ガンダム00世界で留美やネーナやコーラサワーとイチャイチャしながら生きる 作:トン川キン児
「君は彼をどう見るかな」
「どうって言われましてもね……」
場所はモラリア共和国、とある一会社のミーティングルーム。傭兵派遣業で賑わうこの国の御多分に漏れず、この会社もまた世界最大の民間軍事企業連合であるPMCトラストに属するひとつの民間軍事会社である。
そこには重役とそれに属する会社員、つまりパイロットのふたり。一人のエースパイロットの加入によってもう一度力を付け始めている、フランスのジャベロットPSCについてが話題だった。
「アリー・アル・サーシェスは一度やってみせただろう」
「ああいう動きのできる男は、やるとなるとあのおしゃべり女と勝手が違いそうで困ってますよ」
パイロットの男、アリー・アル・サーシェスは確かに数年前同じように、戦闘中でもやたらとよく喋るジャベロットPSCの女パイロットとその僚機を撃墜した覚えがあった。手こずらせてくれたので命までは取れなかったが、依頼内容に則り二度とパイロットをできないだけの身体にしたのは確かである。
しかしどこからこう何度も良いパイロットを引っ張りこんでくるのか、ジャベロットはまた力のあるルーキーを手に入れた。その脅威は以前にも増しているとサーシェスも直感している。
ただ、サーシェスには思わぬところからもたらされた一つの選択肢があった。PDAを取り出し、上司にそれを説明せんとする。
「ただ、私の方には昨日のうちにひとつ面白い通話がかかってきたので……話はこれを聞いてもらってからでも遅くないとは思うのですが。どうだろうか?」
「君ほどのがそう言うのなら……」
録音してある通話記録を再生させるサーシェス、その番号は非通知設定。
『あげゃげゃ。久々だな、オレ様だよ。フォン・スパーク様だぜ』
『ああ……!? テメェ、今さら何だ!?』
「フォン・スパーク……あの問題児の坊主か!」
「私もかかってきた時は肝を冷やしましたがね、しかし今回はなかなかいい話を持ってきた」
PMCを営む者の中でも特に厄介者と警戒される少年、フォン・スパーク。彼の率いる傭兵団の狡猾なそのやり口は恐れられており、その行動原理も無軌道で説得・交渉もまた難しいという非常にやりにくい相手である。
サーシェス自身それがよくわかっているからこそ、やり方の苛烈すぎる彼をかつて自身の率いていたKPSAから追放した。その時に抹殺できなかったことを今でも後悔している。
『そろそろ気にかけ始める頃かと思ったんで、忠告だけな。何もしねえよ』
『忠告? 何の話だクソガキが!』
『ユリウス・レイヴォネンを黙って見てな。オレ様のターゲットに決めた』
『はあ?』
『それだけだ、そっちにも都合のいい話だからそうしときな。厄介者の始末を請け負ってやるよ』
そう言うとフォン・スパークは一方的に通話を終了し、そこで録音した通話記録も絶えた。
「そういうわけです」
「どういうわけだ?」
「
「それは……そうだろうが」
「会社は今大きくなって、文句の付きそうな傭兵同士の潰しあいはしたくないのが本音では?」
アリー・アル・サーシェスという人間の本音でもある言葉だった。彼は戦いが好きで、戦いというものについてまわる殺しや犯罪を好んで止まない最悪の人間である。だが、戦いという行為そのものを好むのでは決してない。
戦いによる勝利と、勝利者として敗者の全てを蹂躙することに生きがいを求めるのである。彼は確実に勝てる戦いを作った上で相手を嬲りつつ勝利したいのであって、負け戦はおろか互角の戦いすらあってはならないとさえ思っている。
フォン・スパークや今回のユリウス・レイヴォネン。そういう勝てなくもないというレベルの相手とやり合うことは、嗅覚が危険だと伝えている。
「よい提案だった。そうさせよう、そういう話があるなら様子見がいいな」
「進言の受け入れをありがたく思います」
後に分かった、フォン・スパークからジャベロットPSCへの依頼内容。厄介な片方が確実にいなくなるというそれを見れば、様子見に回ったのは正解だったとサーシェスも確信できた。
