ガンダム00世界で留美やネーナやコーラサワーとイチャイチャしながら生きる   作:トン川キン児

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それぞれの決意の朝

 リボンズ・アルマークにとってこの場でやることは実に簡単だ。

 自分の偽らざる気持ちの程をハッキリと示す。

 あの男の考えることなど気に食わない。

 やがて来る人類の革新を導く存在として、使い捨てにされる存在など御免蒙る。

 上位種がなぜ下等種族の面倒など見なければならないのか。

 ヴェーダに支配される生から解放されたい。

 意趣返しをしてやる。数百年も前の時代からこれだけの仕組みを張り巡らせたのなら、どうせどこかで見ているあの男に。

 

 そうすれば、パスレル・メイラントはこちらに付く。

 確信がある。この女は世界をより混沌に、面白おかしく動かす方に付くと。

 だが、リボンズ・アルマークは。

 

「…………っ、く…………!!」

 

 その一歩が、どうしても踏み出せない。

 

「……あ、あのさァ。さっきから何アンタ? 呼吸我慢大会?」

「黙っていろと言っただろう……!!」

(コワ~)

 

 時折声を漏らしながら徐々に頭に血が上って赤みを帯びてくるその様子に、空気の読めないパスレルも流石に一言かけ、そして怒られる。

 リボンズにとって、文字通り今は命を賭けている。

 イノベイドとしての生を享けた時から、初めての感覚が全身を支配している。

 すなわち、死への恐怖。

 この場でパスレルに伝えなければならないことは、即ちその全てがヴェーダへの、イオリア計画への反逆の確かな証拠に他ならない。

 その意思を示せば脳量子波を通し人格は消去。肉体はいずれ別のイノベイドが回収、処分する。

 文字通り、自分はその場で消えてなくなる。その可能性は間違いなくある。

 その優秀さから、その聡明さから、その肉体から。産まれてこのかた、リボンズは死というものに正面から対峙することがなかった。

 だからこそ今日、リボンズ・アルマークという生物の一個体は、逃れえぬ死という運命への耐性の無さを露呈することとなった。

 そしてこの女は気まぐれ。三度目までと言った今回を逃せば、人類の革新が成る以前から本能に眠っていた能力・Xラウンダーとしての能力があるとはいえ、どこでどんな無茶をやって死ぬものかわからない。

 決着は、どうしても、今ここで決めなければならない。

 

「…………ふー…………っ……」

(やっぱコイツやべー変態のストーカーなのかなぁ……? 息荒いし……)

 

 いちかばちか、生か死か。それだけのリスクを天秤にかけてでも、絶対に得るべき能力をパスレルは持っている。リボンズ・アルマークには、パスレル・メイラントはどうしても必要なのだ。

 それがリスクなら、背負う。

 そう決断してパスレルを呼んだはずが、今になって怖気づいている。

 リボンズ自身それがあまりにも情けなく、イノベイドの頂点に君臨すべき上位種である、すなわち生命の頂点であると自負するプライドもそれをあってはならないことだと許さなかった。

 あまつさえその弱みを、今はパスレルが全て見ている。なんという失態なのだろうか。

 恐怖と怒りと憤りと惨めさがないまぜになり、内面の混乱は徐々に深まっていく。

 僕は何をしている? こんなところで手をこまねいて何がしたい?

 今まで聞いたことのない自問自答が、いつしか脳内を駆けまわり始め。

 

え~~~~お前震えてんじゃん!! 何ビビってんだよカワイ~~~~~~~~!!

「な……ッ!!」

 

 両手を握り込む手が震えていることも気づかなかったし、目の前の女は人を苛立たせる天才であることも忘れていた。

 

「えっなになになに!? どしたん急に!! 幼稚園児!? パシーお姉ちゃんが怖いんでちゅか~~~~!?」

「……僕に……恐怖などない」

「え~? ホントか~?」

 

 強がって言ってみせたリボンズだが、自分でも恐怖の感情を抱いていることは理解している。だから、強い語気で言い返すことができなかったし、パスレルをさらに調子付かせた。

 しかも、リボンズはもう一つ失念していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……怖くねえって。言ってみな」

……!!

 

 

 

 

 

 

 

 嘘を見抜くパスレルからすれば、そのような虚勢も意味を成さないということも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 リボンズが俯いている隙にパスレルは近づいていて、いつの間にかその額をリボンズの後頭部あたりに押し付けに来ていた。

 その声は、普段の騒がしく忙しないあのパスレル・メイラントから想像もできないほど優しく、まるで包み込んで来るかのようだった。

 それが一体何を意味するのか、リボンズには理解が及ばなかった。

 だがなぜか、得体のしれない原動力が湧いてきて、次には今思うこと全てが口からこぼれ出ていた。

 

「……僕はイオリア・シュヘンベルグを憎む。あの男のやること全てを憎む」

「下等な人間の進化のために使い捨てにされる人生など絶対にごめんだ」

「機械に生き死にを左右される惨めな存在などもうまっぴらだ」

「下等種族の神になることなど何の価値もない」

そうさ。僕はもっと力を手に入れあの男の全てを否定してやる

計画も理論も被造物も、あの男の思う通りに進んだこの世界も全て!!

