ガンダム00世界で留美やネーナやコーラサワーとイチャイチャしながら生きる   作:トン川キン児

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「困ったものだね、これは……」

 

 乗機である1.5ガンダムを棄て、"来客"の準備をするためにパイロットスーツ一つで単身月のヴェーダのターミナルへと向かうリボンズ・アルマーク。

 彼の持つ懸念というのは、相討ちになる形での敗北それそのものにはない。

 どうせ()()()()では勝手が違う以上ある程度ラグが生じるのは承知のことであったし、X領域を扱う感覚に慣れるためだけの段取りにすぎないのだから、全てがうまくはいかないことは織り込み済みである。

 イオリア・シュヘンベルグが遺したあのシステムも、此度のような交戦を繰り返し観測データが整ってくればいずれ解析してみせることもできるだろう。あるいは、国連関連の技術者などを使ってもそれは達成できる。

 

 一番の問題は、機体がもはや最高の状態でない自らの操縦にすらついてこなかったことだ。

 1.5ガンダムは現状、己の率いるイノベイターとしての勢力が用意し得る最高の機体。これから先、これまでの前世代型ガンダムの実戦運用データを盛り込んだ新たな量産モデルを生産する予定こそあるが、それも所詮高く見積もって横並び程度の性能に過ぎない。

 オプションを次々に増やしていくという手もあるにはあるが、そんなものは小手先の解決にすぎない。問題になっているのは素体そのものの性能なのだ。

 即ち。

 現状、リボンズ・アルマークの真の実力を十二分に引き出せる兵器は、この世のどこを探しても見つかりようがないということと相なる。

 

「せっかく力を手に入れてみても、器に収まらぬとは。ままならないものだ……」

 

 停滞感への強い不満を露わにするリボンズの呟き。その表情もまたしかめられている。

 しかし、ヴェーダのメインターミナルへと繋がるエアロックを解除しようとした瞬間、その違和感に気づいた時には、顔色は驚きへと変わった。

 

「……まいったな。ここまで予定をズラされるとは、思ったより苦しめられていたのだね」

 

 本当なら今、中にいる筈の人物より先にここへ着いていたかったところだが。とリボンズは苦笑する。

 3機のガンダムの粘りもそうだが、最後に予定外の一撃を受けたことが大きかった。

 王留美……革新の残り香を啜ろうという意地汚い小娘に過ぎなかった女が、どういう心境の変化があったのか、この戦場までやってくるような積極性を持ち得る者になっている。

 そういう者が自分に一撃見舞ったという事実もまた、リボンズのおかしみを深めたのである。

 

 エアロックを開けた先、ヴェーダのメインターミナルで待ち受けていた者は、黒と黄色の警戒色のパイロットスーツがこれ見よがしに危険性を伝えてくる男。

 右手を腰に当て、既にこの場の主かのように振る舞ってこちらを振り向いたのは、正しくフォン・スパークであった。

 

「あげゃ。遅かったじゃねえかよ」

「待っていたのかい? すまないね。外の()()()()は気に入ってくれたかな?」

「アレで満足できちゃあここに来ねェだろ。あげゃげゃ!!」

 

 量産タイプの戦闘用イノベイドが駆る迎撃用の第2世代ガンダム複製機(コピー)はフォンのアストレアF2によって全て平らげられた。リボンズの戦いの裏で起こっていた出来事である。

 この程度をどうにもできないようであればこの場に立ち会う資格はない、とリボンズの置いた意地の悪い試練だったが、この男にはまだ緩かったかもしれないとも思えた。

 相変わらずの弾けるような耳触りの悪い笑い声を発しながら、フォンはここへやってきた目的のため、ひとつの確認をしたのち――――。

 

「テメェが世界のルールを作ってんのか?」

「そうだよ」

 

 ――――その返答を聞き届けてから、すぐさま銃口を向けて。

 

「わかっているくせに。ここで()()を殺しても、僕を殺したことにはならないよ。見ればわかることだろう?」

「あァ。ま、そーだわな」

 

 ヘルメットバイザー越しの()()()を確かめてから完全な確信に至った事実を改めて突き付けられ、アホらしいと感じてすぐさまに拳銃をうっちゃった。

 

「暇なんだよなァ。早く来いやオッサン」

「少しぐらい待ってあげなよ。息が詰まることだし、エアーを付けておくとしようか」

 

