ガンダム00世界で留美やネーナやコーラサワーとイチャイチャしながら生きる 作:トン川キン児
何の前触れもなくこの一文が自身の空中投影型ディスプレイに映し出され、基地の警報がそれと同時にけたたましく鳴り響きガンダムの襲来を示した瞬間、レイフ・エイフマンは自身の命運が尽きようとしていることを理解し始めた。
ソレスタルビーイングが、イオリア・シュヘンベルグが張り巡らせた根は、これほどまでに根深かった。
軌道エレベーター、太陽光発電システム。現在の社会の基盤を200年以上も前からすべて形作った人間が、その世界を裏から視ていないという考えが甘かったのかもしれない。
後悔をしたところで既に遅い。ガンダム3機に対抗できる装備などもはやこの基地にはありはしないのだから、自らの死は必定である。
("通信環境とハッキングには"……か……その通りだったな)
ネットワークに接続していない完全なるスタンドアローンのコンピュータを用いていれば、あるいは自らがイオリア・シュヘンベルグの核心に近づいていることは隠し通せたかもしれない。
が、結局のところ教え子の友人である彼の話をそこまで真に受けることはなかった。
組織の強大さという点においては、彼の見立ての方がよほど正しかったことが証明された形になる。そしてそれも、粒子ビームの熱線に呑まれて消え去り無意味となることだろう――――
――――ところが、その瞬間が来る様子はない。
「…………何だ、あの機体は……? イナクト……いや、新型か?」
ガンダムと対峙した、更なる
(……ではアレは、私の抹殺を止めに来た。私を助けに来たと……? そんなことを必要とするのは、どの勢力……?)
『エイフマン教授!! 護衛が向かっております、地下階まで避難を!!』
考えを巡らせる前に、通信を聞いた身体が動く。
状況の思惑は今のところ量りかねる。だが、老い先元々短いとはいえ取り損なった命をみすみすくれてやるのも癪なもの。
この襲撃を自分の知がソレスタルビーイングを追い詰めている裏付けであるとするならば、それは即ち、この後には自分の遺す理論こそがユニオンが世界をリードする鍵になりかねないということである。
「しばらくは表をほっつき歩けんか。難儀なものよな……!」
人類の模範となるべき国勢を示すアメリカをリーダーとした、緩やかな世界の統一。
もしそれが叶うのであれば、今よりはまだマシな未来が繋がる。だからこそレイフ・エイフマンは、ユニオンの理想を支持する。
その決意は固く、しばらくの間自由な外出がまるでできないとしても変わらないだろう。
・
・
・
『兄貴ィ!! 上だ!!』
「……!?」
GNメガランチャー照射中のスローネアイン及びドライの援護を請け負っていた、次男、ミハエル・トリニティのガンダムスローネツヴァイ。
上空から現れた謎の機影に突破を許し、無防備な長兄に向かって声を張り上げて警告を飛ばす。が、時既に遅し。
『ネーナ!! ドッキング解除!!』
「え? ちょっ……」
「……くぁ!!」
「きゃあああぁっ!!」
粒子ビームをドライブしている最中にビームサーベルにより溶断されたGNメガランチャーの砲身は容易く大きな爆発を起こし、衝撃がスローネアインのヨハンと、スローネドライのネーナ・トリニティを襲う。
ミハエルによる警告と接近警告の二重の事前警告もあって避けるようにして大きく後退したため、中心に巻き込まれることは避けたものの、あの暴発に巻き込まれれば最悪行動不能になるリスクも負っていた。
……これを起こした下手人は何者か。その機影は、MSWAD基地と海を背にして佇んだまま、自分たちしか知り得ないはずの回線から暗号通信を送ってきた。
『ハァ~イボンクラ三兄弟ども! あたしパシー! 以後よろしく』
「あ゛ぁ゛!?」
『マグナス・アルハンゲルからチームトリニティへ。これは警告だ。今すぐミッションを中止、帰投して我々の指示を待て』
……機体照合に一致あり。
CBNGN-001、AEUヘリオンカスタム「ネフィリム」。
そしてそのパイロットは当然、操縦権に生体認証がある以上はマグナス・アルハンゲルとパスレル・メイラントのふたりしかいない。
『兄貴!! こりゃあ反逆だろ!! やっちまおうぜオイ!!』
『ナメてるよこいつ! ガンダムに乗ってもないクセにさ』
『二人とも待て』
煽られたせいもあってか血気に逸る弟と妹を抑え、チームリーダーとしてヨハンはこの奇妙な状況の詳細な説明を求める。
『我々チームトリニティはこの作戦を許可されている。いかなる理由があってミッションの作戦を止める?』
『ヴェーダはこのミッションの実行許可を保留している、独断での作戦行動は看過できない。だから俺がここにいる』
『……それがなぜいちエージェントにすぎぬ貴方にわかるというのか、マグナス・アルハンゲル。貴方にも我々を止める権限などないはず』
