ガンダム00世界で留美やネーナやコーラサワーとイチャイチャしながら生きる   作:トン川キン児

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薄明の光

「やはり待っている……ナメやがって」

 

 当初の軌道予測ならばとっくに追い付かれているはずの時間を、先程のひと悶着で失っている。

 だというのに交戦距離に入ってきた敵が仕掛けて来ないというのは、やはりこの後ろに座っているお嬢様の先程吐いた事が真なのだろう、とユリウスは理解する。

 

『予備のメットぐらいはやる。そっちにはベルトもあるから締めろ』

『は、はい……』

『出る前にこれだけは吐け。敵の目的は何だ、そいつがわかれば動きも読める』

『……"実験"と仰って……貴方がたとやりたいことがあると。それ以外には、何も……』

『その返礼が敵との関係ってわけか』

 

 銃口を突きつけながら先に後部座席へと着かせた際に、留美の語った真相。

 "実験"。詳しいところは知る由もないようだが、そのためにリィアンのルートを敵へと提供し、見返りに協力関係を築き上げた……その推理に対して、留美は俯いたまま無言で頷く。

 

『どういう奴らだ?』

『……まだ詳しくは……イノベイター、と。それだけは名乗っています』

 

 その名詞をここで捕まえられただけでも、随分と進展があったと思わされるユリウス。

 やはりこの状況も、ラグランジュ3での複製機もイノベイターの差し金。

 

『こういう言い方好きじゃないが、思い知ってもらう』

『……思い知る……?』

『俺たちがやる、高みの見物じゃない戦いってヤツをだ』

 

 戦いとは、生の命のやり取りとは、どれほどの物かその眼に見せつける。

 正直な所、この荒療治が正しい対処なのかなどユリウスには判らない。

 当人の語り口から察するところ抑圧的だった留美の父親である先代のように、こうあるべきだ、ということを押し付けているにすぎず、ともすれば彼女のトラウマをほじくり返すような残酷な行為である可能性も大いにあるだろう。

 だがこの状況下では、彼女の歪みは準備期間などなく、もうこの場で正されなければならないと思えた。

 妹が兄に手をかけかねないところまで来て、しかもこの状況はこの戦いの結果次第では逃げ切れたとしても当分続く可能性もある。

 向こうは自分たちをどれほどまで追い詰めるつもりなのかは知らないが、ここで彼女を止めなければ逃避行の足を引っ張るような事態をまた起こすことなど目に見えている。

 

 …………あれだけ恨まれ役を買って出てやっている兄貴を前にして、どうしてあれだけ言えるのかという腹立たしさが含まれていたことは、否定しない。

 そして、ユリウス自身、不謹慎ながらも留美の自業自得の事態がこちらとしてはこのような好機に転じるとは思ってもみなかった。

 

 そして話は今へと移る。

 今やらなければならないことは、何を置いても生き残る事。そうしてあがく様を身を以って感じ、何を想うかまではもはや彼女自身に任せるしかない。

 そのために相手を分析する。

 相手は、"実験"と称した事柄によって送られてきた何者か。

 相手は、わざわざネフィリムを選んで来るような何者か。

 相手は、こちらが出るまで待ってくれているような何者か。

 相手は、先程からよく知っている"嫌な感覚"を送ってくる何者か。

 

 ユリウスの中で、既に凡そ答えは出ている。

 

「あの野郎だろうがなぁ……!」

 

 操縦桿を握りしめる両手に力が入る。

 留美の驚きようからして、どうやら予定と違うことを起こしたようでもある。

 そういう事をやる"イノベイター"。それは、ユリウスの知る限りではパスレル・メイラントを置いて他にいない。

 自分があの爆発で大した傷を負うこともなかった。奴が生きていたって何の不思議もない。

 そちらから出向いてくれたというのならやることはひとつ。今度こそ墓場に送ってやろう。

 

「行けよ!」

 

 既にGNロングライフルの射程。狙いを付けて、一射。

 牽制射のつもりではあるが、MS形態となってこちらへ前進する紅いネフィリムへと直撃を狙っての一発。しかし、それは躱される。

 

「……なんだ……!?」

 

 その()()()にユリウスは違和感を感じ、2射、3射、4射と続けていく。

 やはり同じように躱す。

 だが、それはパスレルのような大きな避け方ではない。

 肩部や脚部等、被弾が予測されるポイントを部位ごとに器用にずらし、隙間を縫うように正面への加速度を減らすことなく躱してくるそれは、洗練されていて相手の卓越した技量をありありと感じさせる。

 洗練されすぎている。

 あの女に"卓越した技量"と呼べるものなどありはしない。これは、わちゃわちゃやって適当にその場しのぎを通し続けて最終的に勝っているような女のやることではない。

 

(誰だ、コイツ!?)