『指定ポイントまでユリウス・レイヴォネンをモビルスーツに搭乗させて投下せよ。報酬は我が方の傭兵団の持つMS・兵器類を含む全ての資産と、AEU軍内で起きた同士討ち事件についての情報の開示である。達成を確認次第、報酬は即座に口座へ支払われる』
などと乾いた笑いの出るようなバカげた内容では、アリー・アル・サーシェスでなくとも確信できたのだが。
「……バカかコイツは。ま、悩みの種が消えてくれんならなんでもいいけどよ」
どうやらフォン・スパークは、傭兵を廃業することに決めたらしい。
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「この依頼どう思ってんのよ」
「どうって言われてもな……」
輸送機の中での、パシーとユリウスの語らい。ジャベロットPSCはフォン・スパークの依頼を受諾することを決定し、そのために輸送機は北アフリカのサハラ砂漠方面にあるポイントへ向かっている。
このような見え透いた罠にわざと引っかかるような決定が下されたのも、その報酬があまりに法外だったためだ。たったこれだけの任務をこなすだけで傭兵団のヘリオン数機とため込んだ資金に加え、第五次太陽光発電紛争時代のモビルアーマーまで引き渡されるというのだから、罠だとしてもここまであからさまではおつりが来るというものだ。
だが当然懸念はある。罠だとわかりきっているところにモビルスーツを放り込めばどうなるかなど火を見るより明らか、生きては帰れない可能性も凄まじく高いだろう。そうなればジャベロットはまた貴重な腕利きを失うハメになる。
そうとわかっていながら、ユリウスは自分からこの依頼を請け負うと言ったのだ。
「こんなあからさまでも自分から受けたいって思うのは何がそうさせるわけ?」
「そりゃあ……ボーナスとか、俺や知り合いの人生を狂わせた奴を知りたいと思う気持ちがある」
「あんたが同士討ちの当事者だってのは知ってたが、そういう執念じゃないと考えてたんだよな」
「……ど、何がよ?」
ユリウスには、パシーが何を言いたいのか理解できていない。
「あんたって進んで鉄火場に飛び込んでくから、そういうギリギリの生き方を攻めるのが好きだと思ってたんだよ。センチメンタルがあるような人間には見えなくてさあ」
「ああ? それは…………な、自分の能力の限界を引き出したいと思うだけで。死にたいわけはない」
「そぉんな意識高い理由で傭兵やるのかよぉ!? ぶははははははははは!! アホかお前は!?」
……自身が経験を通して必要だと思ったからこそ傭兵の道を選んだというのに、こう自分の覚悟をあからさまに笑われると流石のユリウスも腹が立っていた。仕返しとして、ユリウスはパシーに問いかける。
「じゃあパシーは何で戦ってる。現実主義者のお前がずっと死ぬか生きるかをやってる理由って、何だ?」
「前にも言わなかったか? あたしはただ話がしたいだけさ、わかるだろ? あたしお喋り大好きなんだ」
「戦場でも喋りっぱなしの女が言うと確かにと思える」
「そう、戦いも対話のひとつだ。あたしは開けっぴろげの方が好きだから、本音で喋るのが好き。だけどウソつきは大っ嫌いだ。頭とか身体を使う難しい話も好きだぜ」
「……話が見えない」
そうユリウスがしかめっ面で呟くように言うと、パシーは大声で答えた。
「戦いはみんな本音でやる、ウソはつけない。ぶっ殺すとか、死ねとか! あたしはそれが好きなんだよ、本音どうしをぶつけあったら、大抵難しくて、うまくいかなくて、喋らなくなるってのが現実なのも含めてさ」
「異常だろ」
「そうかぁ? 人付き合いに餓える奴がいるのは普通だって。だからなんだかんだ付き合いのいいあんたの事は好きなんだよな。あたしにウソついたことも、ないからな」
たとえその人付き合いが、見知らぬ人間と機械越しに殺し合う仲だとしてもそれが好きなのだ。とパシーは言う。
言った通り異常者でしかない、としかユリウスは思えなかった。ただ、調子に乗ってぶちあげたフカシだと思うこともできなかった。
初対面の際パシーが刺客に止めを刺そうという瞬間、近頃殺気に敏感になっていた自分が何も感じられなかった理由がこれだと説明できる。つまるところ、パシーはあれが殺しなどとは少しも思っていないのだ。
