ガンダム00世界で留美やネーナやコーラサワーとイチャイチャしながら生きる   作:トン川キン児

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野望の炎

 この部屋に入ってから何度目かもわからぬ主導権の入れ替わりによって、リボンズがパスレルの肉体をユリウスから離し"もうね一番助かる"という感謝の言葉がユリウスの口からつい漏れた後。

 同じくヘルメットを着用し始めたリボンズによって、用済みとばかりにメインターミナルの電源、ひいては部屋の電源そのものが徐々に落とされていく。

 ……施設内の電力供給そのものの停止が脳裏によぎった室内の面々は、酸素供給の停止の可能性にも思い至り、すぐさま元通りヘルメットを被る。

 

『月面施設内のデータリンク途絶。パワー供給も停止しています』

 

 エウクレイデスの874から、フォンへの通信。紛れもなくこのヴェーダが完全停止した証拠。

 ユリウスも、それを皮切りにして動きだす。

 

「離脱する!」

(タイムを考えればいずれにせよ、ですか……!)

 

 この場でハッキリした情報は多い。

 ヴェーダを取り返すために取り除く必要がある障害、敵の戦力の程、イノベイター及びリボンズ・アルマークの狙い、予測されるこれからの世界の在り様、イオリアの真意の一片。

 それらすべてを持ち帰ろうとしている、仕留められる敵を目の前にしながら、むざむざ逃がしてくれるというのなら熱くなって立ち向かっていく必要もない。

 いずれ、馬鹿をやったと後悔させてやるだけのこと。

 粒子残量の再チャージまでの予測時間も迫り、ギリギリの脱出行となることを留美が既に悟っているように、生きて帰ろうとするのであれば時間とて惜しいのだから。

 

 ノーマルスーツに備え付けられる展開式小型スラスターを全開に吹かして離脱を図る二人とは対照的に、フォンの動きは鈍い、どころか微動だにしない。

 いつの間にか拾い戻した拳銃を、リボンズへと突きつけたまま。

 

「跳ね返ってくるように投げていただろう。抜け目のない男だ」

「お褒めの言葉を信じて欲しいんならモノを頂かねえとな」

 

 この状況で尚も、リボンズ即ちパスレルの肉体の生存を質に取って要求するものと云えば、フォンにとってはただ一つ。ここへ来た目的そのものに他ならない。

 

「このメインターミナル、貰ってくぜ。大した用事もありゃしねぇだろ?」

「タダでは渡せないな。それに僕を撃てばこの場所ごと君を殺してしまうよ?」

「サル女の肉体が惜しいだろうよ。テメエの身体に戻って力を使える保証があんのか?」

 

 この程度のブラフで怯むような男でもないか、とリボンズは鼻を鳴らした。

 リボンズの肉体とパスレルの肉体。同じ塩基配列パターン0028から生まれたものだとしても、戦闘用と情報収集用の違い、これまでの経験の蓄積の違い。

 何よりも、そこから生まれるX領域の働きの違いが生まれる。

 X領域についても、Xラウンダーについても、ヴェーダは情報を開示することはない。それどころか研究の蓄積そのものが存在しないことすらありえる以上、研究材料としてのパスレルの価値はリボンズにとって未だ健在である。

 

 用無しの抜け殻と、これから脱皮を図る繭の素。

 二つを天秤にかけた上で、渡せと言う相手の事情も鑑みてみれば、それも一興かとリボンズは笑う。

 

「仕方ないな。一番乗りの褒美だ、持っていくがいい」

「そいつぁどうも」

 

 あくまでも施す者、上位者としての振る舞いを一切崩すことなくそう言い残して立ち去るリボンズの背中を、フォンは片時たりとも眼を離さず見送る。

 その銃口と、照準からも。

 チームプトレマイオスやフェレシュテ。ソレスタルビーイングと違い、フォン・スパークは独り。失うものなど命の他に何もない。

 ――――引き金に指をかけ、乾いた音を弾かせる。

 

あっぶね!! バカチンスカイウォーカー!!