 

 敵は、パシーではない。

 そう結論付けるしかない。だが。

 

「そ、そんな簡単に近づかれて……!!」

くっあ!
くっあ!
くっあ!

 

 不安げにそう漏らす留美をよそに、近接距離に近づかれたことへの対応を急ぐユリウス。

 GNビームサーベルを抜き払えば、敵もそうしている。上段斬りが来ると()()()

 振りかかるそれを同じサーベルで防ぎ、圧縮粒子ビーム同士が干渉してばちばちと火花を上げ鍔迫り合う。

 相手に速度が乗っていてこちらが受け身な分、圧し負けるのは決まっている。それよりも、今この瞬間に()()()()()のは。

 

(違う! こいつはパシーだ! し、しかし……!)

 

 海面へとはじき出されるユリウスのネフィリムに、深紅のネフィリムが容赦なくGNロングライフルの光柱を浴びせ続ける。どの射撃も今までに見たことがないほど正確で、体勢を崩しつつでは避けるので精一杯である。

 その力が、本能が、相手はパスレル・メイラントだと理解する。

 その現実が、理性が、相手はパスレル・メイラントではないと否定する。

 戸惑いは、しかし一流のパイロットであるユリウスの動きを鈍らせはしない。だが、異なる結論をはじき出す自分自身が分からなくなる。

 

『何よあんた! 押されてんじゃないのよ!』

 

 ネフィリムを射出してから周囲を旋回していたリィアンが、救援に入るべきだと判断したネーナの操縦で突撃する。

 小型GNビームガンを連射して弾幕を形成、ユリウスのネフィリムから深紅のネフィリムを引きはがすが、深紅のネフィリムは乱入者に向けて即座に応戦する。

 右手に保持したままのロングライフルが5度火を噴き、その全てが高速で通過して離れているはずのリィアンを直撃する。

 

『……狙い、良すぎでしょ……!?』

 

 直撃コースを察知して事前にGNフィールドを展開しておかなければ、既に墜ちていてもおかしくない高精度の狙撃だった。

 常日頃からユリウスという高水準のパイロットとの練兵を行っているからこそ、ネーナも察せるようになっている。

 敵は、凄腕である。ユリウスを超えるほどにも。

 紅龍に操縦を任せ、ここからスローネドライを出して3対1を仕掛けたとしても、自分は殺される。今の自分で敵う要素など、ひとつもない。

 顔が引きつり、ユリウスへと判断を求める。

 

『こいつヤバいんだけど! どうすんの!?』

「わかってんだよ!」

 

 大きく敵を動かしたのを契機に攻めに転じたユリウス。しかし、斬りかかろうとも狙い撃とうとも、それらは全ていなされる。

 それどころか、どちらにしても少しでも無理に攻めて間合いを測り損ねれば手痛い反撃を与えられるよう徹底的にリスクを回避されていて、付け入る隙がまるで無い。

 同じ能力を持つ者同士、あちらの動きが読めたところで、こちらの動きも読まれている。であれば、問題は経験と鍛錬に裏打ちされた対応の精度。

 それが、完璧に負けている。

 

「読まれる……! 考えも……!」

 

 ユリウスは悟る。このままでは勝てない。

 この敵は、強すぎる。今までにやり合ったどんな敵よりも。

 

(トランザムを切りゃ、なんとかなるかもしれんが……!)

 

 切り札は確かに存在する。しかし、見立ての上ではそれですら勝ち切れるかどうか怪しい。

 時間制限付きの出力増加は、裏を返せば時間制限の間に勝負を決め切ることを強いられる。ほとんどのパイロットにトランザムを凌ぎきる術はないが、目の前のこいつには、少なくともギリギリいっぱいの間まで機体を戦闘に堪え得るレベルまでもたせることができるだろうと思える。

 だが、こちらから攻撃しないならば話は変わってくる。

 どれほど実力があろうと、純然たるスペックの差、トランザムを起動した際の最高速度自体はどうやっても敵が勝りようがない。敵は長距離用ブースターも既に切り離している。

 逃げることは、できる。

 

(こいつが、そんな隙をくれるのか!?)

 

 問題は、逃げに転じるだけの隙を作れるかどうか。

 現に、そう考えた瞬間相手はさらに激しくこちらを攻め立てる。逃がすつもりはないとでも言いたげに。

 粒子ビームで幾度も海面がしぶきを上げて爆ぜ、幾度となくサーベル同士が切り結ぶ。

 

 そして、猛攻に晒されているのは何もユリウス一人だけではない。

 

(押されている。どうして。貴方は、強いんじゃないの?)