そういう考えの女に一年ちょいの間背中を預けていたと思うと、ユリウスもぶつけられた好意が打ち消されるほど鳥肌が立った。
「んなことより、そろそろポイントだからヘリオン乗って待機だろ!?」
「ああ……うん、了解」
「あ゛~~早くあんたのよこすボーナスで飲みて~~肉食いてえ!!」
「てめっ……罠にかかりに行く奴に言うことか!?」
悪態をつきながら後部のMSハンガーに移動するユリウス。しかし、そこに格納されていたユリウスのAEUヘリオンは飛行形態だった。
数えきれないほどの搭乗経験があるユリウスには当然わかっている。AEUヘリオンは可変MSという分類ながら、去年2304年からロールアウトしたエース用少数量産機ユニオンフラッグや三年後のAEU主力機イナクトのように、出撃後あるいは戦闘中に変形できる機能が存在しない。
MS形態と飛行形態を、出撃前に選択して換装しなければならない。対MS戦闘を考慮するならば当然MS形態を選択すべきだが、なぜかユリウスは今回飛行形態を選択した。
『アレ本当にやるのか? ユリウスが超すごいからって戦闘中にできんのかよ』
「無茶苦茶だとは思うが、罠にかかりにいくならこれくらい意表を突ける仕掛けは欲しいからな」
『それもそうか』
その仕掛けとは、飛行形態のヘリオンで間違いなく敵の度肝を抜けるであろうパスレル・メイラントの理論。しくじれば自滅の可能性さえあるが、これができれば恐らく現れるであろう敵の戦術を大きく崩せるだろう。
『ミスったら骨は拾ってやるよ~』
「それは頼みたいな」
身構えて少し緊張したユリウスの身体を、パシーのおどけた台詞がほぐす。こういう時の冗談だけになればかわいいもんだが、とユリウスはいつも考えていた。
ほどなくして、ユリウスのヘリオンは出撃した。
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「約束通り来たから報酬はやるけどな」
操縦席に座ったままPDAを操作し、即座にジャベロットPSCへと送金するフォン。
これまでのユリウス・レイヴォネンの戦闘記録からしてモビルスーツ形態での到着になると思いきや、飛行形態で来るというのはフォンにとっても少しおもしろくなかった。仕掛けておいた奇襲策の半分は使えなくなるし、これでは先制攻撃もややインパクトが薄くなる。
それにもっと良くないのが、こうなるとまだ能力の特定ができないということ。
(反応速度からして人間の限界を超えてるから、超スゲェ反射神経って線はない。ありえるとしたら未来予測か思考盗聴……裏をかいたつもりのニブイチでたまたまオレの策を潰したのか、あるいはそういう超能力じみたのを使ってオレを欺いたのか。どっちにせようまくないパターン)
予測できる未来や盗聴できる思考の範囲は、種類は、容量は。フォンにとってこのパターンでは、まだ能力の全貌を知るための判断材料が少なすぎる。
それでも、仕掛けないことには何も始まらない。フォン・スパークという人間が最も嫌うことは、停滞をよしとすることだ。
「だが飛行形態のヘリオンなら、コイツとは相性が悪いなぁ!?」
レバーを倒すとともにひとつの砂丘が崩壊する。
中から現れたのはフォンの駆るモビルアーマー、アグリッサ。飛行中のAEUヘリオンを狙い、砂塵を巻きあげ飛び立った。
「砂の中から!?」
『うおおおユリウスぅ!!!! すげえ金入ってきてるぞ!!!! めっちゃ金来てる!!!!』
「それどころじゃねえんだよ!! モビルアーマーに追われてんだぞ!!」
『モビルアーマー!? やべえな! 頑張れよ!』
「ふざけんな死ね!!!! 早く離脱ルート出せ!!!! 回収準備ぐらいしろよカス!!!!」
『あ、それはやっとく!』
金に目がくらんでオペレーターは使い物にならない。となれば、交戦するしかない。
とはいえ地上での機動力は飛行形態のヘリオン一機とアグリッサで二倍近く差がある。振り切ることはほぼできないと見ていいのでそもそも交戦は不可避、適当に壊して逃げおおせれば御の字である。
『あげゃげゃげゃ!! ようユリウス。オレだよオレ様、フォン・スパークだ』
