ガンダム00世界で留美やネーナやコーラサワーとイチャイチャしながら生きる 作:トン川キン児
「私たちの計画の中で、何が一番のリスクになるのか。わかるかしら」
「それはもちろん」
数十分前に終えられたばかりのブリーフィングにおいては、スメラギの手によって今後のソレスタルビーイングの活動に対する具体的な指針がいくつも与えられた。
その場にいたメンバーには、ほとんどの計画に対し十分に説明が尽くされている。
では、何故その私室で、スメラギと留美が対峙することになっているのか。
「この私の存在です」
気取ったような流し目でそう言ってのける留美は、発した言葉が示す自身への危険な程とは裏腹に余裕に満ち溢れた振る舞いであった。
ソレスタルビーイングはイノベイターの所在を掴むことができず、イノベイターも同様にヴェーダを用いてもソレスタルビーイングの所在を掴むことができない。
だがそれは、両者の橋渡しとなる存在がいなければの話。
ヴェーダの所在を掴むため、王商会の財力をちらつかせイノベイターに取り入る。それが留美に与えられたミッション。しかしそれが、以前他ならぬその敵と私的に通じていた留美にしか成し得ないということが一番の問題点。
二人が対峙するのは、スメラギが留美に一旦の信を置くための材料を探るためである。
「
射殺すような眼差しから発せられる気迫が、留美に直に浴びせかけられる。
自分の知る者とは似ても似つかない人間に見せるほどのそれは、留美が初めて感じるような……しかしどこか遠い昔に覚えているような、不思議な性質を持つ何らかの感情だと思えた。
留美がその正体を知ることになるのは暫く先の話である。この時の彼女にとってそれは、色のついた世界でまた一つ知ることのできた、興味を引く何かでしかなかった。
「私たちは貴女ほど損得をきっちり見定められる才能はないから、不利益を感じれば早すぎる見切りを付けてしまうかも」
「……なるほど。それは難儀ですね」
「貴女に課したミッションは、それを念頭に置いた上でやってもらいたいわ」
早い話、これは脅迫である。
もしこちらの間諜であると信じた人間によってそれが繰り返されれば、ソレスタルビーイングは多大な出血を強いられるであろうことは想像に難くない。
その問題をクリアするために、スメラギは留美の命そのものを材料に取ろうというわけである。
「困りましたわね……どちらからも命を狙われるとは。でしたら、命を保障してくださるより利の大きい方に付くべきですわね」
「それが問題なのよね」
誰しも己の身こそ可愛い。そうまで疑われつつ命を賭けなければならないというのに、さらに味方と思える方から命を狙われるのでは、先にそちらを見切る選択も現実になるというもの。
暗にそう示すわざとらしい困り様を見せつけてくる留美に対して、しかし苛立ち等を見せることなく、むしろ呆れ混じりのようにスメラギはチェアに深く腰掛け直してから言う。
「貴女にリターンをもたらそうにも、正直言って今の貴女が私たちに何を求めているのかわからないの。ソレスタルビーイングに、何をさせたくて出資するの?」
「私は、自分の意思で戦う者の味方でありたい。私もそうありたい」
「それは
「…………ああ……わかりますか」
直接に会話を聞いたわけではないというのに、伝え聞いた情報だけでそこへ辿り着くのは流石だと留美にも思える。それとも、
敵の首領、リボンズ・アルマークの行動は明らかに計画の為だけと言うには逸脱した行動が多く、その破綻すら公算にあるかのような今回の言動からもその点は伝わる。
明らかに、計画から外れたみずからの自由意思による行動を可能としている。恐らくは、パスレル・メイラントの影響により……。
真にここまで語ることのみが留美の理念とするならば、イノベイターに付くこととてそれと何ら矛盾なく両立する。
「……そうですね……嘘の意味がないような方の奥様ですし、ハッキリさせましょうか」
事ここに来て、留美はその偽らざる不都合な本心を開示することに決めた。
……特に、目の前の女には。
「私、お恥ずかしながらミス・スメラギの男に恋をしてしまいまして」
「――――――――はっ?」
「そういうわけで、彼を手に入れたいと思いここにいます。これが私の求めることです」
……その妻に堂々と言うようなことか。
彼を、ユリウスを見張り役のようなものにさせてから留美がどこか変わっていった以上、自覚の有無は不明ではあるが薄々その気はあるのでは……と予測を立ててはいたスメラギ。
しかし、こうまで普通の倫理観では憚られるようなことを真っ向からぶつけられれば、流石に面食らってしまうものであった。
「私と彼を紐づけ続けていただけるなら、この組織の味方であり続けますとも」
