアで起こした行動など、全てが順風満帆とはいかなかった。が、ひとまずソレスタルビーイングは三大国家群すべてに対する楔を打ち込み終えた。

 ……が、世界というものは天から押し潰された分だけ押し返す。

 ソレスタルビーイングによる武力介入の即時中止及び武装解除を要求とし、国際テロネットワークによる無差別テロが世界中に巻き起こる。その最中に、ユリウスもエージェントとして動いていた。

 ……しかし、今のユリウスは別の目的で動いている。

 

「入りたまえ」

「……失礼します。お久しぶりです、教授」

「君からまた訪ねてきてくれるとは思わなかったよ」

 

 ユリウスの目の前にいる老人の名は、レイフ・エイフマン。

 なぜ今、彼の元をユリウスが訪ねなければならないのか。それは、確信を得るためであった。

 

「かけたまえ、バタバタしていてあの時は礼もできんかったからな」

「対ガンダム調査隊の技術顧問ということでお忙しい中ですが……」

「構わんよ、歳ゆえひとつ上のMSWADの顧問は弟子にもう譲ったしな。ちょうどいい所に座っただけだ」

「礼というならば今日のことでしてほしいと思います。自分の仕事の話です」

「……傭兵のか? 儂に非正規軍の手伝いをしろとは言うまいな」

「人を探しているだけなので。貴方はこの人についてご存じなハズだと思いました」

 

 そう言ってユリウスはポケットから一枚の写真を取り出し、エイフマンへと見せつける。

 その面貌に合点がいった瞬間、エイフマンは思わず眉間に皺を寄せた。

 

「……リヒカイト博士か……?」

「クレーエ・リヒカイト博士。生物工学者。専門は再生医療及びナノマシン……教授の御学友でしたよね」

「……なぜ君が彼を調べる?」

「それが依頼です。今、世界で起きている連続爆破テロ。その痕跡には彼の遺した成果物もあったと依頼主は言うので」

 

 この辺りは全くのでまかせではある。しかし、やはり読みは当たった。エイフマン教授は、クレーエ・リヒカイトを知っている。

 表舞台から姿を消した生物工学者をしらみつぶしに調べて行って、最も可能性が高かったのが、写真に写ったこの片眼鏡(モノクル)の老人。そして幸運なことに、つながりのあった可能性のある人間(エイフマン教授)と自分は知己があった。

 エージェントとしてこういったように動けるタイミングはこれからはそうない。だからこそ、今なのだった。

 

「……奴がか……正直、可笑しくもない話かもしれん」

「どういうことです?」

「気が引けるが、礼は礼だ。奴はいけ好かない男だった。儂と違って城のような家を持つほどに産まれに恵まれ、エリートだった。やること成すことうまくいっていたようだが、まあ、いつだかまではそれでも医者ではあったんだがな」

「……何かあったのですか?」

「死と折り合いがつかなかったと言うべきか。他人にも自分にも……君は若いからいまいち的を射ないだろうが、それは人間としてあまりにも不幸なことなのだよ」

「…………死の色が濃い場所を突っ走ってきた人生ですから、多少は」

「……そうか。最後に会ったのは何年前だか忘れたが、写真よりか酷い顔だった」

「………………」

「妄執に憑りつかれて全てを見失った。哀れな男だ。人が死を乗り越えるなどまだまだ先の話だというのに」

「そのために何をしていたんですか」

「認可を得ないナノマシンの改造、人格転写、禁止されたヒトクローンの製造。それぞれに対する研究……噂ではそういうことらしい」

 

 イノベイドの持つ不老を可能にするナノマシン。リボンズがその証明。

 死亡した場合にすら自分の人格をスペアの肉体に転写する方法。イノベイドにはそれがある。

 ヒトクローンの製造。もし()()()が何者かの遺伝子情報を基とした存在だとすれば。

 

「どこにいるかまでは」

「わからんよ。言った通り会っていないのでね」

「…………わかりました。ありがとうございます、教授」

 

 疑念は確信へと変わった。

 やはり()()()を作ったとすれば、この老人しかいないだろう。

 チームトリニティ。

 これより世界をさらなる混乱へと陥れるために放たれる刺客。造られたガンダムマイスターたち。

 ようやく、その存在と真実に近づいた。手ごたえを感じつつユリウスが席を立とうとした、その時。

 

「君の探し人はまだいるはずだろう」

「……クジョウのことでしょうか?」

「会ったという男がいる。先ほど言ったMSWADの技術顧問。儂の一番弟子で彼女とは学友だ」

「え…………!?」

「君には便りは寄こさなかったのかね」

「……何も。そ、そうですか…………あいつ……学生時代の男なんかひっかけて。酒でも奢らせましたかね……

「……君、モテないとは言われんか」

はあ!? 何すかいきなり……!!」

 

 この辺りでスメラギとビリーが会っている、というのはうっすら覚えているだけだったので自然とそう話せたが、続く唐突な暴言には思わず地が出てしまったユリウスだった。

 

「……あ、も、申し訳ありません」

「フ。案外そういう所を嫌って妹さんもいないのかもしれんな」

い、言わせておけばこのジジイ……!!

「君が何を考えて行動しているのかは知らん。が、手の届く範囲を守りたいという熱意は伝わる」

「! …………はい」

「妹さんが見つかるとよいな。帰るのなら、また縁があれば会おう」

 

 一瞬脳内が沸騰しかけたが、続く言葉で即座に冷めたユリウスの頭。

 実際のところ、妹であるリンダの所在はもう知っている。だが、手の届く範囲を……というのは実に的を射ている。

 倍以上の人生を生きた人間というものは、やはり侮れない。そう思いつつ去ろうとしたユリウス……だったが。

 

「……そうだ」

「何かね?」

 

 渡すべきものを渡していなかった、と思い直して踵を返す。

 

「名刺が変わったので。今はフリーランスです」

「……なるほど。では儂の方もやろう」

「ありがとうございます。通信環境とハッキングにはお気をつけて」

「それは最近の売り文句かね?」

「そんなところです。ではこれで」

 

 ……手の届く範囲を守る。それは、一度見知れば例外ではない。

 この名刺に付いた"仕掛け"が役に立つような日は来ないことを祈りつつ、ユリウスは本来の任務へと戻っていった。

 

 その後、国際テロネットワークと名乗る一連のテロの首謀者は欧州の自然回帰主義組織"ラ・イデンラ"と判明。

 故意による情報流出で"これを叩き潰せ"という言外な世界の総意によって、ソレスタルビーイングはその活動拠点の悉くを粉砕。

 一連のテロは、ひとまず終息へと向かったのだった。

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