 

 ベルトで固定された身体を、自ら抱きかかえるようにして恐怖に震える留美。機体が揺れる度に、びくっと身体も敏感に反応する。

 思い知ってもらうと偉そうに言っておきながら、この様はいったいなんなのか。手を抜いてわざとそうさせているなんてとても思えない。

 

(やられる。墜ちる。殺される……殺される、殺される!

 

 このまま状況が変わらなければ。自分は、この機体と、この男と一緒にここで死ぬ。

 そんなのは御免だ。絶対に嫌だ。なんとかしてほしい。誰かに。

 だがもう、誰もアテにできない。

 ネーナ・トリニティは自分が嫌いだ。アテになるはずがない。

 お兄様は自分を見捨てた。もう頼れない。

 自分を救えるのは、自分以外の他にない。

 では今、ここで何をすべきであるか。最善の行動とは?

 

私が、敵を、殺す……!!

 

 そのためにはどうすればいいか。それは今この場で可能であるか。不可能だとしたら次善策は何か。

 やることさえ決まったのなら、答えはすぐに弾き出せた。

 ――――王留美は、限界まで追い詰められてもなお、その血筋が作り上げた天才であった。

 

FCSをこちらに渡しなさい!!

「は!? え……何!?」

射撃管制をこちらによこせと言ってるんです!! できますね!?

「な……いきなり何言って」

 

 後部座席のお荷物が何を言いだすのか、と思ったのも束の間。

 この状況下のそれは、アリではないかとユリウスは思わされた。

 もしも、この少女の考えていることが自分と同じであれば。それは、賭けではあるが……。

 

「……5sec(セコンド)後に一斉射だ。いいな!」

了解!

「ネーナ! 俺を拾って逃げる! トランザム始動用意!」

『らーじゃ! お兄さん、操縦任せるよ!?』

『わ、わかった……!』

 

 通信を入れたと同時に、こちらの動きを察知した敵は回避運動の準備に入り始める。

 ……しかし、一瞬。敵の動きは、戸惑う。

 これまで必ず一つの予想で動いていたのに対して、()()()()()()が急に現れたが故に。

 敵は、読み違えた。

 

(二つの思考を同時にぶつけりゃ、そこは空く!)

 

 ライフルの射撃を回避しようとした所に、GNマルチミサイルに装填された弾頭のひとつ、粒子攪乱膜封入弾3発の煙幕をまともに喰らう。

 煙に巻かれた深紅のネフィリムはこちらを見失うが、ユリウスはリィアンを見失わない。合流は示し合わせている。

 既に開いてある状態のハッチからガイドレーザーが放たれ、ネフィリムと同期。着艦の速度がやや手荒で汚くリグに負担がかかるが、そんな事を言っていられる状態ではない。

 

「ネーナ!」

『はいはい! トランザム!

 

 艦の操舵を任せ、素早くスローネドライに搭乗したネーナがその擬似太陽炉でトランザムを始動。それに接続しているリィアンも、同様にトランザムへと移行する。

 圧倒的な速度で、深紅のネフィリムはあっという間に戦域に取り残される。

 左手に常に保持していたサーベルも出力を下げてしまい込む。敵としてもこの場での戦いは、ひとまず終わりだと判断したのだった。

 

 

 

 

 

「……はぁ……」

「…………ふぅぅぅ……」

 

 緊張の糸が切れて、大きく息を吐く音がネフィリムのコクピットの前後から漏れた。

 最後のあの手がなければ、今頃どうなっていたかも知れない。そして、それは。

 

「……お嬢様……あんた、よくあんなことを思いつくな」

 

 戦いの経験などないはずの、留美からもたらされたものであるという事実が今でもユリウスには信じがたかった。

 土壇場であのような打開策を出せるのは、この機体を熟知している人間にしかできないことである。まして、後席への操縦系統の譲渡ができるかどうかなど、知っていなければ提案しようがない。

 

「"考えを読まれる"と仰るなら、別の思考を用意すればいいと思いまして。今やわたくし共の手の者が地上での整備にも関わっている以上、同様にこの機体の仕様は熟知しております」

 

 たったそれだけのヒントで、実行してみせる。

 外したメットから覗く顔に少なくない量の冷や汗を垂らしながらもさらりと言ってのけるその留美の様は、本当に実戦の経験がないのかと疑いたくなるほどであった。

 

「……私は貴方のほうに驚きました。何を押されているのですか、貴方ほどの腕利きが」

「それは……返す言葉もないが……」

「……あれがイノベイターの実力ということですか」

 

 一方で、第二目標である留美の方。失敗だった、とユリウスは彼女の様子を見て感じる。

 ……肝心の導き手である自分が大口を叩いてああいう無様を演じ、自分をむざむざ危険に晒した形に変わり、挙句手を借りる羽目になったとなれば、その説得力など、どれほどのものかと思われることは間違い無いだろう。