「あ、貴女って子は……!」
「ただ、私も乙女ですから。傍にいさせてくれるだけでよろしいのですよ? 条件でどうこう縛るよりかは、彼の方から振り向いていただきたいの」
「……よく言うわね……! 貴女ほど女に自信のある女もいないでしょうがッ」
「フフッ。努力していますので」
この女狐は私にこう言う。単純接触の機会さえずっと与えてもらえれば
己に女としての自信があるのならば、小娘の戯言に付き合うだけで甘い蜜を吸えるボロい条件と捉えられるだろう。
それがないのであれば、とても悩むのだろう。その様を拝むのはとても楽しいから、いずれにしても私は得をする。
……内に宿る命で圧迫され続けるはらわたが、さらに煮えくり返るような激情に駆られる。
思わずスメラギが、勢いよくすっくと立ちあがって。
「席順なども決める必要はないと考えています。同じ男を好きな女同士でしょう? あの方がそうするなら別ですが……」
「ふざけないで!!」
己の中に弾ける初めての衝動であった。それをコントロールできずに、突き動かされるままスメラギは右手を振り上げ……。
「――――――ッッッ!?!?」
……る間もなく、その場にへたり込む。その腹を襲う激烈な痛みに。
「……っ……? ……?」
彼女の激情を引き出してみたいと思い立ち、交渉がてらに平手打ちの一発も貰う覚悟で挑発的な言動を続けた留美。
それがとうとう来るのかと思い、目を瞑って備えていればいつまでもそれが来ない。
恐る恐るに片目を開いてみると、見えた光景は、何が起きたのかその場に跪くスメラギ。
「…………あの……」
「ぁ……!! はっ゛……!! ぅ、う……」
どういう意図を持ってやっていることなのか、問いかけようにも明らかに返答ができる状態ではない。
ここでようやく、留美の意識が切り替わる。
彼女は妊婦。既に38週を過ぎているのだから正期産。いつ事が起ころうがおかしくはない。
……始まっている。産まれようとしている。
「た、立てますか!?」
問いかけても、歯を食いしばって呻く様子しか帰ってこない。
「息は長く吐いて! わかりますか!? 長く細くです」
「……ふ……っ……! ふーっ……! すーっ……!」
その指示ですべきことが定まり一瞬のパニックを脱して落ち着いたのか、一旦仰向けとなりいっぱいに腹を膨らませるように呼吸する。こういう事が起きた時の対処は、スメラギ自身も事前にモレノ医師から聞いていた。
……1分ほど時間をかけ、ようやく落ち着きを取り戻した所に留美はその手を引いて肩に寄せる。
「とにかく、医療ブロックに行きますからね。外の紅龍に手伝わせます」
「……あ、ありがと……」
「……こういう時期なのをわかっていないでストレスを与えてしまったのなら、申し訳なくは思います」
差し出された手を掴み、自身もどうにかデスクに手をつき引き上げられるスメラギ。
痛みの引きと共に一旦頭が冷えて来れば、現状を否応なく理解する。手を上げようとした少女に助けられていることを。
「お嬢様。……ミス・スメラギ!?」
「肩を貸しなさい。モレノ氏の所まで行きます」
「わ、わかりました。そういう……事情ですか」
主人が呼びつけられた人間を背負って出てきたのには面食らったものの、長い間妊婦でいた相手ということもあり、外で待機していた紅龍も一瞬で状況を把握する。
兄妹に両脇を固められて運ばれる間、己自身でもこんな事を言っている場合なのかという事を自覚しながらもスメラギはその言葉を発した。
「……死ねばいいとかは、考えてないのね……」
「そこまで人でなしであろうとは思いません……! ご自分の事に集中なさいなっ」
「そう、する……!」
女としての存在を極めたいと思うからこそ、女にしかできない
自分が戦いを望む相手に先に消えられるなどもってのほか。そんなことではしこりが己の人生に陰を落とす。
勝つと決めた戦いには、完璧に勝つ。
留美が固めた強いプライドの一端に、スメラギは触れることができた気がした。
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「すぐ飛んで来られるあたり感心するよ」
「んなこといいから!! どうだってんですか」
「入院だな。ちょいと急だし期間も早いが正期産の範疇だ、なんてことはないから安心しろ」
「……そりゃ……良かったですけども」
「LDRに行ったから、向こうにいてやれ。準備はしてるだろ」
「早くそうしたくって! 傍にいてやりたいでしょ」
持って来れてなかったら貴方が、と言われていた通りにスメラギの私室にあったバッグを引っ掴んで、あらん限りの力で医療ブロックへ駆けたユリウス。
別室で説明を聞いてから頭を冷やせ、とモレノは言うので付き合っているが、心は既に
