ガンダム00世界で留美やネーナやコーラサワーとイチャイチャしながら生きる   作:トン川キン児

53 / 81
心の秘め物

「最近……」

「うん?」

「呑んでなくないか? そりゃ、いい酒はなくなっちゃったけどさ」

 

 ある晩の、ユリウスの私室での二人の会話。

 ラグランジュ3に移ったきり、ユリウスはスメラギが酒の一滴も嗜んでいるところを見たことがないことに気づいた。あれからひと月以上も経ち、あれほど溺れていたのに。

 他によくスメラギを目にしているクルーたちにもそんな場面を見かけていないか事前に聞いてみたが、言われてみればまるで見ていないと皆が口をそろえて言う。

 とっておきの奴らはトレミーと一緒に沈んでしまっているが、元々スメラギの飲み方は安酒でも遠慮するタイプではない。

 流石に不自然だと思った次第で、つい問い質してしまう。

 

「うーん……なんか……気分じゃなくなったっていうか」

気分じゃないぃ!?!?

「そ、そんな驚くことないじゃない。断酒ぐらい……」

驚くだろ!! あんなペースで呑んでた奴が!!

 

 あまりにもサラッと言ってのけるので、ユリウスも素っ頓狂な声を上げずにいられなかった。

 どこからどう見ても一部の隙なくアルコール依存症であった彼女が、こうもあっさりと酒を止められるなどと、余程の理由がない限りそんなことがあるわけがない。

 むしろ今の状況なら、もっと逃避を深めるものかと思うくらいのものだというのに。

 

「じゃあこれも……いいの!? せっかく譲ってもらったってのに」

「ん~、ちょっとパス」

「マジかよ……」

 

 補給も望み通りの物が来るとは言い難い中で、無理を言って知己の職員に譲ってもらったボトルだったが、今のスメラギは心動かないようだった。

 完全にアテが外れて、今日はどうしたものかといったユリウスに、スメラギが語る。

 

「自分でもなんとなく見当ついてるの」

「? 何が」

()()()()()が変わったからじゃない?」

 

 そう言って、座ったままスメラギが屈んで上目遣いに指差す方向にあるのは、紛れもなく自分(ユリウス)

 …………数秒固まったのちに、()()()が言わんとする所はユリウスにも伝わる。しかし。

 

「そんなことで……なんとかなるもんか?」

「なってるじゃない」

「……そうだけど……」

「めでたいでしょ? 実に健康的よ。祝福して欲しいぐらい」

 

 冗談めかしてそう言ってみせるスメラギ。

 離脱症状だの何だのと、医学には疎いもののそういった依存を抜け出す妨げは数多いはずだが、少なくとも今の彼女はそれらがなくともまるでケロっとしている。

 少し前には考えられないような姿である。それが、自分のおかげだと彼女は嘯く。

 

「リーサが色々乗り越えたからじゃないのか」

「それだって、私だけで乗り越えたわけじゃないでしょ?」

 

 デスクチェアから自分が座っているベッドへ移り、密着する左隣へと陣取ったリーサ。

 

「それとも呑んでる私が好き? 強襲用コンテナの改装はもうじき済むって、聞いてる?」

「聞いてるよ」

 

 これからのユリウスの地上での足となる、改装型の強襲用コンテナ。

 プトレマイオスクルーを載せて脱出に成功した強襲用コンテナは被弾することなく戦闘を終えており修復の手間がなく、元々GNアームズType-Dを内蔵していたドッキングベイを、もう1機分のMS係留用設備へと仕様変更する。

 その動力源となるスローネアインとドライの太陽炉も、オリジナルの太陽炉同様に毒性除去装置を取り付ける。それだけの作業ならば、ふた月と少しでも済むということだった。

 その完成は、マグナス・アルハンゲルが、王留美やネーナ・トリニティと共に地球へ降りて活動を開始する準備が整うということを意味する。

 

「そしたらしばらくお別れだもの、また呑んでるかもしれないわよ」

 

 言い終えた後に、腿に肘をついていたユリウスの左手へとその右手をそっと添える。

 

「誓いを立ててくれるつもりなら、早めにね」

 

