ガンダム00世界で留美やネーナやコーラサワーとイチャイチャしながら生きる 作:トン川キン児
この戦端が開かれてから三ヶ月、新年からは二ヶ月ほど経つ。AEUは対リチエラ民族統一戦線及びリチエラ王国戦において予想外の激しい抵抗に遭い、膠着状態を脱せずにいた。
小規模な競り合いが各地で続くのみで、戦闘らしい戦闘もここ二週間ほどはお目にかかっていない。というのも、俺たち第222戦術モビルスーツ隊は同じく二週間前の作戦行動でMS隊からひとり、飛行隊からふたり負傷者が出て本国に帰還。補充要員待ちで身動き取れずの状態なわけである。
あの時俺たちは基地攻撃を命令されて発進し、作戦に従い戦闘を続けた。が、どういうわけかそれがやることなすことビッタリと読まれていたようだった。
あれほど何一つうまくいかなかった作戦は初めてだった、死人が出てない方が奇跡だろう。どうやら敵の司令官はかなりのやり手らしい。
リチエラは中東同士の内戦では強国として鳴らした歴戦の国家でもあり、腕利きの軍人や司令官が揃っているので抵抗はAEUにとっても承知の上だろうがここまでとは思わなかったようだ。
……つか、AEUって1stシーズンまでこんなバチバチに軍事介入してる国だったのかと今更思う。三大国家の中でも中東との距離が近いとこだから影響力を強めたいって思惑はわからんでもないが、そりゃあのバカもスクランブル2000回とか言い出すし、他国にヘリオンやらイナクトたくさん横流しされるわ……。
で。暇を持て余してる俺が一体何をやってるかというと。
「いつになったら出撃できんだよォ~~~~」
「今日補充兵が来るって言ったばっかりだろうが」
……コーラサワーと駄弁っている。
そのうちになぜ俺がこれほどまでにこいつを気にかけているのかなんとなくわかった気がする。『ガンダム00』でもネタ枠として割とお気に入りのキャラクターだったし、実際いい奴で面倒見たくなるってのはある。こいつの
だがそれ以上に。
まったくもって絶望的な事実だが、俺ってこの世界でこいつ以外に友達がいないのでは……?
「はぁ~あ……」
「ため息つくと幸せが逃げるぜ~~」
……幸運の塊みたいな奴が言うと説得力がある。悲しくなるから友達云々については考えないこととしよう。
しかし実際にこのガンダム00世界に生まれた人間として生きて、改めて設定の裏側にある世界の荒廃ぶりを実感したというか……モビルスーツだの太陽光発電だののおかげで、起こってる紛争の数も規模も俺の生きた前の人生とはまるで桁違いだ。
場所が悪ければ農家すら武装する世界、そんなんじゃ確かにPMCで成り立つモラリアみたいな国家が栄えてても不思議じゃない。GNドライヴ技術の流出は1stシーズンのソレスタルビーイング崩壊を招いたが、普及しなければ世界はさらに詰んでたかもしれん……。
……設定の裏側といやあ。そういえば、コーラサワーって何で軍人になったんだろうな。
くだらない馬鹿みたいな理由だろうけど一応聞いてみてもいいかもしれない。もしかしたら本編では語られなかった悲壮な決意とか過去が隠されてたりしたら面白いじゃないか。
「なあ……お前なんでパイロットになった?」
「ああ? んなもん決まってんだろ、パイロットは最高の職業なんだぜ」
「最高って。そりゃまたなんでよ」
「メシはうまいし、身体は鍛えられるし、スリル満点で女にもモテる!!」
「あっそ……」
聞いた俺の方が馬鹿だったかもしれない。
あげく「テレビでそんな風に書いてたからなってみたがよ、そしたらみんなその通りだしマジ最高だな」とか言い出すもんだ、もうさ……こいつに対して深読みとか一切無意味だよな。
あとモテるのはお前だけだよ。ウチの中隊員は全員『何であんなアホが一番モテんだよ』って口揃えて言ってんだぞ、本当マジでなんでなの?
「つかだいたいよぉ、今さら戦術予報士なんか付けて何になるってんだ?」
「ン……いいんだよ。考えれる頭が増えるの、悪くないだろ」
戦術予報士……紛争が多発するこの世界だからこそ、新たに生まれた職業。軍人でなくとも軍事的作戦立案及び提案が許可される唯一の民間資格である。
この資格は、民間戦力に紛争に対して効果的に自衛する手段を持たせるために生まれた。そうでもしないとこの世界は頻発する紛争を抑えきれない……つまり、もはや正規軍だけで紛争に対処することは不可能なところまで来てしまっている訳だ。
まあとはいえ、この資格を持っている奴はもっぱらこれを取るまでに得た統計学なんかの株取引で儲けているそうだ。実戦の作戦立案を経験して、ましてやそれ一本で食っていってるなんて奴はそうそういないらしい。
……ということは、逆に言えばだ。今日ここに来る戦術予報士とやらは、この膠着状態を重く見ているAEU正規軍に作戦立案をねだられ、恐らくそれを打破でき得るほどの腕前を持ってるかもしれないってことだ。
うちの隊はほとんど戦術=コーラサワーだったもんだから、大いに助けになることだろう。だがそんな戦術眼を持ってて、AEUにいる人……まさか、カティ・マネキン大佐とかか?
