ガンダム00世界で留美やネーナやコーラサワーとイチャイチャしながら生きる   作:トン川キン児

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選択肢を選ぶだけの道は好きじゃない

 重ね重ね思うことだが、超大国AEUという国が抱える火種の数はこの地球で大いなるゼロサム・ゲームを争うもう二つの超大国である太陽エネルギー自由国家連合、通称『ユニオン』と、人類革新連盟、通称『人革連』のそれと比べても本当に多い。

 とはいえそれも無理からぬこととは言える。もともとその成り立ちは、ユニオン・人革連の二大勢力に飲み込まれることを嫌って、欧州の国々が外交関係の良し悪し・経済規模の大きさ問わず寄り集まって完成したようなもの。ユニオンと人革連とは加盟国の数が桁違いで、同じような国力の中堅国家も多い。それゆえ意見の対立や足の引っ張り合いなども多々起こる。

 こんな歪な構造の連合を引っ張っていけるような強力なリーダーシップを発揮できる国……ユニオンにおけるアメリカ、人革連における中国のような国もAEUの中には存在しない。そりゃあ船頭多くして船山に上るというものである。

 国内にさえリアルIRAやラ・イデンラなんかのテロ組織……たくさんの爆弾を抱える中でも、特に人革連と地続きに国境を接しているというのはかなりマズい。人口にモノをいわせた強引な拡大政策を、AEUは合議制から来る対応の遅さ故に押しとどめ切れずにいる。

 はっきり言って、俺たちこの前まで中東と戦ってるヒマがあったんだろうか……なんて聞きたくなるほどにマズい。超大国の一つとして中東には面子を保つために行かなけりゃならないと思ったんだろうけど、そのために対人革連の要衝基地が堕とされる隙を作ったんじゃあ本末転倒だろう。

 

「92年型の乗り心地はどうかな?」

「良くはないでしょ……動きが重い。前の基地の00年型のが断然いいさ」

「僕はこっちの方が慣れてるけどね」

「弾速の低い180mmってのも気に入らない。新型一機ぐらいどっか引っ張ってこれるくせに」

「無いモノはねだれないさ」

 

 だから俺とエミリオがこうやって旧型なんかに乗るハメになる。

 要するに俺らは、さっぱり雲行きの怪しくなった人革連国境付近を元に戻すために転戦させられたという訳だ。元はと言えば見栄っ張りで中東に侵攻するからだろうに。

 エミリオをはじめとして知った顔もちらほらいるのはありがたいが、そういう問題じゃない。ヘリオンの2292年型は00年型に比べて肉が余ってて余計な重さのせいで操縦に違和感があるし、リニアライフルに対応してないから180mm滑腔砲しか使えない。おまけにバイザーじゃなくてまだモノアイカメラだからセンサー有効半径もぐっと落ちてるし図体もデカいとくる。

 まったくもって十一年前の型落ち機種に成り下がってる、こんなんじゃてんで俺の反応についてこれない。国境警備がこれじゃあ見栄も見せられないってもんだろ、なんでこっちから先に新型をよこしてやらなかったんだかなあ……。

 統一政府が出来た途端に影も形も無くなる訳だよ、AEUって国は。

 

 ……そういや、エミリオはあの話知ってんのか?

 

「機体に文句をつけるのは、俺の方に来てる話も理由だよ」

「なんだいそれ?」

「部隊を二つに分けるって言われてるんだよ。エミリオとクジョウの方、俺と誰かの方」

「基地攻略で部隊を割く……なんてね。できれば僕はリーサの方に箔をつけてあげたい」

 

 確かにその件もなんなんだとは思う。わざわざ指揮官同士を競わせるような形にして……こうまで露骨じゃあパイロットたちだってそういう意図を勘ぐる。

 どっちが先に堕とすか、どっちが優れているか。まるでコンペみたいだってみんな勝ち気がはやってさ。そういうの、よくないんだよ。

 司令官だってんなら戦場で余計なことを考えさせる人事をするんじゃないよ。エミリオですらこのザマなんだぞ?

 

「そういうのはよせ。お前の方からも他の奴に釘刺しとけよ、功を焦るなって。俺だってしてあるぞ」

「それは言っといた方がいいかもね……」

 

 人の気も知らないで。お前が死ぬのを防ぐためにわざわざ作戦に出そうなパイロットたちに触れ回ってるんだぞ……。別にストレートにお前死ぬぞとは言わないけどさ。

 

「問題なのは俺に中隊長をやれなんて言うからだ、ならそれなりの機体がさ」

 

 それに、いくら俺がそれなりの実績を残したからと言っても中隊長としてコーラサワーと同じようにできるとは限らない……あいつと俺との適性は違うってのに。

 だいいち俺はまだ中尉だぞ、フツー中隊長なんて務められる階級じゃないだろ。司令の呼んでくる指揮官の希望に沿っての人事らしいが、いったい誰が俺なんかを推すんだ?