 そう言いながら上から指を絡めて、()()()()()をさすって弄んでくる。

 ……その言葉と行動が意味するところ。それは……。

 

「…………だ、誰から聞いた……?」

「ミレイナちゃんから」

「バカじじい……!! 」

 

 イアン・ヴァスティを今まで呼んだ中で、最も汚い言葉がユリウスの口をついて出た。

 結婚を考えているなんて事を話しているのは今のところイアンしかおらず、ミレイナはその身内。彼女から聞けたというなら、子供と侮って伯父さんが結婚するんだなどと言いふらしたに違いない。

 シェリリンとかの落ち着きがある子ならばともかく、恋に恋するような年頃の女の子であるミレイナにそれを言って秘密にできるわけがないだろう、という当たり前のことにも思い当たらなかったであろう相変わらずの親バカっぷりに落胆する。

 

「戦術予報士をナメないことよ」

「……肝に銘じておきます」

 

 ユリウスの唇に右手の人差し指の腹をちょい、と押し付けるスメラギ。

 ……続いた言葉で、自分で調べをつけた可能性もあるのではとユリウスは一瞬思った。

 いずれにせよもはや露見した経緯はどうでもよくなった。既に考えは漏れているのだから。

 

「……とにかくさ……」

「うん?」

「依存とか言いたくないな、俺は。お互い頑張った成果って事にしないか」

 

 "依存先が変わった"だけでは、どうにも否定的だし、この先また変わるということもある。

 ユリウスは、それでは嫌だと思う。

 お互いに良い関係でありたい。お互いにずっと求める者でありたい。

 そして男として、他にも酒にも二度と彼女を渡したくはない。

 これが欲であり、男と産まれた性なのだろうな、とユリウス自身も自覚はある。

 

「ほんと前向きね」

「いいことだろ?」

「それじゃ、私も……」

 

 二人の距離が縮まる。()()()の両手が、背の高いユリウスのうなじに下から這うようにして回り込む。

 

「前向きになれるように、今夜もよろしく」

「……好きなだけ付き合うよ」

 

 マグナスはユリウスに、スメラギはリーサに。

 男と女、ふたりっきりの夜がまた更けていく……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アンタってさぁ」

「ん?」

「そのヒゲ面、自分で整えないの?」

 

 カットクロスに巻かれてリンダに仕上げの顔剃りをしてもらうユリウスに、ネーナからの辛辣な一言。

 わざわざリンダの手を煩わせていることが気に入らない様子に見えるが、随分と自分の妹は彼女に気に入られたものだな、とユリウスは思う。

 リンダなので当たり前だが、とも。

 

「やってもらえるうちはやってもらいたい、っつうか……」

「ダメ男?」

「……いや……まあ……いいだろ別に……

「叔父さんはミレイナと同じくらい甘えんぼですぅ」

「ほらほら! 姪っ子に言われてやんの」

 

 下手な自分がやるとよく顔を切るのが嫌で、妹がいるならつい任せてしまう。

 兄妹のコミュニケーションの場になっている節もあるし、一人でやらないことが格好の悪いことだと思ったこともなかったが、他人から見ればそんな風に見えるものなのだろうか、とネーナとミレイナの言説を聞いてユリウスは思ってしまう。

 ネーナの方は特に深い考えもなく、普段の仕返しのつもりなのだろうが。

 

「いいのよ~。してあげたくてやってるの」

「搾取じゃん搾取」

「しつこいなァ……」

 

 リンダがいいんだと宥めてみても、いじり倒すことをやめないネーナ。

 このぐらいの年頃の少女にしてみれば、もうすでに30代のおじさんなどというのはどれほどくそみそに言ってもいいような扱いなのだろうが、それにしてもユリウスからすればキツい。

 

「お前だって兄貴たちに……」

 

 髪ぐらいいじって貰ったことないのかよ、と口をついて出そうになったところを、はっとして止めた。

 

「え?」

「い、いや。何でも」

 

 思い出すには、逆に辛くなるネーナの記憶を呼び起こすかもしれなかった言葉。

 長い付き合いになるかもしれない。言っていいことといけないこととを分別しなけりゃならないのは、自分もだろうとユリウスは思い直した。

 

