ガンダム00世界で留美やネーナやコーラサワーとイチャイチャしながら生きる 作:トン川キン児
結論から言えば、大気圏内からの脱出は成功した。
敵襲が起きる前に基地への侵入とバッテリー及び粒子残量のフルチャージはつつがなく終わり、一行はトランザムの始動で重力を振り切り、無事にラグランジュ3方向へと逃げおおせることができたのだった。
まだ油断は禁物と言えるかもしれないが、それでもこの虚空の宇宙まで来てしまえば敵にこちらの位置が知られる可能性もだいぶ下がるというもの。
「……どうにかこうにか、か」
「そんなにすぐには動けなかったんかもね」
あるいは敢えて見逃されている、という可能性は無きにしもあらずだが、リィアンとネフィリムの機体点検は簡易的ながらも行い、発信機の類と思しき異物などが付着した様子もない。
ネーナの言うように、向こうも動けなかったという可能性の方が高いかもしれない。ブースターを切り離して向こうも同じ戦闘をしたとなれば尚更。
基地を発ってから即座に大気圏を脱出するこちらを捉えるのは事前に軌道上へ部隊を展開していなければ難しかっただろうし、"実験"というからには、あの深紅のネフィリムでこちらと戦うことが目的だったのだろう。だから追撃が来なかった。
そして、余裕ができればこれからのことも考えられる。
「どうすんだ、お嬢様は」
「所在の移動の方は問題ありません。補給の間にプライベートジェットも回収の手筈は済ませていますし、不自然な点はないよう……」
「敵との関係の話だよ」
スポンサーでありながら、エージェントでありながら、王留美は、イノベイターと内通した。
その危機をいっとき捌いたとて、彼女の心中で何かが変わったとて、そこには変わりない。
そしてそれは、明確に拒絶する行動を取らないのならば未だ続いているのだ。
だからこそ問わねばならない。その関係を、今はどうしようと考えているのか。
「こうなってしまった以上、ハッキリ言って彼らの事を快くは思っていません。当然でしょう? 手違いをやって死んでもいいと思われていたわけですからね」
淀みなくさらっと答えてみせる。そこに、嘘はないとユリウスは感じる。
……確かに、そうはなる。生き物であるならば、弁明もなく命を狙われた相手に好印象を抱くなどということがあろうか。
実際の所、そこも明確に違ってしまっている点だとユリウスは思う。2312年までの間、自分の知らない何かがあったとしても王留美はイノベイター勢力から命の危機に遭わされるようなことなどなかったはずである。
でなければ、そういう集団の首魁と記憶にある光景のように余裕ありげに談笑しているはずなどないのだから。
故に今、留美は明確にイノベイター勢力に否定的な姿勢を取るようになったと考えても何らおかしいことはない。
「ですが、私としては思います。戦略上の話です」
「戦略? どういうんだ」
「私は彼らと接触できましたが、あなた方は彼らと接触できない」
「……!」
「同様に彼らもあなた方を見つけられない、しかし私とは接触できる」
「……どゆこと?」
……それも、確かであると一同は考える。ネーナ以外は。
こちらからはイノベイターという勢力の貌の一部すら掴めないというのに、留美にだけはそれが今、できている。
そしてイノベイターも、こちらが見えなくなっている。だからこそ留美を必要とする。
太陽炉は本来ヴェーダに厳格に管理され、その位置情報を常に追跡されている。それが今も機能しているならば本来ラグランジュ3への潜伏などという行為すら不可能なはずであり、とっくに追手が来ているはず。
何らかの理由でガンダム及びガンダムマイスターやその候補に対する、ヴェーダを通しての監視と追跡が無効となっている。故に、ヴェーダを掌握しているはずのイノベイターからもこちらは見えない。
留美による情報が無ければ、現状イノベイターはこちらを捉えることができないのだ。
つまるところ、両勢力の干渉は現状全てただひとりの少女に、王留美に集約されている。
「この状況を、我々は最大限まで利用すべきです。ヴェーダを奪われ圧倒的に不利な我々の情報戦において、今や私の存在が鍵を握っていると言ってしまってもよいのかと思われます」
そして、唯一の資金源でもあった。王留美の存在が無ければ、間違いなくソレスタルビーイングは、チームプトレマイオスは立ち行かなかっただろう。
だが、それは同時に……。
「二重スパイを買って出ようなんてのは、どっちが敵か味方かわかったもんじゃなくなるよな?」
「あ、そーゆーこと!」
ユリウスは危惧する。
世界の成り行きはもう既に変わり始めている。どこで何が起きて、自分の知らない危険が仲間に及ぶのかわかったものでもない。
自分の手の届く限りで、リスクは避けるべきだとユリウスは考える。
しかし、続く留美の言葉は……。
「……先のことがあれば信じて欲しい、とは言い切れない身ですが……」
「…………」
「私も、自分の命は惜しいのです。そしてあなた方が再び戦うと云うのであれば、それを全力で支えたいという心に嘘はありません」
……嘘も、裏にある何かも、感じない。
「ヴェーダの意思でなく、自分の意思で世界と戦うと決めた、貴方たちの意志は尊い。私は、その一助となりたいのです」
心にもない綺麗ごとを言っているわけではない。
それがわかる。ユリウスには、違いを見抜く力があるが故に。
「……まあ、それに関しては、ミス・スメラギにも相談する」
「いいのぉ? こんなコウモリお嬢様の言う事聞いて」
「口添えをしてくださります?」
「多少は」
「聞けって!」
「いっ……痛ェんだよ!」
そのような確信を自分の
いずれにせよ、組織全体で相談すべき事柄だと思えた。
『暗号通信! 暗号通信!』
不意にHAROがそう告げる。オートパイロットになった操縦席のコンソールを叩き、ユリウスが内容を確認する。
ラグランジュ3の秘密基地への、到達予想時刻の確認であった。
「定時連絡でいいじゃん。心配しすぎよね」
「……心配もされるだろ」
補給時に予めネフィリムとの交戦の旨を打電しておけば、もうすぐ定時連絡であるというのにこんな風に暗号通信をよこされる。鬱陶しいと感じないでもないが、やはり心配されるのは嬉しいものだった。
恐らく送り主は、彼女であるだろうし……。
「……ん?」
その暗号文の中には、何か……添付されたファイルのようなものが存在するし、それを一読せよとの旨もある。
形式からして恐らくは画像データ。そのような物を使う予定はなかったはずだが、一体……?
