ガンダム00世界で留美やネーナやコーラサワーとイチャイチャしながら生きる   作:トン川キン児

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どんだけ辛くても立ち止まっちゃいられない

 あれから1ヶ月以上経って、軍人でなくなってからは1週間過ぎた。

 ……そのこと以外にこの1ヶ月、何をして何が起こったかほとんど思い出せない。というより、思い出さなくてもいいようなことぐらいしかしていない。

 覚えていることといえば……交戦許可の出ていた別働隊との同士討ちは仕方ないとしても、僚機を中破させたことについて軍法会議にかけられたことぐらい。錯乱状態にあったとか現場の混乱の規模が大きかったとかで、軽い罰則を受けただけで終わった。

 そのうち病状が回復していないとして依病除隊を勧められ、俺はそれを受け入れた。それだけのことだった。

 エミリオを殺してしまったことはわかってる。

 起きたことはどうしようもないし受け入れるしかないと、頭の中では思ってる。

 だが俺が信じられなかったのは自分自身のその後の行動だ、あれはどういうことなんだ? ほとんど覚えていない、そもそも自分にあんな操縦技術があったなんて考えられない。

 だけどただ一つ覚えている、恐怖と敵だけがくっきりと記憶に残っている。あの時友人を殺したこと以上に、俺は死を恐れていた……俺の心の中でいったい何が起きたんだ? それを考えると、リーサが除隊したのと同じようにとても軍隊を続けられそうになかった。

 他ならぬ俺が、もう一度あの時のようなことを起こしてしまいそうで。

 それでも行かなけりゃいけないと思って、なけなしの根性を振り絞ってここに来た。俺が殺した仲間たちと、エミリオの眠る墓地へ。

 

「…………!!」

 

 ……向き合わなきゃいけないことぐらいわかってるのに、足がすくむ。

 情けない男だ、覚悟のない男だ。でもこうなっちゃうんだよ、いくら頭でわかっても……!!

 

「ここに来ると思っていた」

 

 よく知っている声が、優しくも鋭く後ろから語り掛けてきた。

 ……知っていて当たり前さ。だってあんたは、少し前まで俺の上司だった人だ。

 

「……俺に何の用ですか」

「話がある、少し付き合え。断る理由もないだろう」

「え?」

 

 なんなんだそれ、今さら俺と何を話そうってんだ。

 ……だが言う通りではある。俺は今や何もやるべきことのない暇人だ、断れるだけの理由も持ち合わせていないし断ってどうなるわけでもない。

 

「……わかりましたよ」

「では乗れ」

 

 いきなり訪ねてきて付き合え、って。こういう一面もある人なのか……。

 

 

 

 

 

 

「ここひと月の間、ずっとあの事件を調べていた」

 

 車に乗ってからの一言目がこれだったので、この人が突然やってきた理由を俺はすぐに察した。

 リーサと違って心に深い傷を負ったってわけじゃない、でもマネキン中佐だってあの事件の当事者だ。この人はこの人なりに、自分で決着を付けたいと思って俺を訪ねてきたのか。

 

「お前やクジョウの名誉を守りたいというのもあるが、自分の不始末は自分でカタをつけたいと思うのが当然だろう?」

「……それはそうです」

「不自然な点が多かったとは思わんか」

 

 ……それは、思う。友軍の識別信号を出している相手に、普通はあんなに早く射撃できるわけがない。火器にはロックがかかるし、ロックを解除しようとしてもためらうはずだ。交戦許可が下りてない、処罰されるかもしれない、何より仲間を撃ちたくないとか。

 いくら勝ち気があったからって、どうしてああもなるのか。元々の歴史がそうだからと思い込んでいたが、この言いよう、まさか……?

 

「撃墜されたクジョウの部隊のヘリオンには、直前の整備チェックリストと辻褄の合わない機体が三機はあった。万全のはずの識別装置に異常をきたし、三機中二機は許可を待たず最も早く交戦を開始したのが司令部との通信記録に残っている」

「……待ってくださいよ。それって」

「少なくとも、同士討ちの形で作戦を失敗に導こうとした人間がいた可能性を無視できん」

 

 ……ただの事故じゃ、なかったって。いったい誰が、どこのどいつが。

 そいつの企てがエミリオを殺し、リーサを絶望の淵に突き落として……こんなのが原作の裏側だっていうのか!? いったい何のためにそんな……!!

