ガンダム00世界で留美やネーナやコーラサワーとイチャイチャしながら生きる 作:トン川キン児
「……最後に言っておこう。貴様はあれに恭順することでユニオンの理念を破滅させるのだ、奴は今の人類が求める平和など何ら顧みようとはしない」
「新しい時代の前というのは、旧きものは切り捨てられるのが道理でしょう」
「儂もその一つと言うか……」
「……この場合には、そうとも言えますな」
迷いを植え付けられたにしても時間がかかる。自分が言えることでもないが、一度こうと腹を決めた時のホーマーという人間の頑迷さを、教えた身としてよく知っている。
この場で彼を説得するというのは、最早不可能に近いことがエイフマンにもよくわかった。
……だからこそ、彼は胸ポケットにしまいこんであった第二段階の終了を合図する発信機のスイッチを、既に服の上からそのまま押してあった。
「私の前に、わざわざ知りすぎた者が来ていただけると思っていませんでしたよ」
指にかかったトリガーに、徐々に力が篭る。
エイフマンは間近にそれを見続け、時間稼ぎもここまでだろうかとついに眼をつむる。
「……!? なにっ……」
……突如として、ぱん!と勢い良く開け放たれた襖から、既に膝射体制のネーナが現れる。
反応し即座に振り向くも、銃口が彼女を捉える前に決着はついた。
「ぬ゛!?!? かっ……ごぉ……!!」
「うお……!」
ぱちん、という銃撃にしては小さめの乾いた音と同時に突き刺さった弾丸は、ホーマーの全身を痙攣させエイフマンの足下へとその身体を横たえさせる。
放たれたのは実弾ではなく電極弾。電極針から流れ込む高電圧による制圧である。
元来、個人装備には非殺傷性武器のオプションはないソレスタルビーイングだったが、今回のためにイアンをはじめとした技術部は特別にこの拳銃用弾頭を拵えたのだった。
表を張っていたSPも、既にこれによって入口の前に倒れている。
「何してたわけ!?」
膝射姿勢を解いて立ち上がり、ネーナはエイフマンへと駆け寄る。
ミッションプランには予想されていた事態ではあったが、実際に起こってみると肝が冷えることには変わりない。少し遅れていれば、丸腰の老人を敵の眼前に送り付けてむざむざ殺させるところだったのだから。
「色々とあった! 無事に行くのか」
「外のおっさんがトチらなけりゃね!」
作戦は第三段階。即ち作戦領域からの速やかな離脱の遂行へと移行している。
脱出ルートは両者とも頭に入っている。外に繋がる襖を開き、
「く……はぁっ……こ、堪える……!!」
「しっかり走れっての!」
「無茶を……言って……!!」
……しかし、日頃身体を鍛えているわけでもない後期高齢者に対して全力疾走の連続は体力的にもキツいものがある。
自分との距離が徐々に離れていくのを見て、焦ったくなったネーナは強引に老人をおぶる。
武力介入の主導を目的として作られたデザインベイビーであるネーナの身体的能力は、捨て駒であったとしても設計段階で一般人のそれよりも比較的高く設定されており、老人一人を背負って速度を落とさず走るくらいのことはわけない。
背丈よりも高い鉄柵に足がかかるほど跳ぶようなことも、可能である。
「来たな」
「どしたの、顔」
「ここで待つ口実にはいいんだ。"金持ちの酔っ払いは始末に負えねェ、自分で貼ってくっから"ってさ」
「あー、そういう話」
「出るぞ」
着地した先には既に車が回されていて、運転席に座るマグナスは、大きく頬を腫らした顔の上にジェルシートを貼っていた。
"口実が欲しいから一発くれないか"と頼んだ相手であるグラハムが、本気の拳をくれた結果がこれである。元々自分にそうするだけの理由も持っている人間ではあったが、それにしてもやってくれると思ったものだった。
ネーナとエイフマンはその些細を知らないために、自分でつけた傷であるものだと思い込んでいるが。
「レイヴォネン君、儂は……」
「詳細は後で聞きます。今は離脱が優先」
エイフマンを座席に押し込み、ネーナが乱暴にドアを閉じる音で会話は途切れ、車は静かに発つ。
化石燃料式自動車が絶えて久しいこの時代では、エンジンはもはや唸りをあげることもない。
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「グラハム・エーカーとかいう男に絡まれてついた傷です。戦場でも俺を追い回してくる。ユニオン一のパイロットならお知り合いなんでしょう」
「……彼か……厄介な男に目を付けられたものだ」
「本当にですよ」
