魔法科高校のドイツ人留学生   作:YJSN

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入学

あっという間に時間はたち、ぼくは試験は終えた。

 

なんとかペーパーテストは全問解答用紙には埋めたし、魔法理論も将来における浮遊魔法の理論について述べた程度だ。

 

それと魔法実技なんだが...ここが少しややこしくて、対象の物体を動作させる事が試験達成条件だった。

 

対象の動かすべき物体に対して、CADの介入無しに物体の座標情報が書き加えられたサイオンを封じてある台の上に手をかざして自らのサイオン量と術式の展開によってのみ試験を行わねばならなかった。

 

つまりCADによる術式展開の高速化が不可能となる正に個人の力量試しのところだ。

 

ここまでいうと分かる通り、皆術式の発動には時間をかけている。

 

ぼくは文字通り魔法は使えないし、サイオンなんて夢の話だ。一応サイオン自体に干渉したりする事は僕の悪夢から可能なのだが...。

 

なので少しズルをした。

 

足と地面の接着面から、試験官に見えないように黒いぼくに寄生しているナニカ...正確な事は宿主であるぼくにすらわからないが、悪夢と呼ぶとしよう。

 

そう、この悪夢を地面から這わせ、試験対象の動かすべき物体に到達したその瞬間にぼくはそこに少し加減をしながらこれまたドス黒い液体なのか個体なのか、形が不規則に変わるモノを内側へと入れる。

 

そして機械の中のモーター駆動や構造を覗き見てから、その物体をぼくの方に近づけた。

 

周りから見ればぼくは台に手をかざしただけで僕自身から術式の発動が見られないにもかかわらず、対象が動いたように見えただろう。

 

それも加減を誤って、明らかに周りより異常な速度で試験の物体を動かしてしまった。

 

彼らからすれば魔法式展開を仮に試験官から見えないように行う謎の仕掛けと共に小さな規模かつ大容量のサイオンを送り出しているだろうと推測することになる。

 

この異常な事態に試験官達は何度も繰り返しぼくに試験を行わせたが、結局その謎を彼らは解けなかった。

 

そのまま試験内容自体は達成していたため術式の展開を視認出来ない魔法という事にされながらもイレギュラーとして正式に採点された。

 

ただこの事で目はつけられるだろう。注意しておかねばならない。

 

それにもし、厄介ごとや戦闘に巻き込まれたのであれば、ぼくの壺から我が戦友である親衛隊員を8名、ドイツ帝国内で来る前に遺灰へと戻して入れて置いてあるため彼らを蘇らせることでも戦力の補充は可能だ。

 

核戦争レベルにまで発展する事は想定していないがそうなった場合は駐日ドイツ大使館に配置されている国防軍から国家要人保護の為にワルキューレ作戦が実行される手はずとなっている。

 

ちなみにドイツ大使館に配属されてる部隊の中にはぼくの師団 第1SS ライプシュタンダーテもいる。というより、総統がぼくが第一高校に行く時のために駐屯地をベルリンからここへと変えた。

 

 

 

[ ワルキューレ作戦とは:

 

2080年代に立案された国防軍による反乱鎮圧計画。国内および同盟国領事館周辺でテロ行為及び重大なクーデターが確認された場合、

 

領事館勤務の国防軍及び武装親衛隊は直ちにその区域の大管区の橋、道路、交通網の主要拠点を確保し、ドイツ国民及びドイツ人留学生等の保護の為にあらゆる手段を尽くすとの計画だ。

 

発令できる人はたった2人、国内予備軍参謀総長であるシュタウフェンベルク国防軍大佐と、武装親衛隊師団長 ヘローナ・クリューガー大佐のみ。]

 

 

 

さて、これまで厄介ごと関連について話してきたがそんなに気にすることはない。

 

なぜなら、多少怪しまれてもぼくは普通にこの学校を卒業できればよいのだ。

 

そして先週に合格の通知が届き、無事今日は入学式だ。

 