 

「……目星ぐらいついてるんですよね、誰がやったのか!」

「人革連の息がかかった者がいないかどうかは徹底的に調べたが、その線ではない。かと言ってこの件でユニオンは利しない。であれば……身内の、企てと思うほかないな」

 

 身内って、AEU軍の人間って事かよ。同軍の仲間を殺すなんてそれこそなんで……。

 ……だが、心当たりはある。除隊する前のリーサはこうも言われていた、「君たちは優秀過ぎたのだ」なんて皮肉めいたことを。

 

「そもそも私とクジョウを連携させず競わせるようにさせたのにも何かを感じて止まん。お前やクジョウ、それを推した司令が失脚して喜ぶのは誰か……そうも勘繰ってしまう」

「歪んでますよ、そんな国は!!」

「だが勘繰りでしかないのも事実だ。証拠が少なすぎる」

 

 戦う兵士たちの命を、命とも思ってないようなことをやる奴。そんな奴が本当にいるのか。

 これが……世界の歪みなのか。いつか対峙しなければならなかった、最悪の敵。

 

 運転席のマネキン中佐は、揺れる俺の心情を汲み取ったようにため息をついてこう続けた。

 

「……戦術指揮だけならまだしも軍の内部で駆け引きなどやりたくなかったが、階級がこうも高くなると無関係でもいられんらしい」

「駆け引き? 中佐が政治をやるんですか」

「地位が高まればできることも増える。証拠を掴んで必ず作戦の首謀者を引きずり出す……お前に約束しよう、ユリウス・レイヴォネン」

「それは……」

「心が休まったら戻ってくればいい」

 

 ……凄い人だ、マネキン中佐は。

 そんなことをすれば立場も危うくなるだろうし、自分だって少なからずショックだろうに。俺たちのためってだけじゃないんだろうけど、ただ一度中隊長を請け負っただけの俺にこんなことを約束するなんて。

 だけど、それだけはもうできないんだ。俺はもう軍に戻るつもりはない。

 

「復隊はしません」

「……自分が恐ろしいか」

 

 天才予報士の読みは恐ろしいというべきか、中佐は俺の懸念までバッサリと当ててしまった。

 

「……語ってもいいんですかね」

「構わんよ」

 

 ……そこまでわかってるなら、いいって言うなら。そう思って、俺は呟くように話し始めた。

 

「……エミリオ・リビシを、リーサの恋人を殺してしまったとわかった瞬間、俺には何かが起きて。何かはわからないけど、とにかく俺は自分が死ぬのが怖かったんです」

「死への恐怖、か……」

 

 バックミラーをちらっと覗くと、マネキン中佐が眉をひそめたのがわかった。

 

「あの事故は確かに仕組まれてたのかもしれないけど、結局引き金を引いたのは俺なんです。自分かわいさに味方を殺して……そういう奴って、軍隊にいちゃいけないんですよ」

「――それは甘えだな」

「……なっ、ええ!?」

 

 甘えと言ったのか。何が、俺のどういう所が甘ったれだと言いたいんだ!?

 中佐にわかるってのか。死ぬ運命を背負った男だとずっと前から知っていたのに、結局何もできなかった俺の気持ちが!

 

「軍人として敵を撃っただけのこと、生きている人間として正しく生き残ろうとしただけのこと。ではユリウス、お前の何が間違っているというんだ?」

「でも俺は!」

「防げなかった無力感、ともがらを殺す罪悪感は知っているつもりだ……お前と同じ当事者だからな。だがお前はそれに甘えて、正しいモノの見方をなくしている」

 

 ……だって、無力を嘆いちゃダメかよ。罪悪感に潰されそうじゃいけないのかよ。それを甘えって言われたら、俺はもうどうすればいいんだよ。

 

「……お前の音声記録を聞いた。あれを自分自身恐れるのも無理はない、誰しも獣性を持ち合わせてはいるが、お前のそれはいっとう強いらしいな」

「獣……」

 

 出撃の前の自己暗示を思い出した。俺は動物で、動物は……迷わない。迷わず生き残る。

 こいつがあるからこそ、元々殺しなんかと無縁の俺が非情を以って今までを戦えた。

 だからなんだろうか? 無意識のうちに、俺はそういう戦うためのものを自分の身体にすっかり覚え込ませてしまっていたんだろうか。そいつが殺さなくていい仲間まで殺してしまった。

 心を殺して敵を撃たなきゃ、もうあの時を生き残れなかったから。

 

「だがお前はなんだ」

「……俺は、人間です」

「それなら獣に首輪をはめてみせろ。甘えたまま曇ってる眼では獣の強さもわかるまい、だから甘えるなと言っているんだ」

 

 だとしたら。俺自身の目的のために世界の歪みと立ち向かうより、先に俺が向き合わなければいけないのは……マネキン中佐の言う通り、自分自身だ。

 俺はこれから命を落とす人たちを知っている、諦められない人たちがいる。俺の身体に染み込んだそいつがその妨げになるっていうのなら、俺には潰れている暇なんてない。

 まだ何も始まってすらいないんだ、こんなところで沈めない。

 