スパイ映画のような劇的な脱出劇もなく、行程はつつがなく済んだ。
拝借した警備車両は埠頭から海に沈め、一行はウェイトの付いた潜水用の靴へと履き替え、外壁部迷彩被膜を展開して海中へ待機させていたリィアンへと乗り込みそのまま潜航しつつ旧人革連領海を離脱。
動力源として搭載してあるネフィリム及びスローネドライは、デュナメスとキュリオスの太陽炉へ換装してあるが故に行動範囲も補給要らずの無制限。
元はGNアームズであり大気圏突入・離脱能力を備えるリィアンがあれば、地球と宇宙の往還も思いのまま。
……会話とは外に、太陽炉とはつくづくテロリストが持つには過ぎたる力だと思わされるエイフマンであった。
「あのような場に顔を出すような男ではないが」
「勘が働いて急に来たくなったとか。結婚した
「結婚!? ビリー君がか!?」
「……意外なんすか」
「……クジョウ君を一生引きずるものかと……やはり男は振り切れることもあるものか」
衝撃のあまり、らしくもない大声を放ちながら話を逸らしていってしまうエイフマンをよそに、ネーナはその名を聞いて目を見開く。
会場で知り合った夫婦と同じ名前。自分がそちらと会っているとき、他所ではその友人に絡まれていたとは妙な縁もあったものだ、と思いながらも。
「んなもんいいけどさ、どうすんの。結局」
エイフマンに向けて、ネーナが問う。
「おじいちゃん一人のために、結構メンドーもしたし命張ったんだけど。どういう感じなワケ?」
偵察行動はいずれにせよやるべき事であったから、そのついでに彼に世界の実情を見せる事自体には何らコストを伴わない行動だった。
しかし、これまでもホーマーとの接触というこのミッションの遂行を可能な状態にしておくためには少なくないリソースを割いてきた。時間にしても、諸々の工作にしても。
それを考えれば、ネーナが代表して言うようにソレスタルビーイングとしてはいい加減に今後の姿勢をエイフマンに問いたいというのは当然のことである。
可能な限り当人の意思を尊重する姿勢こそ変わらないが、協力するにしても、そうでないにしても、それなりの扱いを準備する必要があるのだから。
「儂の保護に端を発してからというもの、ほとんどは君たちの都合で用意した事じゃろうよ。儂はそれらを恩に感じたりはせん」
「ちょ……あんたっ」
「だが、答えは決まった」
テロリストが自分のためにどれほど身銭を切ろうと、それはそちらの方針でやったことなのだから、それを恩義など捉えて自分の考えに影響を及ぼすことはないと断じる。
その上で、エイフマンは答えを出す。
「ユニオンの理念はあそこにはなく、それと戦えるのは君たちだけで、しかも力が足りない」
「……そうなります」
「であれば、極めて不本意ではあるが」
手元のPDAをモニターに繋ぎつつ、エイフマンが続ける。
「手を貸す。イノベイターを打倒しユニオンの理念が取り戻されるまでは」
そう言いつつ、エイフマンが大モニターに映し出したのは三面図。イアンらと共に使うソレスタルビーイングの様式とはかなり異なるが、モビルスーツであることはハッキリとわかる。
できれば、と組織全体が期待し続けてようやく得られた解答に関してもそうだが、見覚えのないその機種に対してユリウスは問いかける。
「なんです? こいつ……」
「君の新型機だ」
「はっ……!?」
「故国に帰り着く事ができた時に使おうと思っていた物の流用じゃな。これでホーマーとイノベイターの私兵を倒せ」
……やると決めた時の行動力が老人のそれではないということは身にしみてわかっていたはずだが、それでもここまでするとも思わなかった。
これほどの物がその場でスイと出ることなど、前々から想定していなければありえないことだ。
「……今までこういうものをずっと作ってたんすか」
「暇はしていないと言ったはずであろうよ」
3年という緩い軟禁生活の期間。それはエイフマンにとって、たとえ一人での作業だとしても断片的な情報で太陽炉搭載新型MSを設計させるのに十分すぎる時間であった。
天才に無為に時間を与えると、こういうことも起きる。身を以て思い知ったユリウスに対し、エイフマンは続ける。
「……言っておくが、儂とて君たちの事を少しは理解できたつもりでいる」
「……? 何の話です?」
「やり方の事だ。君たちは計画遂行のために手段を選ばぬというような非情さは持ち合わせておらぬし、世界の在り様とくそまじめに向き合おうとしている若者の集まりということくらいは、長くいればわかる」
