ガンダム00世界で留美やネーナやコーラサワーとイチャイチャしながら生きる   作:トン川キン児

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棘の痛み

 撃墜されていながらハッチが開いていない。であれば経験上、自力で開ける方法が失われたか、それとも開けることすら既にできない状態にあるか。

 いずれにせよ、開かなければヨハン・トリニティの安否はわからない。こじ開けるにもネフィリムには馬力が足りない、であれば、この場で手隙の頼りは。

 

「ネーナ! ネーナ・トリニティ!!」

『あ……あんた、あたしを助けに……?』

「んなことはいい!! 開けられないのかアレのハッチを」

『アインの……?』

兄貴が生きるか死ぬかだぞ!! なんでもいい!! ひっぺがすでも切るでもだ!!

『は、はいっ……!』

 

 普段通りの判断力を既に失っていたネーナは、()()()()が生きているかもとなればあれほど毛嫌いしていたユリウスの言われるがままにでも動いた。

 スローネドライの右腕マニュピレータでハッチの開閉部をひっつかみ、Eカーボン製の装甲がきしむ嫌な音を立てながら、徐々にハッチが離断していく。

 その間も、上空にてエクシアとスローネフィーアの戦闘は行われていた。

 

「刹那……!」

 

 あちらもユリウスには気になるが、今は。

 ばぎんっ、という大きな破断の音と同時にコクピットハッチがちぎれる。完全にモニターが落ちている暗いハッチの中を、ユリウスが照らすと。

 

「……ッ……!!」

 

 シートにべったりとついた血の跡。機体が横たわるのと同じ方向にずり落ちたような痕跡。

 足下を探してみれば、そこにヨハン・トリニティは満身創痍で横たわっていた。

 絶句するユリウス。パッと見でわかる傷は頭の先から順に、頭部の切り傷、肩と腹部の複数に突き刺さる破片。大小含めて両手では数えきれない。そして、夥しい出血。

 ユリウスは医学に明るいわけでもなければ、モビルスーツごと人を殺すことはあれど、どこまでいけば人が死ぬのかというのも大してわからない。だが、これはもはや……。

 

「おいッ!! わかるか!!」

………………ぅ…………

 

 意識はある。もしかしたらまだ望みがあるかもしれない、一縷の望みをかけてユリウスはヨハンを背負い込む。

 鮮血に彩られたシートが、兄の姿が、スローネドライのモニターにも映る。

 その光景に、ネーナはもはや正気を保ってはいられなくなる。パイロットシートで、両手で顔を抑えて叫ぶことしかできなかった。

 

……ぁ……あぁ……ぁ゛あ゛ああああっ!!

「待ってろ! 複座に……」

「……ぐ……っ……」

 

 一人分を乗せるスペースはネフィリムの後部座席にある。そこにヨハンを置くしか……。

 そうユリウスが考えて言った一瞬後に、ヨハンは呻き声を漏らしつつ、かすむ視界に捉えた赤い機体、スローネドライを指差す。

 

「…………お前……」

 

 あちらに乗せろ、と。

 ネーナが、妹が、家族がいるスローネに。

 ヨハン・トリニティの言わんとすることが、ユリウスにはよくわかった。

 彼の、最期の、望みが。

 

「………………わかった……ネーナ! ハッチを開けろ!」

「な……なっ、なんでよ!! なんでなのよ!? なんでっ!? ねぇっ……なんで……!!