「……甘えませんよ。やってみます」

「復隊するなら口添えをしてやるが」

「それもしません」

 

 AEUの上層部が全員信用できないってわけじゃない。けど、俺はもう軍人として誇りを持って戦うなんてことはできそうにもない。だいたい復隊の許可が降りる経緯でもなさそうだ。

 それに俺はソレスタルビーイングに入るために軍人をやってきた。だが今、俺自身のことを済ませない限り例え誘われたとしても行くことはできない。

 きっと俺は二度と兵士には戻らないだろう、かといって戦うのを止める訳にもいかない。戦いに反応する身体だというなら、戦いの中でしか乗りこなすことはできないだろう。

 だったら、俺が行くべき道とは……。

 

「……ありがとうございます、なんか」

「お前のことはついでだ。自惚れるんじゃない」

「それでもですよ。『鉄の女』なんて言われる割に、優しいんだなって」

「勝手に言い出されたことだぞ、あれは。私は部下思いで通っている方だ」

 

 ……すごい人だ、中佐は。俺なんかとは比べものにならない程の重責を背負って今まで戦ってきたはずだ、だからこうも俺を正確に言い当てられる。

 あいつが将来惚れこむのがよくわかる。

 しかし、そんな人がなんで俺の所に来たんだろう。というか俺、エミリオの墓参りに行かなきゃいけなかったのにこの車はどこに向かってるんだ?

 

「ついでって言いますけど、この車どこに向かってるんですか?」

「クジョウの所に行く」

「……はい!?」

 

 …………そ、そうくるか……!!

 

「乗ったからにはお前も来い」

「いや! 俺、まだ心の準備が……」

「清算したいならいい機会だろう……ところでお前の持っているそれは何だ。割と上等そうだが」

「……ああ、これ。エミリオの――」

 

 ――そう、か。確かにいい機会かもしれない。

 こいつこそ、今のリーサが立ち直るには必要なの、かも。

 

 

 

 

 

 

「……リーサ」

「ユリウス、くん……!? か、カティまでっ」

「クジョウ、それは……」

 

 インターホンを三度押してようやく出てきたリーサの姿は、明らかにやつれていた。よく眠れていないのか目じりにはうっすらと隈ができていて、声質もどことなく頼りない。

 それに、床に転がっているたくさんの酒瓶……いつあんな酷いハマり方をするのかと思っていたけど、やっぱりこの事件が引き金になってしまったのか。

 

「カティ、私を……連れ戻しに来たの? 無理よ!! もう戦いなんてっ」

「……今の生活については後だ。私は付き添いになった」

「付き添いって……ユリウス君?」

「予定とは違うが、私の話はこいつの後にさせてもらう」

 

 あの一件以来リーサとは口を利いていない。本当なら俺は殺される程憎まれてもおかしくないはずなのに、そうしないのはきっとリーサも自分が殺してしまったものだと思って……。

 ……エミリオに手をかけてしまった俺なんかにどれほど彼女の心の痛みを和らげられるのかわからない。けど、伝えるべきことを伝えるしかない。

 

「…………謝ってもどうしようもない。それでも、エミリオの事を」

「もうやめてよ……! あれは私のミスなの、それでいいの。謝るより思い出させないで! 出ていってよ、お願い……!」

「君をそんな風にしたのも俺のせいだ。でも帰る前に一つだけ聞いてくれ。あいつの遺言だ」

「……エミリオの、遺言?」

 

 そう言って、俺は持っていた酒瓶を手渡す。

 

「これ、あいつから俺に持っといてくれって言われてた。リーサが初めてお酒飲む気になったら、優しめのこれから薦めたい……ってさ。自分の部屋じゃバレそうだから、ユリウスの部屋にしまっといてくれないか……って」

「……そんな」

「ホントは墓参りの時エミリオに返そうと思ったけど、やっぱリーサに渡した方がいいと思った。もし生きてたら、リーサに空けて欲しいって言うと思って、さ……」

 

 ……言い終わると、リーサはボトルを抱えたまま膝から崩れ落ちてうずくまったまま泣いた。

 二回分だけ長く生きた俺でも、これ以上の悲痛な声を知らなかった。

 

「エミリオ……!! ごめんなさいっ、わたしっ、エミリオぉぉ……!!」

 

 何も言えない。ただ、これで少しでもエミリオの魂が浮かばれることと、リーサの苦しみが安らぐことを祈ることぐらいしかできなかった。

 俺の後ろに立っていたマネキン中佐も、神妙な面持ちでそれを見守っていた。ひとしきりリーサが泣き終わったあと、マネキン中佐が先んじて口を開いた。

 うずくまるリーサに合わせてしゃがみこみ、肩を掴んで語りかけたそれは、今まで聞いた中で一番優し気な中佐の声だった。

 

