ガンダム00世界で留美やネーナやコーラサワーとイチャイチャしながら生きる   作:トン川キン児

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聖霊の差配

――――ふざけんなッ!!

 

 ――――指輪のはまった左手は、銃を手に取ることを拒んだ。

 横っ叩いて拳銃を地面へはじき飛ばす。暴発のリスクなど勘定することもなく。

 ルイス・ハレヴィは激昂する。ネーナの与えたその選択肢に。

 

「……ふざけないでよ……!! なんで、なんで私が、そんなことすんの!」

「……あんた、私を恨んでるでしょ……?」

「撃てるわけないじゃん!! こんなっ、急に……!! 警察でも軍にでも行ってよ!! ……つ、罪がどうとか……謝りたいんならさあっ!!

 

 叩きつけるように喚き散らすルイス。そして、その叫びは全く以てその通りである。

 罪を償いたいというのなら、然るべき所へ行けばいい。少なくとも、当事者たる者が直接手を汚してまで裁きを下したいと望んでいないのならば。

 確かであると思いながら、そしてそれはこうなることを知っていながらも見過ごした自分も同罪であると知りながらも。

 "そうなる未来を知っていたと言われても訳が分からないと突っぱねられるのがオチだ"と黙っていることが、どれほど卑劣であるかをわかっていながらも。

 ユリウスにはそうするつもりも、させるつもりも毛頭なかった。

 世界は、まだ変わりきれていないことを知ってしまっているから。

 

私は違うのっ!! あんたと違うの!! ソレスタルビーイングみたいな、人殺しとなんか!!

 

 自分まで罪を背負った者になりたくない。重い物を背負いたくない。平和に生きてきた人間として、当然の感性である。

 ……だが、現実から目をそむける行為は時に無自覚な悪意となる。

 いずれ彼女と連れ添う者が対峙することになる言葉だが、今は場違いであるが故に、ユリウスもそれを言わずにただ黙っていた。

 

「……なんで、わざわざ、また……!!」

 

 絞り出すような声と共に、その場へルイスが泣き崩れる。

 

「……そっとしといてよ……! 私の事、考えるんならさ……!」

 

 完全にその通りである。

 ……それでも、ユリウスはネーナをルイスの前に連れて来るしかなかったし、連れて来るべきだとも考えた。

 未だ幼いその思考で償うには何をすべきかと考え至ったネーナが、これを望んだから。

 謝って謝りきれることではないと、わかっていながらも。

 これから先のネーナが二度と過ちを繰り返さないために、この経験が必要だと思ったから。

 ルイスにとってこれがどれほど残酷な仕打ちか、わかっていながらも。

 

……ごめん……ごめんなさい……ごめんなさい……

「泣かれたって……泣いたってどうしろっての……? パパとママは、涙も流せなかった……!」

 

 堪え切れずに謝罪の言葉と同時に溢れた、俯くネーナの涙をルイスは罵る。

 

「帰ってよ……」

「でも……あたし……!」

「帰ってよ。自己満足よ、こんなの……苦しいなら、ずっと苦しめばいいじゃん……」

 

 全く以てその通りである。

 この行為は自己満足でしかない。他人の傷口を開いて自分を慰めたいだけの卑劣な行為と言われたとしても、何ら言い訳ができない。

 わかっていながらネーナを連れて来た。戦えるようにするために必要だから。

 苦しみを背負ってずっと生きていくしかないのだと、実感として得るために。

 

「……貴方は……なんなんですか。連れて来ただけなんですか」

「……はい」

「……二度と顔を見せないでください。二人とも」

「……わかりました」

「……私、好きな人いるんです。あの人と生きてくの。もう……邪魔しないで」

 

 ……その言葉で、ようやくユリウスは気付いた。

 ルイス・ハレヴィの左手の薬指には、指輪がある。

 自分の知るところでは、はめられなくなったと言って突き返した指輪のはずだった。つまり、その指輪がはまる腕は、義手ではなく生身のものである。

 失った腕が、異なっている。

 

「……そう、ですか」

 

 このような些細なことでさえ、運命は異なってきている。

 ルイス・ハレヴィは、家族の仇を討たなかった。

 復讐に懸けるよりも、隣にいる者を想って生きていく道を選べた。

 これからもそうだとは限らないが、もう一つ。異なってきた運命によって変えられるものがある。

 

