ガンダム00世界で留美やネーナやコーラサワーとイチャイチャしながら生きる 作:トン川キン児
「パスレルを……どうした」
「どう、とは? どうもこうもないけどね。言っただろう、身体は借りているだけだ」
その脳天をユリウスの銃が捉える間も、自らをリボンズ・アルマークと嘯くパスレル・メイラントの肉体は、その尊大かつ不遜なる態度を決して崩さない。
余裕の表れを示す雄弁の矛先は、様子のおかしい旧知を見る目が据わっているユリウスのカバーとしてフォンに銃口を向ける留美にも向いた。
「それにしても王留美……ここまで来るとはね。どうやら本当に何かが変わったらしい」
「貴女こそ随分とお変わりなさって。私は
「そういう例え方をされると、高度な科学は……などという陳腐な表現が生き残るのも頷けるな」
例え変革を迎え始めているとしても、自らに留まり続ける美などに固執する旧態依然としたその気質はまだ変わっていないのではないのか、という嘲りを含んだ返し。だが、今の留美はそれに動じることもなかった。
いかなる感情を抱いてか、ふ、と小さく笑って、再びリボンズは語り始める。
「彼女の人格は生きているよ。でなければ、X領域を開いている彼女を許しなしに脳量子波によってどうこうするなどできない。正直、こんな腕も付いてない女性型の器はまだ居心地が悪いしね」
語ったそれは、リボンズにとっては単なる事実でしかなかった。
Xラウンダーであるパスレルは、自らの意思によって脳量子波通信を遮断可能。であれば、今この状態を良しとしていなければ、リボンズは彼女の身体を借り受けることなどできていない。
戦闘型に調整されてもいなければ、自認すら異なる性別の肉体を使うなど正直な所リボンズにとっては不快でしかない。そのお陰で以前の肉体との応答速度の差に先程は苦しめられた上、右腕はそもそも肉体ですらないとくるものだから、まるで感覚が異なる。
それらを全て脇に置いておけるほどに、X領域を使うことのできるこれまでとは全く異なる感覚、異なる進化を遂げた人類の体験というのは、リボンズにとって抗いがたい魅力であった。
言うなれば
今ここにいる理由は、それだけのことである。
「そんな証拠がどこにある」
……頑迷というよりは、そもそもとして自分たちが脳量子波によって通信を行うことも理解していなかったのだったか、とユリウスに対してため息をつくリボンズ。
実際にはユリウスの方は、本来知り得ない知識によってそれを
やりたくはなかったが、そろそろ抑えもきかないことだし……と思い直す。
「はあ……じゃあ、見せようか……」
「えぇ? オイ出すな出すなアレは」
脳量子波通信を一度受け入れてくれれば、上位権限によってある程度は抑えることのできるパスレルの人格の表出。
だが、かの男、ユリウス・レイヴォネンを目の前にしてX領域の活性化がより高まりつつある現状では、それもいよいよ限度があるとリボンズには感じられてきている。
故に、解き放つ。フォン・スパークすら対面を躊躇われる
リボンズが輝かせる虹彩の光が消え、パスレルに引き渡された瞬間――――。
「おい!!!! ユリウス!!!! 聞けよこいつマジ終わっててぇ~~~~!!!!」
――――静寂と緊張の空間が、恐るべきやかましさに満ち溢れた。
「女の身体慣れてないとか言ってよォ~~~~!! あたしの服だぞ!? ひっかけやがってよ~~~~コイツ~~~~!!!!!!」
ユリウス・レイヴォネンは、呆然と銃口を下げる。
王留美は、思わず利き手ではない方で耳を塞ぐ。
フォン・スパークは、諦観に顔を覆い天を仰ぐ。
「ガキでもズボンぐらい脱いでからじょちっこできッ゛ッ゛ッ゛ッ゛」
一度檻から解き放ったことを深く後悔したリボンズ・アルマークが、再び虹彩を輝かせどうにかこうにかパスレルを内に抑え込んだ後も、その場の雰囲気は呆気に取られたままであった。
「君が見たいと言いだしたのだからな」
「……本当に申し訳ないと思う」
「話の腰が折れっからもう出すんじゃねェぞ」
「どうも保証はできなさそうだ……」
さしものユリウスですらリボンズを前に平謝りをするほかなく、フォンからは釘を刺される。
