ガンダム00世界で留美やネーナやコーラサワーとイチャイチャしながら生きる 作:トン川キン児
「…………クズ野郎……」
あれから7日を数え、ユリウスが
眠る彼女の横顔を目にする度に、起こさぬようにかすれ声で呟く自嘲が重くのしかかる。
そんな畜生にも劣る外道がこの世には確かに存在していて、しかもそれは自分自身である。
⦅私だって、後ろめたく思わないわけないでしょ。あなたと同じ……でも、必要なの⦆
最初の朝に、後悔にまみれた自分の表情を見た彼女は、そう言って顔を大きな胸に包んで慰めた。全部自分のせいにしていいのだと。
それから、毎日のようにこの関係は続いている。
始まれば何の遠慮もなく、男と女を満たし合い、被虐の快楽が、支配欲が、愛情が理性を狂わせ、お互いにまみれてドロドロに溶かし合うような、どこまでも墜ちていけそうな関係。
それでも全てを投げだしたりはしないのは、この関係が本当にやるべき事のための羽休めにすぎないという価値観が二人の中に共有されているからにすぎない。
彼女の許したことだ。必要なことだ。お互いにいいことだ。
そんな言い訳と、柔らかく心地よく、包み込んでくれるような彼女の身体を抱く時の気持ちが、ユリウスの現状を肯定しようとする。
許されていいはずのないことにも関わらず。
…………それとも。
皆にマシな未来を作りたいと言ったのなら、作り出した成り行きとそうした自分を受け入れて、ひたすら前に進み続けることこそが最も良い在り方だというのだろうか。
こんな間柄でも、歪んでいるかもしれなくても、彼女との間柄に愛はあると思うから。
"見えない道を歩くとも、その行きがかりに拾うもの。それは"……?
都合の良すぎる考え方かもしれないが、自分は、ユリウス・レイヴォネンは彼女との関係を
だったら、自分が果たすべき責任とは――――。
「……聞くか……おやっさんかリンダに……」
……ある種の覚悟を決めてから、慣れた手並みで扉の周囲を確認しつつスメラギの部屋を出る。見つかれば事になるということで、寝ている間に抜け出して消えることはあちらも了承している。
当然、掛け布団はスメラギの肩まで戻してやりつつ。
「その……だからさ!」
「はい!」
――――急に通路の向こう側から聞こえた大声に、慌ててその反対側に身を隠す。
大声はクリスティナ・シエラのもので、それに反応したのはリヒティ。
「…………お礼……デート一回分ね!!」
「…………はいぃ!?」
壁を背にして通路を覗いてみても声だけが聞こえている状態で、様子を伺うことはできない。
しかし、どちらも既にいっぱいいっぱいで赤面するかどうかしているのは容易に察せられた。
あんな思いっきり裏返ったような声を出すなら、顔が見えなくたってわかるというものだった。
「一回だけだから!! それだけ!! じゃあね!!」
クリスの声が遠ざかっていく。言うだけ言って去っていくあたり、まさに限界状態らしい。
声のした方に音を立てずにユリウスが忍び寄ってみると、「っしゃ!」と歯の間から声を漏らして小さくガッツポーズをするリヒティだけがそこに残っていた。
……自分たちもこういう甘酸っぱい所から始まるような関係であればどれほどよかっただろうか? などとユリウスは思うが、同時に他人の彼女を盗ってる時点でそれもありえないことだと思った。
何にせよ、こういう時にはかけるべき言葉がある。
「よかったな」
「ぅえ゛!! い、いつから……」
「いつからって……この辺にいりゃあ聞こえるような声で喋っといてなあ」
「ま、マジっすか……」
天国から地獄まで急転直下、といった様子のリヒティ。とはいえ、ユリウスとて大人である。
「漏らしたりとかはしない。子供じゃないんだから」
「そ、そっすよね~!」
「言っとくけど、デートの先の方が大変だろ。幻滅されちゃそれまでだもんな」
「……た、確かに……!!」
……その辺をすっとばした関係を結んだ自分が言うことでもないかもしれんが……と思わないでもないユリウス。
「んまぁ、頑張ってくれよ」
「え! この流れでアドバイスとかないんすか!?」
「ないよ。モテないってよく言われるんでな」