 

 床に唾が飛ぶほど叫んだ激情を、同じ姿勢のままパスレルも聞き届けた。

 ……全てを吐き出した後、自分がまだ生きているという事実を噛みしめたとき、リボンズの心にあらゆる感情が去来した。

 なぜ生きている? やはりこの女の力? ならば僕にもできるということか? 僕は賭けに勝った。

 そう、勝った。運命の歯車から外れた一人になったのだ!

 

あい~~~~よくできまちた~~~~

「……君のそういう所が嫌いだよ」

 

 長い生の中でこれほど決意を込めた表明もなかったというのに、パスレルは事もなげにからかって余韻に水を差してくる。

 だがそれでも、彼女は最後まで聞き届けた。それは、何を意味するのか。

 

「うし! やるかァ! ハチャメチャやろーぜジジイの世界!!」

「楽しそうだからだろう?」

「やっぱあのさ……こう……重いコストかかってるもん爆発させんの気持ちい〜だろうな〜!」

 

 塩基配列パターン0026、登録番号06928-AH119、人間名パスレル・メイラント。

 そのイノベイドは、相棒(ユリウス)の知らぬ間にいつの間にか元鞘へと収まっていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 ユリウス・レイヴォネンは悩んでいた。ここに至って来るかもしれないと思っていたものがやはり来た。

 それも、大恩のある彼女から。

 

『久しぶりだな、レイヴォネン』

 

 一般回線からユリウスに宛てられた音声メッセージ。紛れもなくAEU軍の天才指揮官、カティ・マネキン大佐からのものである。

 何ゆえ今更にその立場で便りをよこすのか。答えはひとつしかない。

 

『単刀直入に言おう、AEUへと再入隊しろ。次の作戦、お前の力が必要になる』

 

 ……そういうことである。

 ヴェーダも、スメラギも、次の世界の動きをすでに掴んでいる。

 ユニオン、人革連、そして件のAEU。その三大国家は、一時その手を取り合うことを決めた。

 近日中にタクラマカン砂漠において、三大国家による現在に至るまで比類のない規模の合同軍事演習が行われる。既に公式発表が行われた確定情報である。

 そしてその地には、忌むべき旧時代の遺物である濃縮ウランが埋設されている。()()()のリークによってその詳細なポイントは割れており、時を同じくして放射能汚染を目的とした世界規模のテロを目的としたテロリストが、ここタクラマカン砂漠への襲撃を目論むことは容易に想像が付く。

 そうなれば。理念に基づきソレスタルビーイングは動かざるを得なくなる。

 三大国家が網を張る、あまりにも多すぎる罠の巣窟に。

 

『フランス外人部隊、第2独立騎兵連隊に籍を作ってやる。心配はいらない、お前の名誉は回復されている。私がそうしたのだから保証してやる』

 

 ……やはり、武力介入開始前に起きたあれはマネキン大佐によるものだったということだろう。

 事件が起きた年から片手で数える年も経たずに軍政でも結果を出し、首謀者を締め上げてみせた。なんと強い女性だろうか、と常々思う。コーラサワーが惚れるのも無理はない。

 ……問題なのは、今の自分の立場である。

 今の自分は、ソレスタルビーイングのエージェントとして雇用された傭兵。であるからして、今はこのメッセージを持ってチームプトレマイオスのリーダーたるスメラギ・李・ノリエガに判断を仰ぐところである。

 ……すると、帰ってきた答えは。

 

「……こういうことなんだけど」

「行くべきよ。貴方は」

「え……」

 

 ……選択肢の中にはあったかもしれないが、意外な返答だった。

 

「あの人が、ね……そう。納得の人選よね、今AEUにいる最高の指揮官なんだから」

「だが、俺は……」

「怪しまれないのもエージェントの仕事よ。ネフィリムの稼働時間じゃ、どの道長期戦・消耗戦になる今回の作戦で出来ることなんてないもの。太陽炉を積んでないからね」

 

 傭兵が所属する独立騎兵連隊ならある程度は平時も自由行動は可能だし、エージェントとしての活動にそう支障はきたさないでしょう、と一言付け加える。

 

「……俺……」

「怖い? 私もそう言われたらまだ怖いしね。気持ちわかるわよ」

「……そうかもしれない。いや、そうなんだろうな」

 

 そう言った次には、ユリウスの右手は()()()の両手に取られ包まれていた。

 

「行ってほしいの、私、ユリウス君に。私からも、カティにお礼を言えてない。だからお願い」

 

 ……少し潤んだ目で、覗き上げられるユリウス。

 (リンダ)といい(ミレイナ)といい、女の涙に勝てたためしがない男であるユリウス・レイヴォネンの返事は、既に決まってしまっていた。

 

「……わかった。行く」

「ありがとう。お願いね」

「何かあったらすぐ戻る」

 

 マイスターの窮地を救うどころか、AEU軍に戻るとなればそれを助長する立場になってしまったユリウス。

 これをどうしたものかと考えるばかり、ユリウスはスメラギの秘めた真意には気づけなかった。

 

(……貴方まで私が死なせたら、私、もうどうにかなっちゃうから。だから……)

 

 これから自らガンダムマイスター達を勝ち目のない死地に送り込む身であるというのに、どこまでいってもリーサ・クジョウというのはなんとまあ身勝手で情けない女なのだろうか。

 己の至らなさを自嘲するしかできないことにも、自己嫌悪が止まない。

 留美の用意したセーフハウスで過ごすスメラギのその日の夜は、いつもより深く酒を飲まなければ眠りにもつけなかったのだった。




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