気持ちいい朝を迎えたが、それも昨日むちゃくちゃ早寝したからだ。登校初日を寝坊するなんてだらしない。

 

身だしなみを整えて歯磨きして、朝食のトースターを食べる。

 

トースターと紅茶とはなかなか英国風味があるが、まあそのあとは新しく届いた1校の制服を着る...。

 

この制服、割と少しブカブカだがこれでも最小サイズだ。ぼくの低身長と体格の無さが響いたようで新調するときにこれしかないと言われた。

 

身長の問題は人生の問題だな...。

 

しみじみ思いつつもこの豪邸を出て家の前に停めてある乗用車...空港にもあったように市の交通課中央管轄下に置かれた自動運転による4人乗りのタクシーのようなものに乗り込み、あっという間に第一高校の手前へと着く。

 

ここからは徒歩で向かう。

 

それにしても人が多く、新入生と思われる人達がズラリとぼくと同じ1校への方向へと歩いている。

 

今は8時。あと30分で入学式が行われる予定だ。

 

ガヤガヤと賑わう中を歩いて1校の校門をくぐると、デッカいホールが左手にあった。

 

おそらくあそこが式の会場だろうが、まだ20分ほど時間があるので校内を探索して回る。

 

「へぇぇ...総統官邸には及ばないけれども、凄まじい広さだな...。」

 

感銘を受けながらこのバカ広い敷地内を探索して地理や地形を頭に叩き込んでいく。

 

歩いてる途中、二人組の男女が話しているのが遠目で見えた。何か言い合っているようだ。

 

1人はすんごい美人さんで、もう1人は背の高い...2科生だ。

 

言い忘れていたが、ぼくは1科生で入学した。魔法実技と英語以外は満点だった。

 

英語だけは超苦手だ。ブリテン島の言う言葉など信用できないし、そもそもぼくが得意なのは東スラブ言語に属するロシア語とポーランド語辺りだ。

 

英語など勉強したこともなかったため65点と少し低めの点となってしまったが、まあ他の教科がそれを補ってくれた。

 

魔法実技の方は前に言った通り、むちゃくちゃ怪しまれた試験となり物体の移動という内容自体はクリアしたため合格とはなっているが99点と1点引かれている。

 

理由は解答の試験官の備考メモ欄に記載されていた『魔法の行使を試験官にわかるように理論立てて成立させていない事による』とされていた。

 

ま、そりゃそうか。さて、話を戻すと

 

(2科生の生徒にしては早いな...。)

 

口には出さないがこんなに早く来るとは何か用事でもあるのだろうと察しをつけてぼくはその場を立ち去って次々と建物を見て回って行った。

 

 

 

 

そうしているうちに既に式開始まで5分前を切ってしまったため急いで会場である大きなホールへと向かう。

 

が、道中で来た道がよくわからなくなり、完全に迷子状態へと陥ってしまう。

 

「ここどこ...。」

 

周りはさっきからずっと続く建物の羅列ばかりで道しるべはなく、人もこの時間だからか通っていない。

 

路頭に迷っていたぼくは、不意に唐突な声をかけられる。

 

「あら、まだ新入生がいたの?」

 

綺麗な澄んだ声でぼくに声をかけてくれた...女の子の声めがけて後ろを振り返る。

 

「え...。」

 

いきなりの美人の登場によって少し動揺するが、いけないいけないと言わんばかりに首を振って改めて道を訪ねようとする。

 

「あ、はい!少し道に迷ってしまって...ヘローナ・クリューガーです!ドイツからきました!」

 

子供っぽくハキハキと喋って出来るだけ兵士であることを悟られないようにする。

 

「そう...あなたが留学生の...実技は確か2位でしたよね!クリューガーくん。

 

私はここ第一高校の生徒会長を務めている七草真由美です。七草と書いて、サエグサと言います。

 

道に迷ったならちょうどいいですね。私も入学式のホールへと向かう途中だったの。良ければ一緒に行きませんか?」

 

と、穏やかに優しそうな笑顔でぼくを見据える七草会長...。

 