 

「……先程の……」

「あん?」

「お兄様と、ネーナ・トリニティのこと。そして貴方にも……申し訳ない、と。言ってはならないことを言っていたのだろう、と」

「…………」

 

 謝罪した。あの王留美が。

 後部座席から降りず、メットを抱きかかえるようにして縮こまりながらそう漏らす彼女を立ち上がって見下ろす形で目の当たりにし、目を丸くして驚くユリウス。

 人生の中で本気で自分の非を認めて謝罪したことなどないのだろう。落ち度を認めている形にも関わらず言葉にはどこか悔しさのようなものも滲んでいたが、ともあれこういう行動を見られるということは、少なくともこれをやった意味があると言えるだろう。

 そして自分に対してそれを言うなら、返す言葉がある。

 

「言う奴が違うだろ。兄貴に言ってこいよ」

「……その通りですね」

 

 留美も、ネーナも、変わり始めている。

 自分がその背中を最後まで押し切っていけるかどうかは、これからにかかっている。

 まずは、この状況を切り抜ける算段を付けなくては……。

 

 

 

 

 

 

 

「…………ッ……」

 

 背を向けてネフィリムから降り、そう思いながらコントロールルームへと向かうユリウスを尻目に、留美はネフィリムの後部座席から降りずに……降りられずに、反芻していた。

 胸元を右手で抑えて、先程までの、"体験"を。

 

(……まだ、こんなに……)

 

 トリガーを引いた瞬間から、立ち向かうことを決めた瞬間から、その大きな胸の間で激しい心音が鳴り止まない。

 喉元を刺激する悪心も吹き飛ばすような爽やかな何かが、心を吹き抜けていくような感覚がある。

 ともすれば粗相で冷たくなるところであった下腹の辺りは、今や逆に熱くなる。

 何もかもを押し殺し、腐ったものばかりを見続けて、色を失った自分の世界は、あの時、あの瞬間確かに再び色付いた。

 確証はない。しかし自分に足りなかった変革とはなんだったのか。それが、あと少しで掴めそうな気がして、王留美という一人の少女は……。

 

「……ふふ……ッ……!」

 

 身震いで震える抑えた笑い声と共に、鏡替わりのヘルメットのバイザーに幼子のように純粋で、しかし残酷な笑みを映して自分で覗きこんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すーーーーっ……」

 

 大きく息を吸う。潮風の匂いが口いっぱいに広がる。

 

「ふーーーーっ」

 

 吐く。鼻を抜ける潮の匂いが妙に心地よい。

 開いたハッチの上に立って、メットを外して太平洋上で深呼吸をするのは、深紅のネフィリムのパイロット。

 

「……ああ、気分がいいからね。地球の環境も心地よく感じるほどだ」

 

 快晴の照り付ける洋上に吹く風はべたつく。パイロットスーツ姿には酷な環境だが、それを気分転換になって心地いいと感じるほどの上機嫌である。

 

「今まで感じられない物が感じられる、とても素晴らしいことだよ。君の能力は最高だ……」

 

 その人物は、そこにはいない誰かと独り語り続ける。

 

「いや、あれには面食らったよ。力に頼りすぎるとこうなるということは、反省しなきゃあね」

 

 ユリウス・レイヴォネンの駆るネフィリムとの最後の一瞬。あの時、ユリウスからは"ライフルで推進系を狙撃する"という強い意思を読み取ることができ、自分はそれに合わせて動こうと考えた。

 だが同時に、ネフィリムからは"ミサイルで攪乱してここを脱出する"というもう一つの意思が感じられ、そこで迷いが生じた。能力が確かすぎる分、どちらも真実であるとわかるが故に迷ってしまった。

 力に振り回されて迷いが生じるようでは本末転倒である。自分はこの力の、Xラウンダーの力の使い方を今後もよく()()()から学んでいかなくては、という思いを新たにした。

 

「フフフ。誰に物を言っているんだい? 必ずモノにしてみせるさ」

 

 時間も、機会も、まだまだたっぷりとあるのだからね――――。

 ――――そう言って、パイロットは()()との会話をいったん打ち切ったのだった。




CB-001-N Iガンダム タイプネフィリム

 性能実験用としてイノベイター勢力が建造させたネフィリムの再現機。ラグランジュ3において現れたタイプエクシア、デュナメスと同シリーズとなる。
 イノベイド専用機ではあるものの、搭乗者の意向により特段性能を向上させるような措置は一切行われず、GNドライヴ搭載時のネフィリムと全く同じ性能を維持している。
 搭載されている武装も全く同様。GNロングライフル、GNミサイル、GNビームサーベルのみである。

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