「うちの医師からハレヴィさんには伝言が」

「……私に?」

「ご病気が治るよう差配をしておいたとのことです。俺には何がなんだかですが、病院に戻ればそれをやってくれるだろうと」

 

 根治までとはいかずとも、ロックオンとラッセに施したものと同じように圧縮粒子による細胞障害の進行を格段に抑え、通常の生活を支障なく送れるほどにもでき、しかも再生治療施設の充実した病院であればどこでも可能となる治療法を知っている人物が未だ生きている。

 JB・モレノは、自身が纏めた圧縮GN粒子の毒性の詳細及びその治療法を知る限りの範囲でかき集めたデータファイルを入れた記憶媒体をユリウスに託した。

 自分の"ジョイス・モレノ"の名義で国境なき医師団(MSF)時代の旧知の仲の医師にリークさせるつもりで。

 ルイス・ハレヴィというただ一人の患者のために。

 自ら曰くところ、MSFにいた奴の中で自分の名を知らない医療従事者はいないとまで言う。その中には、彼女が入院する大病院で働く医師も当然いた。

 ユリウスは、その医師へとすでに記憶媒体を渡してある。ヴェーダによる干渉を避けるため、必ずネットに繋がれていないスタンドアローンのコンピュータで読み取れ、という釘を刺しておいて。

 

 ……ルイス・ハレヴィのこれから辿る道が決定的に違ってくるのは、病状の治療の過程に間違いない。そう睨んだユリウスが、地球に降りる前にモレノ医師に頼み込んだ結果である。

 このような我儘な提案をそれで多くの人が以後も救われるだろう、と実行に移せるあたり、彼は、真に医師の鑑だと思わされる。

 

「……怪しいとは思いますが、試すだけ試されてみてくれませんか」

「か、考えておきます……」

 

 リボンズ・アルマークから細胞障害の治療薬()()()()か、あるいは偽って渡されていた薬がルイスの思考を変え、肉体を変え、人生を変えてしまったという線は強い。

 であれば、先回りをしてしまえば彼女を戦いから遠ざけられるかもしれない。

 罪滅ぼしにもならないのは承知の上だが、ユリウスとしてもやれることをやっておきたかった。

 ……当然、これらの行いにも"ヴェーダによる改竄を受けなければ"という枕詞が付いてしまうのが、ヴェーダという存在を掌握されてしまっていることがいかに自分たちの生命線を握られているかという話になってしまうが。

 

 踵を返し、ネーナの肩を叩いて帰路に付くことを促す。

 俯いて顔を真っ赤に腫らし、涙を零れさせながらもネーナはルイスに背を向ける。

 

「待ってよ」

 

 その矢先に、ルイスが呼び止めた。

 

「名前も言わないで帰るんだ。謝りに来たのに」

 

 名も知らない仇である、赤髪の少女に向けてルイスは咎めるように言う。

 足を止めたネーナはどうしていいかわからず、ユリウスの顔を見上げる。

 ユリウスはただ目を合わせるだけだった。

 故に、したいようしてもいいと判断してネーナは振り返り、歩き出して離れた距離の分声を張って、名乗る。

 

「ネーナ。……トリニティ」

「……そう。じゃあ、消えてよ」

 

 聞きたくもないはずの仇の名前を尋ねた、自分の心境がルイス自身にもわからなかった。

 だが、聞きたいことは聞いた、さっさといなくなれ。そう吐き捨てるような、ルイスの言葉に背中を突き飛ばされるようにして。

 路端に停められた電気自動車(エレカ)に乗って、ルイスを残して二人は去っていった。

 

「……謝って謝り切れないこともある」

「……うん……」

「償いたくたって償わせてくれないことだってある」

「…………」

「だからって謝らなくていいってわけじゃないよな」

「……う゛ん……ッ」

「ちゃんとやれたんだ。偉いよ、お前は」

 

 後部座席に横たわってすすり泣くネーナに、運転席から努めて優しく言葉をかけるユリウス。

 自分の行いが産んだ悲惨な結果を、こうも真っ正面から受け止めようとできる人間がどれだけいるか。

 

「変われるよ、お前も……」

 

 ネーナは変わっていく。今までとは違う自分を望むのだから。

 ならば自分は、ネーナの望むことを助けるだけだろう……。

 

