ガンダム00世界で留美やネーナやコーラサワーとイチャイチャしながら生きる   作:トン川キン児

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リーサ

「来たぞ」

 

 約束通りに、ユリウスはスメラギの部屋へと赴いた。しかし、プトレマイオスの自室が艦ごと消えてしまった以上、その意味は変わっている。

 クルーたちそれぞれにひとまず割り当てられた、簡素なベッドと多機能デスクのみが置いてある殺風景な一室。機能とレイアウトはプトレマイオスと同様……というより、ソレスタルビーイングでは私室となる施設は全てこのパターンだが、私物などは当然ながら艦と共にすべて失われている。

 

「いらっしゃい」

 

 先程の決然とした姿とは打って変わって、スメラギは声からもけだるげで憂鬱な様子をまるで隠さない様子だった。

 その声を聴いた瞬間に、心臓の鼓動が少し早くなったのがユリウス自身にもわかった。

 

「さっき、引っかかることを言ったけど」

「太陽炉が5基って? ……そうね。トリニティの擬似太陽炉も含めるとそうなるものね」

 

 やはりスメラギは、今のソレスタルビーイングには太陽炉が8基あることはとっくに承知している。しかし、それでいてあの場ではそうは言わなかった。当然そこには意味がある。

 "今、まだその話をしたい?"とでも言いたげに、そっぽを向きながら言った、含みのあるスメラギのその言葉を聞いてユリウスは思う。

 

「チームトリニティを、どうする?」

 

 恐らくスメラギは、元チームトリニティの所属となる戦力の扱いを決めかねているのだろう、と。

 

「できれば合流したいわ。戦力はいくらあっても足らないような状況だもの」

 

 でも、と付け加えて、回転チェアを回しユリウスに背を向けながら、スメラギはそうできないかもしれないと感じる理由を話す。

 

「今のトリニティは、彼女、ネーナ・トリニティだけ。それも今までの事を考えれば私たちに協力的とは限らない。精神的にかなり不安定のようだし、今は戦力として計算に入れていないわ」

 

 トリニティを迎え入れるにはまだ不確定な要素が多い。それは理解できる。

 元々の活動方針の違い、敵対に至っていたこれまでの関係、離反者の傀儡であった事実、内部からの反感の可能性。

 それらをひっくるめてまで面倒を見てやる余裕は、今はないと言っていいかもしれない。

 外敵よりも恐ろしいのは、内患。

 今の状況に陥った経緯を見ても、それは明らかだった。

 

「"今は"か……」

「……貴方の考えてることはわかってる」

 

 その言葉には別の意味がまだある、と直感しそれを拾い上げたユリウスに対して、その考えを見透かすかのように、振り向いたスメラギは続けていく。

 

「ネーナ・トリニティと言ったかしら。あの子を気にかけてるんでしょ」

「一人でも多く戦力が欲しいなら……」

「それだけじゃないわ。絶対に」

 

 どく、と、心臓の音が大きく跳ねた気がした。

 

「貴方には私情がある」

 

 射貫くようなスメラギの目線が自分のそれと合わさって、思わず目を逸らしそうになるが、向き合ってその言葉に対しユリウスは答える。

 

「……ああ。そうだ」

「どうしたいと思ってるの?」

「あいつの兄貴の、ヨハン・トリニティに頼まれてる。ネーナを頼むって」

「……遺体がラグランジュ3に運ばれたのは知ってる」

 

 偽らざる本心を言葉に乗せて、スメラギにぶつける。

 

「死に際の兄貴が、妹を頼むって言ったんだ」

「…………」

「俺は、その気持ちが痛いほどわかる。汲んでやりたい。私情交じりの仕事をやるなと言われても、これだけは譲れない」

 

 スメラギとしても、ユリウスの言葉に嘘はないのだろうなとわかる。

 間違いなくこの場にいる一因であろうと断言できるほどに、彼の妹を想う気持ちの程が計り知れるという言葉を、誰を相手にしても何度も聞いてもいる。

 トリニティに対して共感や憐憫のようなものを抱き、その遺言を自分に刻み込んで、それを遂げてこれからを生きていくという覚悟を決めたとしても、何らおかしくもないのだろう。

 

 ……しかし、()()()のもっと深いところでは。

 

()()、それだけとは思わない」

「え……」

「貴方は、もっとあの娘に何か別の気持ちがあるんだって思ってる」

「な、なんで……そう思う?」

「…………女の勘」

 

 戦術予報士としての明晰な頭脳を活かすロジカルシンキングもへったくれもない、本能的な直感だけが根拠だと言われてユリウスはたじろぐしかない。

 絶対にそれだけではない、と疑るリーサが、スメラギの中にいる。

 

「現状が落ち着いたら、貴方は絶対あの娘のところに行くわ」

「それは、約束が……」

「そしてずっと離れない。わかるの」

 

 反論も既に聞く耳持たない、とでも言いたいような畳みかけでユリウスはもはや口を挟めない。

 どうしてこうまで食い下がられるのか、ユリウスにはその原因がわからなかった。確かにネーナ・トリニティは現状にとって危険な存在かもしれないが、スメラギは自分がついていれば抑えられるとは思ってはくれないのだろうか?