ホーマーの言うように、ユニオンの理念は実際のところ建前にすぎず、そこに一貫した行動が伴っているとは言い難い。国家とは、巨大な集合体であるが故に。
否応なく現実を目の当たりとする多くの軍属にとっては、机上の理想論であり、強大な武力を正当化する装置にすぎないことなどわかりきっている。
だがそれでもなお、その理想を信じて生きていきたい。理想を信じられねば、人は歩みを進めようとしなくなるから……。
そういう風な、合理性とは程遠く科学的とは言えない思考の持ち主だと自認するのが、レイフ・エイフマンという人間である。
……ソレスタルビーイングという集団のこれまでの行動を、そして内情を知れば、彼は自然と一つの結論に至る。
「儂と君たちは似通う。理想を欲するという本質ではな」
そしてそれは、そうした構成員を欲したこと、今の状況下、加えて最近に本人から語られたことからもある程度は推測できるイオリアの本質。
隠された真の目的よりも、本当はその第一段階、紛争根絶という理想こそを、今を生きる人間ががむしゃらに追い求め戦って欲しいという願いが込められた組織……それがソレスタルビーイング。
でなければ、全てはイノベイドに委ねられていたはずなのだから。
「じゃ、ソレスタルビーイングになりゃいいじゃん」
「今よりずっと若ければ、そういうことも考えられたろうがな」
ネーナの言うように単純にはもうできない。それもエイフマンにはわかっていた。
そこで人生を過ごし、そこで歳を重ね、その業も徳も見届けた国だからこそ最期までそれを信じてやりたい。
今更別の何かを信じろというのは、己の人生を捨てることとすら思える。
「儂はユニオンの人間だ。それでもよいのかな」
「構わないって言うと思いますよ。それより、俺たちに手を貸すっていうことは……」
「テロリズムに加担することは承知じゃ。だが、往々としてそうでもなければどうにもならぬこともある」
……その覚悟の程は、ユリウスにも伝わった。
「なんか知らないけど、協力してくれるワケね。じゃ、さっさと宇宙帰ろ!」
相も変わらず聞いていたのかいなかったのか、強引に話をまとめるネーナ。その様子が妙に上機嫌に見えて、ユリウスは少し引っかかった。
「何だよ? 機嫌いいな」
「まあまあ面白かったし。パーティー」
「……そりゃあ良かったが」
「てか、海水ずぶ濡れのドレスってどーなんのって気になんない? 洗えんのかなこんな高いの」
変わらずどこか能天気な少女。その場の誰にもそう映るネーナの立ち振る舞い。
その裏にあるネーナだけの秘密の出会い、彼女をひとつ吹っ切らせた何かがあったことは、誰も知るよしのないことだった。
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『――――わかる!! やっぱどこにでもヤな女いるもんねぇ!! ムカつくわそんなのいたら』
『そーよ!! こないだだってテメーの都合でおちょくり回しやがってさァ……!!』
数時間前のパーティの只中に遡る。その庭園に置かれた四角亭に腰掛ける二人、ネーナとミーナは会って間もないながらにお互いを肌の合う女だと思えていた。
"同じツラの子がシケた顔してるとこっちまでシケてくる"などと言って近づくミーナを鬱陶しいと思うネーナだったが、煮え切らないこと、腹の立つことを話してみれば気持ちのいい程共通する価値観。
宇宙に上がっても女友達はいるが、ここまで波長の合う者はいないかもしれないと思えた。
ネーナにとってはまるで、違う場所を通った自分自身と話をしているかのような――――。
『で。こないだなんつったのよソイツ?』
『んっとねぇ……、…………』
口ごもるネーナ。いくら波長の合う人間とはいえ、今日会ったばかりの者に話すようなことだろうかという躊躇が、沈黙のうちにその顎を机に敷いた腕の上に乗っけさせる。
だというのに、どうしてか話してもいいように思えてしまう。
逡巡のうちに、気まずそうに視線を逸らしながらネーナは語り始めた。
『昔さァ……やっちゃいけないってことをさ。知らないでやって痛い目見た事、ある?』
『そりゃあ。そんなんいくらでも』
『あたしは、とんでもなくでっかい痛い目見てさ。それからなのかな、そうなるんじゃないかって思っちゃうとできなくなる。二の足踏んじゃう』
今こうして言葉にできたように、ネーナは自分自身の感情をそれなりに俯瞰して見ることはできている。
トラウマから来る禁忌への強い回避欲求、しかしそれへと近づきたいと思える接近欲求。二つがもたらす強い葛藤が、ネーナの苦悩の源泉。
