ガンダム00世界で留美やネーナやコーラサワーとイチャイチャしながら生きる 作:トン川キン児
「……あ、あんた……イオリア・シュヘンベルグ……!?」
『定義による。私個人の自認を述べるのであれば、確かに君の所属する私設武装組織ソレスタルビーイングの創設者、イオリア・シュヘンベルグである』
「な……!」
『そして君は、ガンダムマイスターのマグナス・アルハンゲル。X領域を開いてしまった人間』
破綻の無い応答を返している。即ち、これは今までこの老人を主立って見かける手段であった録画映像などとは一線を画する。
それだけでも驚愕しかないというのに、己の通り名まで知られているとくれば、ユリウスはその開いた口が塞がることがしばらくなかった。
留美も同様にその眼を見開きっぱなしのままで固まっていたが、眼を向けなければいけない対象がイオリアの方へ歩みだしたのを見て、不覚にも心を奪われたことを恥じつつ銃口をそちらへ向け直す。
「見立て通りか。僕らは認識されなかったわけだ」
そう呟きつつ歩みを進めたのは、リボンズ・アルマーク。
パスレルを傍らに置くことに成功して以後、彼の脳裏にはヴェーダの在り方に対し疑問に思う点が表れ始める。そしてフォン・スパークも、同様の疑問を持ち続けていた。
ヴェーダの判断方針は運用開始時の約200年前より、一貫して変わらない。
イオリア計画におけるイオリア・シュヘンベルグの理想、価値観といった判断基準を可能な限り優先した演算結果を弾き出し、それに沿った計画をソレスタルビーイングに実行させていくこと、ただ一点のみ。
しかし、建造より2世紀が経ち凡そ世界はイオリアの予測の範疇で推移していったとはいえ、そこには多くのうねりがあり、同時にヴェーダそのものもイオリアではない他人の手により都度最新鋭技術を取り入れヴァージョンアップした。
加えて完全なる意図通りの運用は不可能と承知の上であっても、人類社会に潜むイノベイドらなどを通し、可能な限り人間を理解させるため、時代が進むごとに変化が見られたと判断された人類種の価値観をアップデートさせている。
その変遷の中で、果たしてヴェーダに刷り込まれている約200年前のイオリア・シュヘンベルグの理想と価値観は、計画を完遂するまでにその原型を保っていられるのだろうか……?
……答えは否である。理想や価値観といったもの自体が現状との対峙を経ることでそれに合わせて変わっていく以上、約200年前の理想が、その細部に至るまで現在に対する理想であることなどありえない。
細かな点はその都度修正していくほかない。しかし、ここで問題が生じる。
イオリア・シュヘンベルグは極端な完璧主義者でないとはいえ、他者によって己の理想という計画の指針を修正されることを、果たして良しとするのだろうか?
2世紀後の未来に己の理想の結実を打ち立てようという男が、それを許さないというのであれば、ひとつだけこのジレンマを解消する方法がある。
計画の完遂までの間、己自身が己の理想と価値観を修正し続けることだ。
どのようにしてか。
即ち、目の前の
だからこそ、リボンズ・アルマークとフォン・スパークという両者は、ヴェーダに未だイオリア・シュヘンベルグ自身の人格が宿っている可能性が極めて高いという結論に至った。
"通電状態のメインターミナル"に、ヴェーダがレベル7の権限保持者にさえ存在を秘匿する存在である"Xラウンダーによるアクセス"があった場合、必ずヴェーダは何らかのアクションを返すはずであると期待し、パスレルにも以前リボンズはそうさせていた。
が、リボンズの期待に沿う事象は何一つ起こらなかった。しかし血中のナノマシン濃度によって"イノベイドによるアクセス"であることが先に判断されるのではないかと推測を立てたリボンズは、今回の陰謀を企て実行した。
唯一確認できる純粋な人類から現れたXラウンダー、ユリウス・レイヴォネンをここへ連れ出しアクセスさせることを。
「やっぱり覗き見てやがったわけか」
その事実はフォンにも望む所であった。己の利と、純粋な知的好奇心が故に。
これまでにおいてもメインターミナルが更新される度に、そこへどのような権限を以てしても干渉不可能なイオリア・シュヘンベルグの意思が宿っていたのだとすれば、全てのデータを移動され抜け殻となったとしても通電さえされれば再び移動後のメインターミナルと同じデータが必ずアップロードされ続ける。
なぜならば。干渉不可能である以上、削除も不可能のまま旧メインターミナルに宿るイオリアが、自らの計画の推移を見守るために情報を得続けなければならないのだから。
たとえそのアテが外れたとしても、残される抜け殻は西暦史上最優の演算装置。己自身のヴェーダを作ることとて、不可能ではない。
だからこそ、例えリボンズ・アルマークがヴェーダの本体を移動したとしても、ここに残る"旧ヴェーダ"とも言える球状コンピュータには計り知れない価値があると断じて今回の作戦を決行したのだ。
加えて、被造物と創造主の200年越しの対面。
はたして、世にこれほど見ものと言える出会いがあろうか?