そう訝しみつつも、ユリウスが開いた画像に写る物は。
「集合写真? なんであたしら抜き? 意地わる――――――――」
「――――――――え」
ユリウスも、ネーナも、それを見て固まる。
それは建造途中のプトレマイオス2の艦長席……だけを引っ張り出して、そこに座るスメラギを囲うようにして撮った写真である。
何やらほとんどの連中は、どういうわけか同じポーズをしている。
ヘッドレストに肘を置いてニヒルな笑みを浮かべる画像上のロックオンに、笑顔のリンダと寄り添う右上のイアン、右中央に呆れたような表情でいるラッセとモレノ。お互いの肩を抱き歯を出してこちらを威嚇するような左のクリスとリヒティ。
……彼らはカメラであるこちらに向けて、中指を立てた明らかなる侮蔑の意味が入ったサインを見せつけてくるのだ。
そうしていないのは、あまり意味がわかっていなさそうに腕を組んで流し目をする左上のティエリアと、困惑の方が勝っているであろう表情で右下にいるフェルトと、笑顔で手を振るリンダ。
何故10人中の6人までにこのような真似をされなければならないのか。
…………その真ん中に配置されたスメラギの意図を読み解けば、ユリウスにはわかった。
わかってしまい、椅子の背もたれに張り付くように情けない声を上げて後ずさった。
「あ。え、え。へぇぇ……!?」
真ん中のスメラギだけが、困ったように顔を赤らめながら笑顔と右手のピースサインをよこす。
"
「……あ、あ、アンタさぁ……!!」
「ちが……何で何で何で!?!?!? なんでェ!?!?!?」
「まあ。おめでとうございますわ」
「友人の良い報告は嬉しい物です」
わなわなと震えるネーナに対して、目の前の現実に対してもはや恐慌状態に陥るユリウス。留美も紅龍も、それは受け入れるしかないのだと追い打ちをかけるように祝う。
「クズじゃんもう!! 知ってたんなら!! 知っててあたしと地球降りたの!?」
「知らない知らない知らない!! だってこんな! ちゃんとしてたのに! …………最初、以外……?」
……胸ぐらを掴まれて揺さぶられる間に自ら口にした、思い当たる唯一の可能性。
結果がこれで、可能性がひとつならば答えもひとつということになる。
あれだけ
「……嘘ぉ…………」
脱力の極みに至り、ユリウスは背もたれを背中からずり落ちていく。
もう……退路は断たれているのだ。
『ナサケネーナ! ナサケネーナ!』
「年長を自負するのなら、男としての模範にもなってくださいな?」
背後から傷を抉り上げるように刺すHAROと留美の言葉に、事ここに至って、もう全てを覚悟するしかないのだとユリウスは理解した。
……そうだというなら、それでもいいだろう。家族のような間柄となり始めている今のチームで、家族を作るのがどういうことか、という先達となってみるのも。
「…………わかってるよ……」
全てを諦めて、右手で顔を覆って、天を見上げたまま呟くようにそう言った。
「ちょうどいいのではありませんか? 貴方のほうから
「……そっか。そりゃ、丁度いいかもなぁ……」
・
・
・
「アンタ……アレだな。狙い撃つ男、代わるか?」
ロックオンからは、ヘラヘラとしながらコードネームを皮肉った冗談をぶつけられ。
「貴方が子孫を残せたことは喜ばしい出来事だと思う。おめでとう」
ティエリアからは、祝福されているのか何なのか疑わしい無機質な祝辞を述べられ。
「いやあ~……相談した時にはもう一抜けしてたって、そりゃないっすよ。何がモテないすか」
「私ぃ、前々からどーせこーなるとは思ってましたけどねえ~~~~?」
「絶対生きて、ずっと育ててあげてください」
「やることやってんだよなぁ。ズルい大人だぜ」
ブリッジ担当の4人、リヒティにクリス、フェルトにラッセ。恨み節に、我が意を得たりという様子に、自分と重ねた純粋なる言葉に、抜け目の無さを皮肉ったり。それぞれ思い思いの言葉を叩きつけられ。
「なるべくこっちも調整はするが、ホルモンバランスの崩れから来る精神の不安定性はお前が受け持ってやれ。再生医療は万能じゃない。あと、アレはしっかりあいつに渡したか? それとお前の方も……」
「ワシの甥か姪かって? 楽しみに待ってな。義姉さんができるのをすっ飛ばしてなあ……へへへ」