って、会長!?いきなりどえらい人にぶつかったな...。

 

第一高校というエリート育成校に入っただけでも良いとして、そこの会長となると相当な魔法士であることに変わりはないはず。

 

現に目の前の優しいお姉さんはその気迫だけでも会長足りうるものである。

 

「うん...じゃなくてはい!わかりました!」

 

「ふふ...じゃぁついてきなさい、クリューガーくん。」

 

ぼくの低身長と子供っぽさを少しからかったかのように微笑み、ホールへと連れて行ってくれるのであった...。

 

 

 

 

 

 

その後はホール内へと会長によって案内されてから適当な席に座ってと指示を受けて、席を探す。

 

(...なんだこれは、たまげたナ...。)

 

1科生は前の方に、2科生は後ろの方にくっきりと席が分かれている。

 

会長は少し神妙な顔で空いてる席ならどこでも良いと言っていたがこの事だったのか。

 

事前情報として、この学校には1科生をブルーム...花弁と呼び、2科生をウィードと呼ぶ傾向がある。

 

もちろんこれはニッポンに潜入するSD...国家保安部による諜報内容によるものだ。

 

現地...つまりここに潜伏するSD隊員はこれらの1科生 ブルームによる排他的構造によって2科生とは完全に分離していると報告していた。

 

だがぼくはそんな事気にせずに、もはや前の方の席は空いていなかったので、後方の席...いわゆるウィード 2科生が座る右端の...右から四番目の席へと歩み寄り、座る。

 

ドスンっ

 

思ったより椅子の位置が低かったのか、ぼくはそんな音を出しながら不恰好に座ってしまう

 

そして遅れ気味とはわかりつつも...

 

「あ、あのぉ...隣いいですか?」

 

「「座ってから言うなっ!」言わないでください!」

 

と2人の女の子が声をあげる。

 

隣に座っていた赤毛の女の子と、さらに隣の黒髪の眼鏡っ娘、そしてさらに奥の席、一番右端に座る1人の男子生徒...彼はこちらをじっと見据えている。

 

彼の奇妙な視線に少し浮かされながらも、自己紹介を始める。

 

「ぼくはクリューガー!ヘローナ・クリューガー!よろしくね!」

 

と元気よく挨拶すると、向こう側もおどおどした雰囲気で

 

「わ、私は千葉 エリカよ。エリカって呼んでね。」

 

「私は柴田・美月と申します。よろしくお願いしますね。」

 

と、2人とも挨拶をするが、奥の男子生徒だけはこちらをじっと見つめているだけだ。

 

「...あのー、達也さん...?」

 

と、美月と名乗った女子に促されてその男子生徒はハッと我に帰り、

 

「...っ、いや、すまない。俺は司波 達也だ。達也と呼んでくれていい。」

 

自己紹介を済ましてくれて、彼らの視線は次にぼくの腕の辺りへと移る。

 

「えっと、ヘローナ...さん?でいいのよね。」

 

「うん!」

 

呼び方を言ってなかったようだけど、特に決めてないからなんでもいいや。

 

千葉エリカと名乗った女の子に対して返事をして続きを促す。

 

「どうして1科生であるあなたがここに座ってるのかしら...いや、別にあたしは気にしないけどさ!ほら...。」

 

と、何かを察したような雰囲気でぼくに語りかけるエリカさん。

 

「えっと...単純に前の席が空いてなかったからだけど...。」

 

別に変でもない理由で答えると

 

「あ、そ、そっか!そうだよね!ごめんね変なこと聞いちゃって、あはは!」

 

(...僕のこと気遣ってくれてるんだな。)

 

と第二の優しいお姉さんとの会話が進む。

 

すると突然右端に座っていた達也と名乗る男子生徒が

 

「その...クリューガー、と呼んでいいか?日本人のようには見えないが、どこからの留学か教えてくれないか?」

 

と名前に関する疑問を口にする。当然だ、銀髪で目は青く、明らかに日本人ではない外見をしているぼくの出生地が気にならないわけがない。

 

