ガンダム00世界で留美やネーナやコーラサワーとイチャイチャしながら生きる 作:トン川キン児
「いつもそのように剃っておればよいだろう」
「……苦手なんすよ」
久方ぶりに大きく息を吸う頬を撫でながら、老人の小言に心の中で毒づくユリウス。
こと髭剃りには連戦連敗のこの男にとって、エイフマン教授という者がこの老体でカミソリ負けを起こさぬ肌質を保っているということが受け入れがたい事実であった。
「剃り方を逆にやっていればそれはそうでしょう」
「え……? なんでそういうのを今まで言わないんだよ」
「……あまり真剣にお困りとは思わなかったもので」
「何だよもう……」
有益な情報を事が済んでから後出しにする紅龍にも呆れされられ、ため息をつきながらどっかりとソファに座り込む。
……そういう態度を取ってみてから、思い返せば
留美、紅龍、エイフマン、ネーナ、ユリウス。リィアンから乗り換え5人を乗せたプライベートジェットは、ミッションへと向かいオートパイロットにて巡航中である。
流れはこのようになる。成立したばかりの独立治安維持部隊に採用予定の専用新型MSにおいて、かつてガンダムキュリオスの機体鹵獲に成功し、3年の間にGNドライブ関連技術において他派閥よりも技術を先行させた人革連閥に白羽の矢が立つ。
正式採用を確実なものとするためのロビー活動の一環として、王商会のセッティングする社交パーティが催され、ホーマー・カタギリもその招待を受けるという。
交渉シーンとしての性質が強いために系列企業によるホーマーへのアプローチは激しい場になるだろうが、それでも留美の力をもってすればスケジュールに隙を作る程度の事は容易い。
ミッションプランは頭に入っている。留美とソレスタルビーイングを繋げるものがイノベイターではなく連邦政府に直接露見することは避けたいがため、あくまで留美の役割は場を整えるまで。
ソレスタルビーイングに拉致され行方不明という体のエイフマンも、そのまま表に出せば保安局に連行されることが目に見えている。周辺の障害をできるだけ排除した上で、ホーマーとは秘密裏に接触させる。
ネーナがそのバックアップ。存在を登録されておらず自分の能力との併用であればヴェーダへの生体アクセスを使用しても所在を特定されることがない彼女は、個人情報の偽装も簡単に可能であることから潜入は容易い。事が済んだ後にはエイフマンの脱出を直接支援する役を担う。
……この間ネーナに語った話とは真逆の形になるが、
マグナス・アルハンゲルたるユリウスに与えられている役割は、二人の迅速な回収と離脱によるミッションの終了。同じガンダムマイスターではあるものの大きく人目に晒されることで顔貌による露見を極力避けるために、施設外縁の警備担当者を装う。
髪を短く落としたのも髭を剃ったのも、リスクを最小限に保つための措置であった。そんな彼が今、潜入用の制服一式を持ったままうなだれているのは何故か。
「遅くないか」
「ネーナ様はお召し物に慣れていないようですから」
それはそうだろうとは思う。あのような物を着る機会など人生で一度もなかったであろうことは境遇を考えれば当たり前の事だ。
肉体年齢で言えば二十歳を超えたというのに、子供のようにはしゃいで見せつけてきたワインレッドのイブニングドレス。上半身から膝までを強調するマーメイドライン、胸元から背中までを大胆に曝け出すオフショルダー、控えめのフレアに膝上を超える深いスリット。
ネーナらしい思い切ったチョイスだと思えるそれに、しかし自ら選んでおいて着こなしに苦戦しているのだろう。下世話な話だが、近頃の成長著しい身体の事を考えるとサイズの公算が合っていないなんてことも考えられる。
女の支度が遅いというのは妹も例外ではないために慣れっこではある、が……。
「ハーイ」
締め出された更衣室の扉が開く音とネーナの挨拶を聞き、ユリウスは視線をそちらに向ける。
……現れたその少女の姿に、思わず目を見開いた。
「会心の出来かと。殿方から見ていかがでしょうか」
人革連系の来賓が多いということもあってか、藍染めで刺繍も少なくシックにまとまったタイトなチャイナドレス、
しかし、ネーナの見違え方がより視線を吸い寄せる。