……しかし、とりあえずの安心を感じられたのでやはり医師の言う事には従うべきだと思わされる。彼女は無事にやり遂げられると、信じられる医者のお墨付きが少し心を落ち着かせた。
こちらが慌てていては、向こうとて安心して段取りを進めていけない。
「子供を頼みますからね!」
「やるのは私ではないがな」
長い期間存続する組織である以上、ソレスタルビーイングには世代間を跨ぎ所属する一家も多い。出番はそう多い訳ではないものの、助産師を務める女性程度は存在する。
加えて専門性の違いもあり、JB・モレノが直接彼女の処置を行うわけではない。
それでも主治医には変わりなく、信頼できる彼にこそ子供を診てもらいたいというユリウスの感情の発露であった。
…………噂はすぐに広まっていくもので、それから10分も経たない内に医療ブロックの一室の前には既にトレミーのクルーが一人残らず集まってきている。
見られていると集中できないというスメラギ本人の要望で、普段はガラスを通して内部を見られる処置室には、ノーマルスーツのヘルメットバイザーと同じシェードがかかっており部屋の外から中の様子を伺うことはできない。
しかし、外に待つ彼らのためにユリウスは一度部屋を出てきた。
「見てたってしょうがないぞ、お前ら。ケリつくまで少なくとも10時間はかかるんだ」
「そんなにかかんの!?」
「うええ~……きっついんですよね……!?」
「……俺にはわかりようがないけど、そうは感じるよ」
「……スメラギさん……」
想像以上の返答が返ってきたことにネーナは驚きを隠さず、クリスは強く心配を示し、フェルトは胸元で両手をぎゅっと握りしめる。
「マジかよ。妹だけどエイミーは確かそんなかかりゃしなかったぜ?」
「
「あ。ああ〜……そうだ。言われてみりゃ」
「……タクラマカン砂漠での交戦並のミッションタイムか。今度は無事を祈るほかないのが僕の方とは」
実体験と現状の食い違いの理由を説明されてみれば納得するニール、合っているようで微妙にズレた事を言い始めるティエリア。ただ、個々人の反応こそ違えど、ここにいる誰もが一つの思いを抱いている。
ソレスタルビーイングとは、紛れもなく血腥い道を歩み屍を積み上げる、汚名ありきとしても存在し続ける罪深き集団である。
そんな中に在りながら、今日ここで尊き命の出づる瞬間が拝める。
原罪などというどこにも明らかでない何かが、まるっきり欺瞞だと思えるほどにそれは純真であり、無垢であり、罪とは無縁である。故に万人にとって尊い。
しかし、それはソレスタルビーイングに生まれ落ちるのである。
「私たちはひとりひとりの仕事をしませんか。あやかりたいなら後でできます」
「なんであんたが仕切んのよ!」
「まぁまぁ。野次馬根性は後にとっとかないっすか」
「俺ら男にゃ尚更できるこたあないってな。持ち場に戻るぜ」
「頑張れよ、
……時間との勝負が始まったばかりだと思えば、留美の言う事が正しさを帯びているのはネーナにもその場の誰にも理解できるところではあるが、それはそれとしてこの女が場を収めようとするのが気に入らなかった。
最初から様子を伺いに来ただけの男性陣は、激励を残して去る義弟のイアンを皮切りにして、リヒティとラッセに続いて諦め早くぞろぞろとその場を後にする。
「お兄ちゃん、半日大変だと思うけど……もうお互い気合だよ、これは!」
「気合かあ……自信はあるよ」
「何か要りそうなら持ってくるから!」
「いとこの顔を見せてくださいですぅ!」
「……もぉ……」
この場に在って唯一同じ経験を持つ妹のリンダが、兄の右手を手繰り寄せ両手で握り込み、全力の支援の約束とエールを込める。
そこから産まれてきたミレイナの言葉にも、そうしてやりたいと心から思える。
一番に懐いている恩人が言う通りにこの場を離れるつもりでいれば、心に何か正体のわからぬ不平はあれどネーナも引き下がるほかないのであった。
「……お前が運んできてくれたんだってな。ありがとうよ」
「礼には……及びませんことよ」
ユリウスからの礼に、立ち止まって振り返りそう言う留美。
曲がり角に消えた人影は、彼女が最後だった。
……後は、ふたりだけの戦いである。
そうなったことを確かめてから、ユリウスはその舞台である室内へと戻った。
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17時間41分20秒。
ソレスタルビーイングにおいても採用される
その果てで二人に福音が下り、二人にとっての真の天使が降りてきた。
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