 時は西暦2309年を刻む。

 冬の日本の街に、年に数日のみ降りしきる雪が積もり始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ルイス……?」

 

 "1時間経ったらここに迎えに来て"と、番地と目印となる建物の画像を添えたメッセージを受けて辿り着いた歩道の上に、送り主である彼女が立ち尽くしているのを沙慈・クロスロードは見た。

 寒い雪の日で、もう晩方になるというのに病院から抜け出して身体に障るようなことをして。意地悪をされる覚えはなかったはずだが……。

 

「どうしたの? こんなとこで…………!?」

 

 その背から声をかけ、回り込んだ先に見たのは、愛する者の涙だった。

 義手となった右手が抑え込むその左手に胸へ抱え込むようにして握っているのは、見たこともない形状の物だったが、ともすれば銃に見えた。

 そんなものを握りしめて、ルイスが泣いている。

 彼女の可愛い悪戯、などで済んだような状況ではないことはもう見てとれる。

 

「何が、あったの……」

 

 沙慈の腕に肩を抱かれて、ルイスはぽつり、ぽつりとすすり泣きながらに語り始めた。

 

「……私ねっ……仇、取れなかった……パパと、ママの……」

「仇って……! やっぱり、それ……」

「怒られちゃうよね、私……!! なんで撃たなかったの、って……!!」

 

 ルイスの家族の仇。ソレスタルビーイング。彼らがここにいた? ルイスと会った? 抱えているのはやはり銃?どこからそれを?

 言葉が要領を得ない。混乱する。

 ……しかし、どれほど戸惑っていても、そんな細々した事情を聞くよりも。

 沙慈・クロスロードは、何よりも自分より深く戸惑っているルイス・ハレヴィのために、彼女のためだけの言葉を探していた。

 

「……お父さんとお母さんは……違うよ、そんなの」

「だって……」

「仇を討つことよりも、ルイスが幸せになることを望んでるんだ」

 

 後ろから抱きしめる沙慈の言葉と体温とが、凝り固まって冷たくなろうとしていたルイスの心を溶かしていく。

 死んだ者の胸中ばかりは、慮っても答えなど出ない。だが、そうであってほしいと慰めることはできるし、その優しさを受け取ることもできる。

 

「こんなの、そのうち埋めよう。忘れてもいいんだよ」

 

 握る力が弱まって解けた銃を、沙慈は取り上げて鞄の中にしまいこむ。そして、こんなものは必要ないんだと諭す。

 

「……幸せに……してくれる?」

 

 ……ルイスの言葉に、口づけが返される。

 

「必ずする」

 

 力強く言い切る男の胸に、ルイスは涙に濡れた顔をうずめて拭った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 国連軍との決戦からちょうど3カ月ほどとなり、ソレスタルビーイング再始動に向けたラグランジュ3の秘密基地での活動も同じ程の時間が経つ。

 最低限の自衛に必要となるであろう既存戦力を整え終えて、いよいよ新戦力となる技術の研究に取り掛かる場面……と行きたいところではあったが、何分物資が足りずにそれらも滞るという予想が立っている状態。

 加えて、ラグランジュ1に国連の手が回る前での基地探査が空振りに終わっているのも痛手だった。

 

「フェレシュテが私たちより先に動いていてくれたのは、ありがたいことだけど……」

「こうも動きが嚙み合わんとは。やっぱ、ワシらとの合流を目指すべきだろうなぁ」

「向こうには私の患者もいるからな」

 

 スメラギとイアン、そしてモレノの会話。

 地球に最も近いラグランジュ点であるあの地点は危険も多いが、利便性も高い。それ故本来ならば数多くの物資が多くの基地に存在するはずだったが、ティエリアのアストレアⅡによる先行調査ではほとんどの基地がもぬけの殻になっていたとの報告が上がった。

 破壊やハッキングの痕跡も残っていないとなれば、正規の認証で基地から物資を持ち出したという結論に至る。それはつまり、組織に属する存在だからこそ何の苦も無く立ち入れたということ。

 あの地点で同時期に活動をしていたはずのソレスタルビーイングに関連する組織と言うと、今のところ判明しているのはフェレシュテ以外にない。

 であれば、入れ違いのような形で限られた物資を取り合ってしまった形になる。

 

