ガンダム00世界で留美やネーナやコーラサワーとイチャイチャしながら生きる 作:トン川キン児
「まずイアンさんから。損害状況の報告をお願い」
「……気が滅入るようなありさまだが勘弁してくれよ。プロの見立てだ」
ブリーフィングルームに集結した、チームプトレマイオスとチームフェレシュテ、及びソレスタルビーイング関係者、それぞれの主要メンバー。見渡してみるとなかなかの大所帯になり始めているものだとユリウスにも思える。
この場を任され言い淀む重い口を、イアンが己の矜持で開いていく。
「アストレアⅡとサダルスードType-Fは使いもんにならん。前者は元々繊細に過ぎるのをこっぴどくやられ、後者はそもそも壊されすぎだ」
「スローネとネフィリムは」
「大したこたないが時間がかかるし、ネフィリムに関しちゃブースターユニットもビットも在庫なしの一点モノだ。強化案がいきなりおじゃんだぞ、クソッ」
「また作るにしても余計なコストに思えるしねぇ……」
先に語った2機のガンダムは全損。新型ガンダム建造の計画が走り出しているこの状況下で一から作った方が早いともなれば、もはや再利用可能な部位を抜いた上で廃棄処分にしてしまうのが最良である。
残るのが、強化プランを付け足した2機。
キュリオスガストとアルテミーの装備を在庫整理のつもりで付け足した形の強化プラン・ネフィリムプラス。以前からあった最大の懸念点のひとつが、シェリリンが付け足して言う通りその経緯上強化装備を失った際、新造しない限り二度と元には戻せないという点であった。
本体においてもライフルと大型GNバーニアユニットの誘爆に巻き込まれ右腕マニュピレータ、及び脚部を失い頭部もアンテナを喪失。前面装甲のほとんどは粒子ビームの飛沫による雨だれで焼けただれ、痛々しい凸凹をその表面にありありと残している。
そのような散々な有り様の4機のガンダムの内、最も損害軽微で済んでいると言えるのがスローネドライGNHWであった。
プロトGNランチャー、片側の粒子貯蔵タンクとGNブレイド、及びトランザムの加速をそのままに背面から月面へ衝突した際にひしゃげたGNステルスフィールド発生器等の装備面の損傷は数あれど、フレームの歪みを除けば本体への目立った損害はほぼ皆無。
「あたしのドライだっていつでもまた出せるってワケじゃないっしょ」
「ああ。申し訳ないんだが、間違いなく今ソレスタルビーイングに動かせる機体はないな」
非情とも取れるイアンの宣告は、しかし間違いなくマイスターたちを労わった上での言葉であった。この状態でまだ大きな武力介入を続けようとするのであれば、間違いなく死ぬ、と。
「ネフィリムの方はお師匠と次のプラン練ってるけど、まあ先の話」
「楽しみに待っててね」
……世話をしてやった弟子と妹が加わってくれるなら、できれば今度はあまりキツくないものがいいが、と切に願うユリウスであった。
「そして、得た物の方を。マグナス、王留美」
「ああ……俺から説明する。あそこで俺は恐らくこの状況に対する核心となる情報を得た」
「同席した私が、これらは本当に語られたことだと保証します」
スメラギに促され、マグナスとして留美と共に語る月の裏側で得た情報の全て。
イノベイターの首魁と目される存在、リボンズ・アルマーク。そして彼を含めイノベイターという組織そのものが、ヴェーダによって生み出された人造人間・イノベイドによって全て構成されること。
組織の目的。イオリア計画を自らの望む形に動かすか……あるいはイオリアの望む形から破綻しても構わないと目論んでいること。
敵側から見た今回の戦いの目的。自らの手による統一国家樹立の加速、及びパスレル・メイラントの肉体を借りたリボンズの性能試験。加えて、ユリウスを月の施設まで引きずり込むこと。
ヴェーダの深奥。そこには、肉体は滅びたとしても誰一人干渉不可能なプロテクトに守られた、イオリア・シュヘンベルグ当人の意思が常に生き続けていること。
そのイオリアが表れ、当人の口から直接、望まない進化であるXラウンダーの拡大を剪定していた事実を語ったこと。この事態に対し殆ど干渉することはないという立場を明確にしたこと。
…………200年越しに、今を生きるソレスタルビーイングへ、その意思を託したこと。
「偏屈爺さんだろうとは思っていたが、そこまで拗らせてたか」
「……何百億人と人間を救ってきたナノマシンがその為に作られてたとはな……」
それを使って幾度も人を救ってきたモレノだからこそ漏らす、戸惑いとも嘆きともつかない声の横でラッセが言及するのは、イオリアが自身に権限を持たせなかったことについて。
これほどの遠大な計画を用意しておきながら自分自身すらも信用していないという次元まで達しているとは考えもしなかったが、続くネーナはそれを鋭く刺す。
「ぶっちゃけ丸投げだよね」
「悪し様に言やあそうだが、後の奴に信じて託すってことはなかなかできるもんじゃない。その内俺もそうしなきゃならねえから、余計にわかるのさ」
「……そりゃあ……そうか」