『ゴチャゴチャ言ってんなよオイ。てめーらだんご三兄弟揃ってラグナの子飼いだろぉ~~?』
『! ……驚いた。そこまで御存知だとは……』
パスレルの言い放った人物の名を聞き、ヨハンは強く身構える。
この二人は、間違いなくチームトリニティの核心に迫っている。自分たち兄弟の武力介入行動に支障をきたしかねない存在だ、と。
マグナス・アルハンゲルがいかにして自分たちに近づいたか、なぜミッションを先回りされかけたのか、誰の指示で動いているのか。裏にある存在は未だわからない、が。
『兄貴、もういいだろぉ? コイツ知りすぎだぜ』
『死ぬしかないんじゃない? お・じ・さ・ん♪』
「……どうやらここで貴方を放置しておくわけにもいかないようだ。最後に一つ問おう」
『聞こう』
「我々が要求を聞き入れない場合、貴方はどうする?」
『……お前たちのガンダムは可能な限り撃墜する』
『死ねってことよォ!! ヒャアアアァァァァ!!』
マグナスとパスレルが言い終わると同時に、ネフィリムは飛行形態へと急速変形。
スローネ3機からの集中砲火を避けつつ、飛行形態となって下方から一気に距離を詰める。
『ッたくよぉ、結局やんならさっさと始めろよな!!』
GNバスターソードを肩掛けに構え、近接強襲型の機動力で強引に迫るスローネツヴァイ。
「来てんぜぇ~~~~!?」
「ぬるいんだよ……!」
剣筋を読み、左下方へとバレルロールで逃れながら、またもMS形態へとネフィリムは急速変形する。
脇を通り抜ければ当然、変形で失速したことによって近距離でスローネツヴァイの背後を取っている。
急減速のGにマグナスが身体を喘がせながらもNGNビームサーベルが抜かれ、光の刃がスローネツヴァイへと迫る。
「っぅう゛う゛う゛……!! っあ!!」
「んなっ!?」
間一髪GNバスターソードでの防御が間に合い、逆袈裟に両断されることは避けられたスローネツヴァイ。
側方から動きの止まったネフィリムを狙う2機分の牽制のビームが飛び、鍔迫り合いをほどいてネフィリムは一度離脱する。
『ミハエル、接近戦はさせるな。我々に有効なネフィリムの武装はビームサーベルただ一つ』
『了解! だったらァ、ファングだよなァ!!』
GNファング、6基。スローネツヴァイの腰部バインダーから射出された量子通信の遠隔操作による多角攻撃兵装が、いっぺんにネフィリムを襲う。
現在モビルスーツ形態であり、GNドライヴ搭載機でもないネフィリムには、このファングとアイン、ドライによるスローネの一斉射撃をすべてかわすことなど到底不可能である。
『アッハハ! ガンダムでもないくせに私たちに敵うなんてさ! 死んじゃうよぉ!?』
絶望的状況を嘲笑いながら、GNハンドガンを連射するスローネドライのネーナ・トリニティ。
……惜しむらくは、嗜虐的傾向があり慢心癖も強いトリニティの次男と長女のこの時点での想定は、揃って"並のパイロット"であったこと。
『見えてん、よなぁ~~~~!!』
「っ、な、オイ……!!」
ファングとスローネ2機。8本ものビームの射線の間をかすめるほどのギリギリに縫って、最短距離でネフィリムはスローネツヴァイへと迫る。
いくら通常機と比べれば機動力が高く調整されているとはいえ、これほどの速度で迫られれば面食らうミハエルだが、まだ隠し玉はある。本命である残り2基のGNファングがあれば、真っ直ぐ突っ込んでくるだけの機体を堕とすことなど容易なもの。
「……なんてな! よくもったなァ!!」
ミハエル・トリニティの十八番。本命として残したファングが発射されビーム刃を発振し、その牙を突き立てんと迫る――――
――――ことはない。
「――――は!?」
左腕に保持していた高出力ロングリニアライフルの単射が、2発。それだけで、GNフィールドを纏ってなどはいないファングは眼前で撃墜される。
その射撃は、
『……ひとつめッ!!』
「だあっ!?!? な、何が……!?」
「ミハにぃ!?」
『FOOOOO!! ガキがよ! ガキがよ! 餓鬼! 餓鬼! ガキィ!』
スローネツヴァイの頭部に真っ正面からNGNビームサーベルが突き刺さり、それを下方に向かって蹴り飛ばしたネフィリムが離脱したのち、サーベルごと爆発。
ヘッドユニットを喪失したことで機体の制御が一気に失われ、モニターもサブに切り替わるまで全損しゼロ視界となる。粒子供給効率も一気に悪化したスローネツヴァイは、真っ逆さまに落下する。
ミハエルの遅すぎる焦り。パスレルの大興奮。お互いそれを隠せなくなる。
「貴様……ッ!」
「よくもミハにぃを!!」
アインとドライ。兄弟を傷つけられた怒りのビームが、蹴りの反動で後退しつつ飛行形態へと変形したネフィリムを追うが、捉えきれない。
「こいつ……なんでっ!」
(メガランチャーの反動でアインとドライは粒子供給が追いつかん……ツヴァイが落ちたこの状況、まずい!)
