ガンダム00世界で留美やネーナやコーラサワーとイチャイチャしながら生きる   作:トン川キン児

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覚醒の半天使

「手元は変わらないけど、操作感は太陽炉搭載型とそれ以外じゃかなり違いますからね」

「お兄ちゃん、いける?」

「いけるよ。時間がないなんてわかりきってんだから、ぶっつけ本番だろうが何だろうがな」

 

 GNドライヴが取り付けられたことで、システムも大幅に変わったものとしてコクピット内のシミュレーターを起動しテストするユリウスたち。だが、シミュレーションの上では意外と操作感に変わりがなくこれまで通りに動かせる。

 これも織り込み済みだとしたら、イアン・ヴァスティというのは全く大した技術者であることだとユリウスは思う。

 ……旧世代機にGNドライヴをくっつけるという発想のモビルスーツは記憶の中に1機のみいて、恐らくそれはこれから現れる機体なのだが、今考えると恐ろしく不安定なバランスのあれと、変形機構まで保持したまま機体各部が最適化されているネフィリムとはもはや完成度が雲泥の差なのだろうと思えた。

 急ごしらえの突貫工事と、最初からそのために造られた完品であるという差はもちろんあるのだろうが。

 

 スローネアインの擬似GNドライヴがリンダとシェリリンの手で完全にマッチング調整を終え、ネフィリムは晴れてGNヘリオンとなった。であれば、発たねばならない。

 恐らくトレミーはこうしている間にも交戦に入る可能性がある。エクシアとGNアームズは未だ帰還命令を受領したばかりのようで、急いではいるもののやはり間に合わないだろう。

 そして、2回目の国連軍との交戦にて起きることと言えば……。

 ()()を考えれば、今すぐにでも発ちたかった。

 

「……お兄ちゃんの連れてきた子……元気、ないわね。きっと」

 

 ……目下の問題といえば、ネーナ・トリニティである。

 リンダの言う通り、合流地点でスローネドライを降り、ヨハン・トリニティの亡骸を預けてから、この基地に到着するまでの彼女にはおよそ生気と言えるものが備わっていない。

 リニアトレインで移動している時、彼女は向かいの席に気まずそうに座って俯いて、一言も話そうとはせずに眠ってしまっていた。

 紫HAROによるトリニティ艦の自動操縦でこの基地まで来た時も、自室に閉じこもって決して自分と会おうとしなかったし、外に出ようともしなかった。

 そして今も、係留されているトリニティ艦の自室でずっと閉じこもっている。

 部屋の前に飯を置いておいてそっとしておくなどということをしているのは、ユリウスにとってはリンダが実家にいて喧嘩した頃以来である。

 当たり前だが、戦闘になど出せる精神状態ではない。

 

「チームトリニティ……私たちのことも襲った子、だよね。それが、家族みんな死んで……」

「あの調子なのも無理はない」

 

 若干ながらも同情する様子のシェリリンの言葉に続けたユリウスには、心からそう思えていた。

 本当のところ、()()()()()はわからない。ネーナ・トリニティは兄を失ってからの先、具体的には4年後までにどれほどの喪失感を味わっていたのか、どれほどの傷を負って生きてきたのか。

 それは、その人ひとりの心にしかない痛みであるし、()()もされなかった部分であるから、自分にはわかるわけがない。だが今のネーナはきっと、()()()()()()()()()()よりもさらに深い心の傷を負っている。

 その腕の中で兄が死に、それを実感として体験してしまい、存在していい理由のすべてを失ったことを、自らのすべてで理解してしまった。

 もし()()()()()でも同じだけの傷を負っていたとしたら、4年の後、あのように振る舞い自らの死を招くようなことはしないのではないか、とユリウスは考察する。

 ……少女ひとりの心により大きな傷が入ったことが、もしかすると喜ばしい流れなのでは、と思ってしまう自分がつくづく嫌になるともユリウスは思う。

 心の傷というのは、比べられるようなものではないというのに。

 

「……大事なことだ、気にかけてはいる。だが、時間がない」

 

 傷を広げたのは自分の行いによるもの。何より同じ兄貴をやっていた男から遺言を預かった。

 最後まで、死ぬまででも面倒を見なければならない。ネーナというひとり遺された妹のことを。

 だが今だけは、やらなくてはならないことが他にもある。

 

「火を入れておいてくれ、すぐに出るから」

「どこ行くの?」

 

 出撃の準備を整えるよう頼んだユリウスがハンガーを離れていくのを見て、リンダは行き先を問う。

 

「ネーナのとこに」

 

 そう言って出ていった兄の背中を、リンダは食い入るように見つめていて。

 

「……シェリリンちゃん、任せていい?」

「うん。いいよ」

 

 信頼あってのこと。しかし、年下の少女に後を任せることになるとしても。

 リンダは、ユリウスを追いかけたかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ネーナ」

 