『君をマイスターに推奨したのは失敗だったように思える』
「こりゃキツい言葉を貰っちまったなァ」
頭をボリボリと掻きながらそれを聞くフォンは、偉人からの辛辣な評価をもまるで意にも介していない様子を隠さない。
『そして、パスレル・メイ……』
「僕ねぇ!! 森の音楽隊!!」
『…………』
「お前ハゲオブザハゲ! あとあたし! 好きなものは!! 木の実ッ゛ッ゛ッ゛」
……リボンズが表出するまで、言葉の体を成しているかも怪しい言葉の数々を、イオリアは一瞬にしてだんまりによって受け流すことを決め込んだ。
イオリア自身の生来からの処世術である。会話が成立し辛い人間とは不和を生まない、広げ強めないために会話自体をしない。
もっとも、この選択が生前一人を除いて友人ができなかった孤独な人生を形作ったということも自分自身承知してはいるが。
「……貴方には一度会っておきたいと思っていました」
『何のために? わかっているのではないかね? ここに存在する私は何の権限も持たない』
ソレスタルビーイングの創設者であるにも関わらず、イオリアがリボンズに対しそう言ってのける理由はただ一つ。それが紛れもない真実であるからに他ならない。
ヴェーダに漂うイオリア・シュヘンベルグの意思には、全ての情報を閲覧すること、及び己の理想や価値観の修正。即ち、ヴェーダの判断基準を大きく損ねない形で適宜変更していくことが可能ではある。
しかし、逆に言えばそれだけなのである。
創設者にして計画の立案者という立場にありながら、彼は自分の意思へヴェーダの情報や決定に干渉する権限を一切持たせず、持つべきはずの裁量を何ら持ち得ず、計画に関するあらゆる情報を持ちながらも、それを第三者へと開示することさえ許されていない。
「それはそうだろうね。貴方の本質はヴェーダと同じだろうから」
『…………そう思えるのかね』
「最近になって気づいた。貴方もまた、"人間を理解している"と言うには自信がないんだろう?」
『……ああ……その通りだ。でなければ、君たちイノベイドは今ここに存在していない』
誤った知性、固定観念と先入観、誤解、不和、戦争。
それらすべてに失望したイオリア・シュヘンベルグは、晩年を誰一人として人間を寄せ付けぬ孤島にて過ごしながらも、一人の親友だけはその場所を知っていた。
人間には戦争を根絶することは不可能だと悟りイノベイドを作り上げながら、人間が運用していく前提のソレスタルビーイングという組織を結成した。
人間への不信を隠そうともせず、しかし人間を信じ続けた。
戦争根絶を願いながら、戦争行為を行わせた。
分かり合わせたいと願いながら、己は誰とも分かり合えなかった。
心の中に渦巻く数々の自己矛盾。それらすべてをその聡明さで自覚しているからこそ、イオリアは自分自身にさえ不信を抱き続け、自らの残滓をヴェーダの中におけるほとんど無意味な存在としか定義しなかったのである。
確実な計画の遂行には、権限を与えるに値しない存在である、と。
「その矛盾のひとつを正したと言いたいがために、僕は貴方に会いたかった」
『……もしや、アレは……』
「貴方は人類の進化を願いながら、その手で別の進化の道を潰していなかったかな?」
ここまでの話を断片的にしか理解できなかったユリウスに、そのリボンズの言葉でひとつのひらめきが起こり、それをそのまま呟く。
「……X領域……?」
スメラギの語った推測。恐らくヴェーダは、X領域に関する詳細に対しその全てを例外処理として秘匿していた。
別の進化の道……それは、GN粒子の普及により人類が純粋種のイノベイターとして覚醒していくことの他にある何か、という意味合いである可能性がここでは極めて高い。
