ガンダム00世界で留美やネーナやコーラサワーとイチャイチャしながら生きる 作:トン川キン児
時は2305年5月ごろのこと、場所は北アフリカ上空。
とある輸送機が快速を飛ばして、渇いた空を駆け抜けていく。その目的地はテロ組織『アフリカ福音同盟』の数ある拠点のうちひとつ。その積み荷はAEUヘリオン一機のみ。
しかしこの輸送機は、モビルスーツという兵器を積んでいるにも関わらず、テロリズムに賛同するものでなければ軍人として国家の命令に従うものでもない。
彼らの従うものはたったひとつ、利益だけ。そう、輸送機は傭兵のものだった。
軌道エレベーター停止を目論むアフリカ福音同盟の拠点を目指す目的は、そこを潰せば金を払うという人間がいるからである。
「目標まで距離500。仕事だぜ、お・し・ご・と!」
「わかってるならやかましいオーディオを消せ!!」
「んだよ! 死にに行くんじゃねえんだぞ。気楽に行けって心遣いがよぉ」
「余計なお世話だっ」
軽口を叩くのは溌剌とした若い女の声、応じるのは男の声。前者は輸送機の操縦席から、後者はモビルスーツ形態で収容されているAEUヘリオンのコクピットから、だった。
耳をつんざくような大音量のオーディオが流れていることを移動中は大目に見ていたが、いよいよ出撃という神経質になる状態でもまだ続いていたので、男はいい加減に我慢ならなくなる。が、女はいつものことだとそういう注意をまったく受け流してしまった。
男もそれがいつものこととはわかっていたし快くも感じていないが、幾度となく言い聞かせても改善の素振りが全く見えないのだから、なんと傲慢な女だろうと同じく受け流すしかなくなっていた。
……旧友を思い出させるこの女のやかましさがどこか心地いい、というのも手伝って。
「パスレル・メイラントから射出タイミング譲渡! ハイ、元気にいってみよう!!」
「……ユリウス・レイヴォネン、出る!」
後部格納庫から、リニアライフルを両手に持ったAEUヘリオンが勢いよく滑り出す。
事件から2年。ユリウス・レイヴォネンは、傭兵となる道を選んだ。
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戦いの中で獣の心を持つ自分自身と向き合う。その為にはモビルスーツで戦いをできる立場にいなければならないし、抑えが利かなくても迷惑のないよう誰も伴わず戦う方がいい。
そう思えばこそ、ユリウスは尚更傭兵になる道が正解だと思えた。ただしPMCトラストのような大規模なところではいけないとも考える。そういう規模の大きい『軍事会社』と言い切れる場所は軍隊並の規律を持ち、団体行動を是とするからだ。
常識程度の規律がありながら、自分はフリーで動けそうな場所がいい……ユリウス自身、なんとも贅沢な望みだとも思いながらの就職活動だった。
幸いにもユリウスには選択肢が多く用意されていた。AEUのエースとも目される戦果を記録したパイロットが急な除隊処分を受けたとなれば、そういう業界では欲しがる者も多かったからだ。
近づける雰囲気を出していれば、毎週毎日のようにスカウトマンがユリウスに接触を図ってくる……そんな待ちの姿勢で日々を送り続けた。
そして2303年6月。事件から3ヵ月が経ち、背後で響いた2発の銃声とともにその日が来た。
「な、何だ……!?」
兵士として磨かれた習性が、即座に身体を物陰へと運ぶ。
どうやら事が起きたのはすぐ横の路地裏の奥。顔を出して覗いてみると、倒れ伏す男二人の奥に銃の持ち主である女がいる。
「くそ……見失っちまうじゃんか。死ね! なんなんだてめえら!」
苛立ちを隠さないような言い方と共に女はしゃがみこみ、うずくまる二人の眉間にもう一発づつ拳銃を撃ち込んでとどめを刺す。殺しに慣れた人間なのか、その一連の所作にユリウスは全く殺意を感じなかった。
そうして女は路地裏を出ようとしたのか、街道の方を向く。そこでユリウスは彼女と目が合ってしまった。
「あー……ユリウス・レイヴォネンだよな? 違うんだよ、これ正当防衛でさ」
顔の右半分を覆うような大きな傷に、ノースリーブゆえに機械部分がむき出しな肘から先の義手。振り向いた女の容姿は、どう見てもその筋の人間。
関わり合いになりたくない凶暴そうな女が、自分の名前を知っている。ユリウスの危機感をさらに煽るには十分だった。
走りに自信はない。だが、ユリウスは手段を選ばずすぐにその場を去ることを決断した。