 トリニティ輸送艦の、ネーナの自室の前。ドアは心の壁の厚みを表すかのように固く閉ざされていて、無理やりにはとても開けられそうにない。

 正直に言って、この向こうに声が届いているのかどうかというのはわからない。だが、筋を通すためにユリウスは言うべきことを言わなければならなかった。

 

「聞こえてるか、ネーナ。俺は出る、お前の他にも助けなけりゃならない奴らがいる」

 

 返答は、当然ない。

 

「俺はヨハンからお前を任された。俺は同じ兄貴だから、あいつの気持ちを汲んでやりたい」

 

 物音一つ、返ってこない。

 

「絶対に戻る。今は戦わなくてもいい。だから、ここで待ってろ」

 

 反応が返ってくることはない。

 それでも、伝わったと信じて今は行くしかない。そう思いつつ振り返ると、後ろには。

 

うお!!

「えへ。ついて来ちゃった」

 

 妹・リンダの姿がどういうわけかここにあった。

 

「な……なんで?」

「お兄ちゃん、悩んでるし」

「……わかるか?」

「わかるでしょぉ? そんなの」

 

 付き合いが長いんだから、みなまで言わせるな。と言わんばかりに、リンダはユリウスの鼻っ面を人差し指の腹で軽く突き押した。

 察せられている通り、確かにそうではある。

 いくら時間がないとはいえこんな状態にあるネーナを、兄・ヨハンの言うように寄り添って守ろうとせず、自分は別の守るべきもののためにさっさと戦いに出ようとしている。

 だが、自分はそうしたい。

 今までの選択で何人もの命の行き先がとっくに変わっている。自分が変えている。だから、今更なんだというんだという事でもあるかもしれないが、それでも。

 今、現実に救えそうな知っている命を見捨てたら、この先のネーナと向き合える気がしない。

 

「交代しよっか」

「な、何を……?」

「ネーナちゃんの事は任せて。ここにいる間だけ、だけど」

「……いいのか」

「かわいそうだもの、あの子」

 

 フェレシュテの面々とリンダにも、報告の中でネーナ・トリニティが辿ってきた現在の事は知らされている。

 自業自得と考える面々も当然いた。しかし、リンダはそうではなかった。

 彼女はやはり、自分の考える通りのリンダ・レイヴォネン……否、リンダ・ヴァスティのままで、自分の優しい妹のまま変わらない。ユリウスにはそれが、救いのように感じられた。

 

「……頼んでいいか」

「その代わり私とも約束」

「うん?」

「……あの人を守って。絶対、ね」

 

 それでもやはり、リンダは天使ではなく人間で、人並みの不安がある。

 夫を、イアンを、失うかもしれない。その恐怖は確かに持っている。

 だから、それを頼れる人が欲しかった。

 それがユリウスもわかると、なんのことはない、兄妹でいつもやっていたことだと思い直した。

 

「……絶対に。約束する。俺に、任せろ」

 

 兄妹お互い、いつも頼り頼られ。

 今度もその延長だと思えば、少し気が楽になった。

 戦いに向かっていく兄の背中を、リンダも今度は見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 扉の向こうのネーナ・トリニティには、全て聞こえていた。マグナス・アルハンゲルが一時ここを離れることも、あのおじさんには妹がいることも。

 背を扉にくっつけて、枕を抱えてそこに突っ伏しているのだから、聞こえて当たり前だった。

 

「ネーナちゃん。私ね、リンダっていうの。さっきの人の妹」

 

 知ってる。聞こえてたから。

 兄貴のどこかぶっきらぼうでどうにも不器用そうな声とは違う、包み込んでくるようで、いたわりと優しさというものをよく知っていそうな声。

 だけども、それが今の自分の何かを変えてくれるとはネーナには思えなかった。

 

「……ネーナちゃん、ほんとに、いろんなものを無くしたと思う。私だって、お兄ちゃんがいなくなったらって思うと……そうだもの、きっと」

 

 その通り。もうあたしには何もない。

 そしてもう、誰かと話したからってそれが戻ってくるわけがない。

 ヨハン・トリニティは、ヨハにぃは死んで、もういなくなった。取り返しがつかない。

 自分はたくさんの人を殺した。取り返しがつかない。

 自分は生きていていい人間じゃなくなった。もう、取り返しがつかない。

 だから何を聞かされたって、自分は変わりようがない。

 そのように捨て鉢になったネーナの今の内面は、食事のトレーやスプーンが乱雑に転がり、明かりすらついていない室内にもよく表れていた。

 ……取り返しがつかないことばかりなのに、それでも死ぬのが怖かったり、お腹が空く自分のことも余計に嫌になって、もう何もしたくなかった。

 

「でもね」

 

 でも、も何もあるのだろうか。

 今の自分は、そんなふうに優しく言葉をかけられるほどの価値がある人じゃない。

 ヨハにぃは自分をトリニティの証だと言ったけど、自分はそんなものを背負っていい人じゃない。

 造られて、戦わされて、死ぬだけだった存在。そんなのはそもそも、人じゃない。

 人並みの幸せを、生を楽しもうとする権利だって、自分には……。

 