「はい。どう?」

「おお……結構さっぱりだな」

「こっちの方がすっきりしてイケメンですぅ!」

 

 カットクロスが外されて、身嗜みを整え終わったユリウスの姿がお目見えになる。

 普段なら肩の辺りまでで済むのが耳の辺りまで切りそろえられていて、少し切りすぎではと思わないでもなかったが、これから地上に留まる期間によってはあまり会えないと思うと妥当なのだろうかと思うユリウスだった。

 姪のミレイナに面を褒められて満更でもないことだし、これからはもう少し興味がないなりに色々気を付けてみようかと思ったのち、ネーナを見やると。

 

「……ふ~ん……」

「何だよ」

「ツラはいいよね、けっこー。おじさんの割に」

「だろ? 姪にもウケたし」

「は? すぐ調子乗るじゃん」

 

 値踏みするようにジロジロと無遠慮な視線を向けてきて、褒めてるのかけなしてるのかわからないようなネーナのコメント。

 そんなお褒めに預かったところに乗っかってみれば、すぐに梯子を外されるのだった。

 

「トリニティさんは叔父さんはタイプと外れてますですか?」

「デカすぎゴツすぎ歳食いすぎ。あたしにはちょっとね~」

 

 好きにデカく産まれたかったわけじゃねえよ……とでも言い返したくなる、ミレイナからのインタビューへのネーナの回答であった。

 

「でも叔父さんのことタイプな方もいますし。スメラギさんと結婚するんですぅ!」

「結婚ん? ………………ぅえぇ!?

「ちょっと!! またそうやって……ダメでしょ! ミレイナ!」

「あ!! …………ご、ごめんなさいですぅ……」

 

 突然に打ち込まれた爆弾発言。額を抑えて天を仰ぐユリウス、叱りつけるリンダ、自分の口軽さを後悔するミレイナ。

 だがそれらよりも、ここに至るまでそれらの兆しさえも何ら知ることがなかったネーナの驚きようの方が感情の動きの振れ幅として勝った。

 

「あ……アンタって、そんな甲斐性あるんだ……」

「あるよ! ほっとけ」

「……へえぇ……ふ~~~~ん……」

 

 スメラギ本人を含めこれで2度目ということで、前よりもきつめのお叱りが続く母娘を尻目にネーナは信じがたい事実の確認をユリウスに取る。

 "知り合いに家族ができる"などという事象がそもそも初めてとなるネーナ。そこには得も言われぬ感情が生まれてどうにも処理しきれずにいる、が。

 

「……なんか、まあ、いいんじゃないの。おじさんとおばさん同士お似合いで」

「誉め言葉として受け取るぞ」

「……勝手にすれば」

 

 こういうものは祝福されるべきものだということぐらいは、ネーナにもわかる。はねっ返りの彼女なりのユリウスへの祝辞。

 それを素直に受け取ろうとするユリウスを見て、そのモヤモヤした感情はさらに膨らんで、感じが悪いとはわかっていても突き放すようにそう言った。

 この感情は何だ。何故にこんな気持ちになるのか。

 最近で負の方向に繰り返してしまっていたがために徐々に得意になってきた自己分析で、ネーナはひとつその気持ちに思い当たった。

 

(あたしのこと守るって言ってるくせに、浮かれてんだ)

 

 ずっと守っていくって、ヨハ兄ぃと約束したくせに、守んなきゃいけないものが増えてる。

 本当にあたしを守ってくれるの? あたしだけを守ってくれないの?

 ――――あたしにはアンタだけなのに、アンタにはあたしだけじゃない。

 

「お兄ちゃんにもいろいろあるの。拗ねないであげて、ね?」

 

 そういう気持ちも、この人は見透かしてしまう。

 さっきまで(ミレイナ)を叱りつけていた時までの圧迫感は霧散しており、また元のおっとりとして包み込むような雰囲気に戻ったリンダがネーナにそう語りかける。

 …………余談ではあるが、元凶となったイアンの絞られっぷりは娘に向けるそれの比ではなかった。

 

「……わかってるから」

 

