ガンダム00世界で留美やネーナやコーラサワーとイチャイチャしながら生きる 作:トン川キン児
「オイ……
「私を載せて損をすることはないと思います」
シミュレーションを繰り返す中で、近頃はもはやネフィリムの後部座席の主となってしまった留美に、ユリウスは言外に戦いに出す気はないと言ってみせるが、どうにも聞かない様子。
こうなってくるといよいよ思う。どうも傍観者としての生き方が長かったせいなのか、その反動と言うべきものは留美の中で発散の機会を得ようとぐつぐつと煮立っているわけなのだろう。
それが自ら実戦に出なければならないという形で発露するというのは、なんのかんの言ってみても未だ二十歳にもならぬ小娘の若さと言うべきであろうか、とユリウスは考える。
「敵の本丸を抜こうとなれば、この間の彼女と思しき紅いMSは確実に出てもくるでしょう?」
「あいつとはケリをつけるつもりでいる。何の手品でああなったかは知らないが……」
「その助けになるというんです。私の思い付きは有効に働いたという事実があれば、もう一度か、あるいは常に二つの思考をぶつけ続けてみる価値はある。少なくともその真贋を確かめるために、敵は確実に意識のリソースを割くでしょう」
……留美の言い草に何か言葉を挟もうとしたが、言う事はその通りではある。
「ヴェーダを奪還するために、我々はあらゆる手を打つべきです。私も例外ではありません」
フォン・スパークの作戦に便乗しようという以上、手段を選んでだとか四の五のと言っている場合でもない。その通りである。
……だがそれが、ユリウスにはどうにも気にかかる。気に喰わないと言っていい。
未だ二十歳にもならぬ小娘が今日こないだ戦場に連れ出されてみて、これほどすんなりと覚悟が決まるということは、不自然に思える。
裏切り者の名を濯ぎたいだとかに突き動かされるのみならば、そういうことで戦場に出る者は死ぬのだと、突き放してやらなければならない、と。
「お前はスポンサーだろ。死なれたら組織もろとも共倒れなんだけどな」
「貴方を失ってもそれは同じことでしょう?」
「そりゃ違う! 多少腕が立つくらいの奴なら代えぐらいいる」
「いませんよ」
そういう意を込めて建前を整えてやっても、顔色ひとつ変えることなく、目線も合わせずしかし感情の揺らぎも見せずにあしらう留美。
しかし、今までの心を感じぬ張り付いた微笑ではなく、その表情には確かな自分の意思を感じられる。だからこそユリウスは言葉に困るのである。
それどころか、返す刀でこちらを切りつける。鋭すぎる言葉で。
「貴方が死ねば、スメラギさんなどは二度と戦いに関わりたがると思えませんね。そういう身の上を分かった上で今の言葉が出てきたのですか?」
「……そりゃ……そうだ。俺には死ねない理由がある。けどな」
「私のことはジャミング装置とでも思えばよろしくてよ。大事に思ってくれるなら、お互いを生かすために二人で乗る。そんなものでいいではないですか」
言葉のアヤとはいえ迂闊すぎる物言いを突かれた所から、どんどんと自分本位の話を切り出されるユリウス。
…………実の所、生きる脳波妨害装置扱いには無理がある留美のパイロットとしてのスペックの高さも、ユリウスの耳には入っている。
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『……最近……脳裏をかすめている推測を、聞いていただいてもよろしいですか』
『……妹のことか?』
『私のことでもあります。前提ですが――――』
"兄が無能であったから自分が当主にされた"という留美の言説は、
だが、この世界で実際に彼ら兄妹と関わるようになってからというもの、どうにもユリウスにはそれが疑わしいものであるように感じられていた。
考えてみればそれは事実かどうかは不明瞭な、留美の主観から出たものでしかないのである。
紅龍は留美の5つ上。元々兄の方を当主に据え置こうとしていたのであれば、紅龍に何も教えていないまま遊ばせているなどというのはあり得ないことであるように思える。
それは、王商会がコーナー家らソレスタルビーイング創設期の監視者たちにも並ぶ百年単位の古参であることにも繋がる。
Web上でも閲覧できる王商会先代当主の欄に刻まれた享年と、兄妹の年齢を照らし合わせると、紅龍の生まれたのは当主が40半ばのころ。
事実として先代当主とは、これほど再生医療が発達した世において、あれほどの財力あって、齢60もそこそこに急逝するような不健康をできる人物。
その時には次が産まれるかどうかなどわかったものではない。妻の他にも愛人関係にある者が数人と噂されていたようだが、結局のところ血縁者として残るはこの兄妹のみ。
後継者無くば、王商会の当主の座は百余年の間に成された傍流である他の家へと行き渡る。
監視者たることで世界の変革の恩恵を一番に我が家に受け取るために、百余年続いた己の家による経営を守るために…………次代の当主が監視者としてではなくよもやエージェントとして組織に飛び込むとは、先代は露ほども思っていなかったかもしれないが…………なんとしても血脈は保たれなければならないはず。
この背景があって、初子として産まれた長男をなぜ無能と言わせるような教育ができようか?