「ちょっとぉ!?」
後ろ手に手を振って、自室へと移動するユリウス。
経験があればひと言ふた言でも言えただろうが、これに関しては本当にまともな恋愛遍歴のない自分では無理だとわかっていた。
誰にでも縋りたいような話なのに、自分から先行き不安にさせておいてそりゃないだろう、とリヒティが思うのも無理はない扱いであった……。
・
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国連軍との決戦から一週間。チームプトレマイオスはソレスタルビーイングのこれからの本拠地となり得る、ラグランジュ3の資源衛星群基地への撤退を人員・機体・物資の回収共に既に済ませていた。人員に至っては、初日の時点で回収に成功した。
お互い極限まで損耗したということもあり敵が宙域から撤退し、監視網も緩くなったことも一因だが、何よりこれほどまでに迅速な行動が可能となったのは、今やソレスタルビーイングの切り札となったトランザムの存在故である。
元々通常出力でも大気圏を振り切るほどの推力が発揮可能な強襲用コンテナが、トランザムによってその加速力をさらに上昇させたとなれば、空気抵抗のない宇宙では減速のない凄まじい速度を手に入れることができる。
ラグランジュ3への撤退を決断したのもまた、スメラギ・李・ノリエガ。
現在の宇宙開発の中心である月にほど近いラグランジュ1に居座るのは、一度大規模な捜索の手が伸びている以上露見の可能性が高すぎる。
これからの時期を介入行動を控え潜伏期間とする以上は地球に近い位置取りをする必要もない上、回収したエクシア・デュナメスの修復、トランザム及びツインドライヴの研究、それらを反映した新型ガンダムの開発……。
諸々を考えても、開発・研究の可能な大型基地の存在するラグランジュ3へ潜伏することが最も再起の可能性が高い選択肢だろうという判断だった。
(当面の間は周辺基地からの資材確保に終始……だな)
ユリウスの現在地も、当然ラグランジュ3の基地にある。
より正確に言えば、その格納庫。そこに並ぶ機体群をしげしげと見上げている。
マイスターが健在ということもあり搬入・修復も最優先され、オーバーホール含めた修復が完了、最終調整を控えるガンダムエクシア。
中破状態のまま手つかずで、いずれもこれからといったガンダムデュナメス。ネフィリムも同様であるが、順番的には次の修復になるだろう。
スローネドライはほとんど新品同様のままで安置されている。作戦行動などで動かされた形跡は一切ない。
ここに来た時はてっきりこの4機だけがここに置かれることになるものだとユリウスは思い込んでいたが、格納庫にはもう1機のガンダムが存在していた。
自分の知らないガンダムが。
「……こんなもんまで作ってるとは」
純白と青のガンダム。
GNDY-0000・ガンダムアストレアⅡ。そして、プロトザンユニット。
トランザムと同時にツインドライヴシステムの情報が解禁される以前から、組織はGNドライヴ2基をガンダム1機で運用するダブルドライヴシステムの試験機としてこのガンダムを試作していたらしい。ラグランジュ1に秘匿されていた機体だったようだが、これもまた回収された。
エクシア・デュナメスにおいてもダブルドライヴの試験を行う装備はあったようだ。
だが、そもそも通常機相手にそれほどまでの性能を必要とするのか。ドライヴの片方を粒子貯蔵タンクにするという解決法も示されたが、その際の劣悪な燃費はどのように解決するのか。ドライヴを1機に集約するのならば単純に4機による介入行動の利点を覆すほどの性能を示せるのか。
これらの問題点を解決できずにいたために、ダブルドライヴシステムはいずれもお蔵入りとなった。そしてその原型であるアストレアⅡも御多分に漏れず、ということである。
しかし、今ならば状況は大きく異なる。再び戦闘にでも陥る場合を鑑みて強力な機体は1機でも手元に置きたい、それならばとアストレアⅡの回収に白羽の矢が立った。
粒子貯蔵タンク2基では起動すら叶わなかったようだが、現在はナドレの太陽炉を換装することで立派に戦力として稼働できる状態にある。燃費の問題は未だ残るままだが。