 これまでのソレスタルビーイングの方針は、内外を区別しない完全なる秘密主義。故にこうなってしまった現状でチーム間の連携が取れないことは、以降の活動で命取りとなる。

 入れ違いがあったにせよなかったにせよ、いずれにしても0ガンダムとキュリオス、2基の太陽炉を預けていることも鑑みれば早急な合流・統合は今後必要不可欠となるだろう、と3者の中でも合意があった。

 

「本題のB13エリアでの交戦の件だけど、敵のデータ照合は?」

「ほとんど丸パクリだ、信じられん。細部に至るまで完全に流出してやがる」

 

 数日前のラグランジュ3で、組織の再建宣言後に初めての交戦が発生した。

 ティエリアの乗るガンダムアストレアⅡと、謎の擬似太陽炉搭載型3機。ミッションプランは通常通りの物資回収のはずであったが、何らかの目的で宙域を捜索していた敵と偶発的に戦闘へ突入し、これを全て撃破。

 問題になるのは、敵の擬似太陽炉搭載型の機体。

 空間投影型ディスプレイでイアンによる機体照合データが映し出されると、そこには3機のガンダムがある。第2世代ガンダムであるアストレアの改造型と見られる、黒いアストレア。

 そしてその他の2機は確かに、深紅に染められたガンダムエクシアとデュナメスの機影であった。

 

後発薬(ジェネリック)と同じだ、つまりこいつが出て来たってことはだ……」

「ガンダムの情報は間違いなく漏れていて、敵が利用している」

 

 モレノの例えにスメラギが被せる。

 国連軍にはラグランジュ1におけるソレスタルビーイングの基地の所在位置も概ね漏れていて、GNドライヴをはじめとした技術も多数流出しているのは間違いない。

 であれば、今まで運用していたガンダムのデータも同様に敵の手に渡っていたとしてもおかしくはない可能性もある。それだけならば、このガンダムが現れたことにも違和感はないのかもしれない、が。

 

「不自然です、これは」

「どう不自然なんだ?」

「擬似太陽炉搭載型の二次生産分が完成したのだとしても、国連軍にはラグランジュ3に真っ先にアタリをつける理由はないはず。ラグランジュ1と同じように情報が漏れてるとすればその点はクリアできるけど」

 

 スメラギが()()を、3機のガンダムを指差して。

 

「何よりも()()が不自然」

「なんでだよ。丸コピは腹立つがワシらの自信作だぞ」

「そ、そういうことじゃないんですよ……」

 

 イアンの方は"国連軍がこちらの方がより優れていると判断したのだから、あの量産型よりこっちを使うのが当然なんだろ"と、自身の成果物の優位性を信じて疑わないからこその意見を持っているが故の発言だろう。

 話はそういう問題ではないのに、とスメラギはそれを遮る。

 

「国連は私たちを世界の敵に定めたのだから、私たちの関与をできるだけ隠したいはず。だからこそあの量産機をわざわざ作ったし、その外見にも気を配っている。だとするなら、これはあまりにもあからさますぎると思いませんか?」

「……確かにそうだ……」

 

 ソレスタルビーイングを倒すために、ソレスタルビーイングの力を借りている。それが公になれば、武力介入の開始からの世界の一連の流れが国連によるマッチポンプとも取られかねない。

 故に、このガンダム3機を国連軍が運用しているとは考えづらい。

 何故なら、その姿はあまりにも()()()()そのままだから。

 ソレスタルビーイングとしての色を拭うこともせず、トリニティの活動もあって今や恐怖の象徴となった()()()()を、あまりにも残しすぎる外見。こんなものを表立って使えるとは到底思えない。

 それでも流出データから試作された技術試験機か何かとするなら、あるいは特殊部隊が運用する公には出ることのない機体だとするならば辻褄は合う。

 だが、それだけとはどうにも考えにくい自分がスメラギの中にいた。

 

「なら……ミス・スメラギは、これをどう考えるんだ」

「地上に降りたトリニティからのこれからの報告も合わせて、結論を出します」

 

 ユリウスら新生チームトリニティにスメラギから与えられた最初のミッションは、各地の戦場を巡回し地上における擬似太陽炉搭載型の出現、及びその行動を観測すること。

 これによるデータが集まれば、この機体の正体の判断材料が完全に集まる。

 恐らくは現時点での推測通りになる。スメラギには確信めいた何かがあった。

 

