ガンダム00世界で留美やネーナやコーラサワーとイチャイチャしながら生きる 作:トン川キン児
平たく広がる草花を、AEUヘリオン12機の編隊がジェットで巻きあげていく。
マネキン中佐に率いられ俺が中隊長を務めるヘリオン中隊はかなり前から、基地による索敵を避けるために平野の低空ギリギリを攻めるようにして移動している。
編成は俺がフライトリーダーとして率いる1個小隊と、エネルギーライン切断用工作機を装備した機体とそれを守る僚機で構成された4個分隊。このタイミングで敵との交戦がある場合は、俺たち小隊がまず矢面に立って作戦の遂行を死守する。
とはいえ相手は人革連、当然敵主力はドン亀モビルスーツのティエレン。基地からでは砲撃戦タイプでも届かない距離だし、高機動タイプでも置いてなけりゃ基地からまだまだ遠く離れたこんな場所まで急行なんかできるわけがない。
突入まで交戦の見込みは低い……というのがマネキン中佐による予測だ。
そしてそろそろ時刻は1300、予定通りに俺たちの編隊はエネルギーラインの存在するポイントに到達した。基地を占拠して間もなく人革連側が引いたであろう急ごしらえのラインは完全にむき出しになっていて、俺達による寸断を阻止できる状態にはなかった。
「中隊長より各機へ、4個分隊の作業開始と同時に小隊は前へ! ツール持ちの片割れは索敵徹底」
むしろ今回は背中を預けてる分隊の方がうまくいくか心配だ。慎重にやらんと最悪ここら一帯ごと爆発して殉職だから、確実にやれるよう俺達が前に出てもしもの事を引き受けなければならない。
……まったく気を揉むもんだな、中隊長ってのは!
「10分で済ませられそうなのか!?」
『済みますよ、特別な配線じゃないから! とにかく前を』
じれったい……! こういう任務は初めてじゃないが今は事情が違う、こっちの部隊がどれだけ早く済ませるかにエミリオやこいつらの命がかかってるかもしれないんだ。
だがこういう考えをすると、目の前の戦いに意識が向けられなくなるのも事実。今は状況だけに集中するんだ……それが俺のやるべきことだろう。
コンソールを見ると分隊の作業進度は4分の3、そろそろ完了する頃。そうなら今度は……。
『確認! メインの基地エネルギーライン全てカットしました』
「作戦フェイズ2に移行する。司令部と通信を中継して周辺警戒は継続! ラインのカットでエネルギーが漏れてるとEセンサーに影響するから、それも考えろ」
『あっ……そういうこともありますか!?』
「あるだろ……!」
察しの悪い隊員を相手していると、通信回線が切り替わってマネキン中佐の声が聞こえた。
『こちら司令室。フェイズ1の完了を確認した、フェイズ2では予定通り投降捕虜のため前進』
「こちらズヴェーリア。警戒レベルは」
『3のままでいい。ポイントF37で待機せよ』
「了解」
……フェイズ2はマネキン中佐のお手並み拝見。まあ、今までの実績に本編通して見せていたあの手腕は少しも疑っちゃあいないが。
『こちらは今回の基地奪還作戦の指揮官であるカティ・マネキン中佐だ。人類革新連盟の兵士たちに告ぐ、現在我々は貴官らの占拠する基地へ繋がるエネルギーラインを遠方から寸断した。我々は供給路の使用状況も把握している、既に大多数のモビルスーツが起動不可能となっているだろう』
『……中隊長、こんなことで人革さんが降ってきますか』
「黙って聞いてろ……!」
人の気も知らないで浮足立ちやがって……!
基地司令も何を考えてんだ、ひとつの作戦に中隊ふたつと天才指揮官ふたり。これじゃあ勝ったようなもんですと大っぴらに喧伝してるようなもんだって気づかなかったのか!?
『グリニッジ標準時1410まで待つ、人革連兵士は武装解除し我々AEU軍に降伏せよ。組織的降伏及び個々人の投降問わず受諾し、捕虜については赤十字条約に則り人道的な待遇を約束する。場所はポイントF37、所定時刻を過ぎた時点で受け入れを中止しヘリオン中隊を基地に突入させる。以上』
だがこの作戦なら戦闘はないようなもの。IFFがある以上味方にトリガーは引けない、林間部とはいえ同士討ちなんぞそうそう起こるものか……。
『中隊長。生体反応多数、正面ゲートからこちらに向かう人革連軍兵士たちを確認』
『こちらからも。全員非武装の模様』
「向こうも一枚岩じゃないってこと……段取り通りやる。小隊は捕虜の護送に回る」
『了解』
……コーラサワーじゃないけど、うまくいったら中佐には感謝するよ!