 仲間ですらない間柄の二人がこのように他愛ない会話を交わすのは奇妙な光景ではあるが、フォンは理解しているが故にこの状況を良しとする。

 世界のルールを決めているこの人間が、不在のまま語り掛けてくるのではなく、わざわざここに来てこうしている。それには、明確な理由がなければならない。

 この者がここに引っ張り込みたい存在はただ一人、ユリウス・レイヴォネンという特別な存在。

 そしてその時、この者が、ひいては自分が欲した何かが現れ出ずるはず……。

 

「ジジイが腐るんじゃねーの」

「ちょっとぐらい構わないだろ? 元々萎びてるのだから大して変わりもしないよ」

「生みの親を敬えってんだ。あげゃげゃ」

 

 一先ずのフォンの関心は、部屋の真ん中に鎮座する棺に横たわるイオリアの遺体がニオうのは流石に不快だということくらいのものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……いるな。ヤツは」

 

 ソレスタルビーイング関連の宇宙施設に共通するレイアウトの通路を見て、ここがヴェーダの所在地であることを確信すると同時に、先程まで戦っていた敵の存在をもまたユリウスのX領域が確信させる。

 出血を拭きとったのち額にテープを張り、ヘルメットバイザーのヒビの部分にも応急補修テープを張ってどうにか来ている痛々しい姿だが、スーツからの情報が正しいのであれば、どういうわけか艦内に酸素供給が来はじめているというのは多少の安心をもたらす一因であった。

 

「他にも感じるものはないんです?」

「お前を除くとあと一つはあるように思う。どういう気配だろうな……? お供か、それとも」

 

 その背後をカバーするのは、ネフィリムの時と同じくまたしても留美。

 乗機を棄てて、拳銃を構えてまでの白兵戦に二人で挑まんとするのには、ここに来る少し前に理由がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『どうなんだ……アストレアは』

『無理だって! システムダウンから制御がまるできかないってメガネが』

 

 戦闘終了の直後に時を戻す。

 留美に後部座席のラックから応急キットを持ち出させ、手を伸ばさせて額を拭かせつつ自分は脱いだバイザーにテープを張りながらネーナの状況報告を現場指揮者として聞き届けるユリウス。

 ……ヴェーダ奪還というミッションを完遂するには、状況は明らかに芳しくない。

 太陽炉搭載型MSの根幹がGN粒子によって支えられている以上、粒子制御を司るクラビカルアンテナが全損しているアストレアⅡとネフィリムは戦闘の使い物にならない。ダブルドライヴという極めて制御が難しいシステムを搭載しているアストレアⅡは、通常回線を開けずスーツの機能で接触回線越しにネーナに報告することしかできないほどのシステム異常が起きている以上尚更。

 被害状況がまだマシなのはスローネドライのみ。トランザムの勢いそのままに月面へ衝突し武装を全て失ったとはいえ、慣性制御能力も向上していたのが功を奏したのか、五体満足のままにかろうじで動ける。

 とはいえ、GNドライヴ[T]でトランザムを始動させた以上、残るエネルギーは予備バッテリーから生成可能なわずかな粒子残量のみ。

 

 目の前のガンダムをどうにか機能停止に追い込んだとはいえ、相手はまだいる。

 モニターに映る謎のガンダムのコクピットハッチは開いている。リボンズ・アルマークは機体制御を失い月面へと落下する最中にハッチを空けて飛び降り、この場から去ったよう。

 この場であの者に待ち構えられていたことがまず問題なのである。明確に攻撃を予期して待ち構えていた以上、イノベイターの増援を呼び込まれればこちらは圧殺される。

 フォン・スパークのこともある。恐らくは現在ヒクサー・フェルミと戦っているだろうが、やられていなければこちらへ来る。両方とも相当な実力者であるからして、無傷では済まないだろうがその程度はわからない。

 

『血が……』

『止まらないか。深いんだものな』

『傷を留めますから、前に行きます。ここからじゃ無理なの』

『あ、ああ……』

 

 そういう難しい局面で判断を下さねばならないというのに、狭いコクピットの中で器用に身体をねじり、こちら向きに馬乗りの形になる留美を見ると平静が乱される。

 意識をすれば余計な情を持つばかりか下心を絡めとられそうで、努めて見ない様にしてきたその美貌は、こうまで近くにあれば否応なく目に入る。

 艶やかな髪、きめ細かく潤う肌、整った鼻筋、大きな瞳、見目だけでも柔らかな唇。

 