そしてリボンズは言った。その矛盾を正した、と。
「有機ナノマシンの初期理論も貴方の産物だったね。今や世界中に普及していない場所などない」
『私はそのことに対して語る権限を持たない……』
「フフフ……自白しているも同然じゃないか、貴方がXラウンダーの発生を抑制していたと」
イオリア・シュヘンベルグは、自分や、パスレルのような存在が現れるのを計画にとって良しとしてはいなかった。
情報の扱われ方を思えばもしかすると、とユリウスの中にあった疑念が確信に変わる中で、リボンズは言葉を続けていく。
「2世紀もの間更新されていない汎用医療型ナノマシンのブラックボックス。あるのだろう? X領域を委縮させ、能力者の発生を抑制せよという命令が、今なおずっと」
『…………』
「あらゆるコンピュータがはじき出す研究結果を欺瞞し続け、学会での論調までをもご丁寧に誘導した。なんとまあ綺麗に先回りをされているものだ」
『…………』
「だが、それももうすぐ終わりだ」
一方的に語り続けるリボンズと、沈黙を続けるイオリア。
対称的な二人の会話の間で、ユリウスは自分がなぜこの能力を持つに至ったか、その解説を聞きようやく得心がいった。
……自然派というより、ナノマシン嫌悪に狂った元医者の母親のおかげで日常生活での範疇で使用する薬箱の中身、食生活、カフェの客に提供する商品等をナノマシンフリーにするのはもちろん、ワクチン接種等にさえ高額な旧世紀式の不活化ワクチンなどを摂らされたおかげでこのようなことになるとは思ってもみなかった。
幸か不幸か、染髪などにも興味はなく、大病や大怪我もなくこれまでを過ごしてきてしまったので余計にナノマシンの厄介になることもなかったのである。
兄妹共に多感な時期も常に陰謀論に狂い、あげくハイスクールの半ばで単なる疫病で父親共々死んでしまうものだから困った母親だと常々思っていたが、それがある程度的を射ていたと知ったらどんな顔をするのだろうか、と考えてしまうほどに。
「数日前、僕は統一政府下における医療型を含めたナノマシン群の陳腐化の可能性、そして完全な刷新の必要性をヴェーダに提案し、承認された。それが何を意味するかわかるだろう?」
『世に解き放つつもりなのか、Xラウンダーを。あれは確かに個々人を見れば適応という進化の形だ、しかし力を乗りこなす個体が現れるまでに人類全体の理性を委縮させるだけだ』
「可能性を摘み取り……競わせることすらなく滅ぼすなど、愚かだと思わないか」
『可能性を自ら閉じるのだ。あれは
「フェアじゃないんだ。いずれにしても、貴方にできることはもうないのさ」
GN粒子によって革新し、脳量子波を扱う人類。
X領域によって覚醒し、脳量子波を跳ね除ける人類。
リボンズの言葉が真実だとすれば、齎される結果は、自分やパスレルのように脳量子波に対する耐性を持つ人間が世に溢れ始める誰も知らない世界の始まり。
「僕の計画をよく見ていて欲しいな。誰に導かれるまでもない人類の力が解ってくるよ」
そして、その始まりを止めるためにはイノベイターを、リボンズ・アルマークを打倒しなければならないとするなら、現状のソレスタルビーイングにそれを止める方法はない。
ユリウスの知るものとは全く違う世界の始まりが、既に確実なものとなっている。
『……ヴェーダが人間を理解するための端末、イノベイドの本懐。それに、これほどまでに近いというのに。リボンズ・アルマーク……』
「だからだろうさ。人間を理解してしまえば、端末ではいられないのさ」