「待て!! あたしはスカウトだぞ!? 話聞け!! 逃げんじゃねー!!」
「スカウト!?」
言われて足を止めるユリウス。自分を害する意思はないということなのだろうか、見れば女は既に銃をしまいこんでいて両手を開いて前に突き出している。
命を狙われるようなやましい事情を持っている所からのスカウトとくれば疑う気持ちは拭いきれないが、背にした壁を出て身を晒すことを決める。
「撃たないよ。うちにパイロットが欲しくて来てるんだ……あ、名刺渡せって言われてた」
手渡しに受け取った名刺には社名であろう『ジャベロットPSC』と槍を模したロゴマーク、そして女の名前であろう『
「あんた、パスレル・メイラントか。こんな風に命を狙われることがあるような会社なのか?」
「こんな暗殺じみたことされる覚えはねえよ! こいつらの顔知らねーし」
そう言って既に死体と化した赤毛の男の頭を蹴り上げるパスレル。ユリウスがその男の顔を注視すると、あることに気づく。
ほとんど顔が同じで、体型も同じ。まるで生き写しのような二人だった。
この世界に生まれるにあたって特別な記憶を持って生まれたユリウスには、こんな特徴を持つ人間――あるいはとある組織による被造物たちに心当たりがある。
「こいつら……!?」
「キモいよな。クローン人間かよ」
パスレルの言いようは真実に中らずと雖も遠からずだった。
――イノベイド。量子型演算処理システム『ヴェーダ』が作りし人造人間。いずれ人類から進化し生まれ来る真の
ヴェーダに根差す世界中のコンピュータの目の行き届かない場所の情報収集を行ったり、イオリア計画の遂行そのものを担いもする多くの役割を持った生体端末。身体に行き渡るナノマシンによって脳量子波を使いヴェーダや他のイノベイドと交信することができる。
そして彼らは研究者から採取した遺伝子を基に作られているため、その塩基パターンが同じ場合は容姿も似通った姿で生まれてくる。今まさに重要なのは、この点だった。
死んだこの二人は恐らく塩基パターン0666……赤毛の特徴を持つイノベイド。
ならばパスレル・メイラントという女は、なぜイノベイドなどという存在に命を狙われるハメになったのだろうか?
「うわっ何お前!! な、何やってんの!? えっキモッ!! 信じられねえ!!」
死体の二人のパンツの中を覗いて性器の有無……情報収集型か戦闘型かを確かめつつユリウスは考える。すべての事情を知るには、一度この女に……パスレル・メイラントについていった方が賢明ではないだろうか、と。
「話を聞きたい。パイロットをやってほしいってことなんだろう」
「あ、え、ああ……あっいいのか! じゃあいつ」
「今からでいい。会社から来たなら車に乗せてもらっても」
「おお……思い切りがいいじゃん。あたしちょっと気に入ったぜ、じゃあこっち来な」
路地裏の出口に向かって歩き出す男女二人。
ユリウスは真相の予感を、パスレルはこのユリウス・レイヴォネンという人間が使える男である期待、それと
余談だが刺客はどうやら
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「じゃあ命を狙われる心当たりは」
「ちょっと前にモビルスーツでならあるけど、今さら確実に始末したいとは思わないよなあ~」
運転席のパスレル・メイラント曰くところ、奇しくもユリウスと時期を同じくして三か月前。彼女は偽りの依頼でおびき出された所をPMCトラスト所属の赤いヘリオン部隊に襲われ撃墜、それから右半身に後遺症を負い右腕右眼が義手義眼なのだという。再生治療を受けずにいたり、義手に人工皮膚をつけていないのは金がないしこれはこれでカッコいいからだ、とも。
後にも先にも個人として命を狙われたのはこの時ぐらいで、相手の狙いは自分の生死より軌道に乗り始めていたジャベロットPSCの腕利きパイロットを潰すことだったのではないか、とは自分が腕の立つMS乗りだったと信じて疑わないパスレルの弁。
しかし、ユリウスはパスレルの容姿を後部座席から観察していて、彼女がイノベイドに襲われた理由を何となく勘づき始めていた。
「……地毛が黄緑って変わってるな」
「え、もう染め抜けてんの? あたしも好きじゃねえんだよ、気味悪いし」
茶髪に染められたくせっ毛のポニーテールから頭頂部に目線を上げていくと、そこだけ黄緑が覗いているのがユリウスからわかる。
そしてバックミラーから見える瞳の色は紫がかっている……この特徴を持つ別のイノベイドもユリウスはよく知っていた。塩基配列パターン0026――『ガンダム00』の中で最後に立ちはだかる黒幕、リボンズ・アルマークと同じタイプである。
