ガンダム00世界で留美やネーナやコーラサワーとイチャイチャしながら生きる   作:トン川キン児

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登壇

「追い付かれるか……」

 

 離陸・発進から数十秒で悟る。敵の方が速い。

 乗機であるからこそユリウスには判る。この速度は恐らく増槽を付けて出撃してきているからこそ出せる速度、そのような物を付けて長距離巡行覚悟で出てくるのは、目的が最初からはっきりしているからだ。

 つまり、こちらの所在は敵に割れていた。

 どのようにして? 可能性は2・3は思いつくが、そんなことを考えている余裕はない。

 

「俺が出る! ここは頼む」

「らーじゃ!」

 

 リィアンをネーナに任せ、すぐさま迎撃する判断をつけたユリウス。

 改良を受けたGNドライヴ[T]に搭載されたトランザムで振り切るという手もなくもなかったが、擬似太陽炉搭載型はトランザムが終わればからっけつ。最終手段とすべき方法である。

 相手は単騎。対応もまだ容易い方だと思える。

 

 ……問題は中身。

 相手がこちらの機体を複製して使えることはよく理解できた。ならば、長距離巡行を必要とするミッションにはテールユニットもあるキュリオスを使えばいい。

 4機のガンダムに対して、ドライヴの緊急避難用の機体にしかすぎないネフィリムをわざわざ引っ張り出してそいつで戦いたいというなら、敵のパイロットはよほどの物好きになる。

 そういうことをやりそうな敵の物好きに、ひとり大きな心当りがある。

 そいつが相手だというなら、一筋縄には行かない……。

 

「…………」

「揺れるからお嬢様を席につけろ。悪いがあんたは立ち見だ」

「承知の上です。さあ……」

 

 愕然とした様子の留美。あれ程陰の実力者を気取ってみせても所詮は小娘、やはり本物の鉄火場を前にすればこうもなる様子である。

 だが今は構ってやっている余裕が無いし、揺れに足を取られて頭を打って死なれでもしたら()()も目じゃないほどしょうもない死に様になる。

 銃座に付いて援護することなど期待していないが、とりあえず席が空いているからそこに座らせろとユリウスは紅龍に言い、紅龍もそれを了解する。

 

「お嬢様。……留美」

「……ッ……」

「……お前の招いた結果でもある。早く……」

黙りなさい!!

 

 ……機内に留美の怒号が響き渡り、ネーナとユリウスが同時に振り返る。

 そこに見えるのは、実の兄へと拳銃を突きつける妹の姿だった。

 

「は……!?」

「ちょ、あんた……!」

私が招いた!? 貴方の招いたことでしょ!? 私の世界がこう見えるようになったのは、望みもしなかった当主にされたのは誰のせい!?

「……父上が私を選んでくれてさえいれば、そんな思いはさせずに……」

違うでしょう!? 貴方の無能がそうさせたのよ!!

 

 ユリウスとネーナという他人の前である、という外面すら取り繕えず当たり散らす留美。二人は突然の激発に絶句するのみである。

 その声は震えていて、その震えは銃口にも伝わっている。まともに狙えはしないだろう。

 加えて達人の体捌きを持つ紅龍からすれば、これほど近くに銃口を向けられていても何の脅威にもならない。並の成人女性一人程度ならば即座に制圧できる距離にいる。

 

貴方なんかに何も言われたくない!! 人生をやり直そうと願って何が悪いの!? 自分で考えることもしない、流されるまま生きるだけの愚図で腑抜けで能無しにッ!!

 

 だが紅龍は身じろぎ一つしない。自責の念がそうさせる。

 激情に駆られて放たれる思いつく限りの罵倒を受け止め、それが限界に達した時放たれるであろう弾丸も、ともすればそうしようとしている。

 例えそれが、とんだ的外れだとしても。

 

「ちょ……ちょっと、あんた! 何なの急に、今そういう場合じゃないでしょ!?」

『ウルセーヨ! ウルセーヨ!』

「あっち行って! 今大事な話なんだから!」

『ワァァァ~~~~…………』

 

 ……だが、外野はそうは行かない。

 ただでさえ良いとは言い難い状況の中で、こんな面倒な騒ぎを抱えていたくない。ネーナも思いは同じところだった。

 同じように兄を持っていた人間としても、その言い様は目に余る物であったというのも加わる。

 

「後でやってよ、こんなの! つか、兄ちゃんでしょアンタの。なんつう口利いて……」

何がわかるというの!? 家族も自分も全部作り物の貴女がッ!! 入って来ないで!!