『……動かないでください。こちらも必死です』

『悪い……』

 

 留美がユリウスの左眼を手で押さえ、スプレー式の止血・創傷部再生用ナノマシンを塗布しその上から大型の医療用テープを張り付ける。

 留美が着ているチームトリニティが採用していたタイプのスーツは薄い。こうまで密着してしまえば、その躰が女性として最上の位置に座すしなやかさと柔らかさを備えることなど、スーツ一枚越しでさえ解る。

 前世紀のように痛みの伴う縫合であれば気がまぎれるだけまだマシだと思えた。世界に名だたる絶世の美女と云われる所以、完璧とも言える非の打ち所がない貌から、躰から、その間ユリウスは右眼を逸らすことも、身じろぎをすることも叶わず直に中てられ続けてしまった。

 全身に毒が回るかのような感覚さえ覚える。応急処置は終わったというのに、吐息がかかるような距離のまま留美はユリウスに問いかける。

 

『どうしますか』

 

 表情の真剣さは、この場の指示を仰いでいる以外の他意は明確にない事を示している。

 それを見ればユリウスとて、男の性を振り払って明確な答えを出せる。

 

『ネーナ、リィアンの方とのコンタクトは』

『さっき取れた。ちょっと前まで黒いガンダムたちに絡まれてたって』

『自力で振り切ったのか?』

『赤い方のアストレアに釣られていったっていうけど。現状は上空で待機中』

 

 赤いアストレア……旧フェレシュテが独自に改修を施していたというGNY-001F2・ガンダムアストレアType-F2だとするならば、間違いなくフォン・スパーク。

 リィアンの方がそれらをフォンに押し付けたのか、単純に敵がフォンの排除を優先したのかまではわからない。

 いずれにせよ、ヒクサー・フェルミはどうやらフォンを抑えられていない。

 

『……え……? キュリオスの太陽炉の反応がある船が近づいてきてるって』

 

 続けて明らかになる事実が示すのは、GNY-002F・ガンダムサダルスードType-Fを収容した船、即ちヒクサーが接近しているということ。なぜなら、キュリオスの太陽炉を預かっているのはその男以外にありえないのだから。

 モニターに共有された艦影を見ても、それはプトレマイオスの汎用コンテナと同型のものであることを確認できる。フェレシュテが提供した物と同型だった。

 しかし、MSを展開し続けておいても損はないこの状況で、機体が艦内に収容されている。

 それはつまり戦闘を行わなかったか、あるいは何らかの戦闘によって既に展開が不可能な状態か。フォンの状態からして、恐らくは後者。

 ……周囲の情報が集まってきたことで、ユリウスは決断を下す。

 

『……リィアンに伝えろ。その艦にいるヒクサー・フェルミとコンタクトを取って、この地点に同時に降下しろ。スローネドライは、アストレアⅡとネフィリムの収容準備に入れ』

『……撤退すんの?』

『いや……白兵戦でヴェーダを制圧する』

 

 その言葉に、通信越しでネーナが息を呑む音が聞こえた。

 

『あたしも行くの?』

『行くのは俺だけだ。艦の制御の人数をあれ以下にするのは不安ではあるし、トランザムはパイロットがいなけりゃできない。ドライには作業をやってもらわなけりゃ困る』

『……理屈はそうだろうけどさァ』

『リィアンと、ヒクサー・フェルミの艦の方とに、オリジナルの太陽炉にトランザムが可能なだけの粒子残量が溜まるまでをタイムリミットに。それまでにはこのポイントに戻る』

『過ぎたらどうすんの』

『俺は死んだものとして、トランザムで月を脱出しろ』

『馬鹿言ってんじゃッ……』

『だが……死ぬつもりなぞ欠片もない』

 

 事態を想定してスメラギがネフィリムのシートに備えておいた、スリングベルト付きの折り畳み式大型火器。拳銃と同じくソレスタルビーイングに共通の装備の一つでもある。

 留美を後部座席に下がらせ、その組み立てを行いながらネーナに決然とそう返す。

 金属同士がかちゃかちゃと擦れる音を通信越しに聞きながら、その覚悟の程を咀嚼し、自らに与えられた役割をネーナは呑み込み始める。

 ソレスタルビーイングのガンダムマイスター、その一人として。

 