そして3ヵ月前に負った後遺症の残る怪我にしては、動けるようになるまで随分早い。ほとんど人間離れしているような回復力に見える、そこから見出せる推論とは。
――パスレル・メイラントも、恐らくはイノベイド。それも無自覚な情報収集タイプの。
「奴らが来た時何か異変はなかったのか? 狙われるような状況とか」
「アンタ急に話変わるよな……声かけられる前はめっちゃ頭痛かったな。そしたらあの双子ちゃんに呼ばれて、濃厚ショコラだかなんだかが昨日なかったとか言っててな」
額面通りに言葉を解釈すると限定スイーツが手に入らなかった腹いせに襲われたように聞こえるが、ユリウスにはそれが表している断片を理解できた。
刺すような頭痛。脳量子波が、機能していなかった……。
パスレル・メイラントが戦いで負ったという傷は顔を見ればわかるように、頭にまで達している。つまり、その時恐らく脳機能が損傷したかショックで異変が生じたかがあった。
そして彼女がイノベイドとして使用できたはずの脳量子波を扱う機能は失われ、ただの頭痛として現れた。それはイノベイドとしての役割を半ば失うに等しいことであり、ヴェーダはこのイノベイドを危険分子と判断し処分する命令を下したとしても何らおかしいことではない。
ユリウスの推理は、そういう一つの仮説を導き出した。
「その後処分とか消去とか言ってたから
「……じゃあ先に殺したんじゃないか」
「ピストル持ってたんだぜ~?」
それにしても血の気が多そうな情報収集型イノベイドもいるものだ、と思うユリウス。エージェントのイノベイドに戸惑わず即座に殺すことを選べるという時点で、ただの傭兵ではないことがわかる。
仮説が正しいのなら、彼女は自分に対してのソレスタルビーイングからの監視役だとかヴェーダの掌握を目論むイノベイターからの刺客だとかの類ではなく、本当にただ同僚を求めて自分を訪ねたのだということ。それならばそれでよしと、ユリウスはスカウトの話に戻ろうとする。
「スカウトしたいならジャベロットとやらの話をもう少しくれてもいいと思うが」
「アンタがさっきの話ばっかしたんだろ……あ、いやでもなに話しゃいいのか」
「会社の規模とか……あるだろ」
「そうか。零細だよホント、パイロットはもうあたししかいないしヘリオンも動くのは一機だけ」
「赤いヘリオンとやらにこっぴどくやられたみたいだな」
「いよいよ零細脱出って時にひでえもんだよな~。だからここ3ヶ月開店休業みたいなもんだったし、ダメ元であんた当たったわけよ」
あからさまに本職のスカウトではなさそうな人間を使いに出しているあたり察してはいたが、ユリウスにとっても予想以上の窮状だった。そしてそれは好都合だとも考える。
モビルスーツの僚機は誰一人任せられることがないだろうし、社内にただ一人のパイロットともなれば口も利くようになる。最初のうちは依頼も少なくどんな危険を伴う内容だとしても避けられないだろうが、むしろ自身は追い詰められることを望んでいる身なのだからそれでも構わない。
そしてその話に聞くPMCトラストの赤いヘリオンという存在。もしパスレルが本当に腕利きで、それをやってしまう傭兵といえばあるいは……。
「で、やってくれんの?」
「ああ」
「いいね~、好きになりそうだ。社員になったら
「まだ採用されるなんて決まったわけじゃない」
「なるんだって。アンタ運ぶ輸送機動かすのはあたしなんだし、よろしくやりたいんだよ」
先程からの初対面にも関わらないこの距離感の近さは、ユリウスにあの友人……パトリック・コーラサワーを思い出させる。
軍を抜けてから事情は電話を通して説明したというのに、いたずら心か嫌がらせなのかは知らないがひと月もの間『b』とか『:)』とかしか本文に書かれていないメールを週800を超えるほどに送ってきたので音声通話以外を着信拒否にしたあの親友である。当人曰く『千羽鶴折れねえから1000回励ましのメール送ろうとした』らしいが、善意は買うとしても迷惑以外の何物でもない。
通話でも同じようなことが起きたが、いい加減にキレて応じた瞬間怒鳴り散らしたら大人しくなったあの親友のことでもある。
つまるところユリウス・レイヴォネンは、パスレル・メイラントという人間がそういうロクでもない類の人間であることをこの時既に察し始めていたのだ。
「アンタ強いんだろ? いいコンビしようぜ」
