ガンダム00世界で留美やネーナやコーラサワーとイチャイチャしながら生きる 作:トン川キン児
国連軍との戦いから8日が過ぎ、戦いの終わりと、活動のいったんの休止を象徴する節目となるような催しが基地にてしめやかに為された。
冷凍保存されていたヨハン・トリニティの遺体と、そこにはいないミハエル・トリニティの宇宙葬である。
兵器を取り扱い、武力介入という戦闘行動を取る組織として、ソレスタルビーイングにはガンダムマイスターをはじめとした戦闘員の死亡時における葬儀のプロトコルも確かに存在している。
輸送船にて執り行われ、コロニーにて栽培された献花や生前の所持品などの副葬品が許可される。参列する者は全員ナノマシン染色にて黒色に染めたノーマルスーツを喪服代わりとして着用する。
「もったいないよ、いい男が死んだらさ……」
「……こんなのっていいの? 使い捨てるために作られて……」
「いいわけないっすよ……」
チームプトレマイオスとチームトリニティ、お互いわだかまりのある仲ではあったが、死者を悼む気持ちに垣根はなく、まして彼らの事情を知ってしまえば尚更だった。
ラッセとロックオンも、あるいはここにいたかもしれない。棺に入れられて――――。
そんなもしもが過るような沈痛な気持ちがクリス、フェルト、リヒティらクルーを包む。
「……昔はここまでやってなかったもんだ」
「ああ。少しでも華々しくやれて良かったってわけじゃねえがな……」
後ろにいる二人、イアンとモレノの会話に引っかかりを覚えたユリウスが口を挟む。
「"前"があったのか」
「…………あったよ」
「今となっちゃワシらしか知らん話だ。悪いが胸糞悪いんでな、墓まで持ってかせてもらう」
組織でも今や実働部隊としては古参中の古参とも言える二人、イアンとモレノが苦々しい表情で"前回"があったことを示唆する。
これらはかつて、立て続けにガンダムマイスターが命を落としたことによりヴェーダへの進言で設定された。万一後に同じようなことが起きれば、人間の感情を慮った処置が行えるように。
……イアンが一切口を割らないと断言するのであれば、ユリウスもそれ以上突っ込んだ話をしようとも思わなかった。
いずれにせよ、いま最もその心を労わってやらねばならないのは。
「……ネーナ」
「…………ん……」
ユリウスが肩を叩いて促した彼女。
最後に添えられる花束と手紙を両手に抱えた、ネーナ・トリニティ。
この場で唯一の、二人の肉親。妹である。
彼女の両隣にはリンダとユリウス、レイヴォネンの兄妹が孤独な彼女に寄り添うように立って、愛しい者の死を受け入れられるように、折れないように支えている。
ヨハンの棺となるカプセルに、最後の大きな花と手紙、そして輸送艦から持ち出したミハエルの私物である別のナイフをネーナが添えて、それは閉じられる。
「最後になるわ。ネーナちゃん」
「…………」
「何か言ってあげたいこと、ない?」
「…………手紙に、書いたから」
生きている間に言いたいことならたくさんあった。わがままも、好意も。
ちょっとウザいところだってあったけど、大好きで頼れる、どんなときも一緒だったにぃにぃズ。でも死んでしまったというだけで、これほどまでに言えることがなくなってしまうのか。手紙の他にも、もっと自分には言いたいことがあったと思っていたのに。
自分が薄情者にでもなってしまったようでやるせない感情が、身体を強張らせ、縮こまって、両腕に握ったネーナの拳に籠った。
だが、もう枯れるほど泣いたからか涙は堪えられた。
「開けるわ」
スメラギの合図でハッチが開いたコンテナから棺が徐々に飛び出て、外宇宙へと向かう方へと投棄される。
この世に遺ったヨハン・トリニティの身体との、今生の別れとなろう。
お葬式をやるんだと聞いた時点で、覚悟はしている。にぃにぃズは死んでしまって、これから生きていくには、自分は気持ちに区切りを付けなければいけないんだと。
……それでも。
「……ぃ……ッ……!!」
叫んで止まないネーナの心が、離れていく棺へと衝動的に手を伸ばして、床を跳んで"行かないで"と口をついて叫ばせようとした。