『……死んだら殺すかんね……!』

『そりゃ無理だろ……』

 

 通信を断つ最後にネーナが発した呆れるような脅し文句に、ユリウスは強張った肩が少し解れるような感覚を覚えた。

 ……しかし、後ろでもシートを探る音が聞こえて再び解れた気が立ち始める。

 

『私も参ります。貴方、私の次の役割はハッキリさせませんでしたもの』

『冗談じゃないぞ……ドライに拾ってもらってリィアンに行け。ついてはいかせない』

『では、治しておいてなんですが……貴方のほうを行けなくするだけです』

 

 そう言い放って、留美は後部座席からユリウスの脚へと拳銃を向ける。

 

『この作戦における私の役割というのは、貴方が生き残る確率を少しでも上げることでしょう。私を置いて一人で行かせるようならば、動けなくして無理やりに連れ帰る方が確実ですわね』

 

 ……留美の言う事は、ユリウスにも正しいと思える。そういう役割を持つ人間としてこの戦場に連れ歩くことを、ネフィリムの後部座席に載せている時点で自分は既に肯定している身分なのだ。

 スメラギから与えられたミッションに対する彼女の覚悟が本物であることは、目の前のガンダムへの最後の一押しを、彼女自身でやってのけていることからも明らかなことである。

 そもそも先手を取られている。王留美は、既に自分自身で引き金を引ける人間である。

 自分に、今更何が言えようか。

 

『……わかったよ……来い』

『ええ。最後までお供いたします』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女を無為なる死から遠ざけるという目的意識を持ってなお、ユリウスが留美をこの場まで連れてきたのには、そういう理由があった。

 しかし実際に訪れたこの施設は、ハックしたコントロールパネルを見ても極めてセキュリティが緩い、どころか皆無とまで言える状態に置かれており、とてもソレスタルビーイングの根幹を為すシステムが安置されている地点とは思えない程である。

 入口付近に無人状態のまま無防備に駐機してあったアストレアF2があったにもかかわらずの、この状態。その違和感が、二人の不信を掻き立てる。

 

「あれです」

 

 メインターミナルを目指し、無重力下の慣性にまかせひたすらに進み続ける二人。何の妨害もなく、何の抵抗もない。

 やがて、MS1機分が通れるほどの巨大で厳重なエアロックに突き当たる。

 

「……既にロックが外れている……先客がいる」

 

 横に備え付けられたパネルは無制限に操作を受け付けており、物理的にはこれほどの厳重なロックを施してある扉であるというにもかかわらず、もはや何人においても自由にこの扉を開けられることを示している。

 誘いを隠そうともしないこの不自然さに、二人の緊張は最高潮に達する。

 意を決して扉を開かせ、その陰に隠れ室内の様子を伺う。

 

「おや……隠れていないで出てきてくれないか。こちらは丸腰だよ? 確かめたまえ」

 

 侮るようなリボンズ・アルマークの声を追って、荘厳とも言える装飾が施された室内を手鏡越しに伺う。

 恐らくガラス張りの床下にある、青白く輝き最も目を引く球体がヴェーダの本体、メインターミナル。これほどのサイズならば持ち出すのであればマシンは必須だろうと思い直す。

 そして、机のような何かの傍らには二つの人影。

 片方はフォン・スパーク。施設内に空気が満たされているせいか、ヘルメットを脱いでいるため一目でわかる。確かにホルスターにも拳銃がなく、周辺を見ると銃はかなり離れた中空を漂っているようだった。

 

 ――――両手を上げるもう片方の人間を視認した時、ユリウスはその存在が信じられなかった。

 

……パスレル……!?

「これには事情があるのさ」

 

 頭の天辺から黄緑色に染まる茶髪。強い癖毛。ウルフカットと短いポニーテール。やけどに傷だらけの顔。全て、紛れもなく。

 脳量子波が活性化している証、光彩を輝かせるパスレル・メイラントの身体で、リボンズ・アルマークが語っている。

 

「練習台の身体を借りていてね。まったく彼女には感謝しかないよ」

 

 ――――思わず、ユリウスはその室内へ躍り出た。




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