(……中隊長の焦りよう、やはり噂は本当なのか。この戦闘が戦術予報士ふたりのコンペって)
(上層部はこの戦闘に注目してるはず)
(レイヴォネンみたいに昇進できる。戦果さえあれば……!)
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一時間後、時刻は1410。作戦フェイズ3へと移行する時が来た。
『全隊フェイズ3へ移行、基地を完全に制圧し奪還せよ!』
「了解。中隊長より各機へ、林間部の基地制圧に向かう! 4個分隊は散開しそれぞれ各ブロックを制圧、小隊は俺に続いて捕虜を護送しつつ移動する!」
降伏した人革連の兵士は100人以上にものぼり、その中にはMSパイロットもいる。これこそ敵のモビルスーツがまともに戦える状態にないという証左だろう。
護送までつけて捕虜をわざわざ基地にもう一度向かわせるのにも理由がある。基地内には当然まだ捕虜になったこいつらと親しい人間がいるわけで、それが戻って呼びかけてきたらどうなるか……降伏者が増えるかはともかく、士気がガタ落ちするのは目に見えてる。割り切って殺したとしてもまた然り。
恐ろしい作戦を考えるもんだ、マネキン中佐は……。
『こちらデルタ分隊、兵舎に立てこもっていた一隊が投降を申し出ました』
「白旗は」
『掲げてあります』
「よし。こちらと合流させる、演習場入口まで移動するよう伝えろ」
『了解……』
……滞りなくうまくいってる。
もう何も起きてくれるなよ、あと少しで万事おしまいって時なんだ。この作戦さえ乗り切ってしまえばあとはそれで済むって話なんだよ、だから……!
『なっ、こちらチャーリー分隊! 敵と思われるヘリオン2機にロックオンされていますッ』
――コトはこういう時に起きるもんかよ!!
「落ち着いてIFFを確認しろ!!」
『AEU軍の信号を出してはいますが……! 鹵獲機だとすれば機能しませんよ!!』
そうか……ここはもともとAEU軍基地。残されたヘリオンに敵が乗り込んでいるとしたら敵か味方か判別できない、これでは完全に思いとどまらせることは。
「てっ、敵のモビルスーツは起動できないはずだ。別働の友軍である可能性の方が高いんだぞ!」
(じょ、冗談じゃない……ロックオン警報まで出てるんだぞ、撃たれたら!)
「聞こえているのか!! おい!!」
なぜ応答しない、こいつ……っ。やめろ、このままじゃあ本当に。
『チャーリー分隊
『ブラボー分隊
『
通信機越しに聞こえる惨劇の一片が、俺の心を否応なく焦らせ削り取っていく。
ただ流されてるだけじゃどうにもならない……どうすればいい、ここからどうなればあいつを死なせずに済むんだ? 言ってもわからなくなってる奴らをどうやって止める。
俺一機で殺さずに手加減しつつ全員を行動不能まで……そんなの無理だ、ガンダムでもあるならともかく今乗ってるのはヘリオンなんだぞ、落ち着いて現実的な対策を……!
『こちらにも敵と思われる機影がっ』
……考える暇も与えちゃくれないッ!!
現実的な解決法……! そうだ、オープンチャンネルで呼びかければどうにかなるかもしれない。向こうの隊員も全員俺の声は知っているはず、ならっ……!
――撃ってくるのかよ!! 回避に専念しなけりゃ呼びかける前に死ぬ、くそっ!!
『中隊長!! 射撃されています、交戦許可の指示を』
「出せない!! 相手は味方かもしれないんだぞ!!」
『なっ……あんたっ』
ようやく無い頭絞って方法を見つけたって時なんだ、あきらめるわけにいくか!! せめてもう少しだけ隙が生まれればコンソールを叩けるんだ、それまで――――
『自分の部下と敵とどっちが大切だ!!』
――――それ、は。
いや、俺は……忘れてしまっていたんだ。今の俺は部下の命を預かってるはずなのに、それに見ないふりをしていた。たった一人の男を……エミリオを救いたいがために。
俺の隊員とエミリオとの間で、命の価値に違いなんかないはずなのに。
もうとっくに、誰かが死んだかもしれない。
それはエミリオを殺したことと、何も変わらないじゃないか。
『こちら司令室、ミッションプランを修正した! 交戦を許可する』
「…………」
『レイヴォネン、応答しろ! 何をしている』
もうこうなってしまった、気づいてしまった。命を救おうとする前に、俺はもっと多くの命を背負わされていたんだ。
俺にはそれを見過ごすことなどできない、これ以上迷っちゃいけない。操縦桿を握れ、モビルスーツで仲間を守れ……!!