「あなたは、生きていてもいいの」

 

 ……その言葉を聞いて、ネーナの金色の瞳がぐっと開いた。

 

「生きなきゃダメ、ってわけじゃない。何かのためとか、そういうんじゃなくて……ええと」

 

 悩みながらも、リンダは言葉を続けていく。

 

「そうねぇ。あなたが死んだら、私もお兄ちゃんも悲しいし。だから、生きてて欲しいわ」

 

 その言葉に、ネーナはただ戸惑うばかり。

 どうしてこんな何もない人間に、生きていて欲しいなんて思えるのか。

 自分のしてきたことを知った上でも、本当にそう言えるのか。

 

「なんにもなくたって、いろいろ背負ってたって、それが生きてちゃダメな理由になんて、ならないと思う。だから、早まらないで欲しいの。生きてれば、これからいろいろできるんだから」

 

 そんな言い分、都合が良すぎる。

 自分はどうせ罰を受けなきゃいけなくて、だったら生きてても死んでても同じだというのに、それでも生きることに意味があると?

 ……どうして、そんな風に何も求めずに優しさを与えられるのか?

 

「ご飯取りに行ってあげる。そしたら、顔を見せて欲しいわ。まだ悲しくても辛くてもいいから、一緒にお話しましょ?」

 

 ……その言葉の全てが受け入れられたわけではない。

 それでも、ネーナ・トリニティは。

 

……ぅ……っ、ふ、ぐ……ッ……! ぅあっ、ぅ゛う゛うっ……!! あぅぅ……!!」

 

 より強く枕を抱きしめて、零れる涙をすべて枕に吸わせながらぼろぼろと咽び泣き。

 兄以外の人間から初めて受け取った優しさの温かみを、ひたすら噛みしめたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ハッチオープン、ハンガーロック解除。ネフィリム、発進準備完了』

 

 874による管制と同時にネフィリムの枷は解き放たれ、宇宙(そら)へと繋がる扉が開いた。

 "ネフィリム"。旧約聖書に記された、天使と人間の合いの子。

 全てを食い尽くし、最後には共食いをして滅んだ忌むべき不徳の落とし子。それがこの機体の由来。

 今から同じ太陽炉搭載型を倒すために、即ち共食いへと出かけるこの機体の実情として的を得ている。イアンもなんとも皮肉な機体コードをつけたものである、とユリウスは思う。

 この機体が別のガンダムの代わりに太陽炉を搭載するような事態となっている場合、既に別の場所でもガンダム同士の共食いが起こっているということになるのだから、正確ではあるが。

 

「機体各部をチェック。システム、オールグリーン……」

 

 赤い燐光を放つGN粒子が、背部のコーンスラスターからとめどなく放出されている。

 慣性制御効果がしっかりと機能し、機体を推進させる。

 

「マグナス・アルハンゲル。ネフィリム、発進する」

 

 前傾姿勢となり、出力を最大にして、ネフィリムは基地を発つ。

 そのまま高速巡航形態へと変形することで、展開力に優れるキュリオスにも引けを取らない速度を得て、ネフィリムは、マグナス・アルハンゲルは同じくラグランジュ1にあるプトレマイオスとの合流ポイントまで急ぐ。

 己の望みを、妹との約束を、果たすべきを果たすために。




CBNGN[GN]-001 GNヘリオン「ネフィリム」(オリジナル機体)

 GN粒子利用に堪え得る能力を予め持たされていたネフィリムにGNドライヴを搭載した際の真の姿。
 高出力ロングリニアライフルはGNロングライフルへ、脚部マルチミサイルは弾頭変更可能であることはそのままGNミサイルへ、NGNビームサーベルは動力源の変更に伴いそのままGNビームサーベルとなった。
 デッドウェイトとされていたリアスカートの機構は、GNドライヴを搭載するための空きスペースである。エネルギーバイパスをはじめとした機体各部も予め最適化されており、ドライヴのマッチング調整さえ成功すれば短時間の間に換装が可能である。
 可変機構もそのまま使用可能。スラスターを後部に集中する高速巡航形態への変形が以前と同じ機構のまま可能で、当然ながら戦闘中の変形も自由自在。

 チームプトレマイオスのガンダムやフェレシュテのガンダムと違い、ネフィリムにはエクシアの実体剣群、デュナメスの高高度狙撃銃、キュリオスのGNシールドニードル、ヴァーチェ(ナドレ)のトライアルシステムのような対ガンダム用とも言える装備は存在しない。
 これはネフィリムがGNドライヴを搭載したまま長期間の戦闘を継続することを想定しておらず、GNドライヴの応急的な避難措置を行う避難先である、という設計思想の下で運用されている機体であるが故のことと言える。

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