「つまりは……」

「……また待ちか。どうにもならんこととはいえな」

「……一度動き出してしまうと、止まっていることが不安に思いますよね」

「んだなぁ」

 

 またも停滞が始まる。

 ここ3カ月間、再始動に向けた取り組みは凡そ進歩がないと言っていい。

 此度の交戦でラグランジュ3にも敵が監視の目を光らせている可能性があるとわかれば、物資回収のミッションも慎重にならざるを得ず、所要時間がどうしても長くなる。

 新戦力にしても輸送の事を考えれば何よりもプトレマイオス2の完成が急がれる場面だが、造船の手間はMSのそれと比較してもさらなる時間と資源を要する。

 撓みのような感覚を、誰もが感じざるを得なかった。

 

「……そういえばだが」

「え?」

「ミス・スメラギは着ないのか。これ」

 

 そう言ってイアンは、自身の制服の襟を掴んで見せる。

 胸元の緑のダイヤマークが特徴的な、ソレスタルビーイングの制服。それは隣にいるモレノも同様に白衣の下に着用しているが、同席している3人の中でスメラギだけはそれを着ていない。

 

 発端はネーナの着る服がこの制服に変わったことである。

 これまでノーマルスーツを除くと誰もが思い思いの私服を着用していて、それが特に咎められることもなく横行していたがために存在が知られておらず、ネーナを見て"こんなのあったんだ"と気づくメンバーが多く現れた。

 すると誰が言い出しっぺとなったのかは定かでないが、苦境にあるソレスタルビーイングの中で結束を高めるために制服を着用しての活動を始めよう、という動きが大きくなり、気づけばメンバーの大半が制服を着るようになっている。

 ここ3ヶ月における、ソレスタルビーイングにとっての数少ない変化の一つと言えるだろう。

 理系分野であるにも関わらず、やや体育会系のノリを宿すイアンとモレノの古参二人もこれに乗っかる形である。

 その問いに関して、スメラギは……。

 

「あ、ああ……着ようと思ったんですけど、こないだ貰ったのが、その」

「ん?」

「キツくて……ですね。ウエストが」

 

 ……ウエスト周りのサイズがどうも合わない物を貰ってしまった、と赤裸々に語るのであった。

 

「え! あ、ああ……こりゃ失敬。いや悪かったホントにすまん」

「セクハラでいいですか!? 言いますよリンダさんに」

 

 こんなこと言わせて、と言うスメラギと自分から言っといてそりゃなくないか、と思いもするイアン。

 ……二人をよそに、モレノは今の答えに対して別の考えを巡らせていた。

 

「…………酒、止めたんだっけかね。ミス・スメラギは」

「え? あ、はい。まあ、気分じゃなくなったので」

「ウエストだけですか、キツく感じたのは」

「え、ええ。まあ、ちょっと上も……」

「疲労感とかどこかの痛みが激しくなるとか、あるかな」

「その辺ってまあ、酔ってた頃はだいたいありましたし……今も残るようなことかなって……」

 

 スメラギはモレノからの質問に違和感を覚える。

 これは、()()ではないのか?

 

「……あの、何か疑ってらっしゃるんですか……?」

 

 額に手を当てて考えつつ、モレノはスメラギからの問いに答える。

 

「……ちょっと検査したいことがある。hCG値と黄体反応を確認したいし、念のため腹部エコーも……確実だからな……」

「は、はあ……?」

「明日0900にメディカルルームに来てくれ……マジなら大変だぞ……」

 

 ……医学には詳しくないスメラギも、目の前で自分の身体に関してぶつぶつと思索を巡らせ始めたモレノ医師を見れば、いよいよ自分の身体をアルコールでいじめ倒してきたツケを払う時が来たのだろうか、と顔を青ざめながら覚悟するしかなかった。

 せっかく断酒も成功しつつあるのに、過去というものはどうしてこうも付かず離れずに背中を追ってくるものか、と久々に呑みたい気分がぶり返し始めて来る。

 

 

 

 

 

 ――――その結果が出たのち。

 スメラギは驚きと共に()()()から酒を断った己の判断を全力で褒めちぎり、不在の神にこの偶然の巡り合わせへ感謝したいほどの安堵を味わった。




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