「大体普通は丸投げするしかねえだろ? 200年後にやる計画なんざさ」
それは、いずれ自分の辿る道と重ね合わせて共感を示したニールへの同情心が止めたことによってそれ以上深くは突き刺さることはなかった。
「いずれにせよ、僕個人の答えは出た」
ティエリアが一歩前に歩み出て、勇ましさを宿し言ってみせる。
「イオリア・シュヘンベルグの意思がどうであろうと、僕は仲間たちと共に戦争根絶を成す。そのために彼らイノベイターの計画を打破し、ヴェーダを奪還し、打倒する必要があるならばそうするだけのことだ、彼は最早……きっかけにすぎない」
「戦いの意思は変わらないのね」
「そうだ。そしてそれには皆の力が必要だ……敵は強い、だが僕と共に戦ってくれるだろうか」
周囲を見やるティエリアに対し、チームプトレマイオスの面々は確かな決意の宿った笑顔で各々の答えを返す。
「へっ、今さらバカ言ってんじゃねえ。こちとら死ぬまでバカな夢物語に乗っかって戦うのさ」
「やられっぱなしなんて性に合わないっすよ!」
「そーそー! コイツに同じ!」
「……皆で生き残る。そのためなら、なんだってやれる」
ラッセ、リヒティ、クリス、フェルト。ブリッジクルーたちの決意表明。
「いい方向に吹っ切れたじゃねえか。そうさ、四の五の言わずにやりゃあいいんだ」
「ロッ……ニール……皆。ありがとう」
組織の結束の再確認。再起を懸けた作戦の失敗、その後始末をせねばならないこの状況下においては必要なひとつの儀式である。
それをわかっているからこそ、自分の主導するブリーフィングを中断させられてもスメラギ・李・ノリエガは困ったような微笑みを浮かべて黙ってそれを見届けている。
……確立した自己を持つイノベイド。見て、判断し、行動する存在。
どれほど長い時を生きてもそうなる瞬間は一瞬。今やそれと同様の存在であると自認するヒクサーはそれを確信し、ふっと微笑んだ。
(なんか言ったらどうなのよ)
(お前だって言えよじゃあ……)
(あたしは……別に)
それをどこか一歩引いた眼で見るネーナに、隣から肘で小突かれるユリウス。反論されるとネーナは己の考えの中に沈黙する。
今さら何かを言う事もなければ、覚悟に水を差すような事も言いたくはない。ただ身内と、仲間の望む世界に向かって突き進むだけの存在。
そう自らを定義するユリウスと違い、ネーナは自らの定義を揺らがせている。
贖罪と復讐に突き動かされるだけの自分が、心にもない戦争根絶を掲げて戦っていいのか。
かつて衝動に突き動かされて戦い、それを許されていた頃と、それとは何が違うのだろうか。
「フェレシュテも……貴方達チームの方針を全面的に支持します。ソレスタルビーイングの活動はそうあるべきだと、私も思っています。故に、私たちは全ての選択を委ねたい」
「……というと、どうするの? シャル」
「管理官の権限により支援組織フェレシュテを解散します。以後実働部隊チームプトレマイオスに合流し、無用な混乱を避けるためそちらへ指揮系統を統一すべきであると私は提言します」
思い悩むネーナをよそにしてシャルが切り出したのは、フェレシュテメンバーに対する指揮権の譲渡。
これ自体は、事前にスメラギとシャルとの間では既に取り決めが行われていた事ではあるが、疑問を呈したシェリリンをはじめとした、改めてここに集まる双方のメンバーの納得を得るための段取りであった。
「指揮権の譲渡を了解します。エージェント管理官シャル・アクスティカ、今まで支援組織の運用ありがとうございました。そして引き続きこれからもバックアップをよろしく頼みます」
「全力を尽くします。貴女には敵わないかもしれませんけど……」
「いえ。正直、組織の運用って点ならそちらの方が余程優れていると思いますしね」
こればかりはスメラギの本心であった。情報処理及び作戦計画・指揮においては言葉通りと言えるかもしれないが、AEU時代からいわゆる軍政分野において脆弱だという自覚がある。
……でなければ、かつて愛した者を失うようなことにはならなかったのだから。
多くのエージェントを擁しそれらを実際に統括・指揮した経験を持つフェレシュテの管理官たるシャル・アクスティカは、ヴェーダによる細やかな組織運営のサポートが存在しない今となっては極めて貴重な才能を持つ存在である。
これでセーフティの一つは構築できる。シャルから目線を切り、スメラギはティエリアに視線を向けて本筋を改めて始める。
「さて……決めたことなら、現実にやる事を決めなきゃね。ティエリア」
「はい。作戦指揮者である貴女に従うつもりだ」
「皆の意思はわかった。でも、現実問題この状況下で私たちは武力介入を行うことができないわ。イノベイターに対しても対抗する手段はない」
冷や水を浴びせかけるようなスメラギの言葉であったが、面々はそれに怯む様子はない。実情を鑑みればその想像は誰にでも大方ついていた、ということが大きい。