 

 弾道から器用に頭を逸らし、距離が離れたとはいえ振り向くことなくかわしてみせるパスレルを見て、フォンはまた弾けるように笑った。

 

「あげゃげゃげゃげゃ!! ホンモノだなァテメェは!!」

「こいつよぉお前!! あっち行けお前敵!! 敵!! 敵!!」

 

 貸すこと自体にはそれほど嫌悪感は持たないものの、身体の宿主であるパスレルからすれば、迷惑を被るばかりの今回の企みには勘弁願いたいとも言っていいことばかりであった。

 ズボンは汚される、墜とされかける、しまいに生身で撃たれかけもする。貸した物を汚して返す者には、二度と貸さないのが当然というもの。

 頭が動いた反動で、くるくると無重力を回りながら室内を後にするパスレルの決断であった。

 その巨大なエアロックの前に、橙色のGN粒子を煌めかせながらもう一機の1.5ガンダムが降り立つ。

 

「リボンズ、1.5ガンダムを壊したのかい? 君ともあろう者が……」

「サンキューナッス! もうね早く帰りたいただその一心で」

「…………!? 脳量子波は、リボンズのものが……」

「こういうことだよ、リジェネ」

 

 モニターに映るバイザー越しに輝く虹彩と、目の前から感じられる脳量子波の質の変化によってリジェネはようやくリボンズの今回の行動の意味を察した。

 ヴェーダが一部のイノベイドの任務遂行に必要と判断した際、その権限によって与えられる能力のひとつが"インストール"。

 同型の塩基配列パターンを持つ肉体へ人格の転写あるいは完全な移動を可能とする他、異型の塩基配列のイノベイドであっても遠隔での操作が可能となる強大無比なる異能。

 かつてこの能力を持つイノベイドはビサイド・ペインのみに限られていたが、この場で成したヴェーダの掌握によってリボンズにもその能力が宿ったという。であれば、その慣らしをしたいと考えるのは自然なことだろうとリジェネは推測した。

 

「イオリアのシステムはやはり脅威なのかい」

「ああ、大したものだ……だが必ずモノにしてみせるさ」

 

 気遣うようにしつつも、内心は冷ややかなリジェネであった。

 統一世界の構築には必要なプロセスとはいえ、デブリベルトによる太陽光の遮断まで伴う程の大掛かりな実験をやってみせるのは、あまりに己の力に溺れすぎているように感じられる。

 近頃はパスレル・メイラントという異分子を重用し、ヴェーダにも未登録の詳細な測定すら済んでいない能力を独自に開発している様も、計画の本筋から外れつつあるように見える。

 何より、改修前の物も含め3機しか存在しないハイスペックマシン・1.5ガンダムを自ら駆っておきながら、イオリアのシステムを伴っていたとはいえ人間たちに負けた。

 己にも野心があるのは承知の事だが、イオリア計画の主導者としてのリボンズ・アルマークに対して、リジェネの不信は近頃どんどん広がっていくばかりであった。

 

(フフ……それでいいさ)

 

 ……そのようなリジェネの不信を、脳量子波を通しリボンズは既に見通している。

 中にはフォン・スパークと自分の計画を見通せなかった劣等感から来る苛立ちが混じっていることも、パスレルへの嫉妬のような感情が入り混じることも、承知している。

 その上で思う。彼にも力が目覚めた時、彼には世界がどのように映るのか、と。

 X領域の解放によって、人類同様いずれはイノベイド全てを計画から解き放つ。その時、今後をどうしていくのかというのはリボンズの与り知るところではない。

 開かれた己の未来を模索していくか、それともなお計画に準ずるか。

 自身が従えたいと思う存在はあるかもしれないが、その他の個々人は好きな道を歩めばいい。それが解き放たれた進化ということであろうから。

 

 その上でまだ、リジェネ・レジェッタが自分を超えたいと願い挑み続けてくるというのであれば、それは中々楽しいのだろうなとリボンズは近頃夢想していたのである。

 今でさえ見どころは尽きないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レーダーが……やはり向こうは迎えがあるか……」

「……間に合わないかも」

「あいつらは待っている」

 

 GN粒子による電波障害により、スーツのスラスターで身一つ月面を飛ぶユリウスと留美の二人には、果たしてリィアンがまだ飛び立っていないかどうかを探ることも叶わない。

 敵の増援をリィアンも捕捉しているのなら、このまま目標地点にタイムリミットまでに間に合ったとしても、あちらの判断で飛び立っている可能性とて十二分にある。

 弱音とも取れる留美の零れるような言葉に、強がってみてもこの間まで戦場を知らぬ少女である以上、人間ひとりである以上、恐怖が顔を覗かせることはあるのだろうと感じさせられる。

 ユリウスは励ますように、帰りを待つであろう彼らへの信頼を口にした。

 

「ありがとう」

 

 この高慢だった少女から素直な感謝を浴びることも近頃は珍しくなくなってきたという事実に、ユリウスは真に彼女が変わり始めているということを実感する。

 

「お、おい。寄りすぎるぞ」

「あっ……申し訳ありません」

 