武術の達人というだけに留まらず、船舶等殆どの機械・兵器類を十全に使い熟し、諜報等の統括・実務においても並のエージェントを凌ぐほどに極めて有能であるという事実からも、それは当人の口から語られるまでもなくなんとなくアタリがついていたユリウス。
そしてこの時の兄、紅龍曰くところ。
『妹の教え込まれていた帝王学と自分のものとで違うのは、その学ぶ内容ではなく厳しすぎる管理体制ぐらいのものでした』
ユリウスの洞察は当たっていた。学んだことは同じ、問われたのはその器。
その育てようからか難事に脆く、豪腕その身に宿らずとも、紅龍は無能に非ず才には恵まれていた。
結局のところその
『……父が妹を選んだのは、私の至らなさ以上に、留美に満ち溢れた天賦の才に枷を嵌めねばならなかったことに他ならぬのではと』
――――だが妹は、それを遥かに凌駕した。
続けて語られたところ、その身に自分の時以上の徹底的な帝王学を叩きこまれる以前からも、王留美という少女は既に恐るべき才媛の片鱗を数多く見せつけていた、とも云う。
あのままに育っていれば、武術でさえ達人と化した今の自分を片手間に追い越すことさえできただろう、と。
流石にそれは兄貴の贔屓目で盛られているだろう、と思えたユリウスだが、語る当人の表情と声色は真剣そのものを物語る。
いつも他人の顔色を窺ってばかりと妹から評される紅龍だが、裏返せばそれは他人の機微に極めて敏感であるということ。
彼女が歳7つを数えるころ、先代が留美を見る目に、怯えが混じり始めた。
激しい痛みと苦しみ、そして束縛を伴う兄の知らない帝王学が始まったのは、それと同時であった、とも云う。
教育が一つの円熟を経たと言われて既に西暦で300年近く。行き過ぎた躾けが被教育者の予後を致命的に損ない、人生を棒に振り得るなどということは周知されきっている事柄である。
才を十全に活かすは
紅龍は疑っていた。先代は人を育て強くするためではなく、重たい足枷と首輪を嵌めるためにこそ教育を使ったのではないかと。
老いることさえ許さぬままに親に刃を突き立てかねない、我が子への醜い猜疑に突き動かされたのでは、と。
結局のところ、紅龍にそれを問い質す勇気が出ぬままに先代はある日突然に逝った。
留美の束縛が、自由だった頃よりも長くなった頃の話である。それらが事実であったのであれば、疑心と焦燥にまみれた不幸な晩年であったことだろう。
かくして家へと残されたのは、家の名を棄てた兄と、目に映る物全てを灰色にされた妹のみ。
その後のことは、語るまでもなく。
紅龍の推測の程は理解できたユリウス。しかし、彼が何を言いたいのかがいまいち伝わらず。
『……話はわかるんだが、どういう? 何に繋がる?』
『枷が外れたように見えるのです。今の留美は』
親から課されたくびきがとうとう外れれば、紅龍の語りを事実とした場合。
世に解き放たれるのは束縛からの巨大な反動を抱える、あらゆる財界・政界との繋がりを持つ不世出の天才。一族の血脈が生み出した最高傑作。
妹が本来の自分を欠片でも取り戻せたことに対し、兄は喜びの情も当然備える、が。
『先代は今の私と同じような事を恐れていたのでは……何をも可能にしかねないからこそ、何をするのか予想もつかないような……』
……例えば本当に、そうしようとし始めた時。ソレスタルビーイングは、世界は、どうなる?
