ガンダム00世界で留美やネーナやコーラサワーとイチャイチャしながら生きる   作:トン川キン児

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Mid-season -2309
暗中の模索


 敵に情報が漏れている以上、ラグランジュ1におけるソレスタルビーイングの資源衛星基地は補給路を断つためにあらかた抑えられているか破壊されているか。スメラギはそのどちらかだと読んでいた。

 国連軍本隊が作戦の大目標を達成して撤退し始めているとはいえ、それらを抑えるため駐留する軍との小規模な戦闘になるだろうとの予測も。

 しかし、意外にもその読みはいずれも外れていた。

 

「これも噂の別働隊の仕事?」

「だと思うが。とりあえず助かった」

 

 ラグランジュ1、エリア225・資源衛星C7ドック。

 格納庫におけるスメラギとユリウスの会話通り、強襲用コンテナ及びネフィリム、それらに牽引される大破したナドレ及びエクシアとGNアームズType-Eは、満身創痍ながら意外にも何の脅威にも遭遇することなく秘密ドックへの入港を果たすことができた。

 周辺の宙域にはヴァージニア級宇宙輸送艦やリアルド宇宙型の残骸が数多く散乱しており、戦闘がこの近辺で起こっていたことが容易に察せられる。

 おそらくそれは、キュリオスの太陽炉の回収に成功した機体がやったのだろう。

 

「フェレシュテと言ったわね」

「存在は知ってたんだろ?」

「まあね。構成人員だとか具体的なことはわかっていなかったけど、私たちの活動のお膳立てと始末を請け負う下部組織はエージェントだけじゃ無理なのはわかりきってた」

 

 チームプトレマイオスを支える、チームフェレシュテ。

 スメラギの中で、その存在の真偽を確信に変えてくれる出来事は今までなかった。つい先日までは。

 

「おやっさんの変な動きはしっかり見てましたから」

「や、やっぱしなぁ……アイツらには悪いことしたなァ」

 

 王留美の手配にて補給という名目でやってきた、ある時の部隊を直接イアンが出迎えた際にスメラギは"クサい"とあたりをつけていたらしい。

 薄々気づかれているのではとイアンも思っていたようだが、案の定であった。

 

「全機のチェックは終わりましたか?」

「ナドレとGNアームズはもう無理だ、使える所を抜いて処分したい。エクシアとデュナメスは直せばいけるが、この先の戦力にはっつうとちょいと改修を重ねんと……そうなるとなぁ」

「それも含めて後で話し合いましょう」

「…………」

 

 気なしか、スメラギが気丈に見える。

 そのように振る舞えるだけの余裕がまだある、そういう風にユリウスには感じられる。

 何かが変わったからなのか、それはまだわからない。だが、もしかすると。

 あの時見たリーサのように、自分が知るこれからのスメラギのように、憔悴しきったあんな姿にはならずにいてくれるのでは、と期待してしまう。

 

「俺への用事は?」

 

 MSにかかりっきりのイアンを残し、二人で格納庫を離れるユリウスとスメラギ。

 わざわざスメラギ自ら格納庫まで来た。ということは、通信越しだけでは収まらない程度の伝えるべきことがあるということに他ならないとユリウスは既に直感している。

 

「2000でブリーフィング。今後の方針を伝えるわ。それと……」

「それと?」

 

 ――――いきなり寄りかかってきたその胸を受け止めて、次の言葉を聞いた。

 

「……終わったら私の部屋に来て」

 

 耳元で誰にも聞こえぬように囁かれ、自分の認識が甘かったことをユリウスは悟る。

 とても弱弱しく震えていて、今にも折れそうな彼女は、精一杯の虚勢を張って今ここに立っているのだ。

 別れ際に見えた、唇を結んだ横顔がそれを物語っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、お前……大丈夫か、それ……」

 

 ブリーフィングルームに入ってユリウスの目に真っ先についたのは、リヒティことリヒテンダール・ツエーリの痛々しい姿であった。しかし、その惨状とは裏腹に本人はケロっとした表情である。

 というのも、右腕が吹っ飛んでいるのである。文字通り。

 

「あぁ……まあ、平気っすよ。生命維持に必要なとこは問題ナシっす」

馬鹿じゃないの!? どこが平気だっていうのよ!!

 

 とはいえ、出血等があるわけではない。

 リヒティの右半身は、機械化されていたのである。無くなった右腕は交換可能な義肢ということになる。

 ノーマルスーツも右側を中心に破け、右手右脚の人工皮膚が無くなって中の機械部分がむき出しとなっている。

 

「何があった……」

「通路が爆発してとっさにかばったらこのザマで。ま、俺より危ないのもいっぱいいる状態っすから、泣き言言って――」

「言ってよ! 泣き言ぐらい! 私のせいでさっ……ぅ゛う゛~……!!