 

「中尉は私の人事が不服か?」

「えっ」

 

 ……嘘だろ、この声。

 こんな特徴的な声質忘れる訳がない。AEUにいるならそのうち必ず会うと思ってたが、まさかここでとは……!

 

「カティ・マネキン中佐だ。私が中尉の隊の指揮を執ることになっている」

「……失礼しました。ユリウス・レイヴォネン中尉であります」

 

 二人の指揮官……マネキン中佐とリーサ。ここにはエミリオもいる。

 そういうこと、かよ。最悪じゃねえか。

 もしかしたら今から始まる作戦が、エミリオの死に場所かもってことじゃんか……!

 

「中尉の言わんとすることもわかるが、現状の装備と配置に変更はない。対応できるか」

「してはみせます。ですが、ようやく軍歴三年の自分がいきなりっていうのがどうも」

「そうできる実力があると判断した。中尉の戦闘記録を一通り見たが、AEUで見たパイロットの中でも最上位に位置づけできる技量を持っている」

「……同郷の後輩のよしみとかそういうのではなく?」

「人事に私情を挟む私ではない」

 

 カティ・マネキン……中佐。今は中佐だが将来的には大佐になる。

 彼女の事はアニメ本編で知っているというだけでなく、AEUフィンランド領に生まれた人間としてもよく見聞きしている。今やフィンランドの産んだ英雄になろうかという女だから、家にいる俺の両親でもニュースで聞いたことぐらいはある。

 大学を卒業してからAEUにスカウトされるまでの僅かな期間で7つもの紛争を戦術予報のみで鎮圧に導き、入隊すれば軍学校を出たわけでもないのにいきなり佐官待遇。まさに天才そのものだ。

 そんな相手に高く見積もられているということに悪い気はしないが、今ここで出会ってしまったということが一番の問題なんだ。

 

「半分は中東部隊からの転戦、中隊長がレイヴォネン中尉ならばと納得する者も多いだろう。そういう事情を鑑みての配置だが?」

「……それは。そうでしょうね」

 

 ……納得できる言い分。俺が推されるのも仕方ないように思えてきた。

 しかし、これは逆にチャンスとも言えるのではないか。現場を指揮する立場に置いてくれるというなら、俺はエミリオの命を救うことだってできるかもしれない。

 だが、俺の目的のためには……本当にあの男を救ってしまっていいのだろうか。

 スメラギ・李・ノリエガが生まれない世界ができたとして、ソレスタルビーイングは本当に戦っていけるのだろうか。あの独創的な戦術の数々があればこそガンダムマイスターたちの力は最大限に発揮されてきた。

 それとも例えリーサがスカウトされずとも、同じような戦術予報士がプトレマイオスに乗り込み作戦立案を任されてソレスタルビーイングの任務は滞りなくこなされるのだろうか。

 俺がこの行動でもたらす影響など、ちっぽけなものでしかないのでは。それならエミリオを見捨てる事なんてない。

 だがもし、その歴史のほころびが徐々に大きくなっていけばどうなる?

 

「個人的には。同郷の働きぶりを期待している」

 

 マネキン中佐が微笑みかけた。

 

「……それには応えます」

 

 まだ……俺は迷っている。

 迷ってはいるが、戦場に迷いは持ちこまない主義だ。

 出るまでに決める。情が生かすか、非情で殺すか、俺の意思で。

 

 

 

 

 

 

「ユリウス君から話があるなんて珍しいですね」

「資料整理の最中に悪いとは思っているが……」

「聞きますよ。作戦のことについてなら、私はそっちの指揮官ではないけれど」

 

 決断にあたって、いろいろな事をリーサから聞く必要があると思った。故に俺はこうして無理を言ってリーサの部屋まで押しかけている。

 ……彼氏持ちなのに男を部屋に入れてくれるってのは信頼されてると取ってもいいんだろうか、あるいは普段の苦労(コーラサワー係)への同情からくる優しさだろうか……なんてことは今考えることじゃない。

 未来を知っているってだけじゃあ判断までには不十分なんだ。

 俺はこの世界で生きる者のナマの感情を聞きたい。声に乗ったナマモノを。

 

「もっと私的なことだよ」

「あなたが私的なことを聞いてくるだなんて、もっと珍しいですよ?」

「こっちの部隊のマネキン中佐とは昔に仲が良かったと聞いた。本当かい」

「え! 誰から聞いたの!?」

「エミリオ」

「あのおしゃべりさんめ……」

 

 リーサの表情が苦虫を嚙み潰したようなしかめっ面に変わった。

 ちなみにこれは嘘だ。所かまわずイチャつく奴はいいかげん隊の士気に関わるし、訳も分からずこってり絞られればいい。

 別に嫉妬からくるものはない。

 

「どう思っているのかと思って」

「そりゃ、卒論を見に来てくれたことはあるけど……仲が良かったというか、私が一方的に憧れてるだけで。追っかけるようにしてこうやってAEUに来たはいいけれど、影も踏めてない気がして」