だが、生きている彼女まで棺に引っ張られて宇宙を漂おうとすることは、両隣の二人が許さなかった。
ユリウスが肩をぐっと引っ張って降ろし、リンダがそれを抱きしめた。
厳しい方と優しい方。どちらも行かせてはくれないんだとネーナが悟った時、その両方に対して、なぜだか自然と涙があふれた。
「……ぅ゛……! っぐ、すんっ……! ヨハにぃ……! ミハにぃ……ッ!!」
幾度流してもまだ足りない涙。
身体に力の入らないネーナを抱き留め、二人は何も言わずに、ネーナの感情のさざめきが止むのをその場で待ち続けた。
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「わざわざ参列してくれるとは思わなかったわ」
「これも組織の現状の一端です。エージェントとしてこの目で確かめねばと思いましたから」
美しい黒いドレスで着飾る留美の、スメラギへの返答。実際の所ただ単に時期が被っただけに過ぎないのだろうに、白々しくもよく言う……とスメラギは思う。
王留美と紅龍。二人は戦闘が収束したのを確認してから、ようやくこのラグランジュ3へと足を運んだ。いつの間にか回収していたトリニティの輸送艦に乗り込んで。
プトレマイオス同様、戦闘艦としては実力不足である輸送艦の域を出ない代物であるためその判断自体は正解ではあるが。
「聞いていた通り、ですのね」
「そう。これからは再起に専念しないといけないの、変わっていく世界を注視しながら」
チームプトレマイオスの一時解散、介入行動の休止を含めた今後の方針。それらは既に、スメラギから留美に伝わっている。
「多くの有力なスポンサーから連絡が途絶えてる現状、私たちの力になってくれるのは貴女くらいのもの。それでも、こんな現状の私たちに手を貸してくれるかしら?」
「勿論。世界に変革が促されないのであれば」
その答えを聞いて、ひとまず面には出さず安心するスメラギ。もはやほぼ唯一となったスポンサーの変革を望む意思は未だ固いだろう、と。
そしてここからは、
「それにしても。まさか独自にトリニティへ接触しているだなんて思いもしなかったわ」
「不信を招いたのならば申し訳ありません。どのような形であれ、彼らもイオリア・シュヘンベルグの理念に則っての行動を起こしているのかが気になったが故の独自の行動です」
ユリウス君との契約を利用して、彼らの情報と正体を聞き出したわけね――と、スメラギは事前に聞いている情報とのすり合わせを脳内で行う。
その目的を確かめるには。
「それで、チームトリニティにあの輸送艦を返すの?」
「そのつもりで参りましたわ」
「ネーナ・トリニティを残して壊滅してしまったチームだし、貴女の管理下にでも置いてしまったほうがよかったんじゃないかしら。それが十分できる立場でしょうし」
「そうは参りませんでしょう。いちスポンサーとはいえそれはエージェントとして出過ぎた真似です」
ユリウス君の言葉が嘘でないとは思い難いけど、社交界の主役とも言える彼女がこの程度で尻尾を出すようなこともないだろう……と悟るスメラギ。
こちらがトリニティや国連軍との戦いに終始している間の彼女の行動を整理しつつ読み解けば、彼女の望む世界の変革は、それが自分たち、チームプトレマイオスでよるものでなくてもいい。
ともすれば彼らトリニティとユリウスを取り込み、望む形の変革を自分の手で始動させるつもりでもいた。あの人まで手玉に取ろうなんて小娘の考えそうなこと……などと毒づきそうにもなる。
だというのならば、これから注視すべきことが一つ。
王留美は危うい。
そして、自分たちはこれからそれにその全てで寄りかからなければならない。
それなら暴きすぎるのもよくない。であれば、妥協点は……。
「そういうことなら預かります。貴重な残存戦力のひとつだから、遊ばせておけないもの」
「そうでしょうね」
「ただ、最低限の機能しかないあの艦じゃ改装は必要ね。それと強襲用コンテナも同じ、地上と宇宙を行き来できる機体にはステルス性の改善が欲しい」