 

 何かを察したのか、痛々しく錯乱するネーナ。最早現実に起こっていることが認識できていない様子にどこか胸を締め付けられる思いのユリウスだが、一刻を争う状況。そのようなセンチメンタルに構っていられなかった。

 

「……兄貴が、そっちに乗せろってんだよ……!」

「よ、ヨハにぃが……?」

「……最期、かもしれないからだろ……」

 

 認めたくなかった現実を、集音マイク越しの声でハッキリと突き付けられて。ネーナは、その場に泣き崩れた。

 両掌で顔を覆ってみようにも、ヘルメットがそれを邪魔した。そんなことを気にする間もなく悲しみは溢れ続けて、零れ落ちる場所を失った涙がうつむいたバイザーの底に溜まっていった。

 

「……ぅ……っ……ぅ゛うぅうううっ……!」

 

 息苦しくて、苛立ってたまらない。ネーナは、ヘルメットを脱ぎ捨てて乱雑に床下へ叩きつけた。

 行き場のない憤りも、一緒にぶつけるように。

 

「かもしれないってだけだ! 兄貴の頼みなんだ、開けろ……!」

 

 そう言ってみたところで何の慰めにもならないだろう、と言ったユリウス自身も思えたが、そう言ってやることしかできなかった。

 しばらくするとスローネドライのハッチが開く。大粒の涙がいくつも頬を伝いながら、ネーナはユリウスの方を見上げていた。

 

「降ろすから……! 受け止めろよ、なっ!」

 

 シートに立って手を伸ばすネーナに背を向けて、背中にいるヨハンをゆっくりと降ろしていく。

 受け止めたネーナが、パイロットスーツ越しに感じたヨハン・トリニティの体温はまだ温かく、かすかな希望が触れた身体を通して感じられるようだった。

 

「回線は開けとけ! 回収ポイントまで俺が援護する、いいな!」

 

 返答こそなかったが、ハッチを閉める直前のネーナは頷いていた。それを信じて、ユリウスは乗機の、ネフィリムのコクピットまで走って戻っていく。

 スーツにべっとりと付いたヨハンの血が生々しい。だが、そんなことを気にしている間さえ今は惜しい。起動して早々、ユリウスはGNアームズのラッセへと援護を要請する。

 

「ラッセ! 撤退する、援護頼む!」

『おうよ!』

『……まっ……待て……!!』

『ヨハにぃ!?』

 

 重傷の身を押して語り掛けてくるヨハンに、ユリウスもネーナも驚く。

 

『……アインの……太陽炉を……!!』

 

 そう言われた瞬間に、ネフィリムのカメラをスローネアインの残骸へと向ける。

 ……よく見れば、胸部中心にあるべきものがない。

 GNドライヴ[T]、通称疑似太陽炉。それは、いつの間にか取り外されて転がっていた。

 何故にわざわざこのようなことを?

 ユリウスは、すぐにその意図を察した。それは、汲み取ってやらなければならない想いであろうことも。

 

「……スローネドライ! 頼めるか」

『う、うん……!』

 

 太陽炉本体の重さなどはどの程度の物か知りようがないが、少なくとも両腕が塞がる。そうなれば通常形態での運用を余儀なくされるネフィリムだが、回収ポイントまでは遠く、通常形態のホバークラフトでは太陽炉搭載型であるスローネドライに合わせられない。

 かといって飛行形態に懸架している時間もない。ここでもまた、スローネドライに頼る他ないのであった。

 スローネアインの遺した疑似太陽炉を、両方のマニピュレータで大事に抱えつつ島を飛び立つドライ。速度をつけてから飛行形態へと変形したネフィリムが、それを追い越して先頭に立つ。

 ……すでに日の出の時刻を周る。ネフィリムとドライは、昇る太陽に背を向けて発った。

 

(……エクシア……刹那)

 

 バックカメラの映像をモニターに映すと、二刀のGNビームサーベルを携え、赤く輝いて佇むエクシアの姿がそこにはあった。

 ……トランザム

 イオリア・シュヘンベルグが、GNドライヴを託された者へと遺した最後の切り札。

 今のユリウスには、どうしてかその輝きがひどく眩しく見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「生みの親を穴ボコだらけにした感想お聞かせ願えます?」

「まぁまぁスッキリしたが、やはり起きている彼を撃ちたかったな」

「リボンズ・アルマーク選手からでした~ありがとうございました」

 