こんなものが歴史の裏にあったのなら、少なくとも潜伏しているソレスタルビーイングのメンバーの守りはこいつとティエリアが担っていくということだろう。そうユリウスは確信した。
ユリウスが格納庫に居座るのは、そのような物思いに耽るためではない。
待ち人がいた。必ずここに現れるであろう人間が。
そしてそれは、やはりやってきた。
「……あんたがなぜここに」
「見送りでもと思った」
刹那・F・セイエイ。
出撃命令も出ていないというのにパイロットスーツを着込んでいる。昨日起き上がったばかりの病み上がりの身体で。
「知っていたのか?」
「勘かな」
「最近のあんたの勘は鋭すぎる」
「そ、そうかぁ……?」
1からこの少年にモビルスーツを叩きこんだ成長の過程を見てきた人間としては、寡黙な彼からそんな風に少し恨みがましい冗談交じりの文句を言われるようになるとは思わなかった。
少し面食らったユリウスだが、それは置いておいて会話は続く。
「止めに来たのか」
「別に。行きゃあいいさ」
「なぜ止めない? 戦力は集積しておくべきだ」
「止めて欲しいか? そんなタマでもないだろ。見たいもん見に行け」
「……わかるのか」
「わかるよ」
世界の変革が既に始まっている。もしかすれば計画通りに。
刹那・F・セイエイという少年は、そんな変わっていく世界を隠れて黙って見ていられるような人間ではない。歴史の流れが変わったとしても、ユリウスは彼がこうするだろうという確信があった。
直接その世界と向き合い続け、愚直に見守る。その中に飛び込んででも。
そして我慢してもいられない。起き上がればすぐにも飛び出す困った子供だと。
「ハッチは開けてやるからどこも壊すな。俺が怒られる」
「ありがとう」
「…………え」
「あんたの言葉を、俺は最近になって実践できている」
……礼を言われた。これほどまでに素直に。あの刹那から。
ガンダムにつままれたような気分のユリウスである。
いつか刹那に投げかけた言葉というのは、こうした自己開示から話が始まったということは恐らく"他者と向き合えない者は、世界とも向き合えない"ということだろう。
時が経つにつれて刹那の感情表現は徐々にこなれていく、と記憶していたユリウスだが、それが自分に向けられるのも当然と言われれば当然であったと思い直した。
「……いいよ。俺も口実ができるから」
そんな純真をぶつけられるものだから、下心を含んでいたことに思わず恥じるユリウスだった。
『言伝も頼めるか』
最終調整もまだ済んでないエクシアに乗り込んだ、刹那からの頼み。
「いいけど、何だ」
『医師には治療の途中で、イアンには調整の途中で申し訳ないと』
……そう思うんなら残ってやれよ……と思わないでもないユリウスだが、これは性分だ。
『ティエリアとあんたにはここを頼む。ロックオンには必ず目を覚ませと』
「アレルヤには?」
『俺から直接伝える。機会があれば』
仲間を想う感情の芽生えに、感慨深いものを覚える。
『ネーナ・トリニティに。戦う以外の道もあると』
意外な者への言葉に、思わず目を見開く。
『そして全員に。もう一度立つ時、必ず戻ると』
それだけを言い残して、ガンダムエクシアは美しい光の粒子を撒き散らして発っていった。
世界と向き合い続ける、その信念を載せて。
「…………俺も向き合わんとなぁ……」
心の底から、あの少年を見習わなければと思わされた。
この場で再びきっちりと向き合わなければいけないものは、あまりにも多い。
まずは自分の選択、リーサとの関係に対して。
自分の行動、エイフマン教授に対して。
自分の願い、ネーナと留美に対して。
どれも一筋縄にはいかない。明らかである。
「よっし」
時間ならできる。その間にきっちりとやりきってみせる。
そのくらいの覚悟は、とうに決めてあった。
――――まずは、みすみす刹那を行かせたことによる各方面からのお叱りを甘んじて受け入れることからだ。
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