 

 ぽつりぽつりと、漏らすようにリーサが言葉をつないでいく。

 ……憧れ、2ndseasonのいつだかでそんなふうな描写があったか。あれほどの実績を持つ才女と同じ時代で同じ道を歩むとなればそういう感情を抱くのに無理もない。

 

「でも今、こうやって同じ作戦を任されるっていうのは。なんだか、少しづつ追いついてるのかなって思えて……悪くないカンジ」

「……いいな」

「いいでしょ?」

 

 あくまで一部分だけだが、俺にも憧れる男がいる。考える頭はないと割り切って、力だけでああして生きていけるのは才能だ。羨ましいとも思う。

 まあそれ以外の問題が多すぎる人格だとも思っているが。

 

「ユリウス君とおしゃべりって何か新鮮ですよね。もういいのかな?」

「もうひとつだけ。エミリオとはどうなりたいんだ?」

「えっ、ど、どうって……! いきなり踏み込みすぎじゃない!? それ、今聞くの!?」

「今聞きたいんだ」

 

 ……質問の距離感がいきなり近まりすぎるってのは承知の上だ、だがもう次がないかもしれない今は、絶対ここで聞き出さなけりゃいけない。

 

「……どう、いう関係かって。その……じゃあエミリオには言わないでおいてくださいね」

「あいつと違って口は堅い方だ」

「それはわかってますけどね。うん……実際まだ付き合ってみて1年も経ってないし、あんまし将来のこととか考える段階でもないのかもしれない、けども」

 

 赤みを帯びた顔をうつむけさせて、リーサは絞り出すように言った。

 

「……結婚……とか、考えちゃってる。乙女チックでヤだけど、運命かもとか」

「運命とまでくるか」

「こういう職場で出会っちゃえばそうも思います。ユリウス君だってわかるでしょ? 裏表ないし、優しくて、愚痴だって文句言わずに聞いてくれるしさ……いいなって思っちゃうわよ」

「……ああ。いいよな」

 

 エミリオ・リビシって奴はいい男だ、優形ってだけじゃない芯と甲斐性を確かに感じる。その点に関して全く文句はない。

 きっとリーサが心の底から愛せる男だろう。

 ……だったら、俺の選択は。

 

「俺もあいつは推せる。男としてそう思える」

「そうなんですか? 日頃もっと大変な人のお世話してたユリウス君が言うなら安心かも」

「あいつは規格外だ。いろいろありがとう、面白かった」

「ちょ、ここまで話させておいてあなたの話はナシ? 何か話題があってもいいじゃない」

「……妹が25歳年上と結婚した話、する?」

「……ごめんなさい、やっぱりいいです」

 

 

 

 

 

 

『復唱する。今回の作戦目標は山岳部のAEU軍基地を人革軍から奪還することである』

 

 ヘリオンの通信機越しにマネキン中佐の作戦概要が聞こえてくる。

 ブリーフィングでとっくに聞いてはいることだが、それにしても大胆と言わざるを得ない。基地奪還をやるってのに基地には突入せず、平原部に通っているエネルギーラインを絶って敵モビルスーツの起動を未然に阻止しようとは。

 ……この作戦ならもしかすると、戦闘すら起こさずに作戦を終えられるかもしれない。

 だがそんなのは希望的観測にすぎない、現場はやることをやるだけだ。

 

『ヘリオン中隊は私の指揮に従い1300に平原部まで到達後、工作機を用い基地に繋がるエネルギーラインを寸断。1310に降伏を呼びかけ、投降した捕虜の受け入れは1410まで継続』

 

 中東での3度目の出撃で墜とされかけてから俺はひとつの戦いへの向き合い方を悟り、出撃の前には心の中で『戦場ではこうあれ』と自己暗示を行うことにしている。そのうちに、アニメだと思っていたこの世界との正しい向き合い方にも思えてきた。

 『俺は動物だ、動物は迷わない』。

 戦いを通してそういう厳しい現実に立ち向かう者になりきることで、実感を持ってこの世界を見つめられる人間になれると俺は確信している。

 エミリオのことにしても、そういうことだ。情に流されるとかではなく、現実を生きる同じ軍隊の人間ってのは、ああいう良い男の事を知ってて見殺しにはしない。

 敷かれたアスファルトを利用する賢しさ、草わらの中を進むような獣の力強さが……。

 俺の目的を果たすためには、きっと両方が必要なんだ。

 

『1415を以って施設制圧を開始する。ミッションプランは適時変更の余地があるため、状況報告のため暗号回線はオープンのまま保留。よろしいか』

「ズヴェーリア、了解」

 

 戦場では何も考えない、迷わない。作戦に従い、生きるためだけに戦う。

 だが俺はあの男を生かすだろう、それが甘さと言うならそれでもいい。

 

『定刻だ。各機出撃!』

 

 ――甘さもないのに、人間なんかやってられるか。


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