「…………な…………ッ…………!!」

 

 もはや見境なく言葉で傷を抉り出す留美のその一刺しが聞こえて、ネーナはわなわなと震えるしかなかった。

 ――――そして、この場にいるもう一人がようやくこの状況に口を出す。

 

「……お嬢様よォ」

 

 聞く者が聞けば、その呼び方にどれほどの怒気が篭っているかは察せられるような低く響くユリウスの声。

 しかし、頭に血が上り切った留美はそれすらも察せない。

 

「貴方が吹き込んだのよね、兄としてどうしろとか。毎度何のつもりのお節介焼きかしら!?」

「撃つのか、そいつで」

「は?」

「撃つのかって聞いてんだよ、兄貴をよ」

 

 いつもと様子が違うユリウスの応対。この時点でようやく、留美はユリウスの怒りに気づく。

 だが、それがどうしたと言わんばかりに続ける。冷静に聞けば強がり半分であることは察せられる口ぶりだが、それを取り繕うことすらしない。

 

「撃つわよ。身辺警護の役割程度いくらでも代えが効くのよ。名前も棄てて兄ですらない、ただの使用人。私に引っ付いて自分の心を慰めたいだけのクズ!!」

「…………」

「私の変革のために捧げ物になって贖罪できるなら満足でしょ!? ……ああ。貴方もそうなのかしらね? 愛しい妹にやましいところでもあって――――」

「わかったよ」

 

 (リンダ)を勘ぐることも許さないと言わんばかりに、ユリウスは話を打ち切った。

 そして、決断した行動に移る。

 

「な――――ッッッ!?!?」

 

 ――――ずんっと前に踏み出し、銃を紅龍から向け直す暇もなく留美のどてっ腹にユリウスの前蹴りが沈む。

 倍近い体重差でまともに受けたそれに、留美の身体は風前の紙くずのように吹き飛び、彼女が座るはずだった席へと叩きつけられる。

 当然、それだけの衝撃に晒されて銃を握ったままでいられるはずがない。

 

「……ッッ!! げほッ!! ぅ゛ぇ゛ッ……!! か、は……!!」

 

 ネーナも、紅龍も、あまりに唐突で動くことすらできなかった。

 留美が取り落とした銃を拾い上げ、ユリウスは横向きに倒れ伏しえづく留美に狙いを定めて――――。

 

「なっ、何をする!!」

 

 紅龍の制止もよそに、1発、2発、3発と。

 彼女からも弾痕がよく見えるよう、頭近くに正確な射撃を行った。

 紅龍に取り押さえられ引き剥がされていくユリウス。留美はしかし、そちらに意識を向けることなく、"ひゅっ"と息を短く吸ったのちからその弾痕に目が離せない。

 意識は全て、ばくばくと打ち鳴らす心臓の音に。死の恐怖に向けられていた。

 

貴方は!!

 

 銃を手から離し、抑えつけながらも抵抗をしないことに気づいた紅龍は、ユリウスを自分と正対させ、壁に叩きつけてその胸倉を掴んで怒りを露わにする。

 曲がりなりにも信を置いていた人間が、妹を足蹴にして銃弾をくれてやった。彼女を守る存在としてその怒りは当然の物である。

 しかし、襟を持ち上げられてそれを見下すユリウスの眼と、続く言葉は冷たいままだった。

 

「よくやったよ。兄貴になって言うべきこと言ったんだろ。アンタは凄い」

「何を……!」

「でもなぁ。悪いけどな。もうそういう段階じゃなかったんだよ、一線超えたよこいつは」

 

 ユリウスが左手で指差す方の這いつくばる留美へ、紅龍はユリウスから目線を切ってそちらに向けてしまう。

 

「言ったよな、こいつの招いた結果って。こいつ、売ったろ? 俺らを」

「……それは、そうです……! しかし」

「いやっ……え!? そうって、アンタらさぁ!」

 

 何もかもが起こりすぎて半ば静止していたネーナも、それを明かした一言で急激に動き出した。そんなことがあり得ていいのか、と。

 リィアンの位置が敵に割れた可能性で、ユリウスが考えていたことのひとつ。留美が、イノベイターたちへと接近したいがために手土産としてこちらの情報を売り払ったということ。

 これほど早くに接触があったのだろうか、と半信半疑でもあった。が、最初に聞こえた言葉からしてもしやと考え、紅龍の反応からしてそれは事実だと確信した。

 そしてその事実は、留美という人間がどういう女かをよく知らしめる。

 

「変革のために周りを傷つけてんのは俺らも同じだよ。そこにはゴタゴタ言えねえさ」

「だったら……!」

「けどな、てめえの変革とやらのためなら兄貴も撃てるっつったんだぞ。だったらな、言い聞かせるだけでどうにかなるようなクソガキじゃねえんだよ」

「だからと言って、彼女を傷つけるのは……!」

「やるよ。ソレスタルビーイングってそういうもんだよなぁ?」

 

 世界に変革を促す。痛みを伴わせてでも。

 裏を返せば、痛みなくして世界の変革はない。

 痛みの伴わぬ変革などない。ならば、自身の変革を望むこの小娘に足りないものとは?