その事態に焦燥を隠せないネーナと努めて冷静に状況を分析するヨハンとでは対照的だったが、今やどちらも認識した。
"お前達のガンダムは可能な限り撃墜する"。相手は、それだけのことができる脅威なのだと。
「パシー!!」
「
ネフィリムの脚部マルチランチャーから発射される4発の特殊弾頭。スローネドライの眼前で爆ぜた、それは。
『なにこれ!?』
『煙幕だと……!?』
スモークが散布され、あたり一帯は煙に巻かれる。
視界は完全に奪われている状態で、スローネアインからは、海に落ちたツヴァイはもちろん、ドライの姿も、敵であるネフィリムの位置も見失う。
しかし、それは向こうも同じことである。
『セコい真似してさぁ!!』
『待てネーナ! 私から離れるな、罠だ』
GN粒子の電磁波干渉により、ネフィリムのレーダーは全く利かない状態であることに変わりはない。つまり、この煙幕の中では両者とも完全に敵を見失っている。
退却するのではなく、これを攻撃に使っているというのなら、恐らく相手はこの煙幕を嫌って抜け出す瞬間を狙う。
最後に見たのは飛行形態であったから、我々に煙幕を見舞ったあとに一足先に抜け出て様子を伺うことは簡単であるはず。
そして確かなことは、相手は残り1本のNGNビームサーベル以外にガンダムへの決定打を持たない。
であれば。背中合わせになり迎撃に徹し、あまり動かずに煙幕が晴れた後を狙う、それが最良。
チームトリニティのリーダーであり、最も冷静な判断力を備え持つヨハンだからこそ下せた判断であり、事実それは正着であった。
――――相手が普通の人間であれば。
という鼓動が脳に響くたび、敵がどこを狙っているのかわかる。
白煙にまぎれていても、敵の位置が手に取るように見える。
本能が理性に訴えかけ続ける。こうすればうまくいく、と。
そしてそれは、パスレルの声と共に、ユリウスの中でどんどん大きく響いてくるのである。
「とったアアアァァァ!! アイイイイイイイイ!!」
ネフィリムはMS形態で、スローネアインの後ろ下方から煙の中を
「なに!? なっ……何故わかる!!」
接近警告が鳴り、両脚を横一閃に切り飛ばされてようやくスローネアインは敵を眼前に捉えた。
が、次の瞬間にはGNビームライフルを保持していた右腕も下から上に切り飛ばされる。
既に、全ては終わっていた。
『うそ……!! ヨハにぃっ!!』
悲鳴にも近いネーナの呼び声。しかし、それも当然である。
煙幕が晴れて見えてきたのは、後ろに回ったネフィリムから、残る四肢が左腕のみでコクピットブロックにビームサーベルの発振器を押し当てられているガンダムスローネアインの姿だったのだから。
『なに……何よあんたっ!! ガンダムマイスターでもないのにっ、こんなっ!!』
『ネーナ・トリニティ。五体満足なのはお前のドライだけだ、だから訊いてやる』
『は……!?』
『続けるか、退くかだ』
通信越しでもぞっとするほど冷たい声が、ネーナの背中をうすら寒い感覚で支配した。
『そんなもんっ……ここであんたを撃てば!』
『その瞬間に兄貴は俺が殺す。退くなら返す。そういうことだ』
『…………え……だって、だってそんなの……!!』
兄の命が天秤に乗せられている。自分の選択で、ヨハン・トリニティという人間が終わるか否かが決まってしまう。
ネーナ・トリニティという人間がそれを理解したとき、目の前が真っ暗になりかけた。
(なんで? なんでこんなことになるの? あたしが選ばないと、ヨハにぃが死んじゃう……?)