「組んだらな」
これが、パスレル・メイラントとの出会い……もう一人の
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「五機も隠していたのになぁ」
2305年に時を戻して、アフリカ福音同盟の基地攻撃中。ユリウス機の接近を察知してモビルスーツ形態で飛翔し迎撃に出たヘリオン部隊、その数は五機。五対一のモビルスーツ戦
『いけいけいけやれやれやれやれ!!!! 前行け前行け前行け!!!!』
「うるせえ!!」
……通信から聞こえる野次を含めれば三対二とも、やかましさを鑑みれば三対一以下であるとも言える。だが、その実は全く異なる。
「こっ、これで同じヘリオンかよぉっ!? ぶあッ」
生き残り三機編隊のうち一機が、直後にリニアライフルの直撃を受けて撃墜された。
情けない泣き言が断末魔になってしまうのも道理であると言える。ユリウスの操るヘリオンは五機相手から放たれる砲弾を
テロリストと元正規軍パイロットという経歴の違いもあるが、敵の編隊にとってユリウスの駆るヘリオンはまるで別物の、桁違いのスペックを持つ何かのように思えてならなかった。
同時に、何機束になったところでこのヘリオンには敵わないだろう……とも。
「灰色のヘリオンって……!!」
また別のパイロットには、そんな特徴で腕を鳴らしている傭兵パイロットの話を聞き及んでいる者もいた。この二年間戦闘業務だけを請け負い、第二次セイロン島会戦をはじめとする特に規模の激しい紛争の最前線を……死線を好むかのように渡り歩き、必ず戦果を挙げてきたルーキー。
そのルーキーは、瀝青色のカラーリングにディフェンスロッドが両腕に装備してあるAEUヘリオンでほとんどの任務に出撃する。
目の前にいるヘリオンは、その特徴もパイロットの腕もまさに……。
『うおおおやるやるやる!! やりますねぇ~~!! いいですよいいですよぉ!?』
――そう悟った瞬間、彼の僚機は全て撃墜され自らが最後の生き残りとなる。
その後数十秒間までは、まだ彼も
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「いいねェ~~」
薄暗い室内で、ユリウス・レイヴォネンの一連の戦闘記録を閲覧し終えた男が頭をかきむしりながら呟く。彼もまた傭兵であり、突如現れたルーキーに注目する一人である。
しかしながら、彼はその目覚ましい戦果や最近の存在感の拡大に興味がある男ではない。発端は、一時期を境にしてユリウス・レイヴォネンという傭兵は超能力者か何かではないかという根も葉もない噂が流れ始めたことに遡る。
男は自分の目で見た事物のみを信じるというポリシーを堅く守って生きる人間でもあり、聞きつけですぐにあらんかぎりの手段を使って彼の戦闘における映像記録を集め始めた。
「人革連の例のアレは違えよなぁ。ヤツの所在は生まれてからずっとはっきりしてる……」
解像度の不鮮明な映像記録を苦労してどうにか調べ上げている内、ある時期からこの男はまさに超能力的な反射神経を兼ね備えているようで、射撃が始まるほんの直前から回避行動を取っているケースまで確認されている。
これがますますディスプレイの前に陣取る男の興味を駆り立てた。
存在が噂されている人革連の『超人機関技術研究所』から生み出された兵士となればもしかするとこれほどの能力を持つ可能性はあるが、調べ上げたユリウス・レイヴォネンの経緯は偽造の跡もなく一から十までがはっきりしており、この可能性は考えられない。
「あ~~、合流は後回しだな。コイツに関しちゃやっぱ直に見ねえとどうにもならねえわ」
男は時期を見て自身の傭兵稼業を捨て、招聘を保留しているとある組織へコンタクトを取るつもりでいた。だが、ユリウス・レイヴォネンという人間の出現によりその予定は覆ってしまう。
興味の対象が移ってしまったからだ。それほど男にとってユリウスの存在は衝撃だった。
自分の持てる力をどれほど使えば、この男をモビルスーツで倒すことができるだろうか……? 今となっては、それのみが思考のほとんどを埋め尽くしてしまった。
「あげゃげゃげゃ。いいね、困難でさァ……!」
男の名はロバーク・スタッドJr.、通り名はフォン・スパーク。己の感性にのみ従い、何よりも困難を好む者……いずれソレスタルビーイングの一員として、世界を引っ掻き回す男である。
彼の大望、それは自分による世界の変革。それを棚上げにするほどの興味が一人の男に向いた。