いつも目立っていたそばかすがきっちりと隠され、口紅を引き、まとめていた髪を下してドレスに身を包む彼女の姿は、自分が想像していたよりも遥かに大人の女への階段を上っている姿であったから。
記憶よりもさらに豊かかもしれない躰と年頃を考えばわかりきっていたはずのそれは、しかし近くにいすぎたことで見る眼を曇らされていたのだと、この時ユリウスは初めてわからされた。
……留美の言葉には、納得しかなかった。
「フフン。どーなのよ」
胸を張るネーナがそう言うまで、呆けていたのが悟られなかったのがユリウスにとっての不幸中の幸いではあった。
「……いい。綺麗だ、美しい」
「え? ……へぇ!?」
「お前に……合ってると思う」
「な、なになになに……! 急にベタ褒めじゃん……! え~……!?」
すっかり様変わりを遂げた自分にもう少したじろぐものかと思えば、何ら遠回りなく直球に褒めちぎってくるユリウスを前に、全てのアテが外れて赤面を晒しながら伏し目がちにうめくことしかできなくなるネーナ。
実際の所遠回しな事を言う余裕がなかった故に出力された言葉だが、口から飛び出た物は帰ってこない。はっきりと褒めてやりたかったという気持ちとは裏腹に、歳の離れた少女に浮ついた言葉を喋る妻帯者という自覚で、ユリウスも眼を逸らす。
二人の様子を、留美はにこやかに見守っていた。
「お互い身支度も終えた事ですし、行動開始といきましょうか」
本題を口にした留美に向き直るが、こちらもこちらで目に毒である。気のあることを隠さぬ絶世の美女が、豊満と均整の完全形と言える黄金比を宿すボディラインを惜しげもなく見せつけているのだから。
……宇宙に残している
せっかくだから見せたいというので付き合ってはやったものの、二人のドレス姿を拝みに来たのが本題ではない。ユリウスが監視の目が薄い荒れ地に停泊するプライベートジェットを訪れたのは理由がある。
ユリウスとエイフマンはここで装備を受け取り状態を整え、リィアンに乗り3人に先駆けて目的地を目指す。空港に停泊するプライベートジェットから出たのでは見咎められるためである。
「そうする。行きますよ、遅れちゃならないんですから」
わざとらしく名目を口にし、そそくさとジェットを離れようとするユリウスにエイフマンはそれを追いながらちくりと刺す。
「逃げの一手も読まれていそうだな」
「うるさいっすねぇ……!」
……連れ出した引け目が未だ残っているとはいえ、二つや三つではきかないことを言われていればいい加減に言い返したくなるというものであった。
レイフ・エイフマン教授という人間は、間近に見ると実にいい性格をしていた。
「どうだったかしら?」
「……なんか、予想と違うってゆーか。てか、アンタがこれ貸してくれるとも思わなかったし」
「ミッションですもの。それに、そういうことではなくて」
紅龍がコクピットへと赴き、船室内には留美とネーナの二人だけ。
肉体年齢的には同年代、女同士での語らい。ただし犬猿の仲とも言える間柄。
ネーナ自身、普段あれほど言われておきながら自分の都合のいい頼みをよく聞いてくれるものだとも思っていた。この服の価値は肌触りからもよく伝わっている。
……当然ながら、それには留美にも狙いがあるからだと次にはわかった。
「ちょっとキツいかとか? これ着っぱなしってのはねー……」
「女として見てくれるというのは、ネーナ・トリニティにとってはどうなのかしら?」
差し出されたティーカップをつまもうとしたネーナが、その言葉で思わず止まる。借り物を汚してさらなる借りを作る羽目になりそうだと予期したためである。
「……そういうんで……着たんじゃないし! あたしが着てみたかったの! ついでよ、おじさん慌てさせてやろうなんてのはさ」
「どうして慌てるっていうの? 彼みたいな大人の男が」
「……あたしのことエロい目で見てたって、奥さんにもリンダさんにも言われたかないでしょ」
「へえ……そういう風に見て欲しかったなんて」
「ちがッ……ねえ!! 何なのアンタ!!」
ネーナの言葉とて、どれも本心の
それでも留美は、
「貴女、どういう目で見られているかわかるでしょう。さしずめ手のかかる妹か娘ってところね」
「そうだろうけど……!」
「それだけじゃイヤだって気持ちがあるのではないの? タイプじゃないだの何だのとかはいいから。そういうごまかし、今まで散々聞きましたから」