「クリス……」

 

 リヒティが誰を庇ったかは、もう目の前を見ればわかる。

 どういう顛末で脱出したかはスメラギから聞いていた。GNフィールドを喪失して強襲用コンテナへと移動したのであれば、そこにGN-Xの攻撃を受け、艦内通路が爆発した際にリヒティがクリスを庇い、こうなった……ということだろう。

 

「ずっとこんな調子か」

「……ここに着いてからではあるけど」

 

 リヒティに縋るクリスをさらに宥めているフェルトに聞いてみると、そういうことらしい。

 ……無理もない話である。クリスティナ・シエラも鉄火場を直に見るのは初めての娘だろうから。

 安全な場所に来て緊張の糸が切れ、感情があふれ出す。全くもって普通の事である。

 

「……しばらくやりたいようにさせてやれ」

「え!? 俺っすか!?」

「男の甲斐性ってそういうとこだろ」

「……そ、そっスよね……」

 

 何やら覚悟が決まったような表情で、リヒティは生身の左腕でクリスの肩をおそるおそる抱いてやった。

 ……そんな場合じゃないとしても鼻の下が少し伸びているのは男の本能故のことなので、気にしてやらない方がいいことだ。

 

 こんな光景を見ることができるとは、数分前まで思いもしなかったユリウス。

 スメラギからクルー全員が無事と聞いた最初の話は、ユリウスにとって正直なところ信じられないことだった。自分の知る状況下よりもさらに悪化した決戦の場において、どうやってあの場を生き残ったか思わずとっさに聞いてしまったものである。

 聞くところ、MSに纏わりつかれるよりもフィールドが破られアルヴァトーレが接近した時点で"どうにもならない"とすぐに判断できたのが要因だったのだろうと判断した。

 ……あの女が乗ってきたから、リヒティもクリスもモレノ医師も生き残った。そう言うのなら、もはや何がどう影響していくかなどまるで読めない。というより、やはりそれこそが歴史の流れというものなんだろう。

 そう心の中で再確認したユリウスだった。

 

 ……ひっついている3人と対照的に、周囲と距離を置いているのが、この部屋にただ一人存在するガンダムマイスター、ティエリア・アーデ。

 ユリウスには彼が何を思っているのか、背を壁に預けたまま俯いたその沈痛な表情を見れば手に取るようにわかる。

 こちらからの目線に気づいたようで、俯いたまま自ら語り始めた。

 

「変革には痛みが伴うと、口で言ったことはある」

「……ああ」

「だが……アレルヤは捕えられ、刹那も、ロックオンも、文字通りに身を切るような痛みを受けているというのに。私だけが、おめおめと何故かここにいる」

「…………」

「この汚名を濯ぐことも、最早できないというのだろうか」

 

 刹那とロックオンは未だに治療カプセルの中にいて、この場には出ることができずにいる。

 この身ひとつが綺麗なままであることを大きく恥じたティエリアの、独白に似た吐露にユリウスは返答する。

 

「俺も似たようなもんだ。奴を仕留められないままノコノコ帰ってきた」

「…………」

「今そこでそういう屈辱を味わっていることこそが、お前の痛みだろ。違うか?」

「…………モノは言いようだ」

「そういうもんだ。人間ってのはそうやって痛みをごまかして生きる。慣れれば強くなれる」

「強く……」

「お前ら4人でまともに動けるのがお前だけになるってんなら、尚更お前は強くなんなきゃだ」

 

 パイロットスーツの胸部アーマーを握りこぶしの裏拳でドンと叩いて、ユリウスは力強く激励する。

 

「だから、痛みに負けんな。しっかり噛みしめて、生きろ」

 

 ……その言葉をしばらく咀嚼したのち、ふっと笑ってティエリアは言った。

 

「…………貴方もガンダムマイスターとなったのなら、()の負担を軽くして頂きたいものだ」

「できる限りはな」

(……なんか、やっぱこういうの見るとちゃんといい感じの渋いおじさんに見えるんすよね~)

 

 場の空気がどうにか和らいできたところに、ここからの場を取り仕切る人間であるスメラギが入室した。

 

「定刻よ。みんな集まってるわね……集まれる者は、だけど」

 

 ここにいない者たち。もはや命綱となった強襲用コンテナや他機体の応急処置等の整備・修繕にかかりっきりのイアンに、怪我人たちにつきっきりのモレノ、それに3人の負傷者。

 彼らの事もひっくるめて、スメラギは話し始める。

 

「……あの戦場を生き残れたこと、まずはひとりひとりの働きに感謝したいし、皆できる限りよくやったわ。でも、私たちにとって状況は最悪。ううん、これからもっと悪くなるかもしれない」

「……船もなくなっちまったっすからね……」

「活動の拠点であるプトレマイオスを失い、エクシア・デュナメスは半壊、ナドレは全壊、キュリオスは鹵獲された。太陽炉だけはどうにか全て組織の手元に戻ったけど、マイスターたちだってアレルヤは捕えられ、ロックオンは最早マイスターを続けるのは無理だわ」