「……全機交戦を許可する、撃て!!」
助ける方を数で決める訳じゃない。でも、俺のエゴに命を預かった部下が巻き込まれて殺されるなんてこと、これ以上あってはならないんだ。
例えお前を……エミリオを殺すことになっても、俺はこう言ってやらなきゃならないんだ。
「ああああああ!!」
上空を取った敵のヘリオンが、俺の機体に向けてリニアライフルを連射してくる。足元には捕虜がいるってのにお構いなしに……! だが次の動き、離陸の隙を接近戦で突こうってのはわかってしまう。ソニックブレイドを出したのは見えてる。
こいつらだって中佐の言葉に従ってくれた以上、捕虜として命ぐらいは持ったままにしておいてやりたい。
何より俺だって、こんなところで死ぬわけにはいかないんだ……!!
「でえぇっ!!」
――とった。
すれ違いざまのカウンターで突き出したソニックブレイドは、吸い込まれるように敵のヘリオンのコクピット付近を捉えていた。直にいったわけではないが、あれではパイロットも助かるまい。
お前だって……悪いとは言わないだろ。
「はぁっ、はぁっ……!」
『――――』
ノイズが……接触、回線?
『――――ご、めん、リー、サ……』
そうか、俺が。
エミリオを。
ころした。
俺が……。
「……ぅあ、あ、ぁああああうあああっ!! うおおおおおおお゛お゛お゛っ!!」
・
・
・
目を覆いたくなるような惨劇。しかし、当事者である自分が目をそらす訳にはいかない。カティ・マネキンは軍帽を胸に当て、恋人を喪った後輩の姿をじっと見つめていた。
「エミリオぉぉ……!!」
リーサ・クジョウ当人から生涯で初めての恋人だとメールで聞いていたし、その喜びようをわかってもいた。だからこそ、悲しみに暮れる彼女の姿はより惨たらしく映る。
そして自分もこの悲劇の引き金を引いた一人だと思えば、それは耐えられぬほど心疚しく、同時にそれを割り切ってしまいそうな『鉄の女』と呼ばれる所以の自分の一面に嫌悪さえ抱いた。
「中佐……戦闘記録が纏まりました……」
データファイルを作成し持ち寄ってきた目の前の兵士さえ、この惨状に中てられ困憊している様子を隠せずにいた。残された惨劇の映像をつぶさに見てこれを作ってきたのだから、無理もないことだと言えよう。
「部屋に戻って休め。後は私が預かる」
「りょ、了解しました……」
悲嘆の中にある友人を放っておけない気持ちはもちろんあるが、自分は指揮官として起こってしまったことに最後まで責任を持たなければならない。そう胸に刻み込み、カティ・マネキンはひとつ大きな息を吐いてから遺体安置所を後にした。
時が普通に過ぎることさえじれったく感じたカティは、廊下の壁にもたれてすぐさま自身の持つ携帯端末にメモリを差し込み戦闘記録を閲覧する。
その内には、衝撃的な内容が記録されていた。
「24機中合わせて13機の大破、中破3。交戦時間はたった10分……大破機は搭乗者全員が死亡」
同士討ちで1分と経たずに一人が死んでいた10分間。数字に直すことで、その凄惨極まる戦場の実態はより鮮明に映しだされていた。
だが、最大の衝撃は音声記録の中にあった。生還した小隊長である、ユリウス・レイヴォネン……そのCVRに記録されていた声である。
『う゛おおおおおおおおお!! っ、ぅあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!』
聞いた瞬間には、この声が人間のものであるとはカティも思わなかった。
ユリウス・レイヴォネンはどうやら最初の一機を撃墜した瞬間、半狂乱のまま戦っていた様子である。報告書の数字が正しいのであれば、この勢いのままに彼は最初の1機を合わせてクジョウ中隊の半数以上にあたる8機を7分間で撃墜、僚機さえも中破させてしまう。
現在の彼の様子を鑑みれば、それも信憑性のあることに思えた。
だがこれ程の力を発揮できた理由とは? 戦争の狂気にその身を浸し、理性を捨てることでその力が全開したのだろうか。ならば音声記録から聞こえてくるこの叫び声は、まるで……。
「……獣に戻ったとでもいうのか」
――カティはそれ以上考えなかった。
自分は恐ろしいモノを覗きこもうとしているのだ、とわかったからだ。