 

「言ったよな、俺は前に。わかったら、どいてろ」

 

 "俺がアンタの代わりにやることをやる"。

 "死ぬような目に遭う前に、叱るでもぶん殴るでもなんでも"。

 ある時ユリウスは確かにそう言い、紅龍もそれを覚えている。

 

 自分は妹に手を上げられない。いつか誓ったことを考えれば、上げられるような立場にいない。

 私欲のために他人の命すら使い捨てる。それが血を分けた者であっても。

 妹はユリウスとネーナが死んでもかまわないと思っていたからこそ条件を呑んだし、真偽はともかくとしても、自分に銃を向け捧げ物になれとまでも言い切った。

 その心は歪み切っている。歪みは正されなければならない。

 自分が正せないのならば、正せる者に託すべきである。

 

 …………己自身も、そう思えるからこそ。

 紅龍はユリウスの襟元を掴む手を放して、それからユリウスがやろうとする事を黙って見ていた。

 

「な、なんで……? お兄様!?」

 

 自分への負い目が絶対的な庇護者にさせていたはずの紅龍が、信じられない行動を取る。自分の目の前で、命を奪おうとまでした下手人の男を解放する。

 ありえない。

 なぜ。

 貴方は私の全てを肯定しなければならない人間のはず。

 目まぐるしい状況への困惑、裏切られたという疑い、迫ってくるその男への恐怖。

 それらすべてをごちゃまぜに目まぐるしく廻る思考に飲まれて、留美は自分がどれ程紅龍という兄に寄りかかっていたのかもまだ自覚することはなかった。

 そして、状況はそんな思考が落ち着いてくるのを待ってはくれない。

 

「立てよ」

「ひ……っ」

 

 拾い上げた銃を手に取り、突きつけるユリウスに思わず恐怖から声を漏らす。留美自身でも聞いたことがない、口に出したこともないような引きつった情けない声が。

 背にした椅子を伝わせて、力の入らない足をどうにか使ってようやく立ち上がる。

 言う通りにしなければ殺されるかもしれない。原初の恐怖は今や留美を完全に支配していた。

 

「行け」

「え……どこへ……?」

「ネフィリムまで行けよ」

 

 襟首を掴まれ、開いたドアの向こうの通路へと投げ飛ばされるように向かわされる。

 後ろを振り返った時に、そこにいる紅龍に救いを求めるように目を合わせようとしても、彼は顔を伏せ立ち竦んだままこちらを向こうとしない。

 私は、見捨てられている。

 完全にそう確信した一瞬で、表情が絶望に染まろうとしても、銃口を向けてこちらへと歩み来るユリウスがそれさえ許さない。

 

「な、なぜ……? 貴方の機体、よね……?」

 

 怖い。何を意図してのことなのか解らない。怖い。

 それのみが心を支配している留美は、続く言葉も理解することができなかった。

 

「戦ってこその変革なんだろ。だったら、お前もよく見るんだな」

「は? え……?」

「特等席を用意してやるってこったよ」

 

 訳が分からない。しかし彼は歩み寄ってくる。ならば、歩くしかない。

 人間の出入りを感知しなくなったコントロールルームの扉がオートで閉じて、ユリウスと留美を完全に隔離する。

 それはまるで、死刑宣告かのようにさえ今の留美には感じられた。

 

 扉が閉じる前に見えた、ネーナ・トリニティが心配そうに振り返って覗く目が、なぜだか留美にはひどく心に焼き付いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ネフィリムはいける。コンテナを開けてくれ』

「りょ、了解……あのさ、おじょ……」

 

 そのすぐ後。ごたごたに揉めている間にも依然として迫っている敵に対応しなければならない事に変わりはなく、ネーナもユリウスはそのためにネフィリムのある格納庫へ行ったのだと思った。当初の予定通りに。

 機体の発進準備を済ませ、ネーナにハッチの解放とドッキングベイの接続解除を促すユリウス。

 だが、その座席内のモニターにとんでもない者を見つけてネーナは言葉を続けられなかった。

 

……ちょ……乗ってんのォ!?

 

 ネフィリムは複座の機体。

 その後部座席に乗せられているのは、紛れもなく留美であった。

 

「何!?」

『気にするな。必要な事だ』

「どういう……あ~もういい! 開いてるから出たら!?」

『おうさ』

『ネフィリム、ハッシン! ネフィリム、ハッシン!』

 

 その光景に驚愕の声を上げる紅龍と、もはや匙を投げたネーナ。

 後部ハッチが開かれ、飛行形態のネフィリムは空へと放り出される。橙色のGN粒子を放ち、慣性を緩和し斥力を生んで飛翔する。

 

「…………っ、く……!!」

 

 舞台へと上がる覚悟持てる者と、無き者を等しく乗せて。




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