倒れ込むようにホログラムの椅子へと座り込みながら、イオリアは杖に額を当てて突っ伏す。
現存する最古のイノベイド、リボンズ・アルマーク。
2世紀の時を経て今ここに、彼はイオリアさえも認める最も優秀なイノベイドとして存在する。能力的な意味でも、意義的な意味でも。
そう在りながら、こうまでままならないことをイオリアは嘆くしかなかった。
「あ゛!? おい!! あたしは!? すごいって言え!! あーーーーすごいすごいすごい」
「お前は自分がクリーチャーであることを自覚してほしいマジで」
「あっ!!!!!!」
……しかし、パスレルを捌きながらも一つの疑問がここでユリウスに生じる。
イオリア・シュヘンベルグはこの事態に対し何ら力を持たないとするのなら、一体なぜこのタイミングで現れたというのだろうか?
「……では、イオリア。貴方はいったい、何をしに現れたのかしら」
同じ疑問を抱いた留美の問いかけに対する答えを、イオリアは返す。
『私には最早頼み込むことしかできない。ガンダムマイスター、ユリウス・レイヴォネンには、その力を封じ彼らを止めてくれることを願うだけだ』
Xラウンダーとしての力を封じつつ、戦う。
己の内に枷を嵌めて戦うこと。それは、かつてのユリウスもそうしようとしたことであり、今は……。
「俺は、自分の力を封じることはしません。俺たちが生き残って戦争根絶をやるためにこいつらの企みは阻止しますけれども」
『滅びの道であったとしてもか』
「どいつもこいつも矛盾だらけですけど、そりゃあ消えていい事にはならないと思うんですよね。矛盾してたって人は生きててもいいでしょ。だから、俺もそうします。理由もありますし」
計画に望まれぬ力とわかっていながら、それを使い計画を進める矛盾。
滅びの道を計画に科されながら、それでも今なお計画のために存在し続ける矛盾。
「貴方だって、俺らを何が何でも始末するようなことにはしたくな゛……か゛っ……!!」
「ごめんなさいって言えよ!ねえ」
「オイ!! 痛ェ!! こらカス!!」
イオリア・シュヘンベルグが、この場で力を使わぬよう、広げぬよう頼み込むことしかできないなどということがあるはずがない。
200年前からこれほど周到な計画を用意し、事実上世界を支配していたとさえ言える人間が、この場において打つ手なしということもあろうはずがない。
本当にXラウンダーをこの人類社会から抹消したいのであれば、人生において数多く発生するであろう身体検査の時点でX領域の活性化を検知した人間を、エージェントやイノベイドを使うなりして間引いてしまうことがヴェーダには可能だったはずなのである。
――――許されぬ力だと思いながら、しかしその全てを摘み取りたいとは思わない矛盾。
後ろからパスレルの腕に首を絞められながら手で頬をつねられる有り様であっても、ユリウスはその矛盾が表す意味を汲み取っていた。
『……私は君達の意志に既に託していたな。真の平和を希求する意思に』
「そういうことです! はい! どけテメェ!!」
『では、やはり私は見届け続けるだけだ。また消えることとする』
取っ組み合う二人のXラウンダーを尻目に、イオリアを模したホログラムは一瞬で消え失せた。
……消えると決めれば、何ら言葉を残すようなこともせず一瞬で消える。この遊びの無さが生前に人を寄せ付けなかった理由なのであろうかと、ユリウスは思い。
「お前いくらデスGNスペースハイパーハゲゾンビだからってどけテメェって。やべ~コイツ」
「殺したい!! 殺したい!! 殺したい!!」
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