「……何のためにでしょうか? 新型艦の生産計画は既にあったと思いますが」
「ガンダムを持ちながら偵察に特化したチームが必要だと思ったの。エージェントも次々に露見して、ヴェーダの使用にも制限を受ける私たちの目の届く範囲は狭まってる」
「それを、チームトリニティを原型としたものから作ると?」
「そういうこと。しかもそれは私たちが休止している間も稼働しなければならない。エージェントの統括が可能で、多くの工作に裏から手を回せる貴女に預けたいわ」
「…………」
「改装したトリニティの輸送艦と、強襲用コンテナ。擬似太陽炉を搭載したネフィリムと、マグナス・アルハンゲル。ま、こうなると形としては今までと同じようなものかもしれないけどね」
読み通りこの提案は訝しまれている。
公認された、ソレスタルビーイングの力の一端を手にするチャンス。望み通りのモノを差し出されるというのは"目論見には気づいている"と言われているのと同義にも取れるからだ。
だが……。
「わかりました、引き受けます。大任にも感じますが」
「ありがとう。任せるわね」
やはり引っかかってくれる。餌に食いつかずにはいられないから。
これで留美の機嫌を取りつつ、不穏な動きの監視が可能となる。
いずれにせよ彼は地上に降りたがっている。彼女に世界の現実と向き合わせるために。なら、これも丁度いいというもの。
……しかし。スメラギにとって、貸し与えるのが不本意なものもある。
「でもね」
「?」
「あまり
「……はあ……?」
私の
少し戸惑った様子の留美を尻目に、心の中でリーサはそう付け加えた。
・
・
・
「大丈夫? もう落ち着いた……?」
「……ごめん」
同じ頃。ユリウスはリンダと共に、ネーナと彼女に与えられた自室までつきっきりであった。
兄の死と向き合う大きな最後の節目を迎えたのだから、どれほど精神に負担がかかるのかなどわかったものじゃない。だから、労わってやりたかった。
……それにしても、
これもやはり、この世界に地に足を付けて生きるからこそ見られる光景。
「"ありがとう"だ。悪いことは何もないだろ」
しいて言えば、自罰的になられすぎても困る。最近まで自分もそんな具合だったかもしれないが。
そういう風になりすぎて、自分の心を持ち崩すな。そういう意味を込めてのネーナへの言葉だったが……。
「お兄ちゃん、言い方キツいわよ?」
「え」
「自分のせいだなんて思いすぎるなってことはわかるけど、もっとこう……なんかない?」
「……いや……ごめん、でもさ……」
「お兄ちゃん?」
「……はい……」
……久々にリンダからガチの駄目出しを喰らって、逆に凹まされるのであった。
「……く……ッ」
気持ちが沈んでいても、自分より凹んでる奴を見るとおかしくなってしまうのも人間というもので、未だに悲しみに顔が引きつりながらもネーナはその光景に思わず笑いが漏れた。
「……何笑ってんだよ……」
「……アンタって、ホントは弟とかじゃない?」
「はあ!? オイ……!」
「……ッふ……! そ、そう。実は私がお姉さんでした~。うふふ!」
「お前なあ……!!」
いい大人なおじさんの癖にムキになる姿にも、どんどん可笑しみがこみ上げてくる。
今までユリウス・レイヴォネンの厳めしい面しか見えてこなかったネーナにとって、年を食ったガチガチの生き方をする男というわけではなく、こういう滑稽な面もある人間なのだなと少しだけ親近感が沸いた。
「ふふ……!」
「……はァ……」
ため息をついたユリウスだが、目の前でようやく笑顔を見せたネーナを見て、自分の弱さの一つや二つでこれが見られるならまだいい方かと思い直す。
自分がラグランジュ3に戻ってから、リンダの尽力のお陰でどうにかこうにかネーナは部屋の外に出て日常生活を自分で行えるくらいの落ち着きを取り戻してはいたが、それにしても元気がある状態とは言えなかった。
しかし、そろそろ本題に入らなければいけないのも事実である。
「……刹那からの伝言、考えたのか」
刹那からネーナへの言伝は、ユリウスの口から既に伝えてある。
"戦う以外の道もある"。
破壊者は、自分たちだけで充分だ。