「お兄ちゃんよかったねえ!! 子供ができるって、嬉しいのよ!?」
医学的な見地からの祝福……と取れなくもないが、仕事優先というのを隠さないモレノに、終始ニヤつきながら絡んでくるイアン、抱き着いて身体いっぱいに新しい家族を祝うリンダ。
「……その……ただいま」
「おかえり。
諸々からの猛攻を、どうにかこうにかなだめすかして。
ユリウスはようやく、戻るべき場所にたどり着いた。
「…………いや、まあ、とりあえず。仕事の話は後でいい?」
「好きに話して?」
「じゃあ、うん。まず……」
二人きりの部屋のベッドに腰かける
「……いい? 触って」
「パパなんだから、もうすこし堂々としたら?」
呆れ混じりの笑いを漏らすリーサの言葉に、思わず赤面するユリウス。
服の下に手を突っ込んで、ぽっこりと膨れた生の柔肌に包まれた、我が子の胎動を感じんとするがっちりとした手を触れる。
「ん……」
実の所、これは初めての事じゃない。リンダが収まっていた母親の胎の鼓動を幼い時に聞いたことがある。
あの時は正直言ってさして理解していたわけじゃない。そのことだって母親に促されてやったことでもあったのだから。
だが、今度のそれに抱く感情は、並のものではなかった。
「……俺の、遺伝子が……」
元々この世界にとっては異物のはずの自分が、こうまで馴染んだようになってしまって、見知った女性と子供を設けるまでに至った。
ここにあるのが、その結実なのだから。
「ね、ねえ。手、熱いのね。相変わらず」
「え!! あ、ごめん!!」
言われて、すぐさま手をどけるユリウス。妊婦の腹を冷やすのはよくないが、温めすぎるのもよくないのかなどと、冷静でない彼には判断のしようがなかった。
それを見てリーサはさらにおかしみを増して笑う。そこまで急にどけるのか、と。
「あの、あの、アレか。俺、体温高いって言われるし。兄妹揃ってさ」
「知ってるわよ、そんなこと……フフ」
あのときどうやって子を成したと思ってるのだろうか、という笑いであった。
「いつから、気づいてた?」
「3ヶ月前くらい」
「降りた後の入れ違い……だよな」
「でもまあ、隠してたのは私だけど」
驚かせたかったんだから、とにやついた意地悪っぽい笑みを浮かべて、リーサはそう言い放つ。
それなら、ここまで一緒にいられなかったのも全部が全部自分の責任というわけでもないのだろうか、とユリウスは少し肩の荷が降りた気分がした。
そういう風に気を遣わせているということも、無きにしも非ずだが。
「意地の悪いことするんだなあ」
「意地の悪いくらいが戦術予報士には向いてるってね」
お互い、顔を向かい合わせて笑顔を見せる。
……ユリウスは、雰囲気を和らげることができたこのタイミングを待つ必要があった。
「それで? 後ろのポッケの物、なーに?」
「え゛!」
そして、それさえも見抜かれていた。
「……なんでわかんだよ……」
「そんなに膨らませて気にしてたらねえ」
というより、見抜かれて当たり前の挙動を取っていた様子だった。
……感情の行き場がコントロールできていない。そう感じても、自分に子供ができたと言われてそれほどまでに冷静にいられるような奴などこの世にいるものか、とユリウスは他責思考に切り替えた。
今、やらなければならないのは。
「……俺と……」
ポケットに忍ばせておいて取り出したるは、小さなリングケース。
レザー調の箱を見せつけるように開き、その中身を見せる。
「結婚、してくれますか」
人の営みが宇宙にまでも広がるとも、古代から変わらぬ美しき輝き。
金の婚約指輪が、エアクッションの中に収まっていた。
宇宙空間においてノーマルスーツを着用する際は、挟み込んで破けるような破損を防ぐために指輪は外さねばならない。同じく金で出来たチェーン付きの指輪を、リーサは手に取り……。
「……はぁ……」
とっくに答えは決まっている。
幸福が故に流れそうな涙という、初めて抱くような感情を堪えた湿っぽいため息をついて。
「……喜んで」
それでも堪えきれず、その頬に涙を伝わせながら。
その首へと、チェーンを巻いた。
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