ガンダムという兵器を駆るためにはあまりに未成熟なその精神性でさえ、自分の最もかけがえのないもの、大切なものを圧倒的な暴力によって奪われようとしていることがはっきりとわかった。
そして、それは恐らくもう自分の力では太刀打ちできないという絶望も、ネーナにとっては初めての感覚だった。
『ッなんなの!? なんでこんなことすんのよ!! あたしが何したってのよッ!!』
『オイオイオイ子供みてえな泣き言言ってんなよ嬢ちゃあん。ガンダムマイスターだろぉ~~? 人死になんかこれからた~っぷりイヤというほど見んだろうがさぁ~』
『……誰が倒れようが、誰を殺めようが紛争根絶のために最後まで戦える。お前たちトリニティもそうじゃないのか。もし、そうでないならば……』
『うるさいっ!! どうだっていいよそんなのっ!! こんなのイヤ!!ヨハ兄ぃを返して!!』
涙半分に言い放たれたネーナのその言葉を聞いた瞬間、ユリウスの腹は決まった。
……が、その前に。
『待て! ……ミッションを、中止する……!』
スローネアインに乗るヨハンから、接触回線で聞こえた通信がユリウスの手を止めた。
『……我々は退く。だから、ネーナには選ばせるな……』
『兄貴!! オレぁまだまだやれるぞ!?』
『損害が大きすぎる。ここは撤退する!』
ツヴァイは頭部を、アインはランチャーの砲身に右半身と左脚部を失った。マグナス・アルハンゲルの言葉に従うにせよ従わないにせよ、これほどの損害でまともにミッションを行うことはもはや不可能である。
もとより撤退以外の選択肢はありえない。それほどの状況までに追い込まれ、初陣で世界に無様を晒した。
そして、ネーナにも兄弟殺しの重い自責を背負わせたくはなかった。
それらが、ヨハンにチームトリニティとしての撤退を決意させた。
『お前にも大切な人間がいる、誰でもそうなんだよ。他者と向き合えない者は、世界とも向き合えない。ネーナ・トリニティ、もし他者の命の重みがわからないのなら、お前に……世界を変える存在であることは』
ガンダムマイスターであることは、許されない。
その言葉がネーナの心に突き刺さったあと、ディスプレイをしたたかに叩いて通信を遮断したために、ネーナ・トリニティとマグナス・アルハンゲルの初めての会合はここで終わった。
『あの野郎……めちゃくちゃやりやがって、絶対殺してやる……! ネーナ、大丈夫か』
「…………」
『おい? 機体は綺麗じゃねえか。おーい』
『フガイネーナ! フガイネーナ!』
ミハエルの呼びかけにも、HAROの煽り立てる声にも応じられず、オートパイロットで心ここに非ずと言うべき状態のネーナ。
『……ネーナ。奴の言ったことは気にするな』
「……ヨハにぃ……あたし、ヨハにぃを……ヨハにぃが……!」
『奴が何を言おうと、私たちはガンダムに乗ってここにいる。それが、全てなのだ』
その通りである。実際に自分たちトリニティはガンダムマイスターに選ばれ、そして訓練され、ここにいる。
であれば一体何が違うというのか。
この世に唯一無二の肉親であるヨハにぃと、口を開けたままトリニティの齎す変革を待つ他の有象無象の命を奪うことがなぜ等価になるようなことがあるというのか。
「……うん……っ」
自分の周りのものとそうでないもので価値が違うなどと、当たり前のこと。ネーナはそう自分を納得させようとした。
……だが、何かが。
確かに何かが、どうしてか棘のように食い込んだまま抜けないような感覚が、ずっと残っていった。
・
・
・
「あい~~~~お疲れっした~~~~」
「……どうにかこうにか、だな」
ネフィリムのコクピットで、撤退していくガンダムスローネ3機を見届けている最中のユリウスとパスレル。
生きた心地のしない数分間であった。特に最後は。
ツヴァイを先に黙らせ、GNメガランチャーを使って粒子を消耗し動きが鈍いであろうアインとドライを後に墜とす。順番は決めてあったが、特に最初のツヴァイが鬼門。
もしパイロットが別の誰かであったなら、例えば戦争ジャンキーで無精ヒゲ生やしたどっかのおっさんが乗っていたなら、アインとドライが万全に動けたなら。どれか一つ違えばこうもうまくはいかせられなかった。
しかもNGNビームサーベルはネフィリムの強化されたジェネレータと新型バッテリーの燃費をもってしても、とてつもないエネルギーを喰う極悪燃費の武装。今回の戦闘のように長い間ドライブしていれば、機体エネルギーはあっという間に尽きる。