紅龍の言わんとすることが、徐々にユリウスにも伝わってくる。これは、危惧である。
『自分の才能を活き活きと使おうとしてるのは、嬉しく思います。ですが、才を恃み自ら危険へ飛び込むようでは、これまでと同じこと……』
ただし、妹の命に対する事柄のみへの。
結局のところ他に興味はないと言外に言う様は兄妹の血を感じさせる、とユリウスは思ったが、同時にかなり難しい事柄になってきたとも思える。
『んで、心の底からやりたくてやるようになっちまったから、あんたも言い辛いと……』
『わかり、ますか』
『また俺に頼るようで情けないと思うか?』
『いえ……そういうことはもう思いません』
留美は恐らく今までのように、己の行いの動機を他者に求めるような者ではなくなった。
己の自由な意思に基づいて、明確なる己の求める何かの為に行動する。それを止めようとするというのは、この間の暴力による矯正とはまるで意味合いが違ってくる。
真にその者を愛するのであれば、その者の自由な意思を束縛しようとするそれは真の愛足り得るのだろうか。
……極めて難しい。同じ妹持てる身であるユリウスをもってしても答えがないと言える領域に入りつつある。
少しでもマシな未来を送って欲しいとは思うが、同時に少しでも多く己自身で選ばせたいと思うのは、ユリウスも同様であるが故に。
『……死なない様に面倒は見てやるから、心配すんな』
『……色々と頼みます』
何らかの含みを感じる返答に小さな疑問を持ったが、ユリウスはそう約束した。兄という立場同士の間柄にて。
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そして、そういう約束があれば、どう言われようともう一度ネフィリムに留美を乗せるなどとは承諾しかねることである。
ユリウスは食い下がっていく。己の経験を根拠として。
「自分が天才だと思ってるかどうかは知らんが、才能を活かせずに死ぬ奴なんぞごまんといるんだ。後ろに座ろうとするのはよしてもらう」
「私はミス・スメラギから貴方のことを頼まれて乗るのですよ?」
……返ってきたのは初耳の事実であった。
「私のことは必ず生きて帰してくれるらしく。やはり夫というのは信頼されておりますね」
「そう……言ったってか。本当の話で」
「妨害装置のつもりならしっかりやりなさいとも。指揮官も公認の
捨て鉢のような台詞でありながら、しかし表情はそれをちょっとしたジョークでしかないと言いたげに可笑しみを湛えている。
笑えないジョークであるとしか思えないユリウスは、さらに食い下がる。
「んなこと……!」
「もう……意気地になるべきことが違うのではなくて?」
うんざりしたように小さなため息をついて、留美がこう続ける。
「貴方が意地を見せなければならないのは、ガンダムマイスターとしての務めと、その中で家族を守り通すことでしょう。それなのにこうでは、まるで……」
――――私に気があるようではないですか?
「……既婚者に、うぬぼれんなよな……」
「あら、どちらへ?」
「そういうことを本当に言ったのかどうかは、聞かなけりゃならないだろ……」
どこか逃げるようにしてネフィリムを後にするユリウスの背中が、留美には何か、とてもかわいらしいものに見えた。
「可愛い人だこと」
……コクピットの中で湿っぽく呟いた留美の言霊は、無重力空間であるにも関わらずしばらく残るかのような重さを感じさせるひとつの重力だった。
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