【貴官は国防軍所属最低条件を満たしていない為、不採用とする】
そんな通知が来たのはつい先月のことだ。
やぁ、風の子元気の子。唐突だけど、ぼくは今ベルリンの空港から東へ遥か彼方のニッポンへと向かっている。
その理由は明白。さっきの通知にあった通り、国防軍の最高司令部の閣僚に組み入れてくれないから。
それも高卒認定がなかったから...という超単純なことだった。
「ちぇっ...なんでぼくが今更高校なんて...。」
愚痴をいいつつ、飛行機から降りて空港を出て自動運転の中央管理された乗用車に乗る。
確実に極東へ運ばれていく感覚に終身刑を言い渡された感覚に陥る。
______3日前______
「総統...なんとか総統のコネで国防軍の連中を説得してくださいよ!」
ぼくは必死に総統執務室で懇願を始める。
そんなぼくを見かねてか総統がぼくをじっと見据えて、そして口を開いたかと思えば
「だめだ。」
期待を裏切る言葉にぼくは愕然とする。
「いやだって、今更高校なんて行かないよ!?ぼくもう150歳超えてるし!」
本当ならヨボヨボのおじいちゃんどころか墓に埋められてそうな年齢を大告白するがそれでも総統は
「だーめだ。」
「なんでだよ...行くとしても国内の小中高の建物は先の大戦の影響で使えないし...。」
そう頭の中で少し思案を巡らす。
現在、ドイツ帝国国内の経済および政情は安定しているとは言え、先の世界大戦における空爆等によって建築物等は莫大な被害を受けており、復興は現在進行形で進んでいるところだ。
さらに今うちにマトモに稼働する高校があるかと言えばノーだ。
で、残る選択肢はただ一つ。
「クリューガー、ニッポンへ旅行だ!喜べ。それも第一高校だぞ!」
と、総統はニンマリ笑顔でぼくに返してくる。
「やっぱりかぁぁぁぁ...!」
留学以外になかった。
それも総統は【ニッポン】といった。ニッポンといえば、旧同盟国であり今なお友好的な関係にある国だ。
更には今世紀に入ってから盛んになっている魔法に関する研究、技術開発も先進的であり、魔法の具現化を手助けするCADなる物の開発も行なっているという。
そして第一高校といえば、国立魔法科大学付属第一高校...通称魔法科高校と呼ばれる世界でもトップクラスの魔法専門学校だ。
だがしかし、ぼくがそんな国に行くには少し問題があった。
「えッ、でもぼく魔法なんて使えませんよ!?それに第一高校なんてエリートばっかじゃないですか!」
そう、ぼくは魔法師ではない。ただの軍人、1人の兵士だ。言い忘れていたようだがぼくは ヘローナ・クリューガー親衛隊大佐だ。
確かに多少は魔法に関しての知識はあるつもりだ。30年前に盛んに出現したロシア軍の中に混在する魔法師達との戦闘で彼らの魔法の原動力 サイオンについてや、その術式なども。
「必要なのは高卒認定の証明書だ。魔法なんてどうでもいいだろう?まぁ、あわよくば我が帝国にその技術を持ち帰ってもらいたいが...。
君は諜報活動に出るのではない。そこまでしなくても良い。
魔法についてはお前のその異能で誤魔化せ。そして何よりも普通に振る舞え。お前はお前自身の正体を悟られることなく、無事に仕事を終えて本国に帰還するんだ。」
断れない口調で強く言ってくる総統に対して、ぼくはコクリと頷くことしかできなかった。
「わ、わかったけど...今から試験勉強...?」
疑問を口にしてしまうが、総統はその辺りもぼくを知っているようで少しニヤつきながら
「何を言ってるんだ。お前は物知りのくせに。それに、いい機会だ。高校生活を楽しんで来い。」
このじじぃ...他人事のように...。
ともあれ、本当にマジで行くならあと3日以内に出発しなければならない。超忙しいぞこれ。
「航空会社には既に取り合わせてある。行ってこい。」
総統がごく真面目な顔になり、僕に念を押す。流石にここで断るってのは野暮ってもんだと思い、僕は右手を掲げて軍靴を揃え、歯切れのいい音を出す。
カツンッ
「ハイル・マイン=Führer。」
「ハイル・クリューガー。」
この短い敬礼には、絶対的な服従と忠誠心が込められている。親衛隊は皆、このような感じだ。
______________
そういうわけで、今僕は新しい我が家へと来ている。空港から送ってもらった乗用車はドイツ国内でもよく走っているVGO-315のニッポン製だろう。
位置は第一高校から歩いて20分ほどの、総統曰く結構費用はついたようだ。
早速認証キーを扉のドアロックにかざして扉を開け、中へと入って行く。
ニッポンの家屋はドイツや西洋とは違い、靴を脱ぐ習慣があるため、屋内ではスリッパに履き替える。
奥へと歩いてみると、かなり広く外見からでもだいぶ豪華な尺邸だとは思ったけれどここまで広いとは思わなかった。
そもそも僕にこんな広さ必要ないだろと、せっかくの豪邸を無駄にだだっ広い建物として評価してしまう。