 ……それと同時に起きていると思しきことは、留美からの距離がどうも縮まっているように感じられること。

 彼女も自分の意思を、戦うことを決めた時点で同じ戦いをやる人間である以上それは避けられないのかもしれないが、どうも物理的な距離感まで縮まっているようにユリウスは感じられる。

 ユリウス・レイヴォネンはそこまで勘が働かない男ではない。最近のこういう留美の仕掛けは、どうも意図されたものではないかと疑い始めもしている。

 しかし、真意がどうなのかはともかく、毎度寄ってくる理由には嘘が感じられないのだからやんわりとしか拒むこともできずにいる。絶世の美少女に言い寄られるのは悪い気がしないということも、恥ずかしながらに一因としてはある。

 ……問題になるのは、自分が今や既婚者であるという事実である。

 交錯しかけたお互いのスラスターの進路、留美の肩を押して距離を離すユリウス。それは二人の関係を象徴しているかのようにも見えた。

 

「8マイクロも……誰の仕事かしら? 衝突防止がズレています、今度からは調整はイアンさんに」

「そりゃいいが、この先二重スパイをやれる啖呵の切り方なのか。アレって」

 

 後でもいい話。自分でもやや苦しいと思える切り替え方ではあるが、ひとまず聞いておくべきことをユリウスは話題とする。

 ……敵の首魁に、正面切って銃火を交えたということの意味を留美が知らぬはずもない。

 人間を見下しているはずが、人間に肩入れをするような言葉を交わしていたリボンズ・アルマークの態度自体、どうも引っかかりを覚える程度に自分の知る本来のものとは違っているようにも見えるが、だとしてもそれが寛容さの拡がりを表しているかどうかの証明になどならない。

 敵と見做した者は敵である。お互いにそうしようとすれば尚更。

 

「あの方の語った目的に偽りがないとすれば、結局、今は人間社会が必要なままなのでしょうし。社会性に縛られている存在であれば、私にとってはやりようはどうにでも」

「……金でかい」

「統一政府を作ろうなどと言っている彼らが、完全に経済から独立しているとは思えません」

 

 自分から切り出したというのに経済的な話をされるとピンとこない所もあるユリウスだが、それはそうだとは思えた。

 資金調達面について、以前にユリウスはスメラギにも問うたことがある。ヴェーダを使えば金融への介入によって活動資金を賄うことは極めて容易いのではないか、と。

 それに対する回答が、ヴェーダ自身が世界経済に対する介入を計画の遅滞を引き起こす要因であるとして基本的に却下しているというものである。

 ヴェーダがそれを許可しない以上、チームプトレマイオスであろうとイノベイターであろうと、ソレスタルビーイングには基本的に自活を可能とする経済構造は存在しない。スポンサーの存在を前提とする組織である。

 だからこそ、()()()()()でも統一政府の構造を完全に掌握可能となる時期が来るまでは留美から齎される王商会からの財源を必要としたのだろう。

 

「そういうことも言える、か……」

 

 そう言うだけ言って、脚を早めたユリウスに対して留美はおかしみが堪えられずふっ、と小さく笑ってしまう。

 リボンズとユリウス。両者に植え付けた種類の違う種の根付きがどうなるかという楽しみも含むが、何よりも今のユリウスの態度であった。

 

 嘘はわかるくせをして、困ると露骨に態度に出る。

 己の気まずい感情を誤魔化そうにも仕事の他に話のタネが尽きたこと。だからこうして、表情を見せない様に前に出てみせる。

 そう仕向けたとはいえ、妻がありながら自分のような娘に女を感じてしまったこと。あれだけ近ければどこを見ていたかなどすぐに判る。

 銃を取る時の苛烈さと果断からかけ離れた情けなさは、普通なら幻滅を誘うものかもしれないが、どうにも留美にはそれが愛おしく感じられてならない。

 

(本当の事かしらね。フフフッ)

 

 恋焦がれる者を見る眼というのは、どんな有り様でも輝いて見せてしまうということ。

 小耳に挟んだ程度の与太話が、今や現実味を帯びている。恐ろしいものだとも思える。

 だが、十数年ぶりに取り戻されためらめらと滾る心の熱が、灰色の月面すら彩る色彩が、それらすべてを肯定する。

 私の、貴方の銃火が彩る世界を、もっと見せて欲しい。

 そのためならば、私は何でもできるのだろう――――。

 

「まだいたか……! なんとかなったぞ」

「……ええ、なんとか」

 

 視界に捉えたリィアンに希望を見出したユリウスに、留美の野望を見出すことは叶わなかった。




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