もしそうなら、コーラサワーと初対面になるまで5年も早くなる。俺はこれまであまり大したことしてないはずなのに、まさかもう歴史が狂い始めてるってのか……?
……すると、部屋の外からジェットエンジンが鳴らす轟音が聞こえてくる。三機のヘリオン飛行形態が滑走路をタイヤで切りつけ着陸し、もう一機の輸送機はゆっくりと腰を降ろしたようだ。
「来たぞ」
「おっ! お出ましだな、ツラ拝みに行こうぜ」
「着いてから1時間後にブリーフィングがあるっつったろ。そこでいいだろ」
……正直不安に駆られている俺は、今すぐにでもコーラサワーの言うように誰が来ているのか確認したい。だがすぐに会うヤツの顔を気にしてもしょうがない、顔合わせの場までは待っていればいいだけのこと。
頼むから、後々が面倒になるのは勘弁してくれよ……!
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・
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「全員集まったな」
それから少し経って、いよいよ俺の計画の運命を分けるかもしれないブリーフィング。作戦司令室にパイロット全員が集められた。
「皆知っての通り、今日我々はこの基地に戦術予報士を招聘した」
ということは、司令官の隣にいるのがそうか……?
恐らくそうだ、容姿は整っていて茶髪に軍帽をかぶっている……かなりくせっ毛だな? しかし一番に目に付いたのは、AEU軍の制服が悲鳴を上げてそうなあの胸部装甲。とんでもねぇツインドライヴだなありゃあ。
茶髪、癖毛、おっぱい……。まさか、この特徴って!?
「彼女がそうだ。自己紹介があるなら」
「り、リーサ・クジョウです。よろしくお願い致します!」
……スメラギさんか。スメラギ・李・ノリエガ、本名はリーサ・クジョウ!
確かにここに来ててもおかしくない人間だ。確かスメラギさんは本編前はAEUでマネキン大佐となんやかんやあって一戦やりあって、それで恋人を亡くしたところをソレスタルビーイングに誘われて行ったって成り行きだったはずだ。
まさかこんなところで会えるとは思いもしなかった、それにしても実際にこの……凄まじい厚みを目にすると、もうさ、圧力が違うんだよな。そりゃあプトレマイオス被弾したら揺れるわ。
「彼女は既に今回の作戦立案を完了しており、本作戦の指揮権も与える予定だ。明日これに従い敵要塞の制圧作戦を開始する」
「あ……では、私の方から作戦概要を説明していきます。今回の攻撃では飛行編隊に対レーダーミサイルを装備してもらいますが、これにはいくつかの理由が――」
……でもなんというか、1stシーズンの頃のスメラギさんとイメージが合致しないな。
これもまた本編の裏側ってヤツか。荒んでない頃のスメラギさん……もしかして生涯のパートナーみたいになってたアルコール類とかとも無縁だったりして。
いかん、なんかこの世界じゃ俺の方が年上なのにさん付けで呼んでしまう。うっかり口を滑らせて未来のコードネームを呼んでしまわないように気を付けないと。
「なぁ……結構美人じゃねえか」
……コーラ君さぁ。ブリーフィング中だぞ? 校長先生のお言葉とかと訳が違うんだぞ?
後ろからひそひそ喋ってくんのやめろ、俺まで司令官に睨まれるじゃねえか。あとお前のタイプ年上だろうが、スメラギさんなんかお前の将来の嫁とは6歳下だぞ。
というか付き合ったら二人揃って破滅しそうだからやめとけよなマジで。
「――以上が本作戦の概要になります」
あっ、てめっ……お前のせいで最後の方聞いてなかったじゃねえか!!ふざけんなミスって死ぬかどうかなんだぞ、余計なマネしやがって!!
「作戦開始直前にもう一度ブリーフィングを行う。では解散」
ああもう……聞きそびれた最後の方スメラギさんに聞かねえと。普段と違う戦法やらすとコーラサワーはガバるかもしれねえし俺が聞いてないとフォロー入れられない!