ともあれ、過ごし易いのに変わりはない。
そうしてぼくは新しい我が家で一週間後の試験に備える。
科目は普通科の基礎科目 つまるとこ社会だの英語だのとの筆記テストと、この学校特有の魔法理論及び魔法実技の主に分けて3点だ。
魔法理論は結構好きな方だ。いわゆるペーパーテストという奴で、筆記は大好きだった。
だが問題は魔法実技だ。ぼくは魔法は使えない。サイオンなんて、ぼくにとっちゃ架空の存在だ。
だがしかし、合格するには試験を通らなければならない為、3日前に言われた通り、例の異能...いや、法則とも言えるものを使うしかないのだろう。
先程から皆は疑問に思っているかもしれないが、ざっと説明すると、ぼくにはある効果...効力が使える。
いわゆる超常現象とか、超能力だとか言われる現在でも解明されない存在だ。
それも魔法に系統されない、マジの、ガチのやつだ。
科学者やあらゆる医者の研究で分かっているのはぼくの細胞は奇妙に黒く染まっており何かに寄生されているような黒いモノが細胞の中身に存在するとのことだ。
更にはこの寄生されたであろうぼくの身体は表面上は通常のヒトの肌と同じ色をしている。
つまるところ感染や症状が外側に出ず、被験体かどうかを見極めるのが非常に困難なのだ。
だが不思議なことに、この生命体は通常時はぼく以外に寄生しなかった。切り離されてもすぐに元どおりに細胞は再生される...つまりは死ねない、又は既に死んでいるのどちらかだ。
不死身ではなかった。全方面から圧縮され、粉々に粉砕すると細胞ごと破壊され、宿主を失う為その生命体は姿を消す。
存在できる空間を破壊する事が何よりもの対策法だった。
だが他人に寄生しない事で危険性はなかった。通常時は...。
そういった異常性も垣間見せる事はあるが、ぼくは基本的に静かに過ごさねばならない。
ただ高校の卒業がしたいだけで、その道中で帝国から魔法について学べとのことだ。
30年前、第三次大戦も終盤へと差し掛かったとき、当時西側陣営として戦っていたドイツ共和国連邦において巨大なクーデターが実行された。
東側諸国であるロシア連邦ならびにその同盟国との戦闘は苛烈を増し、前線にはぼくの姿も存在した。
ロシア連邦軍に新たに出てきた魔法師なるものも、ぼくの前ではただの蟻だった。
ぼくの師団のあだ名は “ 移動虐殺部隊 “と呼ばれるほど東側、そして西側でも強く警戒された。
そんな中、ドイツ中央大管区においてクーデターが実行された。
戦時中ということもあり、英国やフランスは鎮圧用の部隊を回せずドイツ国内の予備軍で対応するしかなかったが、その予備軍もどういうわけかクーデター側に付き革命は成就した...。
だがまずかったのが当時ドイツ国防軍が連邦時代からロシア戦線で戦っていたことだ。
革命によって国家体制が変わり、士気が下がり、前線の崩壊の危機さえ存在した。
だが新政府である “ 新生ドイツ帝国 “なるものは指揮を継続、中央大管区からの指令が遠方まで行き届き生産と経済は維持、継続され続け国防軍はロシア戦線を維持し続けた...。
そうして20年ほど前に第三次大戦の終結と共に世界は静まり返ったというのが、ぼくのいる世界だ。
第三次大戦後は世界は各国間で酷く対立し合い、英国もフランスもどの国も一部貿易関連以外は鎖国体制を取り始めた。
我らがドイツもニッポンと以外は鎖国を貫いた。
そして我らが新生ドイツ帝国の国家元首は、『総統』と名乗るひとりの50代とみられる優秀な男によって統治されている
彼、そして彼ら国家社会主義ドイツ労働者党は100年以上前に発端したいわゆるナチ党の政党後継者であると名乗っているが、その正体も何もかもが不明だ。このぼくでさえ知らされていない。
だが彼らは的確に前政権よりも確実で効率の良い我がドイツの復興と発展を遂げさせている。
彼らは今や祖国ドイツ帝国では英雄扱いだ。
そして改めて紹介すると、ぼくの所属する組織は親衛隊でありその中の武装親衛隊第一SS師団
ライプシュタンダルテ・SSと呼ばれている部隊だ。
更に親衛隊には武装親衛隊と国家保安部であるSDなるものが存在する。
国家保安部は我々武装親衛隊と違い戦闘を首班とする者達ではなく、情報戦や防諜、諜報作戦に従事する機関だ。
国防軍諜報機関に匹敵する程の能力を持ち、治安維持から国外情勢まで全てをこなす。
能力で言えばCIAと似たり寄ったりの規模だ。
このようにしてぼくの所属する親衛隊は成り立っている。
ちなみに長官はハインリヒとかいうこれまた総統の側近らしい人物だ。どこかで聞き覚えがある名前だが、思い出せない。
彼ら、素性や顔を制帽の影などで隠して晒さないためにどっからきたどんな奴なのかなどが一切わからないのが難点。
まあ任務に支障は出ないためそれは良いのだが。