しかし、先にも言った通りに話を進めようにもいつ勝手に出てこようとおかしくはない状態。リボンズのその言葉に、室内の面々は緊張を隠せぬままにいる。
「事実でしたの?」
「最初は慣れないし気づかなくてね……知識はあったがこうまで緩いと思わないだろう」
ああ……と納得の声を漏らす留美。形は違えどまさかこのような場所で同じ女性としての同情心を使う羽目になるとは、露ほどにも思っていなかったが。
「もうその辺りはいいかい? 本題に移りたいのだが」
切実を感じさせるリボンズの言葉に、思わず"おう……"という生返事をユリウスは返した。
「君たちのお目当てがコレだというのは承知しているよ。僕の計画のうちだ」
「お互い利用されていたそうだぜ。あげゃ」
リボンズが指差す先は、床面。
分厚い複層強化ガラス張りの向こうにある、球状のマシン。
無線通電によって青白く発光するそれは紛れもなく、量子型演算処理システム・ヴェーダのメインターミナル。
しかしヴェーダとは単一のコンピュータに非ず、現在に至るまで製造されたあらゆるコンピュータに分散配置されたネットワーク上の存在が故に、このメインターミナルの掌握をもってしてもその全てを支配できるわけではない。
さりとて、このメインターミナルが西暦において史上最も優れた演算装置であること、ネットワークの中心として相応しいマシンであることにも変わりはなく。
故に、メインターミナルまで到達し管理者権限を得た上でこれの主導権を握れているか否かは、依然として極めて重要なのである。
「こいつを奪い返しにきたとわかっていて遊んでいられたのか? 大した余裕だ」
「それはそうだ。なぜならばヴェーダの主機能は、既に僕の用意した同機種の第二演算装置へとすぐにでも移す用意ができているのだから、君たちがここに来た意味はない」
ユリウスにはリボンズの言葉を確かだと思える根拠がある。なぜなら、ヴェーダの本体は今から3年後までにはこことは異なる場所に移っていることが
可能性としては考えていたが、やはり無駄足に終わるのかという失望が去来する中、留美はそれとは異なる視点を持っていた。
「いいえ? 得る物は多いかもしれませんわよ」
――――構えた拳銃から乾いた音と共に飛び出した音速の弾丸が、フォンの頭をかすめる。
「貴方がた二人の始末ですとか」
「……あげゃげゃげゃ!! テメェ、吹っ切れやがって!!」
「改善のご指摘も頂いてましたもの。ねえ、ミスター・ロバークJr様?」
命を奪われかけたにも関わらず、変わらずのフォンの弾ける笑いはむしろそれを歓迎しているようにも聞こえる。
ネーナ伝いに情報として聞いていたフォンの本名を煽り立てるためあえて呼び、ミステリアスに、しかし蠱惑的に不敵に微笑む留美を、今やユリウスはフォン共々計りかねている。
「そちら様も、私にはあなた方に私怨があるとは承知でしょう?」
「我々の不義理だったからね。ハハハハ」
ただ一点、リボンズに向けたこの言葉が如く、プライドの高さが故に裏切りめいた不意打ちを自らに向けたイノベイターへ灸を据えたいというプリミティブな感情が信頼に値する。
しかしなぜか、その感情の発露に見えるものさえ今の彼女にとっては表層に過ぎないのでは、という疑念がよぎる……。
「だがそれはいけないね。パスレルは僕にはまだ必要だから、より長い時間を要することになるだろうけどもセカンドプランを取って君たちを全滅させることになる」
「……やはりまだ戦力が」
「部下を待たせていてね。だから、君たちの選択肢は二つ。彼女を殺しその後の道を閉ざすか、僕の計画に沿って這々手ぶらで帰ッ」
想像通りにイノベイター側にはまだ戦力があり、例えば今から3年後に襲い来るような面子がやってきたのでは現状の戦力ではひとたまりもない。
用事は済んだ今となっては、見逃してもらえるのは自分がまだ遊び気分のうちだけだ、と。完全に侮られつつ暗にそう言われている……。
……そんなところで、また虹彩の輝きが消え失せて意識がパスレルに切り替わる。
「えっ死ぬのあたし!? ほらお前帰った帰った! 終わり! デスインビテーション部門終わり!」
「……別にお前個人としては死にたくねえんだな」
「たりめーだろ馬鹿!! ほらもう残留思念で目ェビチビチってなってっから早よ行けよ! もうねひたすら助けてほしいただその一心で」