お前にはこの戦いから降りる資格がある。
造られて、戦わされて、殺される。そんな役目を押し付けられただけにすぎないお前には。
刹那にとってネーナが、ある意味かつての自分を重ねて見ることができる存在だというなら、そういう意味の込められた言葉に間違いないだろう。
「無理でしょ」
だがネーナは、表情を強張らせてそんな言葉を一蹴する。
「自分が何してきたかぐらい、わかってるよ。リンダさんもアンタも、優しいのは嬉しいけど」
知らなかった、それが許されるのだと信じ込まされていただけだと言うには、取り返しのつかないことが多すぎる。
世界を変えるガンダムマイスターという特別な人間。心を守っていたその殻が破れてしまった今となっては、今までしてきたことを全部、自分の心で受け止めなければならない。
正直に言って、これほどまでに急激に自分の見てきた世界が変わってしまって、未だに呑み込めていない部分もネーナにはある。だが……。
「こんなバカなあたしを許してただ見てろって、無理でしょ……」
自分の愚かさが許せない。
今度こそ本当に世界のために戦わないと、一生この気持ちを抱えたまま生きていかなければならない。
もっとも、世界と計画の行く末次第では、その機会とてもしかすれば既に永久に失われているのかもしれないとは聞いているが……。
「……許せないことだってあるんだよ」
楽しみながら自分の兄を奪った男にも、この手で引導を渡してやりたい。
俯いて手のひらを開き見つめると、あの時確かにべったりと付いていた兄の血を今でも幻視してしまう。握りこぶしをぎゅっと締めれば憎しみが心で渦を巻く。
ロックオン・ストラトスが彼を仕留めたのかもしれないが、相打ちとなったその片割れが生きているのだから、仇の方も今でも生きていたっておかしくはない。
自分たちみたいな人間を造り出すような歪んだ世界がまだ続いていくのであれば、そんなものだってぶっ壊してやりたい。
ネーナ・トリニティには、戦う理由が確かにある。
「ネーナちゃん……」
「アンタだって、この人を殺されて黙ってられる?」
無理だ。当然だろう。
心配するリンダの方へと、変わらず俯きながら横目でネーナが視線を向けてそう言ったことで、ユリウスには彼女が何が言いたいのか伝わった。
ネーナの決意は固い。戒めと憎しみを支えにして立ち上がろうとしている。
元々自分が生き残ること、舐めた者たちに痛い目を遭わせること、幸せになることを全てとして生きていくはずだった彼女は、そもそも存外にタフな少女なのかもしれない。
「あたし、何すればいい?」
「…………」
「アンタに守ってもらう。ヨハにぃの言った通りに。だから」
すっく、と腰かけていたベッドから立ち上がったネーナが、立ち姿のユリウスと対峙して見上げる。
「あたしの思ってることを叶えて」
かっ開かれたネーナの瞳孔が、ユリウスの眼を捉えて離さない。
「……俺は恐らく、王留美と地上に降りることになると思う。手筈がうまくいけばだけどな」
「何しに?」
「偵察部隊としてしばらく動くだろうな。数年ぐらいは」
「……それで?」
「俺と一緒に世界を見ろ。知っているだけで見たことがないことも、どう変わっていくか、それとも変わらないのかも」
……リンダも口を挟めない緊迫した空気が流れ、しばらく後にネーナが応えた。
「よろしく。おじさん」
「……おじさんはできればやめてくれ」
勢いよくベッドに腰かけて、緊張の糸を解くネーナ。
聞きたかったことと聞き捨てならなかったことがいっぺんに襲ってきて、ユリウスはそう抗議するしかなかった。
「おじさんだもんねぇ、10代の子からしたら。ね、私もおばさん?」
「リンダさんはお姉ちゃんでしょ」
「……なんでだよ……」
場の空気を和らげようとするリンダにそう言ってのけて、ネーナはこちらに向けて舌を出し挑発する。
多数決でおじさんとならざるを得なくなったユリウスは、三十路のキツさというのはこういうところにあるんだろうなと実感し始めた……。
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