 

 ――――だがその理由は、一瞬あとの表情の変わり方を見てすぐでわかった。

 

「お願い……」

 

 つう、とその頬を伝っている、鼻を啜ることもしないリーサの静かな涙が見えて、ユリウスの思考が止まった。

 

「行かないで。一緒にいて。私、もう……耐えらんない。あなたなしじゃ……」

 

 その涙が何を意味するのかぐらい、わかる。

 プトレマイオスのクルーは生き残った。"自分の知る末路(原作)"のように惨く心を揺さぶるような、リーサの心を完全に叩き折るような死は避けることができた。

 それでも、()()()()()()()()だけにすぎなかった。

 彼女にとって、これは自分の選んだ戦いが、自分を信じてついてきた部下が再びその身を傷つけたこと、いなくなったことに変わりはないのだ。

 今までも何度となく自分は彼女を宥めて慰めて、戦えるようにしてきた。でもそれは、その場その場を凌いできただけであって、根っこにあるトラウマを取り去れたわけじゃない。

 彼女の中に巣食っているものは、何一つ変わってはいない。

 寄る辺がなければ、彼女は立てないのだ。

 

「……俺は……死んだりするわけじゃないよ」

「ごまかさないで……!」

 

 どうとでも取れる曖昧な返事など、一瞬で切り捨てられる。

 退路はない。ハッキリと伝えるしかない。ユリウス・レイヴォネンが、自分が、何を選ぶのか。

 

「……俺……」

「…………」

 

 息が詰まるような緊張を振りほどいて、ユリウスは言葉を紡ぐ。

 

「……俺は、ネーナについててやりたい。リーサは、きっとまた立てる。でも、あいつは……」

 

 スメラギ・李・ノリエガには、仲間がいる。

 ネーナ・トリニティには、自分をおいて他にいない。

 身寄りもなく、現状を抜け出すアテもなく、秘める力だけを見て利用されていく彼女の事を慮ってくれる人間は、この世界にどれほどいるというのか。

 王留美も、何もわからずにもがいている。

 信じられる物もなく、やみくもに世界を変えようと願ってもがいては、何も変えられないまま自分自身を底無しの沼に引きずり込んでいる。

 だからこそ、自分はあの娘たちと一緒にいてやりたい。

 それが例え、目の前のリーサの意に沿わない答えだとしても。

 

「…………………………」

 

 瞳を潤ませて、顔を赤く染めて、リーサ・クジョウは答えの後の長い沈黙を破り、重苦しく口を開いた。

 

「…………そう。わかった」

 

 目元が隠れるほどに俯いて、絞り出すようにリーサはそう言った。

 回転チェアでこちらに背を向けて、何やら多機能デスクの手元を操作したリーサ。そっぽを向かれたことで、こうなるとわかっていたとしても、この答えがリーサを傷つけたことはハッキリとユリウスにもわかった。

 ごめん、とでも口をついて出そうになったが、謝られたところで彼女はどうするというのか、と思い直してユリウスはやめた。

 

「じゃあ、話を変えましょう」

 

 背を向けたまま、リーサは話を切り出していく。

 

「貴方は、前に言ったわ。疲れたら俺と少し休んで、歩けるようになったらまた歩けって」

「…………言った」

 

 確かにそう言った。ユリウスは覚えている、自分を寄る辺にしてもいい、と認めたことを。

 

「……ここにはね、お酒はないの。置いてあるわけないし、みんなあの船に置いてきちゃったから」

「呑みたいなら落ち着いたら付き合うよ」

「欲しいのは今よ。でもここにはない。だから――――」

 

 ――――言うなり彼女は立ち上がり、いつも着ているノースリーブの青いシャツを脱ぎ捨てた。

 

「――――代わりをしてよ。休んでほしいなら」

「…………なっ……!」

 

 上半身を隠すものが黒いチューブトップ一枚だけになったリーサが、じりじりとにじり寄ってくる。

 ユリウスはそこから遠ざかるように後ずさる。後ろにはドアがある、しかし開かない。

 

「閉じたわ。邪魔されたくないし、逃がしたくないから」

 

 ……さっき、デスクで手元を弄ったとき。

 ユリウスはそれを思い当たるが、混乱しきった頭でそれを思い出したところで今さらどうにもならない。

 

「なっ、え……なんで……!?」

「言ったって認めたわ。なら、ここにいて。付き合って」

「でもッ……!」

「短くてもいい。一緒に居られる間は、私を想って。私の事考えて」

 

 もう、身体同士が触れ合う距離になる。

 

 男と女、力の差は違いすぎるほど。彼女を思いっきり拒んでここから逃げ出すことはできるかもしれない。

 だがそれをやってしまったら、今度こそ彼女はどうなってしまうのか想像もつかない。

 リーサが、自分に何を求めているかぐらいわかる。三十路の男がそれをわからなければおしまいだ。

 だが受け入れてしまったら、自分の信念を形作る彼を裏切る。

 どうすればいい? 自分は何て言えばいい?

 穏便に済ませられるというのか? こうなってしまってから。

 言い訳などできるというのか? 次に起きることを受け入れてしまったら。

 駄目だ。でも、そしたらリーサは。だからってそんなこと……。

 

 揺れ続ける背の高いユリウスの瞳を、上目遣いに覗いて、リーサは――――。

 

「私は許すから」

ッ!!!!

「貴方が何しても、私の望んだことだから――――」

「…………駄目だ、そんな…………ッッッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――そこから次の朝までの記憶は、お互いに消し飛んでいた。




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