それをまるで無いように扱う人間が間近にいることも、より感情を荒げている。
『迷ってること言われたわけだ。あー図星だわって感じで』
『……まぁ、そう』
そして、まるで分かっているかのようにミーナは言い当て、ネーナは小さく頷くしかない。
同じような顔をしていても、歳の差、人生経験の差は顕れる。ましてネーナ・トリニティという人間は、人間一人として生きた歳と肉体の齢が合わないという殆ど例を見ないような人間であるのだから、尚更の事である。
『ふーん……あのねぇ、やった方がいいよ! やりたい事はさ。あたしはそうしたから今がある』
『簡単に言うけどさ』
『あたしなんかアレよ? 旦那が初恋こじらせてんのぶっ壊してモノにしたかんね』
『……へぇ!?』
……唐突に明かされ始めたミーナの恋愛成就の経緯に、沈むようなネーナの感情は霧散する。
『学生の頃からこないだまでずーっと! クジョウ君クジョウ君ってさァ、お前それで三十路過ぎてんだぞ! って言いたくもなるっしょ! 追っかけてる身からすりゃあさ!!』
『うわー……! ガチで!? そーいう奴なんだ……』
『あたしだって同じ歳食うんだぞ! んまァ、まだ好きだったあたしもあたしだろーけども?』
ミーナを行かせてまだ会場にいるであろう夫の方は、ビリー・カタギリ。ホーマー・カタギリの甥であるとミーナ自身から先程聞いたので、ネーナも承知している。
どうにもなよっちい優男であるという認識を外見から受けていたが、正しくその通りであると話伝いに思えたネーナ。自嘲するミーナに同情の念を禁じ得なかった。
『んで、最近異動になってグーゼン仕事場で会って、どこ見ても女の陰ないと来るじゃん』
『……いやそんなの! もう行くしかないってヤツ!?』
『バチクソ絡んでやったからね! 童貞一人オトすくらいワケねーぞって! 結果どーよ!!』
……両腕の握りこぶしを天に掲げて、誇らしげなガッツポーズを捧げるミーナ。
両手にガンフィンガーのサインを作って、それを指すネーナ。
『……ぷ……ッ! くっふふ! え~!? マジ!? そゆことかぁ!!』
『……ッふっふ! きゃっはっはっは!! そうよ! 勝ち勝ち勝ちぃ!! 見たか初恋ぃ!!』
奇妙な間が流れて、櫃を切ったように二人から品のないゲラゲラという笑いが飛び出していく。よく響く拍手まで連続する始末である。
『はーっ……! っふふふ……! やるわ~、アンタ……!』
『そうそう。だからさ、そういうワケでしょって』
『……んー?』
『イモ引いてたってしょーがないってこと。やりたいならやった方が人生きもちーよ』
……目の前の彼女を見れば、それは真理なのだろうと思えた。
無垢だったころとはもう違う。弁えも分別もある程度身に付いた。後ろめたさもある。
その上で彼女は、やってみろと言う。自分の幸せのために。
『……結局自分次第かぁ』
『そりゃそうでしょうよ』
辛いとわかっていても罪を背負い込みたかったのは、どうしてだろうか。
――――そうしないと、幸せになっても心のどこかに陰がかかりそうだから。
にぃにぃズの仇を討ちたいと息巻いているのは、なぜだったろうか。
――――そうしないと、自分の人生に納得して幸せになれると思えないから。
あの時、アイツにあたしだけのアンタでいて欲しいと思ったのは。
――――アイツが好きだから。アイツと幸せになりたいと思ったから。
組み替え直した自分の行動原理。自分よりも他のためにと思っていた頃の産物。累を及ぼした誰かのために、にぃにぃズのために、世界の為にとか。
そこには何の事はなく、いつもどこにでも自分本位の理由が隠れていた。
考えてみれば当たり前のことで、人間がそれほど極端から極端に振り切れることができるはずもない。本質は簡単には変わらない。
とはいえ、少しは変わることができたと思えるのも事実で。
『よっしゃ。やってみる!』
『お、いいんじゃないの? やってやんなよそんな感じで!』
そろそろミッションも第二段階が始動するかもしれない。意気込みを掲げながらやおらに立ち上がって、本館へと戻ろうとするネーナ。
『用事? もうちょい話したかったけどね』
『あんただって旦那待ってんじゃないの?』
『わ。そりゃそうだ、行くわあたしも』
……その歩みの大胆さは、根拠のない自信に満ち溢れた少女の物に戻り切っていた。
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