 未だ浮かんでいるアレハンドロの死体も含めて、この空間には二人目の射殺死体が出来上がった。イオリア・シュヘンベルグは、頭蓋を撃ちぬかれて冷凍睡眠で永らえた命を終えた。

 リボンズとパスレルとで撃ちに撃ちまくった冷凍睡眠装置は、既に中の様子を伺うのが難しいほどひび割れている。

 なかなか楽しいものだったが、やはりリボンズにとっては物足りない。

 

「だーってオメーが撃っていいっつーんじゃん。どーすんだよもう死んだぞ」

「システムトラップの解除にはこれしかないと思ったのでね」

 

 冷凍睡眠装置の物理的損傷か、イオリア・シュヘンベルグのバイタルの停止か。いずれにせよシステムトラップの解放にはそのどちらかが必要なのだろうと結論付けたリボンズ。

 その解答は、とりあえず撃つことだった。

 生かしたままというのも今となっては面白い試みだったが、この男がもし身体を手に入れて蘇れば、計画に仕組まれた自分の知らない仕掛けがどこでどう動き出すかもわかったものではない。

 単純に撃ちたかったというのも、ある。

 

「パスレル。君は彼がこれで死んだと思うかい?」

……は!? なになになにコエー事言うなよ何コイツGNスペースハゲゾンビジジイになんの!? ヤバすぎだろバケモンかよ」

「少し前まではこれで死んだと僕も思ったかもしれない。だが……」

 

 しかし、リボンズにとってはそれだけではなかった。

 今まで気づけなかった違和感に気づいたからこそ、撃つという決断をした。

 

「ヴェーダとはどういうものだったか、今一度考え直すとだ」

 

 ヴェーダは、最高位のアクセス権を持つ者でさえその全容は不明である。

 ヴェーダは、イオリアの思想とその計画に追従する。

 ヴェーダは、計画に致命的な支障がなければ全てを容認する。

 ヴェーダは、人間を理解できない。

 

Huh?

「……誰かに似ていると思ったのさ」

 

 ヴェーダは、人間を、理解できない。

 

Huh?

「まあ、これから検証するところだ。それよりもアレの所へ戻るとしよう」

「おっそうだ!! もうこんなシケたとこいられねーよ」

「今度は君のお楽しみを始めようじゃないか。僕にもよく見せてくれよ」

 

 浮かれるパスレルを尻目に、リボンズは自分の仮説がほぼ間違いないと、そう確信していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヨハにぃ……ミハにぃ……!! あたし……! あたしはっ!!」

 

 危険空域を脱したスローネドライとネーナ、それを先導するネフィリムとユリウス。

 操縦を紫ハロによるオートパイロットに任せ、ネーナは徐々に失われていくヨハンの温もりを両腕で抱きしめたまま悲しみに震え、泣きじゃくる。

 どうしてこんなことに。何ゆえに、誰のせいで。

 ……なぜか、今のネーナには心当たりがあった。

 

「だって……だって、違うじゃん、ヨハにぃは、言ったじゃん……!」

 

 あのオジさんが何を言おうと、自分たちはガンダムに乗ってここにいる。それが、全てだと。

 だが、今の状況すべてがそれを否定している。

 

……ネー……ナ……

 

 か細い声が再び聞こえて、瞬間、ネーナは難しい思考をすべて捨て去った。

 

「ヨハにぃっ!! ダメ、だって。喋らないでよ!! 死ぬんだよ!?」

あの、男と……通信、は……

 

 あのオジさんと話したがっている。ネーナはすぐさま暗号通信回線を開き、ネフィリムへと繋げる。

 

『どうした!』

頼み……が、ある。これから、ネーナを……

『……なに?』

ネーナを……守って、くれ。あなたしか、いない……

『な……っ……』

 

 ユリウスも、ネーナも、絶句した。

 本当のところ、これは自分の目的からすれば願ってもいない了承である。

 だが、目の前でその言葉の主が死にかけているともなれば、ましてそれが"兄貴"であるのならば尚更、それは別の話だ。

 

ふざけるな!! 自分でやれ!!