「通信……!? モビルアーマーのパイロットが依頼主!?」
『そういうコトだ!! 騙して悪いがって奴でな、こっからはオレ様のお楽しみだぜ!!』
つまりあれほどの破格な報酬を提示してきたのも、どうしてかは知らないがこの変な笑い声の依頼主が自分とモビルスーツ戦で殺し合うためだけに……だということ。ユリウスはそう悟らされた。
自分の記憶のどこを漁ってもフォン・スパークなんて男は存じ上げないし、自分の何がそうさせるのかさっぱり見当もつかない。ただ、今はもうじき自機に追いつきそうな異常者の操るモビルアーマーと対峙するしかない。
『何ィ!? きたねえ奴だなお前!! 恥ずかしくないの!?』
『義手女に何言われようがかゆくねえんだよ!! 生きたまま脳味噌を見せてくれるんなら投降させてやってもいいぜ!?』
『キモッ!? サイコかよ!! こんなのに捕まったら火にかけて食われちまうぞユリウス!!』
……それにしても。自分をさしおいて勝手にやり取りをする異常者二人を見ていると、どうしてユリウス・レイヴォネンという人間を取り巻く運命はこういう変な奴らばかり差し向けてくるのだろうと、ふつふつと怒りがこみ上げてくる。
後方から放たれるアグリッサの――バディクラフトのプラズマキャノンと本体のヘリオンのリニアライフルの弾幕を右に左に掻い潜りながら、ユリウスはその怒りを解き放つ瞬間を待っていた。一見弾幕を張って墜とそうとしているように見えるが、正確に狙いをつけたいならもう少し速度を落としているはずなのに敵は全速力。それに加えて、それほど濃い
恐らく狙いは接近戦。切り札を切るタイミングは、クロスレンジに入った瞬間。
(予知ができようが思考が読めようが、飛行形態で近接攻撃はかわせねえんだよなァ!!)
そして、機影が重なる最接近距離。
アグリッサは底部をヘリオンに向けて下方から接近、バディクラフト部分の四脚を展開。側面からも開いた一対のカーボンクローで真っ二つに切り裂かんと迫る。
ユリウスの感じ取る
「ブレーキング! 今!」
――変形するはずのないAEUヘリオンが、小さな破裂音と同時にモビルスーツへと変形した。
『なに……!?』
人型となって瞬間的に被弾面積を減らしたことで、クローの一閃はギリギリの所で狙いを外れた。
Type7バディクラフトの構造的な弱点は、収納された脚部とクローを出した後の部分では機関部などがむき出しになっているということ。胸部から弾きだされたリニアライフルを掴んだユリウスの反撃射は、それを次々と抉っていった。
「いつもいつも頭のおかしいヤツばっか!! 寄ってきやがってぇぇ!!」
次々と着弾し、破壊されていくバディクラフトType7。
こうなっては装着したヘリオンの部分を切り離してType7はパージする他ないので、それは仕方ない。隙を晒しているので反撃も甘んじて受けよう。だがフォン・スパークが今一番解せなかったことは、ユリウス・レイヴォネンのヘリオンがあろうことか空中で変形したこと。
設計的に不可能なはずのそれをどうやって可能にしたのか? AEUヘリオン飛行形態の仕様はフォンの頭の中に全て入っている、そして今ユリウスのヘリオンは被弾がないにも関わらず後部から少し煙を上げている。ここから導き出される結論とは……。
(換装ん時にくっつけられるリアウィングと脚部の接続部を爆破して、無理矢理脚部を降ろして変形したかよ……!)
その瞬間に機体内部でかかっている飛行形態用のロックを外せば確かに変形は出来る。だが一歩間違えばエンジンに誘爆してそのままお陀仏になるような芸当で、しかも変形したからと言ってその急激な減速で機体バランスを崩し墜落するのが普通のオチである。
それを攻撃の回避にまで利用させて瞬時に反撃まで食らわせてきた、ユリウス・レイヴォネンという男は。
『面白れェな……面白すぎるぜお前!!あげゃげゃげゃげゃげゃ!!』
「まだやる気かよ……神経太いヤツめッ」
エネルギーを温存せずにプラズマフィールドを使って仕留めるべきだったと言われれば返す言葉もないが、フォン・スパークの知略がここで終わりというわけでもなかった。
時刻は24時を回る頃。砂漠の日の出までは、まだ長い。