「……リーサ。今は考えたくないのもわかってる、でも覚えておいて」

「……ぐずっ、カティ……!」

「戦術予報士による戦争の早期決着、被害の抑止。私の理念にまだ賛同してくれるというなら、いつだってもう一度貴方を受け入れる。貴方の居場所を作っておく」

「う゛んっ」

「決心が付くまでは無理せず戦いから距離を置きなさい。まだそれが必要なのよ」

「……ありがとう、カティっ」

「さよなら、リーサ。次に会う時は、また味方としてなら嬉しいわ」

 

 ……そう言い残して、マネキン中佐は部屋をあとにした。

 リーサは少しだけど瞳に光を取り戻したし、俺も、伝えるべきことは伝えた。ここにいる理由はもう無いはずだ、俺も……。

 

「……待って、ユリウス君」

「え」

「ひとりでなんて、空けられないわ。少しでいいから付き合ってよ……」

「でもそれは、エミリオがリーサに」

「……彼が、あなたに伝えたかったかもしれない言葉もあるの。飲みながら話すから」

 

 ――エミリオから、俺に?

 

 

 

 

 

 

「あなたはコクピットで気絶したまま帰投したから知らないと思うけど、エミリオは生きてたの」

 

 小さなテーブルを挟み、グラスを持って向かい合う俺とリーサ。いつ切り出すのかと俺が身構えつつ飲んでいると、ボトルの中身が底をつこうかというところでようやく口を開いた。

 生きていた、のか。あいつだってそれなりに腕の立つパイロットだ。確かに爆発はしていなかったし、反撃が決まり切る前に俺の狙いを逸らしていたんだろうか。

 

「でも、失血がひどくて再生治療も行えずに……だから、今わの際に私に言葉をくれた」

「どんな」

「『かの為に生まれ、かの為に死す。それを運命と言うなら』」

「……抗うこと叶わず」

 

 ――見えない道を旅し、行きつく先にあるものは命の終焉、それこそが神の導き。

 もうソラでも言える。AEUのパイロットなら知らない奴はいない、名誉の戦死を遂げた者へ捧げるお決まりの弔辞。それならきっと向けたのは俺じゃない、リーサへの慰めだろう。

 

「いいえ、こう言ったわ……『それを運命と言うなら、生きてこそ抗いと知る』」

「え……」

「『見えない道を歩くとも、その()きがかりに拾うもの。それは……」

「……それは?」

「これ以上言わなかったのか、言えなかったのかわからない。けど、これは私だけにじゃない」

 

 あなたの事も言っているとしか思えない。と、リーサは言葉を締めくくった。

 知っているようで見えない運命の流れの中で、生きて抗ってこそ拾える何か。これはまるで……だが、エミリオは俺が二度目の人生をやっているなんてことを知ってるわけがない。だけど偶然の一致にしても、あまりにも俺を知っている気がした。

 それよりも……だから、俺を赦してくれるというのか? 生きてこそ、何かを拾えるから。

 最後の節が抜け落ちてるのは、俺に補えと言っているのか。

 そんなの都合よく捉えすぎて……まさか、そんな、でも……。

 

「……エミリオ」

 

 あいつと戦ってきた今までを思い出し、自然と涙が零れた。

 二度とこんな涙を流したくない。

 そのためにはやっぱり、辛いからって立ち止まっちゃいられない……。

 

「……ねぇ。これからどうするの?」

「戦う。エミリオの二の舞になる奴がいなくなるまで」

 

 それこそが、まだ見ぬあの二人を救うという一番の目的にもつながるから――と、後に続く言葉だけは伏せて、グラスの中身を一気に飲み干し俺はそう言った。

 皮肉なものだ。エミリオが逝ってしまったことで、俺もようやく戦争根絶なんて理念が生まれる理由を……この世界を本当の意味で実感できるようになった気がする。

 リーサもこれからそうなっていくんだろう、俺と同じように。だったら、もう俺がここにいるのは邪魔でしかない。

 

「俺はもう行くよ。ボトル、分けてくれてありがとう」

「行くって、どこにあてがあるの?」

「自分で探すさ。リーサもそうだろう」

「……そう、ね。また会えるといいわね」

 

 これからはお互い、違う道を歩むことになる。

 でも、いつかはまた道が交わる日も来る……そう信じて、俺は玄関を閉めて歩き出した。

 

(私にはあてがある。ソレスタルビーイング……信じてみる?)

 

 その日は、きっと近いはずだ。

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