事実として最終局面にてスローネアインのコクピットブロックに突き付けていたサーベルの発振器は、もはやどれだけ絞ってもビームをドライブできるエネルギーが存在しない空っぽの状態。
すなわち、ネフィリムには既にガンダムに有効な武装が存在しない状態。ネーナに向けた言葉は全てハッタリだったのである。
(……あれだけ言えば、流石に何か響いてねえかな……)
顔を合わせることもできなかった上、初対面の印象はこれで最悪とも言っていいだろう。何しろネーナ・トリニティにとってユリウス・レイヴォネンもマグナス・アルハンゲルも、兄を人質に取った男になったのだから。
……ネーナ・トリニティの精神性と言うものはまだひどく幼く、決定的に歪むことがなければ別の道を歩める段階にある、とユリウスは思えてならない。
そのためにも彼女はまず、命の重さというものを知らなくてはならない。
自分にも大切なものがあり、他人にも大切なものがある。それを理解させるためにヨハン・トリニティには悪いことをしたが、身近なものを使って例えるのが一番だろうと思った結果である。
これからどうなるかはまだわからない。だが今日、その布石は打たれた。
二人の結末を変えること。その初志の成就に、まずは一歩前進した……そう思いたいユリウスであった。
……そして、現況であるが。
「ホントに大丈夫なんだろうなこれ」
「大丈夫だって安心しろよ~! どうせすぐ出られっから」
ネフィリムにはもはや満足に航行の行えるエネルギーが残っていない。
したがってこれから増援としてやってくるオーバーフラッグスを振り切ることも不可能である。
選択肢はひとつ。このままMSWAD基地へと降下して一時的に虜囚の身となること以外他にないのである。
ソレスタルビーイングのエージェントとして完全に致命的な末路に見えるが、パスレルの言うことにはそうではないという。望むものを見せてくれたのなら、リボンズはすぐにでもそこから出る手配をし、エイフマン教授を保護する手筈も整える、と。
恐ろしいがもはやその口車に乗ってそれを信じる以外、ユリウスに道は残されていなかった。
そしてもう一つ。
「……やっぱさ」
「あん?」
「俺は、お前と同じ力を持ってんだな」
「今更!?!?!? おじいちゃん朝飯何食べたか覚えてらっしゃいますぅ~~~~!?」
相も変わらずムカつく言われようだが、今度ばかりは最早ユリウスも認めるしかなかった。
戦いの中でユリウスの本能は理解した。この力はパスレルと同質。そして、共振する。
力の共振はお互いの力をさらに高める。でなければ、ファングの出かかりを予測して先んじて射撃を置いておくことで潰すなどできるわけがない。
完全にお互いの視界を奪ったあのスモークの中を、一直線にスローネアインに向かって切りかかるなどという無謀な作戦が成立するわけがない。
近い未来のようなものを見ることができれば、相手の思考をおぼろげに読むことができたり、どこからか現れる自分の危機を急に感じ取ったりもする。
フォン・スパークの洞察は完全に当たっている。
そしてこの本能に導かれるまま戦う自分は、強い。普段よりも、遥かに。
その全てを、ユリウスは完全に自覚した。そして、それをどうするか。
封じることはできない。この力はこれからもまた必ず必要になってくる。ならば、やはり乗りこなすしかない。
幸いにもそのアテはできた。この戦いにおいて、自分はパスレルと能力を共振させながらも彼女と同じような思考に飲まれていくような感覚はなかった。
であれば、力がさらに強まれば自分はこれを制御下に置ける可能性があるということだろう。
「おいユリウスユリウス」
「……んだよ」
「楽しかったかぁ? あたしとデートは」
「…………」
「楽しいって言え!! タノシィー!!」
「……まぁまぁ良かったよ」
「え~……きめーな男のツンデレって。ヤバ」
パスレルはその後すぐ、ユリウスからヘルメットを投げつけられるなどの暴行を加えられた。
・
・
・
ホテルの屋上階にて。誰もいないそこで、最高の特等席から最上の観劇を終えた人物がいた。
大きく盛大な拍手で、やりきった役者に惜しみない賞賛を送った。
彼の瞳は、金色に輝いていた。
「最高のショーをありがとう。やはり、君はこの世で一番面白い」
ユリウス・レイヴォネンとパスレル・メイラントに。
リボンズ・アルマークからの、スタンディングオベーションであった。
また日刊ランキング1桁に来れたのめっちゃうれしい…ありがとうございます
面白いと思っていただけたら感想・高評価等よろしくお願いします
励みになります