 

 激昂するユリウスの怒声に、ネーナは一瞬怯え、ヨハンは閉じかかる目をかっ開いた。

 

『兄貴ってのはな、先に産まれた役なんだよ!! 弟だの妹だのより先には死んじゃならねえんだよ。お前がやることだろうが!! それはっ!! 他人任せにできることじゃ……』

……私では……もう……

やるんだよッ!!

「そっ……そうだよヨハにぃ!! あたし、ヨハにぃがいなきゃイヤ……!!」

……だっ……だが、私は、知っていっ……ごほっ!! ぅ゛っ……!!

「ダメなんだってっ! 喋っちゃぁ!!」

 

 悲鳴混じりのネーナの忠告も聞き入れず、ヨハンはさらにかすれた言葉を続けていく。

 

貴方、は……恐らく、貴方、だけが……()()()を、見た。チーム、トリニティでは、ない、私、たちを

『もういいって……!!』

だから……貴方、だけには……言える……ネーナ、を……

『……生きたら……生きてたらてめえでやれよ!!』

 

 絞り出すようなユリウスのその回答に、血にまみれた口角をふっ、と上げたヨハン。

 まともに見えなくなり始めた視線を、モニターからネーナに映すとヨハンは言葉を続けた。

 

……ネーナ……彼の、言う事を、よく聞け……

「な……なんで? あいつ、ウソつきなんでしょ。助けてもらったからって、そんな……」

……ごまかした、のは……私だ……

「ぇ……?」

私、たちは……特別でも、なんでも、なかった。だが……っげほっ!!

 

 そんなはずはない。

 いくら兄の言うことだからといって、そんなはずは。

 自分たちは、チームトリニティは、真のガンダムマイスター。そのために産まれた特別な存在。

 そうでなければ。

 特別だから許されてきた、そのはずのものが。

 今まで撃ってきたものが、破壊が、死が。全部、()()()()()になってしまう。

 

……それでも、お前、だけは……ネー、ナ……トリ、ニティの、証……

「ヨハにぃ……?」

……生……き………………………………

「……ヨハにぃ……」

 

 ……瞳孔がより大きく開いて、瞳の中の光は急速に失われていく。

 ネーナが抱き留める熱も、両腕のすき間から漏れていく。

 

ヨハにぃ……っ! ヨハにぃヨハにぃっ!! いやだぁっ!!

 

 どうしてこんなことに。何ゆえに、誰のせいで。

 ――ネーナ・トリニティは、特別でもなんでもなかったから。

 世界の憎しみを集めきって、殺されるために生み出された存在だったから。

 ――ネーナ・トリニティは、特別でもなんでもないのに、同じ人間をたくさん殺したから。

 多くの命を奪って、今抱き留めている兄だったもののように変えたから。

 ――ネーナ・トリニティが、そう育てられたとしても、愚かだったから。

 手遅れになる前に釘を刺した人はいたのに、それに見て見ぬふりをしたから。

 

 目の前で、手の中で、死んでいく兄を通して。その全てが、実感となってネーナを襲う。

 こんなふうに殺されかけた。

 こんなふうに殺して楽しんでいた。

 こんなことになればどうなるか知りもしなかった。

 ……その全てがいっぺんにのしかかった時、ネーナ・トリニティの幼い心は、耐え切れない。

 

ぁたしっ……どうすれば……!? わかんない! わかんないよ……! もうわかんないよぉ……

 

 未熟な己をまるごと曝け出すかのような、赤子にも似た悲痛なネーナの叫びを。

 ネーナ・トリニティというひとりの少女が全てを失った瞬間を、今のユリウスはただ見届けてやることしかできなかった。




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