ストーカーみたいで気が引けるが後を追いかけていく。生き残れる確率は1%でも多くしておきたいんだ、そのことは誰も責められやしないだろ。
そろそろ他の奴らも散って一人になるし、話しかけて……。
「大丈夫ですか?」
「えっ!? あ……はい、あなたは?」
……え、誰アンタ? ウチの隊じゃなくね?
「失礼、僕はエミリオ・リビシ中尉です。なんというか、ブリーフィングの時のクジョウさんは随分緊張していたというか……少し心配で」
「さ、作戦立案に支障はありませんでした。心配は無用です」
「いや、あなたの能力を疑っていたわけでは……ただ、失礼ですがもしかして実戦で指揮を執るのは初めてなのではと思って」
「…………わかってしまうものですね。現場の方々には」
あ、そういうことか。
この世界に来てからわかったことだけど、普通の戦術予報士って職業は現場で指揮を執るもんじゃなくて、離れた場所から委託されて戦術をよこすものなのだ。スメラギさんの目標でもあるマネキン大佐が、フィンランドに居ながらにして七つもの紛争を終息に導けたのはそういう理屈だ。
この当時のスメラギさんはもしかしてAEUに呼ばれたばっかで、実戦の指揮は本当に今回が初めてなのか……。
まずここにスメラギさんが存在してるってのと、胸ばっか目に行って気が付かなかった。俺もコーラサワーと同類かもしれん……いやしかしこれは男ならしょうがないと思う。
「僕も補充で……しかもこの『第222戦術モビルスーツ隊』に組み込まれたんだから似たようなものです、どうか気負わずに」
「でも……万が一私の判断がみんなを殺してしまったら」
「……僕は、君の戦術予報を信じます。何があっても」
「リビシ中尉……あの、ありがとうございます」
……なんかいい雰囲気で入り込めん。エミリオ・リビシって……曖昧でちょっと覚えてないけどもしかしてこの人、スメラギさんの恋人になる奴……か?
だとしたら近い将来、中尉は。
「おい!! 聞き捨てならねえなエミリオっての!! 新入りのくせにオレに挨拶入れるより先に女口説いてやがんのかぁ!?」
「えっ!?」
「はあ!?」
「このAEUのエース、パトリック・コーラサワー様にお伺いを立てるのが……ぐえ゛!!」
「すまん続けてくれ!! すぐどかすから!! マジごめん!!」
こいつの弱点はとっくに承知している。首が長いからヘッドロックがかかりやすい!!
いっそこのまんま営倉にぶち込んでやろうかこのケーハク男、人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて地獄に落ちんだぞ!!
「パトリック……コーラサワー。ということは、あなたはユリウス・レイヴォネン?」
「っ、え……なに?」
「『第222MS隊』の隊長とエース! 会いたかったんだよ、僕はエミリオ・リビシ中尉だ! エース部隊の一員になったからには頑張ってみせるよ」
エミリオ中尉から予想外の反応が来て、思わず締めを緩めてしまった。
「ゲホッ、お、おう! わかってたみてえだな、頑張れよ!」
「はい!」
(あのチャラチャラした足りない感じの人が隊長……?)
スメラギさんの方はなんか納得しかねた表情をしている。まあアレを一度実際に目にしてしまえばそうなっても何ら不思議ではない。
……それにしても、俺たちの第222戦術モビルスーツ隊がエース部隊、ね。本国の方でも名が売れ始めてるみたいだが、どうやら部隊単位で覚えられているのがなんともなぁ。
たぶん隊全体のスコアが増える形になるコーラサワーの戦法のせいなんだろうな。だからってこれからはスタンドプレーに走ろうとか微塵も思わんが。
「……あのアホのことはほっといてください、クジョウさん」
「あ、はあ……ユリウス・レイヴォネン少尉ですね。よろしくお願いします」
「さっきのカスのせいでブリーフィングの最後の方を覚えていなくて。聞き返したいのですが」
「いや、それは構いませんけど、隊長なのに辛辣すぎるのでは……」
「これくらいじゃないと1年で2回も降格した男を抑えておけません。覚えておいて下さい」
いやもう代われるなら誰かコーラサワーくん係を代わって欲しい、おかげで本題に入るまでにスメラギさんにドン引きされるハメになったんだが。エミリオ中尉代われない?
……それも酷な話か。
これから死んでしまう予定があるって人にそんな苦行は押し付けられない。
リーサ・クジョウという戦術予報士がソレスタルビーイングのスメラギ・李・ノリエガになるには、どうしてもこの男が死ぬ必要があるんだ。
下手に流れを変えたらどんなしっぺ返しが来るかわからない、俺の目的を第一に考えるのであればこの運命は変えない方がいいはず。
だが、それは……理屈の話なんだ。
この世界に生きている俺は、果たして確実にやってくるその時が来たら、今生きているこの男を。エミリオ・リビシを見捨てられるんだろうか……?