ヘローナ・クリューガーは本名だが、ラ・シーア...CIAの情報やあまつさえロシア連邦捜査局にもデータベースが存在しないため、僕の身分を調べるのは困難だ。

 

「どんな呼び方でも構わないよ。それとぼくはドイツからきたんだ。留学で魔法理論や魔法工科学について知りたかったから。」

 

「へぇー、ヘローナって真面目なんだな!見た目の割には!」

 

「見た目の割にはってなんだよ!」

 

と、エリカが茶化す。

 

「ちょ、ちょっとエリカっ。初対面なのに失礼でしょっ。」

 

「いーじゃんいーじゃん。こんだけちっこくて可愛い子供みたいな奴だし、な!」

 

「ぐぬぬぅう...身長だってどうせ伸びるもん...。」

 

「もぉー...エリカったら。」

 

と、美月が間を濁す。

 

「ほぉ...ドイツではかなり魔法工学は進んでいると聞くが、まさかはるばる留学までとは...。」

 

達也くんが再び神妙そうな顔持ちに戻るが

 

「あ、まぁ...あはは...っと、3人とも!式が始まるみたいだよ。」

 

と、ぼくが声をかけてあげると、みんな式へと意識を戻す。

 

それにしてもエリカといったか、この赤毛の女...だれがちっこくて可愛いだ、ぼくは男だぞ。

 

少しの私怨をまだ知り合ったばかりの2科生のウィード達相手に混じらせながら入学式を執り行っていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

入学式終了後、個人認証用のIDカードを渡されて各教室へと向かうことになった。

 

そして成り行きで達也やエリカ、美月さんと色々と話していたところ、1科生である司波 深雪...入学式の時に新入生総代として挨拶をしていた女の子が来た。

 

「お兄様っ。」

 

と、先程司波 達也の方から説明を受けた兄妹の達也へと向うの1科生のグループから来て

 

「お兄様...早速デートですか?」

 

と、少し間が抜けたような内容を達也に聞くが

 

「そんなわけないだろう。ただのクラスメイトだ...そこの1人以外は。」

 

と、ぼくのことを指摘された。

 

「どうも、千葉 エリカです。」

 

「柴田 美月です。」

 

「ど、ドイツから来ました。ヘローナ・クリューガーです!」

 

と、順番的に挨拶が最後になりつつも元気に話す。

 

「あ、あの!深雪って呼んでもいいですか?」

 

「ぼ、ぼくも!」

 

そうしてエリカや美月とぼくが深雪さんと談合していると達也がふと深雪の後ろを見て

 

「深雪、生徒会の方々の用は済んだのか。」

 

と深雪に用事の事を思い出させる。

 

深雪さんの後ろには先程お会いした七草 真由美生徒会長と、隣にいる茶髪の男子がいた。

 

そういえば深雪さんは新入生総代として生徒会とも関わりがあったんだっけ。

 

というか生徒会に入ってたんだっけ...?

 

あまり諜報員がよこしてくれた情報を詳しく見てなかったせいで少し混乱気味だ。

 

「大丈夫ですよ。深雪さん、先程の話はまた日を改めてにしましょう。それと達也くんとも、またごゆっくりと...では。」

 

「か、会長ッ!」

 

とあの人、ぼくらの雰囲気を思ってくれてか用事の件はまた後日にしてくれたらしい。優しい人だ。

 

それに対して隣にいた1科生であろう男子生徒はこちらを睨みながら、帰っていく会長の元へと戻っていった。

 

「「「...。」」」

 

このあまり良くない事に皆雰囲気は気まずく黙り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうしてその日は終了となり、ぼくは自宅へと帰った。

 

「ふわぁぁあー、つかれたぁー。」

 

ドサァッ

 

帰ってから早々目の前のベッドへとダイブした。

 

(...それにしてもあの司波兄妹、ブラコンとシスコンだったとは...相性がヤバすぎる程マッチしてたなぁ。)

 

くだらない事を思い返しながら、ぼくはまた明日の事へと頭を回すのであった。

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