これまで繰り返してきた己の感情に対する無意識のごまかしも、先回りを打たれて封じられる。これまでもこれからもそうなってはいけない人だからという、強い禁忌。
だというのに、目の前のこの女はそういうものを、さながら紙くず以下とでもするように踏みにじってくる。
そういうことができるのは、なんでも持っているから。そのくせもっともっと欲しがる。
……自分にはないかもしれない、確固たる己の意思で。
「好きなんでしょう。あの
「……大ッ嫌い!! アンタなんか!!」
自分の持ち得ぬものを、余すことなく持ち得るように思えるところも。
そのくせ業突く張りで、見境も遠慮もなく欲しがるところも。
ずけずけと心に分け入って、面白半分に暴き立てるその姿勢も。
本当ならこうありたいと、未だに思っている自分自身も。
鬱屈した留美への感情を抱えて、ネーナはその顔を見ないように、見えないようにするためにその場を離れる。大して広くもない機内では、どうしようといつか顔を合わせるものだとしても。
残された留美の表情も、決して面白いと言えるものではなかった。
(あそこまで抱えるタイプだったかしら。自分自身にもよろしくないでしょうに)
冷やかし半分とはいえども、彼女なりの気遣いとも言えるネーナへの言葉の数々であったが、どうにも逆効果であったことは態度一つで察せられるところだった。
口汚く品性に欠ける女だが、戦いへの覚悟としぶとさは買える。自分の感情を客観視して解きほぐせれば自分の相手としてもっと輝ける人間だと思ったが故に本音で交わした言葉だったが、図太くタフな場面と繊細な場面の線引きがどうにも曖昧だと思える。
態度から見ても、やはり常にすぐ傍にいる彼にその鍵があることに間違いない。彼の方から働きかけさせるべきか、それとも妻を作った倫理観が邪魔をしてできないか。
男と女のどちらからやらせるにしても拗れそうに思えて、留美はティーカップを手に取りながら、ソファに深く腰掛ける。
考えるうち面倒になってきたことに対し、何故にこのようなことをやらせたいのかを自問自答し始めた留美。
しかし、その答えはやはり決まりきっている……。
(並大抵のことではありませんわね。信念を貫くというのは)
戦わせたい。何に対しても。
ネーナ・トリニティに自分がそうさせている理由は、身近な人間に対しても自分の信念の反映を行っているにすぎない。戦って勝ち取ることを彼女にもさせたい。
その他には何もないはずのことである。あまりにも違いすぎる彼女との間には、共感などというものを抱きようもないのだから。
「……私の目の前をチョロチョロとするなら、せめて煮え切らない女ではいて欲しくないわね」
お互いに好かないという点においては、同じではあるか……。
そういった複雑な感情を含みつつ小さく呟いた留美の感情は、指を弄んだり座り込んだ脚を組み替えたりとの動きに表れているようにどうにも落ち着かなかった。
・
・
・
『にしても珍しいねぇ。君があんな場にわざわざ出向きたいなんて』
「うむ……自分でも不思議に思える」
風呂上がりの湯気を身体から立ち上らせながら、バスタオルだけが肩にかかった丸腰のままにPDAの向こうの友人と談笑を交わす男。
恥を忍んで上官へのコネを持つ友に乞うてまでも赴きたかった場。普段の己の在り方とはまるでかけ離れた社交の場に対して、なぜそのような思いが自分の中に生まれたのかは皆目見当が付かない。
抑えようのない衝動がそうさせた、としか言いようがない。
「ロクに使いもしない給料も役に立つものだ。正装は仕立てさせておいた」
『君がそういうことを思い付きで起こしてるとなると、やっぱり勘なんだろうねぇ』
「フッ。間違いないな」
おろしたての礼服をしげしげと見つめながら語る彼の瞳は輝いていた。似つかわしくないパーティーを心待ちにするというのも、初めての体験であった。
「私の乙女座の運命が告げているのだろう。行けば何かがあるのだと」
友の名はビリー・カタギリ。男の名はグラハム・エーカー。
グラハムの心臓は今、数年越しに運命を感じられている。
Q.なんでこいつ来るの? 何らかの能力持ち?
A.運命に導かれているつもりなだけなのでそこに理屈はありません
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