我が身大事を全力で主張し終えると、虹彩の輝きから再び主導権が戻った証を示してリボンズが語り始める。その辺りはまるで何事もなかったかのように。
「ひとつ条件があってね。君をここに招いた理由……是非立ち会って頂きたいものがあるのさ」
「お前……アレを何事もなかったかのように流せるの手馴れてるよな」
「学んだよ……そうでもしないと彼女と会話が成立しないだろう」
「………………うん……そうだな……」
……留美に続いて、リボンズとの間に不覚にも芽生える謎の親近感。
同じ類人猿を押し付けられて同じ対応に至るのを見ると、お互い同じ苦労を共有しているものだなと思えてしまう。決して分かり合えぬ存在であるとしても、同じ体験を共有したという意識は多少なりとも連帯を作るものだとユリウスは身を以って知った。
それはそれと割り切ることができるのも、またユリウス・レイヴォネンではあるが。
「俺に何をさせようっていうんだ」
「極めて簡単なことさ。そのパネルでDNA認証を用いヴェーダへ、メインターミナルへとアクセスしてくれればいい」
リボンズが招き入れるように指す先は、その傍らにあるピアノの鍵盤型のような操作パネル。
エージェントはその生体情報の全てをヴェーダへと登録され紐づけられており、状況に応じて様々な方法でアクセスが可能である。
ソレスタルビーイングにおいて最も多く使われるのは、西暦2309年時点で巨大すぎる装置を必要とせずガンダムのコクピット内にも電装を圧迫せず搭載可能、かつ極めて高い精度を誇る虹彩及び網膜認証。
しかし、今回リボンズはわざわざDNAによる認証でのアクセスを要求している。そもそもこのパネルはDNA認証を可能とするのか、一体ただアクセスするだけの行為がリボンズにとって何の意味をもたらすのかという疑問もある、が。
「……結局のところ貴様の優位の口約束にしかすぎんなんてのは百も承知だが、これをやれば、誰一人にも攻撃をさせず俺たちをこの場から逃がす。それでいいのか」
「ああ。君たちの存在はまだ計画を早めるのには必要だからね」
リボンズが自分たちを見逃すのは、ユリウスの見立て上は統一政府の構築、己の主導する形の恒久和平実現の為にその必要性を示す存在。ある程度継続的に存在する、仮想敵が必要となるからにすぎない。
だがいろいろと考えてみても、結局の所この場は奴の掌の上。
「カバーはしてくれ」
「……はい」
隣にいるフォン・スパーク共々何を考えているのかはわからないが、様子を伺う他ないと思いつつ、親指の腹に唾液を貯めて鍵盤型パネルの光る場所へと擦り込む。
その間は油断なく両者を見据えて銃を構える留美だったが、次の瞬間、その異様な雰囲気へと変わる室内の様相を目にして表情は驚きに染まる。
「な、何が……!?」
「あげゃ。出るもんが出るな」
今なお絶え間なく続く演算結果を映し続ける、壁面沿いに並ぶホログラム上の画面が真っ赤なノイズで埋まり染め上げられる。
「考えてもみろよ、オッサン……」
4人のいる、鍵盤型パネルのさらに奥。
ひび割れた棺のようなものが、エアロックの音と共に床へとしまい込まれる。
「200年も前から、人造人間だの、脳量子波だのの雛形を作ってたジジイが、本気でテメエの生身ひとつが200年後に残っていくもんだと思い込んでたってか?」
ホログラムが、そこへ一つの人物像を形作る。
「バックアップだのがあって然るべきだろうなァ。そこの大物さんみてえに、テメエを転写するための人格データを誰も触れねえようなとこへ置いといたり……ってな。あげゃげゃげゃげゃ!!」
『この場にその力を持って現れたということは、私の選んだ進化の筋道が険しくなりつつあるようだ……』
ホログラムで形成された椅子から、まるで生あるもののように立ち上がってみせる。
髪の禿げた頭。強面と口から顎まで繋がる髭。フォーマルな出で立ち。杖持て歩くその風体。
――――その場に現れたのは、紛れもなく、イオリア・シュヘンベルグ。
私設武装組織ソレスタルビーイングの創設者。200年前を生きた、天才科学者だった。
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