 右手で頬杖をついてそっぽを向きながら、渋々にそう答えたネーナ。

 ふふっ、と笑って、大丈夫そうだと思ったのか、リンダはユリウスと話し始める。

 

「コンテナの改修、終わってるわ。明日には発つの?」

「地上の情報は要るよ。ここでずっとダラダラしちゃいられない」

「また寂しくなるね」

「ここが見つからんとも限らないんだ、宇宙(そら)も気を付けてな」

「アーデさんもいてくれるし、きっと大丈夫」

 

 地上での情報収集部隊としてのチームトリニティの再始動。それは、既にすぐ明日にまで迫っていた。

 

 王商会の息のかかった人間を中心としたエージェントの再配置、それを束ねる王留美。

 威力偵察等が必要になった場合に応じて、実働部隊としてのガンダム2機とマイスター2名。

 マグナス・アルハンゲルのネフィリムと、ネーナ・トリニティのガンダムスローネドライを、強襲用コンテナ改「リィアン」に積載して運用する。

 それらが本隊であるチームプトレマイオスの指揮官、戦術予報士のスメラギ・李・ノリエガの要求する情報をできるかぎり高い確度で収集する。

 擬似太陽炉を持ち出す都合上、現在進行している計画のひとつであるツインドライヴのテスト機が形になった際にはテストを行うために一度宇宙へと帰還する必要も出てくるだろうが、リィアンにかかれば大気圏脱出も容易なものである。

 そして当然、擬似太陽炉を失うわけにはいかない都合上、交戦は最低限のものに留めるよう厳命されている。

 

 だからと言っても、今となっては命の危険は常に付きまとうような身分である。

 いつものように気遣い、いつものように宥められる。それが、心を落ち着けるために必要なことだと兄妹お互いが知っている。

 

「ママ……」

 

 しかし、ここには娘もいる。

 叱りつけて落ち込んでしまってもいるし、不安がらせるようではいけないと努めて明るく振る舞おうとするリンダは、話題を切り返そうと試みた。

 

「でも……そうね。もう少ししたらお兄ちゃんもようやく家族が増えるんだ」

「ま、そうなるよな」

「私と比べたら遅すぎるくらいよ? ふふ……」

「お前は早すぎだよ! お陰で追い付くのに10年かかった」

「じゃあ、スメラギさんはミレイナの()()()()ですぅ!」

「……やめとけよ、それ本人の前で言うのは……」

 

 兄と、妹と、姪。家族3人仲睦まじく。

 明るくなったその部屋の雰囲気の中で、ネーナにはすぐ近くにあるそれが、ひどく遠くに行ってしまったものに感じられた。

 理由は明白である。自分がもう失った形がそこにあるからだ。

 

(幸せって、()()なんだろな)

 

 叶うならもう一度、自分もあの頃の()()を取り戻したい。

 だけど、もうあの頃には戻れない。知ってしまった事、失ってしまった物が多すぎるから。

 ネーナは自分の欲を抑え込もうと試みる。求めてはいけない物だから。

 

 だが、人間ひとり。抑えきれない欲とて必ずそこにある。

 

 ――――あたしだけのアンタでいて欲しい。守ると言ってくれたなら。

 それを自覚できるのは、もっと先の話だった。




CBS-70-001/2 強襲用コンテナ改「リィアン」

 後部のGNアームズドッキングベイをMS係留用設備へと換装し、2機分の収容が可能となる改装を施された強襲用コンテナ。外見の変化もカラーリングがスローネドライのものに合わせた暗めの赤基調のものに変わった程度で、武装に至っては大型GNキャノン2門、GNビームガン2門、GNミサイル発射装置8基が据え置きである。
 しかし、動力源は変わらず収容するガンダムのGNドライヴからの粒子供給であるため、主に収容するネフィリムとスローネドライの太陽炉が擬似太陽炉であることから、大きく粒子残量を消費する大型GNキャノン2門の使用には制限がかかる。

強襲用コンテナの型番いくら調べても出て来なかったのでGNアームズのと併せてトレミーの付属品ならこんな感じやろってことで適当です

面白いと思っていただけたらお気に入り・高評価・感想・ここすき等よろしくお願いします
励みになります
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。