「ヴェーダの早期奪還は失敗したと判断、当初の結論に戻ることにするわ。数年規模の潜伏期間を設け、情報収集等に並行し戦力の拡充を図り、要件が揃ったタイミングで活動を再開する」
但し、とスメラギが付け加える。
「今度は事態の静観ではなく、明確に。計画の障害となる勢力を打倒するためにね」
遅かれ早かれ、地球における統一国家において
今から進めていくのは、100%戦うための準備。
「そして、可能な限り迅速に。こちらの優位性の陳腐化が起きれば、勝機はなくなる」
秘匿されたブラックボックスデータへの到達や、これからの世界に巻き起こるGN粒子及び付帯技術に対する急進的な理解による自然な技術の進歩。
時間をかければかけるほど、これらの要因でソレスタルビーイングがトランザム及びツインドライヴシステムを唯一保持する組織という優位性が崩れ去る可能性は高くなる。そうなれば、先の国連軍との戦闘と同様に物量差によってこちらがすり潰されるのみ。
期間を可能な限り短くしなければならない理由は、他にもある。
「王留美、以前から調査を依頼していたデータは出揃った?」
「先程。やはり向こうも懐事情までも万全とは程遠いようで」
ヴェーダから切り離されたソレスタルビーイングの資金源は、現在かなりの制限をかけられている。イオリアが遺した莫大な遺産にアクセスできなくなったことが一因である。
しかし、イオリアの遺産を抑えたとて資金の制限は統一国家を掌握するまでの間であれば、考えてみればあちらとて同じように降りかかるはず。
前提として、組織の活動資金を一挙に賄う程の大規模な金融への介入にヴェーダを使うことはほぼ不可能。
イオリアを引きずり出す際にユリウスによるアクセスを必要としたことから、逆説的にイノベイターがヴェーダの全機能を掌握していないことは明らかであり、そのような行為もヴェーダからの拒絶により不可能となっている可能性が高い。
加えて、主要な財源であるイオリアの遺産及び利権を摘発する流れも極めて厳しい物となることは容易に想像がつく。
2年前に武力介入が開始されるまで、それらの金の流れは極めて巧妙に隠されていたものの、以降三大国家による摘発は予測通りに激しさを増した。統一国家が正式に発足すれば、それに拍車がかかることも必定だろう。
継続的に資産の一部を提供し続けた監視者たちの排除も、ソレスタルビーイングのみならずイノベイターに等しくダメージを与えている。なぜならば、国家による捜査が先行する以上その全てが回収できるはずがない上、その後の資金提供は途絶える。
…………実際に、留美が調査させた資金の流入を追っていけば、監視者であった者たちの財産の殆どはソレスタルビーイングというテロ組織に関与していた人間の財産という体で押収されていることがわかった。
組織的犯罪への処罰として、全くもって正当な手続きである。
「待てよ。あいつら黒幕ぶってる割に財布の厚みはこっちとどっこいどっこいだってか?」
「どれほど大きい力を持ったとしても、それを人の世の理に合わせた形に……財に換えるというのは並大抵にできることではありませんのよ。これは商家のはしくれとしての言葉です」
役割柄コスト等を気にしなければならないイアンだからこそ、その事実に驚かされる。対しての留美はお見通しと言わんばかりに事もなげにさらりと返す。
――――そしてそれは、この場にいる者たちの中で留美だけがつけこむ事のできるイノベイターの隙であるということは、スメラギもわかっていながらあえて語らなかった。
それを脇に置いて、事実から浮かび上がる展望……即ち、イノベイターがヴェーダを含む影響力を陰から発揮し統一国家を事実上手中に収め、地球人類の財産を自由に使うことができるようになるまでには必ずタイムラグが生じる。
このタイムラグの間に決着をつけなければ、同じく物量差によって敗ける。
「急がなければならない理由はまだある。時間が経てば経つほど、刹那とアレルヤの生存確率は低くなる一方」
マイスター候補のデータはヴェーダに保存されていた以上、既に閲覧不可能。新たな人員を補充しようにもリストアップが難しく、なるべく能力が既に保証されている人員を復員させ任務につかせたいというのが自然な考えになる。
しかし不通状態にある彼らの身に何かが起きている可能性は、時間を経る毎に増加する一方。それを目指すならば可能な限り早く二人を見つけ出すべきである。
「……そうだ。僕もあの二人の他にガンダムマイスターに相応しい人間は知らない」
ティエリアがそうであるように組織のモチベーションにも関わる。ソレスタルビーイングにとって二人の復帰は、極めて重要と言える。
「ここまでで、充分わかったと思うけど……」
一拍置いて、スメラギは努めて厳しく皆に語り掛ける。
「私たちに残された時間は少ない、一分一秒だって惜しい。なら、すぐにでも動き出さなきゃね」
懈怠など片時も許さないという、組織の長の決然とした言葉。
その場にいる全員が、その言葉に頷いた。
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