「…………具体的に、マイスターたちはどう診断されたのですか」

「先生によると、刹那の方は5日もあれば治ると。でも、ラッセの方は予断を許さない状況だし、ロックオンも意識が戻るまではひと月以上は必要よ」

 

 その辺りが変わってしまうと、どうしていいものかわからない。報告に心の中で見えない様に胸を撫で下ろしたユリウスであった。

 

「これらを鑑みて、チームの戦術予報士としての結論を私から出します」

 

 言葉の後に重い沈黙が流れて、スメラギが再びその口を開く。

 

「この状況で武力介入を続けていくのは最早不可能。ソレスタルビーイングの実働部隊としてのチームプトレマイオスは、一時解散。数年規模の潜伏期間を設けるべきだと判断したわ」

 

 告げられたのは、自分たちチームプトレマイオスの事実上の活動停止。

 自分たちの長の命だからと言ってその宣言に黙っていられるはずもなく、クルーたちから様々な声が挙がる。

 

「ユリウスさんだっているじゃないすか! ガンダムは3機になっちまいますけど、なんとか……」

「世界はこれから擬似太陽炉搭載型のMSを凄まじいペースで量産していくわ。それだけじゃなく、技術も向上していく。こちらの性能を超えるMSやMAだって早晩完成するかもしれないし、しかもその数はこちらより絶対に多い」

「……と、トランザムがあれば……」

「時間制限付きのパワーアップよ。しかも弱点もある」

 

 リヒティの反論は、しかしスメラギの理路整然とした回答によってすぼんでいく。

 

「……アレルヤのことは、どうするんですか……」

「恐らく高レベルの監視・防衛網に移送される。ヴェーダも万全には使えずエージェントも少ない私たちの今の状況下ではその前に彼を救出することも、強硬策を通すだけの力もないわ」

「でも、だからって……! 仲間なのに!」

「……口を割らないでしょうけど、訊き出したいことがある以上は直ちに処分されるようなことはないはず。彼はいわゆる強化人間、劣悪な環境下にも耐性がある。猶予はあるわ。それに貴重な実験体でしょうから、サンプルとしての価値で生かされると思う」

 

 フェルトの言葉を震わせながらの疑義も、希望を持たせつつ宥めていく。

 

「それに、一番大きいのは……」

 

 最後の要因を話そうという前に、思い当たることに気づいてティエリアがそれを口にした。

 

「……計画が問題なく推移している可能性……」

「そうよ。私たちを倒したことで世界がひとつにまとまっていき、そうして統一された世界が自ら戦争の根絶に動いていくというなら、私たちの役目はこの場でもう終わっている」

 

 監視者たちの裏切りにより、ここまではチームプトレマイオスによる目論見とは大きく外れた計画の推移を辿った。

 だが国連軍によるこの勝利が切っ掛けとなり、地球国家が統一に向かうのであれば、それは紆余曲折があったとしても結果的に計画の第一段階の達成を意味する。

 

「今の状況を主導した監視者たちは次々と消されていってる。ヴェーダが彼らの粛清を決定したかどうかはわからないけど、それによって計画の進行はあるべき元の形に戻っているかもしれない」

「それを見守るための潜伏期間……」

「だからこそ良きにしろ悪しきにしろ、私たちは事態を静観する時間が必要なの」

 

 戦術予報士スメラギ・李・ノリエガによるここまでの戦況予測は正着と言っていい。

 であれば、当然。加えて予測しているであろう事象を語らせるために、ユリウスが口を開く。

 

「このまま戦争の根絶が成されないと判断した時、どうする」

 

 返事は決まっている。スメラギは直ぐにその答えを出す。

 

「武力介入するわ。もう一度」

「俺たちだけで、世界中にばら撒かれた擬似太陽炉搭載型を相手にどう戦う?」

「私たちだけの切り札はある。トランザムと、イオリアが私たちに託したもう一つのシステム」

 

 ――ツインドライヴシステム。

 それが、再び武力介入の必要に迫られた時の最後の希望。

 

「トランザムと、ツインドライヴ。これらに最適化された新しいガンダムを作る」

「…………」

「出資者も少なくなった今じゃ、時間が必要なことよ」

 

 流石だと思わされる。

 ここに到着してからの僅かな時間で、これだけの具体性を持った方針を打ち立てられること。

 心に傷を負ったとしても、失敗に怯えているとしても、それはリーサ・クジョウが、スメラギ・李・ノリエガが、天才が天才たる所以を損なわないということなのだろう。

 

「5基しかない太陽炉の力を最大限まで活用する。それが、世界に対抗するために必要なこと」

「……そっすね……!」

「また、みんなで生き残るための準備……!」

「今を生きて、自分で考えてできることを精一杯やりましょう。もうそれしかないもの」

 

 …………ただ一つ、ユリウスは今の言葉に引っかかりを感じた。

 

(太陽炉は、()()ある)

 

 輸送艦のもの、スローネアインから譲り受けたもの、スローネドライのもの。

 それをどうするのかは、この場を離れてからすぐに聞くべきだとユリウスは思った。




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